塩化Alの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 塩化Al |
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医薬部外品表示名 | 塩化アルミニウム |
部外品表示簡略名 | 塩化Al |
INCI名 | Aluminum Chloride |
配合目的 | 収れん など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるアルミニウムの塩化物です[1]。
1.2. 物性・性状
塩化Alの物性・性状は、
状態 | 結晶 |
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溶解性 | 水、エタノールに可溶 |
このように報告されています[2]。
1.3. 歴史
1910年代に、25%塩化アルミニウム水溶液を腋窩(∗1)に数日塗布することで過渡の発汗を減少させるという研究成果が報告され、アルミニウム塩の制汗剤としての効果が確立されたことから[3]、塩化Alは制汗剤として広く普及していましたが、その制汗作用は腋周辺の衣類の劣化や大量使用による敏感な腋窩皮膚への刺激なども合わせて引き起こしていたことから、現在においては制汗剤としては商業的および医療的にほとんど使用されていない状況です[4][5]。
∗1 腋窩(えきか)とは、わきの下のくぼんだ所を指しますが、一般的にはわきの下のことです。
塩化Alの制汗メカニズムとしては、塩化Al処置後に中和の結果として表皮内の導管(汗管)にアルミニウムを含む水酸化物のゲルが形成され、このゲルにより表皮内汗管が物理的に閉塞することによって汗が皮膚表面に到達するのをブロックし、発汗の減少が起こるという説が提唱され、複数の実証を経て現在ではこの考えが支持されています[6][7]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
塩化Alの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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医薬品 | 増強目的の医薬品添加剤として筋肉内注射、皮下注射に用いられます[8]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 収れん作用
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、スキンケア製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 収れん作用
収れん作用に関しては、塩化Alは金属塩の一種であり、皮膚のタンパク質を凝固・収縮させることによる強力な収れん作用を有していることから、皮脂腺や汗腺の開口部を収縮させて皮脂や発汗を抑制し、メイクアップ製品による化粧崩れを抑える目的や肌をひきしめる目的で、メイクアップ製品、日焼け止め製品、化粧下地製品、化粧水などに使用されています[9a][10][11]。
ただし、酸性が強く、皮膚刺激を引き起こす可能性があることから、一般にごく少量および皮膚刺激を低減する処方技術が用いられていると考えられます[9b]。
3. 配合量範囲
塩化アルミニウムは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
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薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 4.0 |
育毛剤 | 4.0 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 4.0 |
薬用口唇類 | 0.50 |
薬用歯みがき類 | 0.50 |
浴用剤 | 1.0 |
染毛剤 | 1.0 |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 1.0 |
4. 安全性評価
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
医薬部外品原料規格2021において配合上限が定められており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「塩化Al」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,233.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「塩化アルミニウム」化学大辞典,310.
- ⌃A.W. Stillians(1916)「The control of localized hyperhidrosis」Journal of the American Medical Association(67),2015-2016. DOI:10.1001/jama.1916.02590270035015.
- ⌃R.P. Quatrale(1995)「塩化アルミニウム」制汗剤とデオドラント,94-95.
- ⌃藤本 智子, 他(2015)「原発性局所多汗症診療ガイドライン2015年改訂版」日本皮膚科学会雑誌(125)(7),1379-1400. DOI:10.14924/dermatol.125.1379.
- ⌃H.H. Reller, et al(1977)「Pharmacologic and toxicologic effects of topically applied agents on the eccrine sweat glands」Advances in Modern Toxicology(4),18-54.
- ⌃E. Holzle & A.M. Kligman(1979)「Mechanism of antiperspirant action of aluminum Salts」Journal of the Society of Cosmetic Chemists(30)(5),279-295.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「塩化アルミニウム(Ⅲ)水和物」医薬品添加物事典2021,83-84.
- ⌃ab鈴木 一成(2012)「塩化アルミニウム」化粧品成分用語事典2012,423.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「皮膚収れん剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,246-248.
- ⌃西山 聖二・熊野 可丸(1989)「基礎化粧品と皮膚(Ⅱ)」色材協会誌(62)(8),487-496. DOI:10.4011/shikizai1937.62.487.