塩化Alとは…成分効果と毒性を解説


・塩化Al
[医薬部外品表示名称]
・塩化アルミニウム
組成式AlCl3で表されるアルミニウム(元素記号:Al)の塩化物であり、式量133.34の金属塩です(文献1:1994)。
1910年代に25%塩化アルミニウム水溶液を腋窩(∗1)に数日塗布することで過渡の発汗を減少させるという研究成果が報告され、アルミニウム塩の制汗剤としての効果が確立されたことから(文献2:1916)、当初は制汗剤として広く普及していましたが、塩化アルミニウムの制汗効果は腋周辺の衣類の劣化や大量使用による敏感な腋窩皮膚への刺激などの報告もあったことから、現在制汗剤として商業的に広くは使用されていない状況です(文献3:1995)。
∗1 腋窩(えきか)とは、わきの下のくぼんだ所を指しますが、一般的にはわきの下のことです。
ただし、腋窩、手掌、顔面など様々な部位での多汗症に有効であることが多数報告されており、医療分野においては現在でも原発性局所多汗症の院内製剤(外用剤)として一般的に処方されています(文献8:2015)。
塩化アルミニウムの制汗メカニズムとしては、酸性金属である塩化アルミニウムの中和の結果として表皮内の導管(汗管)にアルミニウムを含む水酸化物のゲルが形成され、表皮内汗管が物理的に閉塞することによって発汗の減少が起こるというものが提唱および実証されています(文献4:1977;文献5:1979;文献8:2015)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、メイクアップ化粧品、デオドラント製品、スキンケア化粧品などに使用されています。
収れん作用
収れん作用に関しては、塩化Alは陽イオン型収れん剤であり、汗腺のタンパク質を凝固・収縮させることにより強力な収れん作用を発揮することから(文献6:1990)、アストリンゼントローション、アフターシェービングローションなどに使用されていましたが、皮膚刺激性が明らかになったことから現在はあまり使用されない傾向にあります。
ただし、収れん作用によって肌をひきしめ、汗を抑えて化粧崩れを防止する目的で、粉体系のパウダーファンデーション、パウダーチーク、プレストパウダーなどには微量配合されています。
塩化アルミニウムは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 4.0 |
育毛剤 | 4.0 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 4.0 |
薬用口唇類 | 0.50 |
薬用歯みがき類 | 0.50 |
浴用剤 | 1.0 |
塩化Alの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載(∗1)
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 1910年代からの使用実績
- 皮膚刺激性:4%濃度以下においてほとんどなし-軽度(データなし)
- 眼刺激性:注意が必要(データなし)
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
∗1 医薬品添加物規格2018に収載されているのは、塩化アルミニウム(Ⅲ)水和物です。
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 中程度-重度の原発性手掌多汗症を有する90人の患者に20%および50%塩化Al溶液と塩化Al未配合溶液を無作為割付し、1日1-2回の単純塗布を8週間にわたって実施したところ、外用部位への刺激性皮膚炎が濃度依存的に認められた。一方で塩化Alの血中濃度の上昇はみられず、体内への浸透は認められなかった
と記載されています。
試験データは多汗症に対する有効性試験のものしかみあたりませんが、濃度依存的に皮膚刺激性を引き起こす一方で、原発性局所多汗症において塩化アルミニウム外用療法が推奨されており、院内製剤として一般的に処方されていること(文献8:2015)、また医薬部外品(薬用化粧品)として配合上限が4%濃度に定められていることから、4%濃度以下においては一般に皮膚刺激性はほとんどなく(あっても軽度以下)、また皮膚感作性はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないことから、現時点ではデータ不足により詳細は不明ですが、強い収れん作用があるため、注意が必要であると考えられます。
∗∗∗
塩化Alは収れん成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:収れん成分
∗∗∗
文献一覧:
- 大木 道則, 他(1994)「塩化アルミニウム」化学辞典,198.
- A.W. Stillians(1916)「The control of localized hyperhidrosis」Journal of the American Medical Association(67),2015-2016.
- Karl Laden(1995)「塩化アルミニウム」制汗剤とデオドラント,94-95.
- H.H. Reller, et al(1977)「Pharmacologic and toxicologic effects of topically applied agents on the eccrine sweat glands」Advances in Modern Toxicology(4),18-54.
- E. Holzle, et al(1979)「Mechanism of antiperspirant action of aluminum Salts」Journal of the Society of Cosmetic Chemists(30)(5),279-295.
- 田村 健夫, 他(1990)「陽イオン型収れん剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,247-248
- 藤本 智子, 他(2013)「原発性手掌多汗症に対する二重盲験下での塩化アルミニウム外用剤の有効性の検討」日本皮膚科学会雑誌(123)(3),121-138.
- 藤本 智子, 他(2015)「原発性局所多汗症診療ガイドライン2015年改訂版」日本皮膚科学会雑誌(125)(7),1379-1400.
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