酒石酸とは…成分効果と毒性を解説

収れん成分 ピーリング成分 緩衝 キレート 育毛
酒石酸
[化粧品成分表示名称]
・酒石酸

[医薬部外品表示名称]
・酒石酸

ブドウ酒(ワイン)製造の際に生成する生酒石を原料として製造、またはマレイン酸またはフマル酸を酸化および酵素分解して得られる結晶性の有機酸であり、水溶性のα-ヒドロキシ酸(AHA:alpha hydroxy acid)です。

酒石酸は遊離酸や塩類として広く植物界に存在し、古くからブドウ酒製造時に副成する生酒石(Argol)としてよく知られており、強い酸味があります(文献3:1990)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、ピーリング化粧品、スキンケア化粧品、洗顔料・洗顔石鹸、ボディ&フットケア製品、洗浄製品、シート&マスク製品などに使用されています(文献1:2016;文献2:2006)

収れん作用

収れん作用に関しては、酒石酸は酸性および親水性であり、酸性に寄せることで化学的に収れん作用を起こすことができるため、収れん性化粧水に使用されます(文献4:1989)

ピーリング作用

ピーリング作用に関しては、乾燥やターンオーバーの乱れなどで硬くなったりゴワついた皮膚表面を滑らかにする目的で、ほかのピーリング成分と併用して、ピーリング化粧品、スキンケア化粧品、洗顔料・洗顔石鹸、ボディ&フットケア製品、洗浄製品、シート&マスク製品などに使用されています。

国内においては安全性が優先される市場文化であるため、安全性との兼ね合いから以下の調査結果のように、

製品 種類 AHA濃度 pH
製品A 美容液 < 1% 5.0
製品B 美容液 < 1% 6.1
製品C 化粧水 < 1% 4.6

濃度は配合ピーリング成分を合わせても1%以下かつpHは弱酸性に近い状態で処方されているものが多いことから(文献5:2000)、実感できるほどのピーリング作用は有していないことが多いと考えられます。

言い換えれば、酒石酸が配合されていても過剰に皮膚刺激リスクやピーリング効果を意識する必要がないともいえます。

pH調整による緩衝

pH調整による緩衝に関しては、まず前提知識として緩衝溶液(Buffer Solution)について解説します。

緩衝溶液とは、外からの作用に対して、その影響を和らげようとする性質をもつ溶液であり、つまりある程度の酸または塩基(アルカリ)の添加あるいは除去または希釈(∗1)にかかわらず、ほぼ一定のpHを維持する作用を有する溶液のことです(文献7:1998-1999)

∗1 溶液を薄めることです。

たとえば人間の皮膚は弱酸性であり、入浴などで中性に傾いたとしてもすぐに弱酸性に保たれますが、これは緩衝作用が働いているためです。

化粧品においては、pHが変動してしまうと効果を発揮しなくなる成分や品質の安定性が保てなくなる成分などが含まれており、化粧品の内容物がpH変動要因である大気中の物質に触れたり、人体の細菌類に触れても品質を保つ(pHを保つ)ために、緩衝剤のひとつとして酒石酸(酸性)が使用されています(文献6:1990)

キレート作用

キレート作用に関しては、まず前提知識として化粧品における金属イオンの働きおよびキレート作用について解説します。

金属イオンは、化粧品成分の酸化を促進し、変臭や変色の原因となったり、透明系の化粧品に濁りや沈殿を生じさせたりするなど、化粧品の品質劣化の原因となったり、また効能成分の作用を阻害することがあります(文献2:2006)

キレート剤は金属封鎖剤ともよばれますが、これらの金属イオンの働きを防止する目的で配合されます。

キレート剤は、それぞれ捕捉できる金属が限定されており、酒石酸は第一鉄イオンおよび第二鉄イオンに有効であるため、必要に応じてキレート剤として配合されます(文献2:2006)

VEGFおよびFGF-7産生促進による育毛作用

VEGFおよびFGF-7産生促進による育毛作用に関しては、まず前提知識としてVEGF(∗2)およびFGF-7について解説します。

∗2 VEGFにはA-Dの種類があり、この作用は正確にはVEGF-Aによるものですが、一般的にVEGFといえばVEGF-Aを指すため、ここではVEGFで統一します。

以下の毛髪の構造図と毛周期の図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

毛髪の構造

毛周期(ヘアサイクル)

毛包は周囲を血管によって網状に取り囲まれ、また毛乳頭には血管が内部に入り込んでいますが、これらの血管は成長期には増加して栄養やエネルギーを多量に輸送し、退行期、休止期には減少するといった毛包サイクルに沿った増減を繰り返します。

VEGFは、新しい血管を形成する血管新生因子として知られており、毛髪において成長期の毛乳頭に最も発現が多く、ついで退行期、休止期の順に少なくなること(文献9:1996)、またマウスの外毛根鞘細胞へのVEGF遺伝子導入は毛包周囲血管網の構築促進と毛包・毛幹サイズの増大を示すことが報告されています(文献10:2001)

VEGFは加齢にともなって減少することで毛根でつくられる毛髪が細くなり、その結果としてハリやコシが弱くなることが明らかにされており、また加齢によるVEGF作用の減少程度はハリやコシのあるヒトよりもハリやコシのないヒトに顕著であり、さらにヒト男性型脱毛においてはVEGF産生が低下することが認められています。

次にFGF-7は、毛髪では毛乳頭細胞において発現し、毛包の退行期への移行を阻害して成長期を維持する作用と、その結果として毛髪を伸長させる作用が知られています(文献11:2010;文献12:2009)

このような背景からVEGFおよびFGF-7の産生を促進することは育毛および抗脱毛に重要であると考えられます。

2019年にロート製薬によって公開された酒石酸の毛髪関連細胞への作用検証によると、

ヒト毛乳頭細胞にL-酒石酸を添加し、VEGF-Aの産生をELISA法により測定したところ、以下のグラフのように、

酒石酸のVEGF-A産生促進作用

L-酒石酸の添加により毛乳頭細胞のVEGF-A産生が有意に亢進することが確認された。

またヒト結合組織性毛包細胞にL-酒石酸を添加し、FGF-7の産生をELISA法により測定したところ、以下のグラフのように、

酒石酸のFGF-7産生促進作用

L-酒石酸の添加により結合組織性毛包細胞のFGF-7の産生が有意に亢進することが確認された。

このような検証結果が明らかにされており(文献8:2019)、酒石酸に濃度依存的なVEGFおよびFGF-7産生促進による育毛作用が認められています。

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酒石酸の安全性(刺激性・アレルギー)について

酒石酸の現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性:ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、また鐘紡記念病院皮膚科および神戸大学医学部皮膚科学教室の調査によると、市販の大手メーカーにおけるAHA化粧品の濃度は1%未満かつpH4.6-6.1であり、非常に安全性が重視された処方となっているため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

食品添加物としても認可されており、また10年以上の使用実績があり、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

∗∗∗

酒石酸は収れん成分、ピーリング成分、安定化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:収れん成分 ピーリング成分 安定化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. 日光ケミカルズ(2016)「脂肪酸および有機酸」パーソナルケアハンドブック,42.
  2. 日光ケミカルズ(2006)「金属イオン封鎖剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,476-480.
  3. 山本 凱一(1990)「L (+) -酒石酸」有機合成化学協会誌(48)(1),71-72.
  4. 西山 聖二, 他(1989)「基礎化粧品と皮膚 (Ⅱ)」色材協会誌(62)(8),487-496.
  5. 長濱 通子, 他(2000)「日本人に適すると考えられたグリコール酸を用いたケミカルピーリング」皮膚(42)(5),503-508.
  6. 田村 健夫, 他(1990)「皮膚収れん剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,246-247.
  7. 西山 成二, 他(1998-1999)「緩衝溶液についての一考察 -緩衝溶液および混合緩衝溶液の緩衝作用-」順天堂医学(44),S1-S6.
  8. “ロート製薬株式会社”(2019)「ワインに含まれる成分「酒石酸(しゅせきさん)」の毛髪関連細胞への作用を発見」, <https://www.rohto.co.jp/news/release/2019/0124_01/> 2019年3月6日アクセス.
  9. Lachger S,et al(1996)「VEGF mRNA expression in different stages of the human hair cycle:analysis by confocal laser microscopy:Hair reserch for the next millenium」Elsvier Science,407-411.
  10. Yano K,et al(2001)「Control of hair growth and follicle size by VEGF-mediated angiogenesis」J Clin Invest(107),409-417.
  11. 大戸 信明, 他(2010)「FGF-7産生促進剤、IGF-1産生促進剤及びHGF産生促進剤 」特開2010-150177.
  12. 小友 進(2009)「毛髪再生とアンチエイジング」Drug Derivery System(24)(2),109-116.

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