ユズ果実エキス(ユズセラミド)とは…成分効果と毒性を解説

バリア改善 毛髪修復
ユズ果実エキス
[化粧品成分表示名]
・ユズ果実エキス

[医薬部外品表示名]
・ユズセラミド

ミカン科植物ユズ(学名:Citrus junos 英名:Yuzu)の果実からBG(1,3-ブチレングリコール)で抽出して得られるスフィンゴ脂質(セラミド)を中心とする抽出物植物エキスです。

ユズ果実エキスは、以下の表をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

化粧品成分表示名称 医薬部外品表示名 抽出方法 皮膚に対する主な作用
ユズ果実エキス ユズエキス エタノール 収れん、保湿、血行促進
ユズセラミド BG バリア改善、毛髪修復

抽出する溶剤の種類が異なることによってエキスに含まれる成分組成が異なり、その結果として作用がまったく異なります。

化粧品成分表示名称は同じですが、これらを同一ページで解説すると情報が複雑になり、誤解を招きやすくなると判断したため、医薬部外品表示名「ユズエキス」はユズエキスのページにて解説し、こちらでは医薬部外品表示名「ユズセラミド」を解説します。

化粧品成分表示名称における「セラミド」というと、ヒト角質層の細胞間脂質に存在するセラミドと同一型のものを指しますが、「ユズセラミド」はスフィンゴ脂質(セラミド)ではあるものの、ヒト同一型セラミドではなく、それらと類似するユズ由来のセラミドです(文献1:2010;文献2:2011)

また、ユズセラミドは化粧品成分表示名称としては「ユズ果実エキス」と称されているとおり、ユズ由来セラミド単体ではなく、ユズ果実エキス中にセラミドを中心に溶解したエキスとする製法によって製品化されています(文献2:2011)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品、洗顔料、メイクアップ製品、クレンジング製品、ボディ&ハンドケア製品など様々な製品に使用されています。

また、植物やユズをコンセプトにした製品にも配合されています。

バリア改善作用

バリア改善作用に関しては、まず前提知識として角質層における細胞間脂質の構造および役割について解説します。

以下の表皮最外層である角質層の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

角質層の構造

角質層は天然保湿因子を含む角質細胞と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、細胞間脂質は主に、

細胞間脂質構成成分 割合(%)
セラミド 50
遊離脂肪酸 20
コレステロール 15
コレステロールエステル 10
糖脂質 5

このような脂質組成で構成されています(文献3:1995)

これら細胞間脂質は以下の図のように、

細胞間脂質におけるラメラ構造

疎水層と親水層を繰り返すラメラ構造を形成していることが大きな特徴であり、脂質が結合水(∗5)を挟み込むことで水分を保持し、角質細胞間に層状のラメラ液晶構造を形成することでバリア機能を発揮すると考えられており、このバリア機能は、皮膚内の過剰な水分蒸散の抑制および一定の水分保持、外的刺激から皮膚を防御するといった重要な役割を担っています。

∗5 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分であり、純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水のうち33%は-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約⅓が結合水であることに由来しています(文献4:1991)。

一方で、皮膚が乾燥寒冷下に長時間曝露されるような外的要因やアトピー性皮膚炎のような内的要因により乾皮症(ドライスキン)が生じた場合は、角質層の機能低下により、角質層の水分保持能の低下およびバリア機能低下による経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss:TEWL)の上昇が起こり(文献5:2004)、その結果として角質細胞や細胞間脂質が規則的に並ばなくなり、そこに生じた隙間からさらに水分が蒸散し、バリア機能・保湿機能が低下していくことが知られています(文献6:2002)

このような背景から、低下したバリア機能を改善することは、ドライスキンの改善や皮膚の健常性を維持するために重要であると考えられます。

2010年に一丸ファルコスによって報告されたユズ果実エキス(ユズセラミド)の皮膚角質層に対する影響検証によると、

6名の被検者の前腕内側部に肌荒れ部位をつくり、角層水分量と経表皮水分蒸散量を測定した。

次に、肌荒れ部位に0.1%ユズセラミド含有溶液を塗布し、洗い流す作業を4回行い、肌荒れ部位の最初の測定から約3時間後に再度測定したところ、以下のグラフのように、

ユズセラミドの角層水分量の変化

ユズセラミドの水分蒸発量(TEWL)の変化

ユズセラミド溶液の塗布前後における角層水分量の上昇と経表皮水分蒸散量の減少が認められた。

この結果によりバリア機能の改善の可能性が示された。

このような試験結果が明らかにされており(文献1:2010;文献2:2011)、ユズ果実エキス(ユズセラミド)に角層に対する水分量の増加および水分蒸散抑制効果が認められています。

ヒト同一型セラミドのバリア改善メカニズムは、物理的に角層細胞間脂質を補充・補強することによるものですが、ユズセラミドもスフィンゴ脂質(セラミド)であり、角層水分量および経表皮水分量の改善効果が認められていること、毛髪破断強度改善作用が認められていることから、同様のメカニズムであると推測されます。

ただし、現時点でユズセラミドのバリア改善メカニズムはみあたらないため保留とし、わかりしだい追補します。

毛髪強度およびキューティクル改善作用

毛髪強度およびキューティクル改善作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造およびCMCについて解説します。

毛髪の構造については以下の毛髪断面図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

毛髪の断面図

水分を保持するコルテックスとその隙間を敷き詰めるCMC(Cell Membrane Complex)と呼ばれる細胞膜複合体は、皮膚角質層における角質細胞と細胞間脂質の関係と類似しており、CMCは毛髪の最外層であるキューティクル(毛小皮)とコルテックス(毛皮質)の接着に貢献し、構成成分の約50%はセラミドです(文献7:2004)

一般にブリーチ処理やパーマ処理によって毛髪はダメージを受け、CMCが漏出することによって破断しやすくなることが知られており、ブリーチやパーマ処理後はCMCの補強が重要であると考えられます。

2010年に一丸ファルコスによって報告されたユズ果実エキス(ユズセラミド)のダメージ毛髪に対する影響検証によると、

ダメージ処理毛髪にユズセラミド含有溶液を塗布し、毛髪表面の滑り性および引っ張り強度を測定したところ、以下のグラフのように、

ユズセラミドによる毛髪保護作用(滑り性)

ユズセラミドによる毛髪保護作用(引張強度)

ユズセラミド処理によってダメージ毛髪の滑り性および毛髪強度の改善が示され、電子顕微鏡観察ではキューティクルの立ち上がりがみられなくなった。

このような試験結果が明らかにされており(文献1:2010;文献2:2011)、ユズ果実エキス(ユズセラミド)にダメージ毛髪に対する毛髪強度およびキューティクル改善作用が認められています。

ユズ果実エキス(ユズセラミド)の安全性(刺激性・アレルギー)について

ユズ果実エキス(ユズセラミド)の現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬部外品原料規格2021に収載されており、10年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらず、またユズ果実エキスおよびいずれの種類のセラミドも皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないことから、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

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ユズ果実エキス(ユズセラミド)はバリア改善成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:バリア機能修復成分

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参考文献:

  1. 津田 友香, 他(2010)「ユズ由来スフィンゴ脂質(セラミド)の肌と毛髪状態の改善効果」日本薬学会 第130年会.
  2. 坪井 誠(2011)「天然成分を利用した機能性活性成分の開発」オレオサイエンス(11)(5),155-160.
  3. 芋川 玄爾(1995)「皮膚角質細胞間脂質の構造と機能」油化学(44)(10),751-766.
  4. G. Imokawa, et al(1991)「Stratum corneum lipids serve as a bound-water modulator」Journal of Investigative Dermatology(96)(6),845-851.
  5. 石田 賢哉(2004)「光学活性セラミドの開発と機能」オレオサイエンス(4)(3),105-116.
  6. 朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
  7. 石田 賢哉(2004)「光学活性セラミドの開発と機能」オレオサイエンス(4)(3),105-116.

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