ステアリン酸とは…成分効果を解説






・ステアリン酸
[医薬部外品表示名称]
・ステアリン酸
主に植物油脂から得られる、化学構造的に炭素数:二重結合数がC18:0で構成された分子量284.5の高級脂肪酸(飽和脂肪酸)です(文献2:2019)。
高級脂肪酸とは、化学構造的に炭素数12以上の脂肪酸のことをいい、炭素数が多いとそれだけ炭素鎖が長くなるため、長鎖脂肪酸とも呼ばれます。
また炭素鎖が長いほど(炭素数が大きいほど)融点(∗1)が高くなり、ステアリン酸の融点は69.6℃です(文献3:2016)。
∗1 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。
高級脂肪酸は、以下の表のように大きく2種類に分類され、
飽和脂肪酸 | 不飽和脂肪酸 | |
---|---|---|
化学結合 | すべて単結合(飽和結合) | 二重結合や三重結合を含む(不飽和結合) |
含有油脂 | 動物性油脂に多い | 植物性油脂に多い |
常温での状態 | 固体(脂) | 液体(油) |
融点 | 高い | 低い |
酸化安定性 | 高い | 比較的低い |
化学構造的に二重結合(不飽和結合)の数が多いほど酸化安定性が低くなりますが、ステアリン酸は化学構造的にすべて単結合(飽和結合)で構成された飽和脂肪酸であり、酸化安定性の高い脂肪酸です(文献4:1997)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、日焼け止め製品、洗顔料&洗顔石鹸、ボディ&ハンドソープ製品など様々な製品になどに使用されます(文献3:2016)。
ナトリウムセッケン合成による洗浄・起泡
ナトリウムセッケン合成による洗浄・起泡に関しては、まず前提知識としてナトリウムセッケン合成およびナトリウムセッケンの化粧品成分表示記載方法について解説します。
セッケン(∗2)は、洗浄基剤として洗浄性および起泡性を有していることが知られており、その製造法には、
∗2 セッケンには、「セッケン」「石けん」「せっけん」「石鹸」など4種の表記法があり、これらの用語には界面活性剤を意味する場合と界面活性剤を主剤とした製品を意味する場合がありますが、化学分野では界面活性剤を「セッケン」、製品を「せっけん」と表現する決まりになっています。それらを考慮し、ここでは界面活性剤を「セッケン」、セッケンを主剤とした製品を「石鹸」と記載しています。
- ケン化法:油脂 + 水酸化Na → 油脂脂肪酸Na + グリセリン
- 中和法:高級脂肪酸 + 水酸化Na → 高級脂肪酸Na + 水
この2種類があります。
ステアリン酸は高級脂肪酸であることから中和法が用いられ、また中和に用いるアルカリを水酸化Naにすることでナトリウムセッケン(固形石鹸)が得られます(文献5:1979)。
上記では、中和法によって合成されるセッケンを「高級脂肪酸Na」と表記しましたが、中和法で得られるステアリン酸のナトリウムセッケンが化粧品成分表示一覧に記載される場合は、以下のように、
アルカリ剤の種類 | 化粧品成分表示方法 |
---|---|
水酸化Na | ステアリン酸、水酸化Na |
ステアリン酸Na | |
石ケン素地 |
これら3つのいずれかの記載方法で記載されるため、セッケン(洗浄基剤)目的で「ステアリン酸」が化粧品成分表示一覧に記載されている場合は、水酸化Naが一緒に記載されます。
次にステアリン酸を使用したナトリウムセッケンの洗浄力および起泡力については、以下の表のように、
脂肪酸名 | 洗浄力 (温水) |
洗浄力 (冷水) |
起泡性 | 泡持続性 | |
---|---|---|---|---|---|
飽和脂肪酸 | ラウリン酸 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ |
ミリスチン酸 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | |
パルミチン酸 | ◎ | △ | △ | ◎ | |
ステアリン酸 | ◎ | ☓ | △ | ◎ | |
不飽和脂肪酸 | オレイン酸 | ◎ | ◎ | △ | △ |
このような傾向が明らかにされており(文献6:1990)、ステアリン酸などの炭素数の多い脂肪酸は70-80℃の温度条件で洗浄力が最大化しますが、温度が低下するにつれて水に対する溶解度が低下し(文献16:1965)、それにともない洗浄力が低下するため、実際にすすぎに使用する38℃付近ではラウリン酸やミリスチン酸と比較すると洗浄力が低くなることが知られています。
また、1955年に日本油脂によって報告された飽和脂肪酸のナトリウムセッケンの起泡力検証によると、
飽和脂肪酸 | 炭素数 | 起泡力:泡の高さ(mm) | |
---|---|---|---|
直後 | 5分後 | ||
ラウリン酸 | C₁₂ | 217 | 208 |
ミリスチン酸 | C₁₄ | 350 | 350 |
パルミチン酸 | C₁₆ | 37 | 32 |
ステアリン酸 | C₁₈ | 25 | 21 |
起泡力に最適な脂肪酸はC₁₂-C₁₄に存在し、他の炭素数ではかなり起泡力が低下していることがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献7:1955)、ステアリン酸はラウリン酸やミリスチン酸と比較して微細な泡が得られるものの、温度が低下するにつれて水に対する溶解度が低下し(文献16:1965)、それにともない起泡力が低下するため、35℃付近では起泡力がかなり低下することが知られています。
ただし、市販の洗浄製品には複数のナトリウムセッケンが使用されていることから、配合されているナトリウムセッケンの総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します(文献8:1993)。
カリウムセッケン合成による起泡・選択洗浄
カリウムセッケン合成による洗浄・起泡に関しては、まず前提知識としてカリウムセッケン合成およびカリウムセッケンの化粧品成分表示記載方法について解説します。
セッケンは、洗浄基剤として洗浄性および起泡性を有していることが知られており、その製造法には、
- ケン化法:油脂 + 水酸化K → 油脂脂肪酸K + グリセリン
- 中和法:高級脂肪酸 + 水酸化K → 高級脂肪酸K + 水
この2種類があります。
ステアリン酸は高級脂肪酸であることから中和法が用いられ、また中和に用いるアルカリを水酸化Kにすることでカリウムセッケン(液体石鹸)が得られます(文献5:1979)。
上記では、中和法によって合成されるセッケンを「高級脂肪酸K」と表記しましたが、中和法で得られるステアリン酸のカリウムセッケンが化粧品成分表示一覧に記載される場合は、以下のように、
アルカリ剤の種類 | 化粧品成分表示方法 |
---|---|
水酸化K | ステアリン酸、水酸化K |
ステアリン酸K | |
カリ石ケン素地 |
これら3つのいずれかの記載方法で記載されるため、セッケン(洗浄基剤)目的で「ステアリン酸」が化粧品成分表示一覧に記載されている場合は、水酸化Kが一緒に記載されます。
また、ナトリウムセッケンやカリウムセッケンのほかに、ナトリウムセッケン(固形セッケン)にカリウムセッケン(液体セッケン)を添加することで、水に対する溶けやすさや泡立ちを改良したカリ含有ナトリウムセッケンがあり、ステアリン酸を含むカリ含有セッケンが化粧品成分表示一覧に記載される場合は、以下のように、
アルカリ剤の種類 | 化粧品成分表示方法 |
---|---|
水酸化Na + 水酸化K | ステアリン酸、水酸化Na、水酸化K |
ステアリン酸Na、ステアリン酸K | |
カリ含有石ケン素地 |
これら3つのいずれかの記載方法で記載されるため、セッケン(洗浄基剤)目的で「ステアリン酸」が化粧品成分表示一覧に記載されている場合は、水酸化Naおよび水酸化Kが一緒に記載されます。
次に、カリウムセッケンによる起泡・選択洗浄に関しては、カリウムセッケンはナトリウムセッケンより溶解性が高く、起泡性に優れていることが知られています(文献9:1958)。
また、30℃および40℃での各脂肪酸における0.5%濃度の脂肪酸カリウムセッケンの起泡力および泡持続性は、
脂肪酸名 | 起泡性 | 泡持続性 | |||
---|---|---|---|---|---|
30℃ | 40℃ | 30℃ | 40℃ | ||
飽和脂肪酸 | ラウリン酸 | ○ | ○ | ○ | ○ |
ミリスチン酸 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | |
パルミチン酸 | △ | ◎ | ○ | ○ | |
ステアリン酸 | ☓ | ☓ | ☓ | ☓ | |
不飽和脂肪酸 | オレイン酸 | ◎ | ◎ | ○ | ○ |
このような傾向が明らかにされており(文献10:1989)、ステアリン酸は40℃付近の温水では起泡力を発現しますが、30℃以下では起泡力をほとんど発揮しないことが知られています。
ただし、市販の洗浄製品には使用されているカリウムセッケンは複数の混合物であり、またほかの界面活性剤との相乗効果を考慮した処方設計されていることも多く、製品における洗浄力や起泡性はこれらの総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します(文献8:1993)。
カリウムセッケンは主に洗顔料に使用されますが、洗顔の場合、過剰な皮脂や汚れを洗浄することが必要である一方で、皮膚の恒常性を保持するための角質細胞間脂質などまで洗い流してしまうことは望ましいことではありません。
このような背景から、洗顔において皮膚のつっぱり感や肌荒れを回避するために、皮膚の恒常性に必要な物質を極力洗い流さない選択洗浄性(∗3)が重要であり、顔におけるカリウムセッケンの選択洗浄性とは、皮膚の向上性を保つために重要な因子である角層細胞由来脂質であるコレステロールおよびコレステロールエステルを残存させ(∗4)、皮脂由来脂質であるスクワレンを汚れとともに洗浄することを意味します。
∗3 選択洗浄性とは、ある物質はよく洗い流すが、ある物質は洗い流さず残すという洗浄剤の性質のことです。
∗4 角質細胞間脂質であるコレステロールおよびコレステロールエステルの残存は皮膚の乾燥や肌荒れを防ぐための重要な因子であると考えられています。
1989年にポーラ化成工業によって報告された各カリウムセッケンの選択洗浄性検証によると、
水洗いでは、親水性の高いコレステロールが除去され、コレステロール比率の減少を示した。
一方で、ステアリン酸カリウムセッケンは非常に優れたスクワレン洗浄力を示すとともに、コレステロールエステルおよびコレステロールを残す選択洗浄性を示した。
さらに、複数のカリウムセッケンを組み合わせた処方系においても同様の選択洗浄性がみられ、とくにパルミチン酸カリウムセッケンおよびステアリン酸カリウムセッケンを組み合わせたものがスクワレン除去率が高く、
- ラウリン酸K、ミリスチン酸K
- ミリスチン酸K、パルミチン酸K、ステアリン酸K
- パルミチン酸K、ステアリン酸K
これらのいずれの組み合わせにおいてもコレステロールエステルおよびコレステロールを残す選択洗浄性を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献11:1989)、ステアリン酸カリウムセッケンは優れたスクワレン(皮脂腺由来皮脂)の洗浄力とコレステロールエステルびコレステロールを皮膚に残す選択洗浄性が認められています。
非極性油のスクワレンは、親油基が大きい(炭素鎖が長い)界面活性剤のほうが親和力が高いため、比較的親油基が大きい(炭素鎖が長い)パルミチン酸に十分な洗浄性が示されたと考えられます。
セッケン合成による乳化
セッケン合成による乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。
乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献18:1990)。
そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献18:1990)。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
現在、一般的に乳化に使用される界面活性剤は非イオン界面活性剤が主流ですが、1950年代以降、非イオン界面活性剤が発達するまでは、化粧品用エマルションの乳化剤として陰イオン系のステアリン酸セッケンなどが主として使用されてきました(文献17:1969)。
ステアリン酸セッケンは、様々な油性成分を乳化し、またO/Wエマルションを生成するための乳化剤として優れており、さらにセッケン乳化によって生成したエマルションは安定性が高く、ある程度の硬度をもちながらさっぱりした感触を付与するという特徴から、非イオン界面活性剤が発達した今日でもある程度の硬度とさっぱりした感触を目的に使用されています(文献17:1969)。
ただし、セッケンを乳化剤としたエマルションは温度によって硬度が変化しやすく、また経日変化が大きいことから、セッケンの欠点を補うために非イオン界面活性剤と併用する処方が用いられていることが多いです(文献17:1969)。
乳化物の感触改良
乳化物の感触改良に関しては、クリームの伸びや硬さなど質感を調整するベース成分として非常に重要な成分であり、クリーム、乳液、ファンデーションなど乳化物に使用されています。
また高純度のステアリン酸に1%-5%オレイン酸を加えると稠度(∗5)が増加することが明らかになっています(文献19:1997)。
∗5 稠度(ちょうど)とは、ペースト状物質の硬さ・軟らかさ・流動性などを意味します。
表面処理
表面処理に関しては、代表的な紫外線散乱剤である酸化チタンや酸化亜鉛が直接皮膚に接触しないようにこれらをコーティングし、またステアリン酸で表面を覆うことで粒子の分散性が向上することから、これらの表面処理剤として使用されます。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2006年および2016-2019年の比較調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ステアリン酸の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 100年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性:ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [ヒト試験] 21人の被検者に40%ステアリン酸を含むミネラルオイルを単一パッチ適用したところ、皮膚刺激はなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1972)
- [ヒト試験] 101人の被検者に13%ステアリン酸を含むフェイスクリームを開放パッチおよび閉塞パッチ下で単一適用したところ、閉塞パッチ下で4人の被検者に軽度の紅斑がみられたが、臨床的に問題はなく刺激剤ではないと結論づけられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 105人の被検者に13%ステアリン酸を含むフェイスクリームを4週間連用したところ、刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1973)
- [ヒト試験] 100人の被検者に8%ステアリン酸を含むシェービングクリームを閉塞パッチ下で48時間単一適用し、そののち家で2~4週間毎日使用してもらったところ、パッチに対して皮膚反応はなかったが、家での使用において2人の被検者から軽度のかゆみの報告があった(Leo Winter Associates,1980)
- [ヒト試験] 13人の被検者に2.8%ステアリン酸を含むリキッドアイライナーを21日間連続パッチ適用したところ、連続刺激スコアは最大675のうち216で、中等の刺激性が観察された(HTR,1978)
- [ヒト試験] 12人の被検者に2.6%ステアリン酸を含む保湿剤を21日間連続パッチ適用したところ、連続刺激スコアは最大675のうち28および56で、基本的に非刺激性と結論付けられた(University of California,1983)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
セッケンの皮膚刺激性に関しては、
ラウリン酸(C₁₂) ← ミリスチン酸(C₁₄) ← パルミチン酸(C₁₆) ← ステアリン酸(C₁₈)
この順に皮膚刺激が強いことが知られており、またナトリウムセッケンよりカリウムセッケンのほうが皮膚刺激性が強いことが報告されていますが(文献13:1939)、一般に洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、セッケンが皮膚に与える影響は極めて少ないことが明らかにされています(文献14:1972)。
眼刺激性について
- [動物試験] 6匹のウサギに50%ステアリン酸を含むワセリンをDraize法に基づいて適用したところ、1日後の眼刺激スコアは4で、2日後に結膜刺激は正常にもどった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1976)
- [動物試験] 6匹のウサギに35%ステアリン酸を含むコーン油をDraize法に基づいて適用したところ、眼刺激スコアは1で、2日後には結膜刺激は正常にもどった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [動物試験] 6匹のウサギに13%ステアリン酸を含む製剤をDraize法に基づいて適用したところ、1匹のウサギに虹彩炎が観察された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1983)
- [動物試験] 6匹のウサギに2.8%ステアリン酸を含む製剤をDraize法に基づいて適用し、3匹のウサギの眼をすすぎ、残りの3匹のウサギの眼をすすがなかったところ、1日後で眼をすすがなかったウサギの眼刺激スコアは0.7で、2日後には結膜紅斑は正常にもどった。眼をすすいだウサギに眼刺激はみられなかった(CPT,1978)
- [動物試験] 9匹のウサギに2.8%ステアリン酸を含む製剤をDraize法に基づいて適用し、6匹のウサギの眼はすすがず、3匹のウサギの眼はすすいだところ、眼をすすがなかったウサギの48時間後の眼刺激スコアは0.7で72時間後は0.3であった。眼をすすいだウサギの眼刺激スコアも同様でわずかな結膜紅斑がみられた(Consumer Product Testing Co,1982)
- [動物試験] 3匹のウサギに2.8%ステアリン酸を含む製剤をDraize法に基づいて適用したところ、1時間後で最大眼刺激スコア6.0で、結膜刺激は24時間持続した(TML,1983)
- [動物試験] 3匹のウサギに2.8%ステアリン酸を含む製剤をDraize法に基づいて適用したところ、1時間後で最大眼刺激スコア4.0で、わずかな結膜紅斑が24時間持続した(TML,1983)
- [動物試験] 4匹のウサギに1%ステアリン酸を含む製剤をDraize法に基づいて適用したところ、1時間後で最大眼刺激スコア6.0で、すべてのウサギに結膜刺激および2匹のウサギにわずかな角膜刺激がみられたが、24時間で正常にもどった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [動物試験] 6匹のウサギに1%ステアリン酸を含む製剤をDraize法に基づいて適用したところ、1時間後で最大眼刺激スコア2.83で、1~3匹のウサギにわずかな角膜刺激と虹彩炎がみられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、多くの試験で一過性のわずかな眼刺激性が報告されているため、眼刺激性は一過性のわずかな眼刺激が起こる可能性があると考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 52人の被検者に13%ステアリン酸を含むフェイスクリームを開放パッチおよび閉塞パッチ下で繰り返し適用(HRIPT)したところ、誘導期間において数人の被検者の閉塞パッチ部位に軽度の反応がみられたが、チャレンジ期間においては反応はなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 116人の被検者に10%ステアリン酸を含む製剤を繰り返し適用(HRIPT)したところ、誘導期間において1人の被検者に軽度~中等の紅斑がみられたが、チャレンジ期間では皮膚反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [ヒト試験] 101人の被検者に7.7%ステアリン酸を含むマスカラを繰り返し適用(HRIPT)したところ、誘導期間の8回目のパッチにおいて1人の被検者に皮膚反応があったが、チャレンジパッチでは反応はなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [ヒト試験] 205人の被検者に5%ステアリン酸を含むマスカラを半閉塞パッチで繰り返し適用(HRIPT)したところ、皮膚刺激および皮膚感作性はみられなかった(UCLA,1985)
- [ヒト試験] 51人の被検者に2.8%ステアリン酸を含むハンドローションを繰り返し適用(HRIPT)したところ、2人の被検者が誘導期間においてわずかな反応を示したが、チャレンジ期間では処置部位および未処置部位ともに反応は示さなかった(Food and Drug Research Laboratories,1980)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
光毒性および光感作性について
- [ヒト試験] 52人の被検者に13%ステアリン酸を含むフェイスクリームを24時間開放および閉塞パッチ適用し、パッチ除去48時間後に適用部位に事前に個人設定していた線量でUVAライトを3回照射した。次にチャレンジパッチ除去24時間後にUVAライトを3分照射し、皮膚反応を評価したところ、開放パッチ部位および閉塞パッチ部位でいずれの被検者にも皮膚反応は観察されなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 25人の被検者に1%ステアリン酸を含む日焼け製剤を光感作試験を実施したところ、皮膚反応はなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して光毒性および光感作性なしと報告されているため、光毒性および光感作性はほとんどないと考えられます。
皮膚吸着性について
皮膚吸着性に関しては、まず前提知識としてナトリウムセッケンおよびカリウムセッケンの皮膚吸着に対する影響について解説します。
セッケンを含む洗顔料を使用した洗顔においては、カリウムセッケンが皮膚に吸着残留する量が増えるほど洗顔後につっぱり感やかさつき感を感じる傾向にあり、洗顔後のつっぱり感やかさつき感を防ぐためには、皮膚吸着の少ないカリウムセッケンの使用が重要であると考えられます。
1989年にポーラ化成工業によって報告された各カリウムセッケンの選択洗浄性検証によると、
ラウリン酸およびミリスチン酸で洗浄した場合は、使用した脂肪酸と同じ脂肪酸量が洗浄時間とともに増加したことから、明らかに皮膚吸着を示していると考えられた。
一方で、パルミチン酸およびステアリン酸は残存量が非常に少なく、洗浄時間とともに減少しており、皮膚吸着していないものと考えられた。
また、オレイン酸の場合は、残存量は比較的多いものの洗浄時間とともに減少していることから、皮膚吸着の可能性は低いと考えられた。
このような検証結果が明らかにされており(文献15:1999)、ステアリン酸のカリウムセッケンは皮膚吸着性がほとんどないことが認められています。
そのため、ステアリン酸のカリウムセッケンは、かさつき感やつっぱり感を感じることが比較的少ないと考えられます。
∗∗∗
ステアリン酸はベース成分、界面活性剤、表面処理剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
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- “Pubchem”(2019)「Stearic acid」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Stearic-acid> 2019年10月8日アクセス.
- 日光ケミカルズ(2016)「脂肪酸および有機酸」パーソナルケアハンドブック,33.
- 広田 博(1997)「脂肪酸の組成と分類」化粧品用油脂の科学,60-64.
- 小野 正宏(1979)「身のまわりの化学”セッケンおよびシャンプー”」化学教育(27)(5),297-301.
- 田村 健夫, 他(1990)「石けん」香粧品科学 理論と実際 第4版,336-348.
- 難波 義郎, 他(1955)「洗浄力に寄与する要因の研究(第1報)」油脂化学協会誌(4)(5),238-244.
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- Luis Mauri, 他(1958)「起ホウ力の評価」油化学(27)(5),104-106.
- 大矢 勝, 他(1989)「衣類の泡沫洗浄に関する研究」繊維製品消費科学(30)(2),87-93.
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- L. D. Edwards(1939)「The pharmacology of SOAPS」Journal of the American Pharmaceutical Association(28)(4),209-215.
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- 光井 武夫(1969)「化粧品における応用」油化学(18)(9),521-529.
- 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- 広田 博(1997)「オレイン酸」化粧品用油脂の科学,68-69.
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