ユーカリ葉エキスとは…成分効果と毒性を解説





・ユーカリ葉エキス
[医薬部外品表示名]
・ユーカリエキス
フトモモ科植物ユーカリ(学名:Eucalyptus globulus)の葉から水、エタノール、BG、またはこれらの混合で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
ユーカリノキは、オーストラリアに自生する常緑高木であり、シャープな香りを特徴とし、古くから先住民のアボリジニによって熱病、伝染病、傷病の治療薬として用いられてきた歴史があります(文献1:2018;文献2:2016)。
19世紀にドイツの植物学者かつ医師であったミュラー(Ferdinand Jacob Heinrich von Mueller)がオーストラリアに移住し、この地の植物をヨーロッパに数多く紹介する中でユーカリの優れた特性をヨーロッパに広め、日本に導入されたのは1877年頃とされています(文献2:2016)。
ユーカリ葉エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
テルペノイド | モノテルペン | 1,8-シネオール、α-ピネン、カンフェン |
フラボノイド | フラボノール | ルチン、ケルセチン |
タンニン | 加水分解型タンニン |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2018;文献2:2016;文献3:2018;文献4:2014)。
化粧品に配合される場合は、
- セラミド産生量増加によるバリア改善作用
- タイトジャンクション形成促進によるバリア改善作用
- MMP-1活性阻害による抗老化作用
- TRPM8活性化による冷涼感付与効果
- VEGF増加による毛髪ハリコシ改善作用
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品、ボディソープ製品、クレンジング製品などに使用されています。
セラミド産生量増加によるバリア改善作用
セラミド産生量増加によるバリア改善作用に関しては、まず前提知識として角質層における細胞間脂質の構造、セラミドの役割およびセラミド産生のメカニズムについて解説します。
以下の表皮最外層である角質層の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
角質層は天然保湿因子を含む角質細胞と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、細胞間脂質は主に、
細胞間脂質構成成分 | 割合(%) |
---|---|
セラミド | 50 |
遊離脂肪酸 | 20 |
コレステロール | 15 |
コレステロールエステル | 10 |
糖脂質 | 5 |
このような脂質組成で構成されており(文献5:1995)、その約50%をセラミドが占めています。
これら細胞間脂質は以下の図のように、
疎水層と親水層を繰り返すラメラ構造を形成していることが大きな特徴であり、脂質が結合水(∗1)を挟み込むことで水分を保持し、角質細胞間に層状のラメラ液晶構造を形成することでバリア機能を発揮すると考えられており、このバリア機能は、皮膚内の過剰な水分蒸散の抑制および一定の水分保持、外的刺激から皮膚を防御するといった重要な役割を担っています。
∗1 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分であり、純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水のうち33%は-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約⅓が結合水であることに由来しています(文献6:1991)。
次に、表皮におけるセラミド生成プロセスに関しては、以下の表皮におけるセラミド産生プロセス図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
表皮細胞は、角化細胞(ケラチノサイト)とも呼ばれ、表皮最下層である基底層で生成された一個の角化細胞は、その次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かい押し上げられていき、各層を移動していく中で有棘細胞、顆粒細胞と分化し、最後はケラチンから成る角質細胞となり、角質層にとどまったのち、角片(∗2)として剥がれ落ちます(文献7:2002)。
∗2 角片とは、体表部分でいえば垢、頭皮でいえばフケを指します。
この表皮の新陳代謝は一般的にターンオーバー(turnover)と呼ばれ、正常なターンオーバーによって皮膚は新鮮さおよび健常性を保持しています(文献8:2002)。
セラミドの前駆体かつスフィンゴ糖脂質の一種であるグルコシルセラミドも表皮細胞と同様に表皮で産生され、角質層において分解酵素であるβ-グルコセレブロシダーゼを介してセラミドに分化されることが知られています(文献9:2008)。
一方で、皮膚が乾燥寒冷下に長時間曝露されるような外的要因やアトピー性皮膚炎のような内的要因により乾皮症(ドライスキン)が生じた場合は、角質層の機能低下により、角質層の水分保持能の低下およびバリア機能低下による経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss:TEWL)の上昇が起こり(文献10:2004)、その結果として角質細胞や細胞間脂質が規則的に並ばなくなり、そこに生じた隙間からさらに水分が蒸散し、バリア機能・保湿機能が低下していくことが知られています(文献11:2002)。
このような背景から、低下したセラミド量を回復させることによってバリア機能を改善することは、ドライスキンの改善や皮膚の健常性を維持するために重要であると考えられます。
1999年に花王によって報告されたダメージ皮膚に対するユーカリ葉エキスのバリア機能への影響検証によると、
表皮におけるセラミドの合成経路は、グルコシルセラミドとスフィンゴミエリンの2つが存在しますが、ユーカリ葉エキスの添加では、スフィンゴミエリン経路には影響がなく、グルコシルセラミドの合成が促進されたことから、グルコシルセラミドの産生・合成増加によるセラミド量の増加であると考えられた。
次に、ヒト荒れ肌モデルを作製し、1%ユーカリ葉エキスを連日局所適用し、角質層のセラミド量、水分量および水分蒸散量を測定・評価したところ、以下のグラフのように(∗3)、
∗3 コンダクタンスとは、皮膚に電気を流した場合の抵抗(電気伝導度:電気の流れやすさ)を表し、角層水分量が多いと電気が流れやすくなり、コンダクタンス値が高値になることから、角層水分量を調べる方法として角層コンダクタンスを経時的に測定する方法が定着しています。
1%ユーカリ葉エキス塗布は、未塗布と比較して総セラミド量の増加をともなう角層水分量の増加および経表皮水分蒸散量の抑制が認められた。
これらの発見は、ユーカリ葉エキスのセラミド産生促進効果が、セラミド低下によるドライスキンを改善するのに有用であることを示唆しています。
このような試験結果が明らかにされており(文献12:2000;文献13:1999)、ユーカリ葉エキスにグルコシルセラミド産生量増加が認められており、その結果としてセラミド産生量増加によるバリア改善作用が認められています。
セラミドと併用することで異なるセラミド量増加アプローチによる相乗効果が得られるため、セラミドまたは疑似セラミド(∗4)と併用されている場合は、セラミド産生量増加目的である可能性が考えられます。
∗4 一般的にユーカリ葉エキスと併用される疑似セラミドは、セチルPGヒドロキシエチルパルミタミド(ヘキサデシロキシPGヒドロキシエチルヘキサデカナミド)です。
タイトジャンクション形成促進によるバリア改善作用
タイトジャンクション形成促進によるバリア改善作用に関しては、まず前提知識としてタイトジャンクションについて解説します。
以下の表皮角質層-顆粒層の構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
角質層は、角質細胞の間を細胞間脂質で満たすことで角質細胞同士を接着しバリア機能を発揮しますが、角質層直下に存在する3層で構成された顆粒層(stratum granulosum:SG)(∗5)においては、2層目(SG2)において隣接する細胞同士の隙間を密着結合するタイトジャンクション(tight junction)という細胞間結合が二次バリア機能を形成することで、外界からの異物の生体内侵入あるいは細胞間隙からの水分子やイオンの漏れを防ぐ障壁としての役割を果たしています(文献14:2002;文献15:2011)。
∗5 顆粒層(stratum granulosum:SG)は3層で構成されており、表面からそれぞれSG1,SG2,SG3細胞として解説されます。
健常なバリア機能を有する場合は、一般にアレルギー物質を多く含むハウスダストなどに曝露されても皮膚に侵入することはないため、アレルギー反応が生じることはありませんが、一方でアトピー性皮膚炎を有する場合は、角層および顆粒層のバリア機能の低下から、ハウスダストなどに対する免疫感受性が高まることが報告されており(文献16:2018)、その結果としてアレルギー反応を起こしやすくなり、症状の悪化を招きやすくなります。
このような背景から、アトピー性皮膚炎を有する場合など角層および顆粒層のバリア機能が低下している場合は、角層および顆粒層のバリア機能を回復させ、アレルギー反応を抑制することが皮膚の健常性の回復に重要であると考えられます。
2018年に日油によって報告されたユーカリ葉エキスの顆粒層タイトジャンクションへの影響検証によると、
∗6 播種(はしゅ)とは種まきを意味し、種を撒くようにバラバラと広げることです。
観察の結果、0.01%ユーカリ葉エキス添加は、無添加と比較して細胞接着部位にクローディン-1が増強され、クローディン-1重合によるタイトジャンクションの形成が促進されていることが確認できた。
次に、ヒト三次元培養表皮モデルに0.01%および0.03%ユーカリ葉エキスを添加・調製し、添加直後、1および2時間後にバリア機能の定量法のひとつであるTER(trans-epithelial electrical resistance:経上皮電気抵抗)法を用いてTER値を測定したところ、以下のグラフのように、
ユーカリ葉エキス添加は、1時間後からTER値を上昇させたことから、三次元培養表皮モデル上下間にバリア機能を増強させることが確認できた。
このような試験結果が明らかにされており(文献17:2018;文献18:2018)、ユーカリ葉エキスにタイトジャンクション形成促進によるバリア改善作用が認められています。
ユーカリ葉エキスのタイトジャンクション形成促進のメカニズムは、タイトジャンクションの主要構成成分であるクローディン-1(claudin-1)の重合増強によるものであると考えられます。
MMP-1活性阻害による抗老化作用
MMP-1活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識として真皮の構造および役割とMMP-1について解説します。
真皮については以下の真皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス)に二分されますが、主成分である間質成分は大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞はその間に散在しています(文献19:2002;文献20:2018)。
間質成分の大部分を占めるコラーゲンは、膠質状の太い繊維であり、その繊維内に水分を保持しながら皮膚の張りを支えています(文献19:2002)。
このコラーゲンは、Ⅰ型コラーゲン(80-85%)とⅢ型コラーゲン(10-15%)が一定の割合で会合(∗7)することによって構成されており(文献21:1987)、Ⅰ型コラーゲンは皮膚や骨に最も豊富に存在し、強靭性や弾力をもたせたり、組織の構造を支える働きが、Ⅲ型コラーゲンは細い繊維からなり、しなやかさや柔軟性をもたらす働きがあります(文献22:2013)。
∗7 会合とは、同種の分子またはイオンが比較的弱い力で数個結合し、一つの分子またはイオンのようにふるまうことをいいます。
エラスチン(elastin)を主な構成成分とする弾性繊維は、皮膚の弾力性をつくりだす繊維であり、コラーゲンとコラーゲンの間に絡み合うように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持しています(文献19:2002)。
基質は、主に糖タンパク質(glycoprotein)とプロテオグリカン(proteoglycan)およびグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)で構成されたゲル状物質であり、これらの分子が水分を保持し、コラーゲンやエラスチンと結合して繊維を安定化させることにより、皮膚は柔軟性を獲得しています(文献19:2002;文献20:2018)。
プロテオグリカンは、軸タンパクにグリコサミノグリカンが多数結合した分子量10万-100万以上の巨大な分子であり、グリコサミノグリカンは酸性ムコ多糖類であるヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸を主成分とし、ヒアルロン酸は水分保持に関与し、コンドロイチン硫酸は繊維の支持や他の基質の保持に働いています(文献20:2018)。
細胞成分として線維芽細胞(fibroblast)は、真皮に分散しており、コラーゲン繊維や弾性繊維、ムコ多糖を産生する細胞であることから、必要に応じて線維芽細胞が活発に働きこれらの物質が順調につくられていることが、皮膚の張りや弾力を維持する上で重要です(文献19:2002)。
真皮の働きを要約すると、
- コラーゲン繊維が水分を保持しながら皮膚の張りを支持
- エラスチンを主とした弾性繊維がコラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持
- 基質(ゲル状物質)が水分を保持し、コラーゲン繊維と弾性繊維を安定化
それぞれがこのように働くことで、皮膚は張りや柔軟性・弾性を獲得しています。
一方で、紫外線を浴びる時間や頻度に比例して、間質成分であるコラーゲン、エラスチン、ムコ多糖類への影響が大きくなり、シワの形成促進、色素沈着の増加など老化現象が徐々に進行することが知られています(文献23:2002)。
コラーゲンにおいては、UVA曝露によりコラーゲン合成能の減少(文献24:1993)や間質成分を特異的に分解する酵素であるMMP(Matrix metalloproteinase:マトリックスメタロプロテアーゼ)の産生が促進されることが報告されており(文献25:1993)、このような長期紫外線暴露後の細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスの崩れが光老化の原因であると考えられています(文献26:1998)。
このような背景から、紫外線曝露によって線維芽細胞から産生されるⅠ型コラーゲン分解酵素であるMMP-1(∗8)の活性を阻害することは、紫外線曝露による光老化の抑制に重要であると考えられます。
∗8 MMP-1は、Ⅰ型コラーゲンを分解する酵素であることから、Ⅰ型コラゲナーゼとも呼ばれます。
1998-1999年にノエビアによって報告されたユーカリ葉エキスのMMP-1への影響検証によると、
植物抽出物 | 阻害率(%) |
---|---|
ユーカリ | 94.9 |
セージ | 70.0 |
シャクヤク | 58.0 |
ドクダミ | 31.9 |
ハッカ | 19.2 |
ユーカリ、セージ、シャクヤク、ジュウヤク、ハッカ抽出物の5種類に高いⅠ型コラゲナーゼ活性阻害作用が認められた。
このうち、最も高い阻害作用を示したユーカリ抽出物は、0.02-0.1mg/mL濃度において濃度依存的にMMP-1活性阻害作用を示した。
次に、ヘアレスマウス5匹を1群とし、5群に0.1%-1.0%ユーカリ葉エキスを含む各製剤を、他の5群に未配合製剤を各背中に1日1回塗布し、UVAを50週間照射し、シワの発生状況を観察し、点数化して判定した。
その結果、対照群はUVA照射日数が40週を超えるころには形成されたシワの深さは中程度にまで達し、50週には深いシワの発生が認められたが、ユーカリ葉エキス配合製剤塗布群においては、いずれにおいても50週前後に微小-軽微なシワが認められた程度で、シワの発生は顕著に抑制されていた。
このような試験結果が明らかにされており(文献26:1998;文献27:1999)、ユーカリ葉エキスにMMP-1活性阻害による抗老化作用が認められています。
TRPM8活性化による冷涼感付与効果
TRPM8活性化による冷涼感付与効果に関しては、まず前提知識として自由神経終末、温度感受性TRP(Transient Receptor Potential)チャネルおよびTRPM8について解説します。
皮膚には、体温を維持するために環境温を感受する温度受容器官が備わっており、温度受容器として働いているのが、表皮顆粒層に分布するケラチノサイト(角化細胞)および真皮から表皮に分布する自由神経終末です(文献28:2012;文献29:2013)。
ケラチノサイトおよび自由神経終末では、温度感受性TRPチャネルと呼ばれる陽イオンチャネル受容体が細胞膜に存在しており、これらが温度受容の一端を担っていると考えられています(文献28:2012;文献29:2013)。
温度感受性TRPチャネルとは、温度だけでなく多くの化学的・物理的刺激を感受する刺激受容体であり、以下の図をみるとわかりやすいと思いますが、
活性化温度域、発現部位などにより9つのチャネルが存在し、主に28℃以下の冷たい温度領域および43℃以上の熱い温度領域で活性化する温度感受性TRPチャネルは自由神経終末で発現、30-40℃の温かい温度領域で活性化する温度感受性TRPチャネルはケラチノサイトで発現すると報告されています(文献29:2013)。
TRPM8は、主に自由神経終末に存在する、8-28℃の冷刺激およびメントールによって活性化する冷刺激受容体であることが明らかにされており(文献30:2004)、メントールを皮膚に接触させると活性化温度閾値が上昇することによって常温に近い温度で冷感が引き起こされるため、冷涼感が付与されます(文献31:2017)。
また、ユーカリ葉エキスに含まれるカンフルに似た清々しい芳香をもつ1,8-シネオールも、メントールほどではありませんがTRPM8に対して活性を示すことが報告されています(文献32:2015)。
さらに、メントールは濃度が高い場合に痛み受容体であるTRPA1活性をともなうことから、痛みを感じることがあるのに対して、1,8-シネオールはTRPA1に対する活性抑制効果を示すため、メントールによるTRPA1活性を1,8-シネオールが抑制することが明らかにされています(文献32:2015)。
このような背景から、ユーカリ葉エキスがメントールと併用されている場合は、メントールのTRPA1活性による痛みの抑制効果目的で配合されている可能性があると考えられます。
VEGF増加による毛髪ハリコシ改善作用
VEGF増加による毛髪ハリコシ改善作用に関しては、まず前提知識として毛髪におけるハリコシの定義およびVEGFについて解説します。
毛髪におけるハリコシの定義は、
- 毛髪のハリコシは、視覚と触覚の両方に関わる毛髪集合体の厚みや見かけの容積
- 型くずれ抵抗性と変形時の復元性
このように定義されており(文献33:2006;文献34:1987)、毛髪のハリコシを決める基本因子として毛髪密度、剛性、直径、繊維間相互作用、曲率の5つが挙げられています(文献34:1987)。
また、毛髪のハリコシに高い相関をもつ毛根部遺伝子発現として、血管形成を促進する作用が知られている血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が認められています(文献35:2007)。
一方で、一般に加齢とともに毛髪密度発現量は減少し、毛髪の太さ、曲げ剛性(曲がりにくさ)は40代以降に単調に減少する傾向が明らかとなっています(文献35:2007)。
VEGF発現量に関しては、VEGF発現量が低く毛髪のハリコシがない場合は加齢とともにVEGF発現量が減少するのに対して、VEGF発現量が高く毛髪にハリコシのある場合は加齢によるVEGF発現量の変化がなく、高いレベルを維持すると報告されています(文献35:2007)。
このような背景から、毛根のVEGF発現量を促進することは、毛髪のハリコシの増強において重要であると考えられます。
2007年に花王によって報告されたユーカリ葉エキスのVEGF遺伝子発現への影響検証によると、
3週間後に回収した毛根のVEGF発現量は、未配合ローション塗布側と比較して3%ユーカリ葉エキス配合ローション塗布側において約1.4倍の増加を示した。
この結果から、ユーカリ葉エキスはVEGFを増加させる作用を有していることが明らかとなり、ユーカリ葉エキスの毛髪ハリコシ増加作用に強く関与していると考えられた。
このような試験結果が明らかにされており(文献35:2007)、ユーカリ葉エキスにVEGF増加による毛髪ハリコシ改善作用が認められています。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2018年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ユーカリ葉エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 20名を1群とした女性被検者11群(40-60歳女性)にそれぞれ0.05%-1.0%ユーカリ葉エキスを含む各製剤を6ヶ月間使用してもらい、使用期間中に皮膚刺激性および皮膚感作性を評価したところ、いずれの被検者も皮膚刺激反応および皮膚感作反応を示さなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
∗∗∗
ユーカリ葉エキスはバリア改善成分、抗老化成分、温冷感成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
参考文献:
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