トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルとは…成分効果と毒性を解説





・トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル
[医薬部外品表示名称]
・トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル
化学構造的に多価アルコールの一種であるグリセリンに中級脂肪酸(中鎖脂肪酸)の一種であるカプリル酸およびカプリン酸(∗1)を結合した代表的なグリセリン脂肪酸エステルです。
「トリ(tri)」とはギリシャ語で「3」を意味し、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルとは、カプリル酸・カプリン酸などの脂肪酸の中から3つがグリセリンと結合した構造の化合物であることを意味しています。
この構造は、以下のように、
天然に存在する油脂の化学構造と同じグリセリドであることから合成油脂という見方もできますが、油脂に結合する脂肪酸は主に高級脂肪酸であるのに対して、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルに結合する脂肪酸は中級脂肪酸が主体であることから、油脂よりも軽い感触であり、酸化安定性に優れています(文献3:2016;文献5:2012)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、リップケア製品、メイクアップ化粧品、洗浄製品、日焼け止め製品、シート&マスク製品、ネイル製品などあらゆる製品に汎用されています(文献1:1980;文献2:2017)。
エモリエント作用
エモリエント作用に関しては、カプリル酸およびカプリン酸のエステルのため、低粘度で油性感が少なく、軽い感触のさっぱりとした油であり、展延性(∗1)に優れた感触の良いエモリエント剤としてクリーム系の基剤などに汎用されています(文献3:2016;文献4:2015;文献5:2012)。
∗1 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。
感触改良
感触改良に関しては、展延性に優れた軽い感触のさっぱりとした油であり、クリームや乳液の感触改良剤として使用されます(文献6:1990)。
分散
分散に関しては、顔料の分散性を向上することから、口紅をはじめメイクアップ化粧品に使用されます(文献6:1990)。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1998-1999年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 皮膚感作性(皮膚アレルギーを有する場合):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1980)によると、
- [ヒト試験] 40人の被検者に100%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを対象にパッチテストしたところ、皮膚刺激性を示さなかった(Ippen,1970)
- [ヒト試験] 128人の被検者にトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(Hill Top Research,1975)
- [ヒト試験] 12人の女性被検者にトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル0.4mLを対象に21日間累積刺激性試験を実施したところ、1人の被検者は16日目に刺激スコア0-3のうち1.0を示したが、他の被検者はいずれも刺激スコアは0であり、この試験物質は本質的に非刺激性であると結論付けられた(Hill Top Research,1975)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献2:2017)によると、
- [ヒト試験] 17人の被検者に95.51%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを含むフェイシャルオイルを24時間単回パッチテストしたところ、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)は0であった(Anonymous,2015)
- [ヒト試験] 26人の被検者に95.51%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを含むフェイシャルオイルを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作性は示さなかった(Product Investigations Inc,2015)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
– 皮膚アレルギーを有する場合 –
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1980)によると、
- [ヒト試験] 皮膚アレルギーを有している100人の皮膚科患者にトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルで飽和したティッシュペーパーを48時間適用したところ、いずれの患者も陽性反応を示さなかった(Degos,1968)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚感作性はなしと報告されているため、皮膚アレルギーを有している場合において、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1980)によると、
- [ヒト試験] 2人の被検者の片眼に10%,20%および50%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを含むパラフィン溶液を4-6日間隔で点眼し眼刺激性を評価したところ、不適合反応はみられなかった(henkel,1971)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献2:2017)によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼にトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル0.1mLを点眼し、72時間まで眼刺激性を評価したところ、非刺激性であった(European Chemicals Agency,2016)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。
光感作性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献2:2017)によると、
- [ヒト試験] 27人の被検者に95.51%トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを含むフェイシャルオイルを対象に光感作試験(照度:90.0mW/c㎡,UVA強度:52.5mW/c㎡)をともなうHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、検出可能な光接触感作性を有していなかった(KGL Inc,2015)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、光感作性なしと報告されているため、光感作性はほとんどないと考えられます。
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トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルはベース成分、エモリエント成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(1980)「Final Report of the Safety Assessment for Caprylic/Capric Triglyceride」Journal of Environmental Pathology and Toxicology(4)(4),105-120.
- Cosmetic Ingredient Review(2017)「Amended Safety Assessment of Triglycerides as Used in Cosmetics」Tentative Amended Report for Public Comment.
- 日光ケミカルズ(2016)「エステル」パーソナルケアハンドブック,62-86.
- 宇山 侊男, 他(2015)「トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル」化粧品成分ガイド 第6版,70-71.
- 鈴木 一成(2012)「トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル」化粧品成分用語事典2012,67.
- 田村 健夫, 他(1990)「脂肪酸エステル」香粧品科学 理論と実際 第4版,121-128.
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