スクレロカリアビレア種子油とは…成分効果と毒性を解説



・スクレロカリアビレア種子油
[慣用名]
・マルラオイル、マルーラオイル、マルラ油
ウルシ科植物マルーラ(学名:Sclerocarya birrea)の種子から得られる植物油(植物オイル)です。
マルーラは、南部アフリカのミオンボ林、西アフリカのスーダン・サヘル地帯およびマダガスカルに分布し、主に南アフリカ共和国で商業的に産生されています。
マルーラの種子から得られる油は、世界的に知られてはいないですが、アフリカでは伝統的に食品・飲料、伝統薬の原料、化粧料に利用されており、ナミビアでは訪問客のもてなしなど特別な機会に食用として伝統的に利用されています(文献3:2008)。
またマルーラの種子油は、化粧品の原料として欧米や日本への輸出が盛んで社会経済的にかなり重要とされています(文献4:2016)。
スクレロカリアビレア種子油の脂肪酸組成は、抽出方法や天然成分のため国や地域および時期によって変化がありますが、主に、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 70-78 |
リノール酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:2 | 4-7 |
リノレン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:3 | 0.1-0.7 |
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 9-12 |
ステアリン酸 | 飽和脂肪酸 | C18:0 | 5-8 |
アラキジン酸 | 飽和脂肪酸 | C20:0 | 0.3-0.7 |
このような種類と比率で構成されています(文献2:2004)。
オレイン酸70-78%、パルミチン酸9-12%を占めており、二重結合2つ以上のリノール酸およびリノレン酸の含有量は少ないため、比較的酸化安定性は高い(酸化しにくい)と考えられます。
また不けん化物として、トコフェロール、ステロール、ポリフェノールの一種であるプロアントシアニジンおよびフラボノイドなどを含みます(文献2:2004)。
ヨウ素価は、
ヨウ素価 | ヨウ素価による分類 |
---|---|
100 | 不乾性油 |
一例としてこのように記載されており(文献1:2017)、100以下の不乾性油のため、乾燥性はほとんどありません。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、リップ製品、洗顔料&洗顔石鹸、洗浄製品、ネイル製品などに幅広く使用されます(文献5:2015;文献6:2005)。
経表皮水分蒸散抑制および角質水分量増加によるエモリエント作用
経表皮水分蒸散抑制および角質水分量増加によるエモリエント作用に関しては、オレイン酸70-78%、パルミチン酸9-12%を含有していることからヒト皮脂の成分組成に似ており、皮膚親和性が高く、また展延性(∗1)に優れたエモリエント剤であると考えられます。
∗2 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。
生産地である南アフリカでは、乾燥肌や皮膚のひび割れを防止する目的や乾燥しやすく傷みやすい毛髪のためのシャンプー基剤としてマルラオイルが使用されています(文献6:2005)。
2015年に南アフリカ共和国のツワネ工科大学薬学部・薬理学(南アフリカ共和国)によって報告されたマルラオイル塗布による経表皮水分蒸散量および角質水分量への影響検証によると、
20人の白人成人女性被検者にマルラオイルを局所適用し、有効性を評価したところ、マルラオイルは乾燥肌に適用した場合に表皮柔軟および水分量の増加効果があることが明らかになり、また健常皮膚に適用した場合にエモリエント効果(経表皮水分蒸散抑制効果)を示した。
マルラオイルに存在する脂肪酸組成は、皮膚の脂肪酸組成と非常に類似しており、マルラオイルに含有されているオレイン酸やパルミチン酸が、皮膚の角質細胞間脂質の構成成分であるオレイン酸やパルミチン酸に浸透・吸収されている可能性が考えられた。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:2015)、スクレロカリアビレア種子油に経表皮水分蒸散抑制および角質水分量増加によるエモリエント作用が認められています。
試験データによると、経表皮水分蒸散抑制および水分保持性はエモリエント剤としては平均的であると報告されています(文献5:2015)。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
スクレロカリアビレア種子油の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
ツワネ工科大学薬学部・薬理学(南アフリカ共和国)の安全性データ(文献5:2015)によると、
- [ヒト試験] 20人の白人成人女性被検者にスクレロカリアビレア種子油の局所刺激性試験を実施し皮膚刺激性を評価したところ、スクレロカリアビレア種子油は無刺激性であることが明らかになった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激性なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
また試験データはみあたりませんが、スクレロカリアビレア種子油は2010年あたりから日本でも使用されている中で、重大なアレルギーの報告がみあたらないため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
∗∗∗
スクレロカリアビレア種子油はエモリエント成分、ベース成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3),51S-129S.
- Mariod, et al(2004)「Fatty acid, tocopherol and sterol composition as well as oxidative stability of three unusual Sudanese oils」Journal of Food Lipids(11)(3),179-189.
- National Research Council(2008)「MARULA」Lost Crops of Africa: Volume III:Fruits,117-134.
- “途上国森林ビジネスデータベース”(2016)「マルーラオイル/マルラオイル」, <https://jifpro.or.jp/bfpro/product/1766/> 2019年2月9日アクセス.
- Baatile Komane, et al(2015)「Safety and efficacy of Sclerocarya birrea (A.Rich.) Hochst (Marula) oil: A clinical perspective」Journal of Ethnopharmacology(176)(24),327-335.
- M. Athar, et al(2005)「Taxonomic perspective of plant species yielding vegetable oils used in cosmetics and skin care products.」African Journal of Biotechnology (4),36-44.
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