フィトステリルグルコシド/グルコシルセラミドとは…成分効果と毒性を解説


・フィトステリルグルコシド/グルコシルセラミド
[慣用名]
・桃セラミド、ピーチセラミド
バラ科植物モモ(学名:Prunus Persica 英名:Peach)の果皮および果肉から得られる、化学構造的にスフィンゴ脂質の一種であるセラミドのスフィンゴイド塩基末端のヒドロキシ基(水酸基:-OH)に中性糖の一種であるグルコースを結合したスフィンゴ糖脂質(グルコシルセラミド)です(文献1:1981)。
一般にスフィンゴ糖脂質は、スフィンゴ脂質であるセラミドに各種糖類が結合した糖脂質と定義されており、主に動物および菌類に分布していますが、植物にも少数分布しています。
スフィンゴ糖脂質の中でも単糖と結合したものをセレブロシドといい(文献1:1981)、セレブロシドとしては、
セレブロシドの種類 | 結合単糖 | 生体における主な分布 |
---|---|---|
ガラクトセレブロシド(ガラクトシルセラミド) | ガラクトース | 脳組織のミエリン、腎臓 |
グルコセレブロシド(グルコシルセラミド) | グルコース | すべての組織・細胞 |
これら2種類が存在していますが(文献1:1981;文献2:2011)、19世紀にヒト大脳(セレブラム:cerebrum)から単離されたガラクトセレブロシドが最初に発見された経緯から、狭義においてはガラクトセレブロシドのみを指します(文献1:1981)。
こういった背景があり、化粧品成分表示名称においては、
セレブロシドの種類 | 化粧品成分表示名称 |
---|---|
ガラクトセレブロシド(ガラクトシルセラミド) | セレブロシド |
グルコセレブロシド(グルコシルセラミド) | スフィンゴ糖脂質 グルコシルセラミド コメヌカスフィンゴ糖脂質 コーンスフィンゴ糖脂質 フィトステリルグルコシド/グルコシルセラミド |
このように区別されています(∗1)。
∗1 化粧品成分表示名称「スフィンゴ糖脂質」の定義は、”各種糖類がグリコシド結合した糖脂質”とされており、この定義であればガラクトシルセラミドも含みますが、化粧品成分表示においてガラクトシルセラミドは「セレブロシド」と表示されます。
グルコシルセラミド(グルコセレブロシド)は生体のすべての組織・細胞に分布しており、ヒト皮膚においては以下の表皮におけるセラミド産生プロセス図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
表皮細胞は、角化細胞(ケラチノサイト)とも呼ばれ、表皮最下層である基底層で生成された一個の角化細胞は、その次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かい押し上げられていき、各層を移動していく中で有棘細胞、顆粒細胞と分化し、最後はケラチンから成る角質細胞となり、角質層にとどまったのち、角片(∗2)として剥がれ落ちます(文献3:2002)。
∗2 角片とは、体表部分でいえば垢、頭皮でいえばフケを指します。
この表皮の新陳代謝は一般的にターンオーバー(turnover)と呼ばれ、正常なターンオーバーによって皮膚は新鮮さおよび健常性を保持しており(文献4:2002)、グルコシルセラミドも表皮細胞と同様に表皮で産生され、角質層において分解酵素であるグルコセレブロシダーゼを介してセラミドに分化されることが知られています(文献5:2008)。
セラミドに関しては、以下の表皮における角質層の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
角質層は天然保湿因子を含む角質細胞と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、細胞間脂質は主に、
細胞間脂質構成成分 | 割合(%) |
---|---|
セラミド | 50 |
遊離脂肪酸 | 20 |
コレステロール | 15 |
コレステロールエステル | 10 |
糖脂質 | 5 |
このような脂質組成で構成されています(文献6:1995)。
細胞間脂質は以下の図のように、
疎水層と親水層を繰り返すラメラ構造を形成していることが大きな特徴であり、脂質が結合水(∗3)を挟み込むことで水分を保持し、角質細胞間に層状のラメラ液晶構造を形成することでバリア機能を発揮すると考えられており、このバリア機能は、皮膚内の過剰な水分蒸散の抑制および一定の水分保持、外的刺激から皮膚を防御するといった重要な役割を担っています。
∗3 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分であり、純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水のうち33%は-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約⅓が結合水であることに由来しています(文献7:1991)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディケア製品、メイクアップ製品、シート&マスク製品などに使用されています。
セラミド産生量増加によるバリア改善作用
セラミド産生量増加によるバリア改善作用に関しては、オカヤスによって公開されたヒト三次元培養皮膚に対するフィトステリルグルコシド/グルコシルセラミド添加の影響検証(in vitro試験)によると、
モモ由来グルコシルセラミドは、未添加と比較して顕著なセラミド量の増加が認められた。
このような検証結果が明らかにされており(文献8:-)、フィトステリルグルコシド/グルコシルセラミドにセラミド産生量増加によるバリア改善作用が認められています。
試験データはin vitroのみですが、モモ由来グルコシルセラミドはコメヌカスフィンゴ糖脂質と同じβ-グルコシルセラミドであり、コメヌカスフィンゴ糖脂質はヒト皮膚への塗布においてもセラミド量の増加が認められることから(文献9:2013;文献10:2016)、フィトステリルグルコシド/グルコシルセラミドにおいても同様の効果を有すると考えられます。
グルコシルセラミドのバリア改善メカニズムに関しては、角質細胞間脂質のセラミドはグルコセレブロシダーゼを介してグルコシルセラミドからつくられること(文献5:2008)、ヒト三次元培養皮膚にコメ由来グルコシルセラミドを一定期間適用したのちにセラミドを定量したところ、セラミド量の生成・増加が認められたことが報告されています(文献11:2012;文献12:2013)。
このような背景から、フィトステリルグルコシド/グルコシルセラミドが皮膚に浸透した結果としてフィトステリルグルコシド/グルコシルセラミドからセラミドが生成され、セラミド産生量が増加したことによってバリア機能が改善すると考えられます。
フィトステリルグルコシド/グルコシルセラミドの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [in vitro試験] in vitro試験(詳細不明)においてフィトステリルグルコシド/グルコシルセラミドは皮膚刺激性を有しない
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
2年以上の使用実績の中で重大な皮膚感作の報告がないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
∗∗∗
フィトステリルグルコシド/グルコシルセラミドはバリア改善成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:バリア機能修復成分
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参考文献:
- 大塚 英昭, 他(1981)「糖脂質の構造と生理活性」ファルマシア(17)(8),711-717.
- 平林 義雄(2011)「スフィンゴ脂質とセラミド概論」セラミド―基礎と応用-,4-13.
- 朝田 康夫(2002)「表皮を構成する細胞は」美容皮膚科学事典,18.
- 朝田 康夫(2002)「角質層のメカニズム」美容皮膚科学事典,22-28.
- 杉山 義宣(2008)「皮膚の機能制御とスキンケア」化学と生物(46)(2),135-141.
- 芋川 玄爾(1995)「皮膚角質細胞間脂質の構造と機能」油化学(44)(10),751-766.
- G. Imokawa, et al(1991)「Stratum corneum lipids serve as a bound-water modulator」Journal of Investigative Dermatology(96)(6),845-851.
- オカヤス株式会社(-)「ピーチセラミド」技術資料.
- オリザ油化株式会社(2013)「オリザセラミド」技術資料.
- 高橋 達治(2016)「コメ由来グルコシルセラミドの内外美容効果」Fragrance Journal(44)(6),37-42.
- 遠藤 麻未子, 他(2012)「皮膚中セラミド制御に及ぼすグルコシルセラミド製剤の効果」日本薬学会 第132年会.
- オカヤス株式会社(2013)「スフィンゴ糖脂質水溶液若しくは乳化水溶液」特開2013-155117.