オリーブ果実油とは…成分効果と毒性を解説




・オリーブ果実油
[医薬部外品表示名称]
・オリブ油
[慣用名]
・オリーブ油
モクセイ科植物オリーブ(学名:Olea europaea 英名:olive)の果実から採取・圧搾して得られる植物油(植物オイル)です。
オリーブは、地中海沿岸地方を原産とし、紀元前3000年にはすでにシリアで栽培されていたとされており、近年は南米、オーストラリア、インドをはじめ地中海沿岸諸国で栽培されています。
日本には安土桃山時代にポルトガル宣教師によってオリーブ油が、当時はホルト油という呼び名で幕末から明治にかけてオリーブの苗木が輸入され、現在では瀬戸内海にある小豆島で栽培され、小豆島では特産品とされています(文献5:2011)。
オリーブ果実油の脂肪酸組成は、抽出方法や天然成分のため国や地域および時期によって変化がありますが、主に、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
パルミトレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C16:1 | 0.6 | オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 73.8 |
リノール酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:2 | 11.1 |
リノレン酸酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:3 | 0.4 |
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 9.8 |
ステアリン酸 | 飽和脂肪酸 | C18:0 | 3.2 |
このような種類と比率で構成されています(文献2:1990)。
オレイン酸が約75%を占めており、オレイン酸二重結合が1つのみの不飽和脂肪酸であるため、酸化安定性はかなり高いと考えられます。
ただし、2004年に資生堂によってオレイン酸やパルミトレイン酸など二重結合が1つの不飽和脂肪酸が恒常的に過剰に存在すると、顔面毛穴周囲の肌状態およびキメの状態が悪化する可能性が高いことが報告されています(文献8:2004)。
オレイン酸はヒト皮脂中に存在する代表的な不飽和脂肪酸であり、10代や若い成人をはじめ日常的に皮脂量が多いと感じている場合は、オレイン酸配合製品の使用で毛穴状態やキメの悪化につながる可能性も考えられます。
またヨウ素価は、
ヨウ素価 | ヨウ素価による分類 |
---|---|
75-90 | 不乾性油 |
一例としてこのように記載されており(文献3:1990)、100以下の不乾性油のため、乾燥性はほとんどありません。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、サンオイル、ヘアオイル、ベビーオイル、マッサージオイル、リップ製品、洗浄製品、洗顔料&洗顔石鹸などの製品に使用されます(文献4:2016)。
皮膚柔軟によるエモリエント作用
皮膚柔軟によるエモリエント作用に関しては、肌と親和性が高く、角層からの水分蒸散を防止し、肌を柔軟にする作用を有しています(文献4:2016)。
1983年にコーセーによって報告された油脂の抱水力比較によると、
抱水力をもたないスクワランを比較対照として、アボカド油、オリーブ果実油、ブドウ種子油、サフラワー油、コムギ胚芽油、モモ核油、ホホバ種子油の抱水力を比較検討したところ、以下の表のように、
油性成分 | 抱水力(%) |
---|---|
アボカド油 | 5 |
オリーブ果実油 | 8 |
ブドウ種子油 | 14 |
サフラワー油 | 3 |
コムギ胚芽油 | 40 |
モモ核油 | 10 |
ホホバ種子油 | 5 |
スクワラン | 0 |
オリーブ果実油は、いくらかの抱水力をもっており、湿潤性を有していることが示された。
このような検証結果が明らかにされており(文献6:1983)、オリーブ果実油に皮膚柔軟によるエモリエント作用が認められています。
また1999年に日清オイリオ(旧:日清製油)によって掲載された油性成分を皮膚に塗布したときの水分蒸散への影響検証によると、
エモリエント剤として備えるべき機能が、水分を皮膚に保留しておくための水和作用と、皮膚から水分を蒸散させない閉塞作用だとすれば、一般の植物油脂は少なからず両方の機能を有している。
そこで、代表的な油性成分を皮膚に塗布した場合の水分蒸散量への影響を検討するために、軟膏を基材として塗布前と塗布後の蒸散量を計測したところ、以下の表のように、
油性成分 | 水分蒸散率(%) |
---|---|
ミネラルオイル | -14.1 |
ワセリン | -54.9 |
グリセリン | -10.3 |
PEG-4 | 10.3 |
アボカド油 | -12.9 |
オリーブ果実油 | -12 |
ヒマシ油 | -15.8 |
オクチルドデカノール | -7.6 |
オレイン酸デシル | -11.1 |
ミリスチン酸イソプロピル | 9.9 |
ヤシ油グリセリド | 7.8 |
オリーブ果実油は、いくらかの水分蒸散抑制効果を示し、閉塞性を有していることが確認された。
このような検証結果が明らかにされており(文献7:1999)、オリーブ果実油に水分蒸散抑制によるエモリエント作用が認められています。
鹸化による界面活性作用
鹸化による界面活性作用に関しては、まず化粧品における鹸化(けんか)および鹸化による界面活性作用について解説します。
化粧品における鹸化とは、植物油脂にアルカリ(水酸化Naまたは水酸化K)を加えて石ケンとグリセリンに加水分解する化学反応のことを指します。
一例として、パーム油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ果実油を使用して各アルカリと反応させた場合、
パーム油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ果実油 + 水酸化Na → 石ケン素地 + グリセリン
パーム油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ果実油 + 水酸化K → カリ石ケン素地 + グリセリン
という反応になります。
成分表示一覧には、
- パーム油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ果実油、水酸化Na
- パーム油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ果実油、水酸化K
このように反応前の成分がすべて記載されることもありますし、また、
- 石ケン素地、グリセリン
- カリ石ケン素地、グリセリン
このように反応後の成分がすべてまとめて表示されることもあります。
複数の植物油脂を水酸化Naで反応させた場合は石ケン素地、複数の植物油脂を水酸化Kで反応させた場合はカリ石ケン素地と記載され、グリセリンは反応の副産物ですが、除去されなければ一緒に記載されます。
一般に水酸化Naで鹸化させた場合(石ケン素地の場合)は、硬くて光沢のない乳化物となり、水酸化Kで鹸化させた場合(カリ石ケン素地の場合)は、硬さが良好で光沢のある乳化物となります。
石ケン素地およびカリ石ケン素地は、界面活性作用を有しますが、界面活性剤は以下のように分類されており、
石ケン素地およびカリ石ケン素地は、親水基にマイナスイオンを有したアニオン界面活性作用であり、アルキル基の短い(炭素数12-16)脂肪酸で構成されている植物油脂ほど、水によく溶ける親水性で泡立ちやすいことが特徴であり、主に固形石鹸、洗顔料、シャンプー、シェービングクリームなどの洗浄剤として使用されます(文献9:1990)。
2015年に近畿大学システム工学研究科およびバイオテクノロジー化学科によって報告されたマンゴー種子油石鹸における起泡特性検証によると、
マンゴー種子油石鹸の起泡特性をオリーブ果実油および市販石鹸の起泡特性と比較評価したところ、
オリーブ果実油、マンゴー種子油および市販石鹸の泡の高さは、それぞれ6.5cm、5.2cmおよび4.4cmであり、オリーブ果実石鹸は良好な泡を生成した。
また泡の高さを経時的に比較すると、市販石鹸の消泡性はわずかであったのに比べ、オリーブ果実油は3時間目までは1cm/時で消泡性がわずかであったが、3時間後に大きく泡の高さが低下し、5時間後には完全な消泡を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献10:2015)、オリーブ果実油石鹸に起泡性および泡持続性が認められています。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
オリーブ果実油の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2017)によると、
- [ヒト試験] 114人の被検者に0.7%オリーブ果実油を含むスカルプコンディショナーの1%製剤を適用したところ、一次刺激はなかった(Institut D’Expertise Clinique,2005)
- [ヒト試験] 104人の被検者に0.1595%オリーブ果実油を含むスカルプコンディショナーまたはヘアワックスを対象にHRIPT(皮膚累積刺激性&感作性試験)を実施したところ、皮膚刺激性および皮膚感作性は示されなかった(Clinical Research Laboratories,2005)
- [ヒト試験] 110人の被検者に0.7%オリーブ果実油を含むスカルプコンディショナーの1%製剤を対象にHRIPT(皮膚累積刺激性&感作性試験)を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作は観察されなかった(Institut D’Expertise Clinique,2005)
- [ヒト試験] 110人の被検者に1.6%オリーブ果実油を含むボディローション0.02mLを対象にHRIPT(皮膚累積刺激性&感作性試験)を実施したところ、7回目の誘導パッチ適用で1人の被検者にわずかな紅斑が観察されたが、一時的なものでそれ以降は再発しなかった。他に皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(Institut D’Expertise Clinque,2004)
- [ヒト試験] 209人の被検者に10%オリーブ果実油を含むスキンケアバームを対象にHRIPT(皮膚累積刺激性&感作性試験)を実施したところ、皮膚感作性はなかった(TKL Research,2007)
- [ヒト試験] 105人の被検者に22%オリーブ果実油を含むボディ用保湿剤を対象にHRIPT(皮膚累積刺激性&感作性試験)を半閉塞パッチ下で実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作はなかった(Clinical Research Laboratories,2007)
- [ヒト試験] 102人の被検者に58.7%オリーブ果実油を含むコンディショニングヘアオイル0.2mLを対象にHRIPT(皮膚累積刺激性&感作性試験)を半閉塞パッチ下で実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作はなかった(Consumer Product Testing Co,2003)
- [ヒト試験] 209人の被検者に69.6%オリーブ果実油を含むファンデーション200μLを対象にHRIPT(皮膚累積刺激性&感作性試験)を半閉塞パッチ下で実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作はなかった(Product Investigations,2009)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、一般的に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2017)によると、
- [動物試験] ウサギを用いてDraize法に基づいて未希釈の高純度オリーブ果実油を点眼したところ、眼刺激性はなかった(Said T, et al,2007)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に未希釈のオリーブ果実油を処理したところ、細胞死およびアポトーシスは誘導されなかった(Said T, et al,2007)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して眼刺激性なしと報告されているため、一般的に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
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オリーブ果実油はエモリエント成分、ベース成分、界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3),51S-129S.
- 日本油化学協会編集(1990)「植物油脂の脂肪酸組成」油化学便覧 改訂3版,104-110.
- 日本油化学協会編集(1990)「植物油脂の性状」油化学便覧 改訂3版,99-101.
- 日光ケミカルズ(2016)「油脂」パーソナルケアハンドブック,4.
- 鈴木 洋(2011)「オリーブ」カラー版健康食品・サプリメントの事典,28.
- 足立 佳津良(1983)「エモリエント剤―最近10年の進歩と発展」Fragrance Journal(62)(5),46-49.
- 渡辺 洋一(1999)「植物性油脂」Fragrance Journal 臨時増刊号(16),12-18.
- “株式会社資生堂”(2004)「ヒト頬部毛穴の目立ちと肌状態」, <https://www.shiseidogroup.jp/rd/doctor/informationletter/backnumber/pdf/2004_001_02.pdf> 2019年2月1日アクセス.
- 田村 健夫, 他(1990)「アニオン界面活性剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,133-136.
- S. Wu, et al(2015)「Evaluation of the fatty acid composition of the seeds of Mangifera indica L. and their application.」Journal of Oleo Science(64)(5),479-484.
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