アンズ核油とは…成分効果と毒性を解説



・アンズ核油
[医薬部外品表示名称]
・キョウニン油、パーシック油
[慣用名]
・アプリコットカーネルオイル
バラ科植物アンズ(学名:Prunus armeniaca 英名:Apricot)の種子から得られる植物油(植物オイル)です。
アンズ(杏)は中国北部原産で、アンズの種子(仁)をキョウニン(杏仁)と呼び、日本には奈良時代に薬用として渡来し、今日では長野県や山梨県で栽培されています(文献6:2011)。
アンズ核油の脂肪酸組成は、抽出方法や天然成分のため国や地域および時期によって変化がありますが、主に、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
パルミトレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C16:1 | 0.8 |
オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:1 | 68.3 |
リノール酸 | 不飽和脂肪酸 | C18:2 | 22.0 |
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 7.6 |
ステアリン酸 | 飽和脂肪酸 | C18:0 | 1.3 |
このような種類と比率で構成されています(文献2:1990)。
オレイン酸が約65%、リノール酸が約20%を占めており、二重結合が2つ以上の不飽和脂肪酸であるリノール酸の含有量が高いため、酸化安定性は低いと考えられます。
また2004年に資生堂によってオレイン酸やパルミトレイン酸など二重結合が1つの不飽和脂肪酸が恒常的に過剰に存在すると、顔面毛穴周囲の肌状態およびキメの状態が悪化する可能性が高いことが報告されています(文献7:2004)。
オレイン酸はヒト皮脂中に存在する代表的な不飽和脂肪酸であり、10代や若い成人をはじめ日常的に皮脂量が多いと感じている場合は、オレイン酸配合製品の使用で毛穴状態やキメの悪化につながる可能性も考えられます。
ヨウ素価は、
ヨウ素価 | ヨウ素価による分類 |
---|---|
90-110 | 半乾性油 |
一例としてこのように記載されており(文献3:1990)、100を越えることがある半乾性油のため、いくらかの乾燥性は有しますが、乾油性よりは劣ります。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、ボディケア製品、リップ製品、ヘアケア製品、洗顔料、洗浄製品などに幅広く使用されます(文献4:1997;文献5:2016)。
エモリエント作用
エモリエント作用に関しては、オレイン酸約65%、リノール酸が約20%含有し、アーモンド油と酷似した脂肪酸組成で、肌なじみおよび伸びが良く、軽い使用感を付与するエモリエント剤として幅広く使用されています(文献4:1997;文献5:2016)。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
アンズ核油の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2017)によると、
- [ヒト試験] 51人の被検者に2%アンズ核油を含むフェイスクリーム20μLを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチ下で実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作はなかった(EVIC Romania,2010)
- [ヒト試験] 108人の被検者に2%アンズ核油を含むアイクリーム20μLを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチ下で実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作(アレルギー)はなかった(EVIC Romania,2010)
- [ヒト試験] 119人の被検者に2.5%アンズ核油を含むクリームの一次刺激性試験を実施したところ、一次皮膚刺激は観察されなかった(Institut D’Expertise Clinique,2010)
- [ヒト試験] 108人の被検者に19.749%アンズ核油を含むウェイスセラムの一次刺激性試験を実施したところ、一次皮膚刺激は観察されなかった(Institut D’Expertise Clinique,2010)
- [ヒト試験] 104人の被検者に0.005%アンズ核油を含むスカルプコンディショナーまたはヘアワックスを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチ下で実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作はなかった(Clinical Research Laboratories,2005)
- [ヒト試験] 57人の被検者に1%アンズ核油を含むクリームをを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチ下で実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作はなかった(EVIC Portgual,2006)
- [ヒト試験] 108人の被検者に19.749%アンズ核油を含むフェイスセラムを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチ下で実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作はなかった(Institut D’Expertise Clinique,2010)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、一般的に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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アンズ核油はエモリエント成分、ベース成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(3),51S-129S.
- 日本油化学協会(1990)「植物油脂の脂肪酸組成」油脂化学便覧 改訂3版,104-110.
- 日本油化学協会(1990)「植物油脂の性状」油脂化学便覧 改訂3版,99-101.
- 広田 博(1997)「不乾性油」化粧品用油脂の科学,18-26.
- 日光ケミカルズ(2016)「油脂」パーソナルケアハンドブック,5.
- 鈴木 洋(2011)「杏仁(きょうにん)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,99.
- “株式会社資生堂”(2004)「ヒト頬部毛穴の目立ちと肌状態」, <https://www.shiseidogroup.jp/rd/doctor/informationletter/backnumber/pdf/2004_001_02.pdf> 2019年2月3日アクセス.
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