メリッサ葉エキスとは…成分効果と毒性を解説





・メリッサ葉エキス
[医薬部外品表示名称]
・メリッサエキス
シソ科植物コウスイハッカ(学名:Melissa officinalis 英名:Lemon balm)の葉から水、エトキシジグリコール、エタノール、BG(1,3-ブチレングリコール)、またはこれらの混合液で抽出して得られるエキスです。
メリッサ葉エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
- タンニン
- フラボノイド
- 没食子酸
- フェノール酸類:ロズマリン酸
- 精油:シトラール、リナロール
などで構成されています(文献1:2006;文献2:-)。
メリッサ(Melissa)とはギリシア語のミツバチの葉(Melissophyllon)に由来しており、ミツバチを引き寄せる芳香を有し、ミツバチがこの植物を好むことからつけられた名称です。
和名ではコウスイハッカ(セイヨウヤマハッカ)と呼ばれていますが、一般的には英名のレモンバームと呼ばれており、古代ギリシア・ローマ時代から価値ある薬用ハーブとして重視されてきました。
メリッサは心身のデリケートな状態を穏やかに調整するところにその特徴があり、神経系への適用としてはヒステリー、パニック、神経の緊張による不眠などに用いられ、消化器系への適用としては神経性胃炎、神経性の食欲不振、胃腸の機能障害に用いられます(文献3:2011)。
メリッサのもうひとつの特徴は強い抗菌力を有し、in vitroではヘルペスウィルスへの効果も確認されており、ヨーロッパでは口唇ヘルペス用の製剤としても使用されています(文献3:2011)。
古代ローマの植物学者であるプリニウスの著書「博物誌<植物編>」では鎮静作用、鎮痙作用が注目され、歯痛、喘息、傷の治療薬として記述されており、11世紀にはイスラムを代表する知識人であるイブン・シーナの「医学典範」にも心を明るく陽気にさせ、元気を取り戻すと記されています(文献4:2018)。
17世紀に世界中に修道院のあるカルメル修道会がレモンバームをベースに数種のハーブを加えたリキュール「カルメルのメリッサ水」をつくり、広く知られるようになった(文献4:2018)。
化粧品に配合される場合は、
- 収れん作用
- 抗アレルギー作用
- 創傷治癒促進作用
- チロシナーゼ抑制による色素沈着抑制作用
- 表皮細胞のメラニン取り込み抑制による色素沈着抑制作用
- エラスターゼ活性阻害による抗老化作用
- 皮膚コンディショニング作用
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、ヘアケア製品、頭皮ケア製品、洗顔料、ボディシート、口紅など様々な製品に使用されます(文献1:2006;文献5:2009)。
チロシナーゼ抑制による色素沈着抑制作用
チロシナーゼ抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず以下の皮膚におけるメラニン生合成の機序(プロセス)をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、活性酸素の働きによって様々な遺伝子の発現を誘導するタンパク質(転写因子)であるNF-κB(エヌエフカッパビー)などが活性化します。
活性化した転写因子は、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することでドーパ、ドーパキノンへと変化していきますが、2009年にポーラ化成によってメリッサ葉エキスにチロシナーゼ抑制作用があることが報告されており(文献5:2009)、チロシナーゼ抑制作用によってチロシンがドーパへ変化するのを、またドーパがドーパキノンへ変化するのを抑制するため、結果的に色素沈着抑制作用となります。
表皮細胞のメラニン取り込み抑制による色素沈着抑制作用
表皮細胞のメラニン取り込み抑制による色素沈着抑制作用に関しては、2009年にポーラ化成によって報告されたオリジナルメリッサエキスの表皮細胞によるメラニンの積極的な取り込み抑制検証によると、以下の図のように、
メラニンの存在しない表皮細胞(左)にメラニンを添加すると、通常は表皮細胞がメラニン(黒色)を取り込み、細胞内にメラニンが大量に存在します(真ん中)が、メリッサエキスを添加した上でメラニンを添加するとメラニンの取り込みが抑制され、細胞内のメラニンが減少(右)することが明らかになっています(文献5:2009)。
in vitro試験ですが、このような結果からメリッサ葉エキスに表皮細胞のメラニン取り込み抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
ただし、このin vitro試験で使用されているメリッサエキスはこの作用を強化したポーラ化成のオリジナルメリッサエキスであり、一般的なメリッサエキスの場合はかなり穏やかな作用傾向であると考えられます。
エラスターゼ活性阻害による抗老化作用
エラスターゼ活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識として皮膚の構造とエラスターゼを解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
皮膚は大きく表皮と真皮に分かれており、表皮は主に紫外線や細菌・アレルゲン・ウィルスなどの外的刺激から皮膚を守る働きと水分を保持する働きを担っており、真皮はプロテオグリカン(ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸含む)・コラーゲン・エラスチンで構成された細胞外マトリックスを形成し、水分保持と同時に皮膚のハリ・弾力性に深く関与しています。
エラスチンは、2倍近く引き伸ばしても緩めるとゴムのように元に戻る弾力繊維で、コラーゲンとコラーゲンの間にからみあうように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保っています(文献7:2002)。
エラスターゼは、エラスチンを分解する酵素であり、通常はエラスチンの産生と分解がバランスすることで一定のコラーゲン量を保っていますが、皮膚に炎症や刺激が起こるとエラスターゼが活性化し、エラスチンの分解が促進されることでエラスチンの質的・量的減少が起こり、皮膚老化の一因となると考えられています。
2000年にノエビアによって公開された技術情報によると、
in vitro試験においてエタノール抽出したワレモコウ根、イタドリ根、メリッサ葉、ローズマリー葉、ベニバナ花、ショウガ根茎それぞれ100μg/mLのエラスターゼ活性阻害率を測定したところ、以下の表のように、
試料 | エラスターゼ阻害率(%) |
---|---|
ワレモコウ根 | 68.7 |
イタドリ根 | 20.2 |
メリッサ葉 | 23.4 |
ローズマリー葉 | 20.3 |
ベニバナ花 | 20.2 |
ショウガ根茎 | 22.1 |
メリッサ葉エキスは100μg/mLで20%以上の有意なエラスターゼ阻害率を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献6:2000)、メリッサ葉エキスにエラスターゼ活性阻害による抗老化作用が認められています。
メリッサ葉エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
ただし、詳細な試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
詳細な試験データはみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
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メリッサ葉エキスは収れん成分、美白成分、抗老化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- 日光ケミカルズ(2006)「植物・海藻エキス」新化粧品原料ハンドブックⅠ,384.
- 丸善製薬株式会社(-)「メリッサ(レモンバーム)」技術資料.
- 林 真一郎(2016)「レモンバーム(メリッサ)」メディカルハーブの事典 改定新版,194-195.
- ジャパンハーブソサエティー(2018)「レモンバーム」ハーブのすべてがわかる事典,216.
- “ポーラ化成株式会社”(2009)「シミ・日焼けができる複数の要因に対応 1つで2つの効果をもつ新美白素材“メリッサエキス”を開発」, <http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_2009_8.pdf> 2018年8月22日アクセス.
- 株式会社 ノエビア(2000)「エラスターゼ阻害剤、及びこれを含有して成る老化防止用皮膚外用剤」特開2000-319189.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30.
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