エタノールとは…成分効果と毒性を解説





・エタノール
[医薬部外品表示名称]
・エタノール、無水エタノール
[慣用名]
・アルコール、エチルアルコール
化学構造的に疎水性のエチル基(CH3CH2-)と親水性のヒドロキシ基(水酸基:-OH)が結合した炭素数2の揮発性一価アルコール(∗1)かつ低級アルコール(∗2)です。
∗1 一価アルコールとは、化学的に-OH(水酸基:ヒドロキシ基)が1つ結合したアルコールで、2つ以上結合したものは多価アルコールと呼ばれ(n個結合したものはn価アルコールとも呼ばれる)、高い吸湿性と保水性をもっているため化粧品に汎用されている保湿剤です。一般にアルコールと呼ばれる酩酊成分はエタノールのみを指します。
∗2 低級アルコールとは、ヒドロキシ基(水酸基:-OH)を1つだけもった一価アルコールの中で、炭素数6個以下のアルコールのことを指し、一方で炭素数8個以上のアルコールは高級アルコール(脂肪族アルコール)に分類されます。一般に炭素数が少ないほど親水性が強くなり(親油性が弱くなり)、炭素数が多いほど親油性が強くなる(親水性が弱くなる)特徴を有しています。
エタノールの物性(∗3)は、
∗3 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。
炭素数 | 分子量 | 融点(℃) | 比重(20℃) | 屈折率(20℃) |
---|---|---|---|---|
2 | 46.07 | -114.5 | 0.7893 | 1.3614 |
このように報告されています(文献5:1994)。
またエタノールは、純度によって以下のように分類されており、
エタノールの種類 | 純度 |
---|---|
無水エタノール | 99.5%以上 |
エタノール | 95.1%-95.6%以上 |
消毒用エタノール | 76.9%-81.4%以上 |
化粧品成分としては95.1%濃度以上のエタノールが用いられており、化粧品成分表示名称としては「エタノール」、医薬部外品表示名称としては濃度に応じて「エタノール」「無水エタノール」と記載されます。
消毒用エタノールの濃度が76.9%-81.4%濃度である理由は、この濃度範囲が最も高い殺菌・消毒効果が得られるからであり、40%-50%濃度以下(∗4)になると十分な消毒効果は期待できず、また81.4%-95%濃度においても濃度依存的に消毒効果は低下し、99.5%のように高すぎる濃度でも消毒効果は低くなります。
∗4 菌やウィルスによって殺菌効果にバラつきがでるのが40%-50%濃度付近であることから、濃度範囲として記載しています。
一般的な用途としては、エタノールは酩酊成分であるアルコールとして広く知られており、飲料・食品分野において専売アルコール(エタノールおよび無水エタノール)が様々な製品に汎用され、医療分野においては消毒用アルコールとして、塗料分野においてインキ剤、染料の抽出溶剤として、化学分野においては中間体として広く使用されています(文献6:1994)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、様々な製品に汎用されています。
揮発性による清涼作用
揮発性による清涼作用に関しては、まず前提知識として揮発に伴う清涼感のメカニズムを解説します。
揮発とは、通常の温度で液体が気体になることであり、エタノールを皮膚に塗布すると揮発にともなって熱も一緒に奪うため、塗布する際に温度変化が生じます。
ヒトの皮膚には温感センサーおよび冷感センサーが組み込まれているので、個人の皮膚温度や製品の処方にもよりますが、瞬間的に熱移動が起こると「清涼感:ひんやり感」を感じます。
2008年に資生堂によって報告された基剤塗布による温度変化検証によると、
最大降下温度は、水で2.9℃、エタノールで1.1℃であり、初期温度降下は、エタノールの揮発が速かった。
このような検証結果が明らかにされており(文献7:2008)、エタノールに揮発性による清涼作用が認められています。
抗菌・防腐による製品安定化剤
抗菌・防腐による製品安定化剤に関しては、2012年に御木本製薬によって公開された抗菌性物質の最小発育阻止濃度の検証によると、
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:Sa)
- 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:Pa)
- 大腸菌(Escherichia coli:Ec)
- カンジダ(candida albicans:Ca)
- コウジカビ(aspergillus brasiliensis:Ab)
滅菌容器に20gの試料を入れ、1mLあたり10⁷-10⁸個に調整した微生物懸濁液0.2mLを接種・混合し、1週間おきに一部を取り出し、生菌数をMICを基準として測定したところ、以下の表(∗5)のように、
∗5 表のSa,Pa,Ec,CaおよびAbは菌の英語表記の略語です。またMICは最小発育阻止濃度であるため、数字が小さい(濃度が低い)ほど抗菌力が高いことを意味します。
抗菌剤 | MIC:最小発育阻止濃度(%) | ||||
---|---|---|---|---|---|
Sa | Pa | Ec | Ca | Ab | |
メチルパラベン | 0.2 | 0.225 | 0.125 | 0.1 | 0.1 |
フェノキシエタノール | 0.75 | 0.75 | 0.5 | 0.5 | 0.4 |
BG | 16 | 8 | 10 | 14 | 18 |
ペンチレングリコール | 4 | 2 | 2 | 3 | 3 |
エタノール | 9 | 5 | 5 | 7 | 5 |
DPG | 22.5 | 8 | 12 | 16 | 22.5 |
1,2-ヘキサンジオール | 2.5 | 1 | 1 | 1.5 | 1.5 |
カプリリルグリコール | 0.35 | >0.5 | 0.125 | 0.175 | 0.175 |
防腐剤として配合されるメチルパラベンやフェノキシエタノールに顕著な抗菌性があることは広く知られていますが、エタノールは、優れた抗菌性を有する多価アルコールであるカプリリルグリコール、1,2-ヘキサンジオールおよびペンチレングリコールに次ぐ抗菌性を示し、また5種類の菌種すべてに抗菌性を有していることが示された。
このような検証結果が明らかにされており(文献8:2012)、エタノールに抗菌性が認められています。
香料や着色剤などを溶かし込む溶剤または植物エキスなどを抽出する溶媒
香料や着色剤などを溶かし込む溶剤または植物エキスなどを抽出する溶媒に関しては、水溶性成分および油溶性成分の両方の抽出が可能であるため(∗6)、植物エキスをはじめとする抽出溶媒として汎用されており、また一方で香りを立ちやすくする目的で香料を溶かし込む基剤として、また着色剤を溶かし込む溶剤として香水やネイル製品などの基剤としても使用されます。
∗6 親水性ですが、弱い親油性も有しているため、油溶性成分の抽出も可能です。
基剤として使用される場合は配合量が多いため、成分一覧表示では最初のほうに記載されます。
一方で、基剤として使用していない場合かつ溶媒として使用している場合は、エタノール水溶液に漬け込まれて染み出した成分とともに微量のエタノールのみが成分一覧に表示されるため、末尾に記載されるか、またはキャリーオーバー(∗7)のため記載が省略されることになります。
∗7 キャリーオーバーとは、配合されている成分に付随する成分(不純物を含む)で製品中にはその効果が発揮されるより少ない量しか含まれない成分のことで、キャリーオーバーに該当する成分は薬機法により表示の必要はないとされています。
そのため、成分一覧表示の末尾にエタノールの記載がある場合は、抽出溶媒としての配合であると考えられます。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
エタノールの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性(健常な皮膚を有する場合):ほとんどなし-軽度(データなし)
- 皮膚刺激性(皮膚炎を有する場合):ほとんどなし-中程度かつ刺激を引き起こす可能性が高い
- 眼刺激性:50%濃度以上において重度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
日本薬局方および医薬部外品原料規格2006に収載されており、古くから基剤および溶剤(溶媒)として使用実績がある中で、健常な皮膚を有する場合において重大な皮膚刺激の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激はほとんどない(あっても軽度)と考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
– 皮膚炎を有する場合 –
市立柏原病院皮膚科の安全性試験(文献2:1986)によると、
- [ヒト試験] 皮膚炎などを有する314人の患者に70%消毒用エタノール(添加物なし)を30分間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、以下表のように、
皮膚病名 試験数(人) 陽性数(人) 陽性割合(%) 蕁麻疹 84 35 41.7 接触皮膚炎 164 102 62.2 脂漏性皮膚炎 13 9 69.2 尋常性ざ瘡 19 12 63.2 その他 36 17 47.2 175人(55.5%)の患者に刺激反応(陽性反応)がみられた。70%の高濃度で刺激反応を生じている可能性が考えられたため、70%濃度で刺激反応を示した97人に13%エタノール希釈液で同様にパッチテストしたところ、82人が刺激反応を示した。さらに51人に3%エタノール希釈液で同様にパッチテストしたところ、30人が刺激反応を示した
と記載されています。
試験データをみるかぎり、314人のうち175人の患者に皮膚刺激が報告されているため、皮膚炎を有する場合において皮膚刺激性は非刺激-中程度の皮膚刺激を引き起こす可能性があり、かつ皮膚刺激を引き起こす可能性が高いと考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 5匹のウサギの眼に100%エタノール0.1mLを注入し、注入後に眼を評価したところ、重度の障害を引き起こすと結論付けられた。またエタノール量を0.5mLに増加したとき、眼刺激の重篤度が増した(Carpenter and Smyth,1982)
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に50%エタノール溶液(pH8.3)を点眼し、眼はすすがず、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は可逆性の損傷を特徴とした重度の眼刺激剤であった。点眼後に眼をすすいだ場合は眼刺激性の重症度が軽減された(Guillot et al,1982)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、50%濃度以上において重度の眼刺激が報告されているため、一般に50%濃度以上において重度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 1982年から2008年の間において日本人におけるエタノール接触皮膚障害は、接触蕁麻疹38例、アレルギー性接触皮膚炎18例、接触蕁麻疹とアレルギー性接触皮膚炎2例、接触蕁麻疹と刺激性接触皮膚炎1例であり、その多くはパッチ塗布5分後に紅斑が生じる即時型アレルギーで、まれに24-72時間後にも紅斑が持続または増強する遅延型反応も確認された
と記載されています。
古くから化粧品基剤および溶剤として多くの使用実績がある中で、試験データのようにごくまれにエタノールによる接触蕁麻疹およびアレルギー性接触皮膚炎が報告されているものの、臨床的な報告は非常に少なく(文献3:1985)、一般的に皮膚感作性はほとんどない(ごくまれに起こる可能性あり)と考えられます。
エタノールに対して皮膚感作が起こるのはごくまれですが、エタノールに過敏になった場合は以下の以下のように、
- [ヒト試験] エタノールに過敏反応を有する17人にイソプロパノールおよびラノリンをパッチテストしたところ、6人(35.3%)がイソプロパノールに、2人がラノリンに感作反応を示し、またラノリンに感作した2人はイソプロパノールにも感作していた
と記載されています。
試験データをみるかぎり、イソプロパノールおよびラノリンと交差性を有していることから、エタノールに過敏反応を有する場合はイソプロパノールまたは/およびラノリンでも感作を引き起こす可能性があるため注意が必要であると考えられます。
∗∗∗
エタノールはベース成分、温冷感成分、安定化成分、溶剤にカテゴライズされています。
それぞれの成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2008)「Final Report of the Safety Assessment of Alcohol Denat., Including SD Alcohol 3-A, SD Alcohol 30, SD Alcohol 39, SD Alcohol 39-B, SD Alcohol 39-C, SD Alcohol 40, SD Alcohol 40-B, and SD Alcohol 40-C, and the Denaturants, Quassin, Brucine Sulfate/Brucine, and Denatonium Benzoate」International Journal of Toxicology(27)(1_suppl),1-43.
- 東 順子(1986)「エタノール皮膚障害とエタノールによる20分間密封貼布試験」皮膚(28)(1),11-16.
- 斎藤 文雄, 他(1985)「エタノール接触アレルギー」皮膚(27)(3),578-584.
- 遠藤 博久, 他(2009)「エタノール接触皮膚障害症例と交差反応について」Journal of Healthcare-associated Infection(2),13-17.
- 大木 道則, 他(1994)「エタノール」化学辞典,165.
- 有機合成化学協会(1994)「エタノール」新版 溶剤ポケットブック,345-355.
- 石窪 章, 他(2008)「化粧品基剤塗布時の熱的特性と清涼感への影響」日本化粧品技術者会誌(42)(4),289-296.
- 谷口 康将, 他(2012)「最小発育阻止濃度(MIC)を基準とした予測式からの化粧品の保存効力の予測」日本化粧品技術者会誌(46)(4),295-300.
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