クロルヒドロキシAlとは…成分効果と毒性を解説



・クロルヒドロキシAl
[医薬部外品表示名称]
・クロルヒドロキシアルミニウム
[慣用名]
・ACH、アルミニウムクロロハイドレート
金属塩の一種である塩化Alを電解して得られる、組成式Al2(OH)5Clで表される(∗1)分子量179.49の金属錯体(∗2)です(文献2:2020)。
∗1 クロルヒドロキシアルミニウム(アルミニウムクロロハイドレート)は、一般には化学構造的に AlnCl(3n-m)(OH)mで表されるアルミニウム塩のグループを指しますが、化粧品としては主にAl2(OH)5Clで表されるタイプが使用されることから、このタイプを解説しています。
∗2 錯体(さくたい 英名:complex)とは、金属と非金属の原子が結合した構造を持つ化合物を指します。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、制汗製品、デオドラント製品、スキンケア化粧品、アウトバストリートメント製品、メイクアップ化粧品、ヘアカラー製品などに使用されています。
収れん作用
収れん作用に関しては、クロルヒドロキシAlは陽イオン型収れん剤であり、汗腺の開口部のタンパク質を凝固・収縮させることにより強い収れん作用を発揮することから(文献3:1990;文献4:2012)、アストリンゼントローション、アフターシェービングローションなどに使用されています。
また、収れん作用によって肌をひきしめ、汗を抑えて化粧崩れを防止する目的で、ルースパウダー、パウダーファンデーションなどに配合されます。
制汗
制汗に関しては、クロルヒドロキシAlは1940年代から制汗剤の有効成分として使用されており、pHは酸性ですが塩化AlよりもpHが高く、衣類に対する損傷やヒト腋窩(∗3)皮膚に対する刺激がずっと少ないことから(文献5:1947)、現在においても制汗製品、デオドラント製品などに汎用されています。
∗3 腋窩(えきか)とは、わきの下のくぼんだ所を指しますが、一般的にはわきの下のことです。
クロルヒドロキシAlの制汗メカニズムは、表皮内の導管(汗管)にアルミニウムを含む水酸化物のゲルが形成され、表皮内汗管が物理的に閉塞することによって発汗の減少が起こるというものが提唱されています(文献6:1995)。
このメカニズム自体は塩化Alと類似したものですが、汗腺を含む角質層をテープで剥がした場合に、塩化Al塗布では汗腺の機能はほとんど回復しなかったのに対して、クロルヒドロキシAl塗布では約半分まで発汗が回復したことから、クロルヒドロキシAlは塩化Alよりも皮膚表面に近い部位で作用していることが示唆されています(文献6:1995)。
効果・作用についての補足
金属塩であるクロルヒドロキシAlは、金属イオンと反応して発色する染毛剤(発色剤)の金属塩として配合されることが報告されており(文献7:2010)、濃染効果目的でヘアカラー製品に使用されています。
クロルヒドロキシアルミニウムは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 2.0 |
育毛剤 | 2.0 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 2.0 |
薬用口唇類 | 配合不可 |
薬用歯みがき類 | 配合不可 |
浴用剤 | 配合不可 |
クロルヒドロキシAlの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 1940年代からの使用実績
- 皮膚刺激性:2%濃度以下においてほとんどなし
- 眼刺激性:注意が必要(データなし)
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
- 発がん性:明確な証拠なし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [動物試験] マウス、ウサギおよびブタの皮膚に10%および25%クロルヒドロキシAl水溶液を5日間にわたって毎日開放塗布し、皮膚反応を評価したところ、この試験物質は10%および25%濃度において皮膚刺激を示さず、またケラチン中にアルミニウムも観察されなかった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、25%濃度以下においてアルミニウムの皮膚内浸透および皮膚刺激なしと報告されており、医薬部外品(薬用化粧品)として配合上限が2%濃度に定められていること、塩化Alと比較してpHが高く、腋窩皮膚に対する刺激性もずっと少ないと報告されていることから(文献6:1995)、2%濃度以下においては一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
また、試験データはみあたりませんが、古くからの使用実績の中で皮膚感作の重要な報告がみあたらないことから、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないことから、現時点ではデータ不足により詳細は不明ですが、強い収れん作用があるため、注意が必要であると考えられます。
発がん性について
クロルヒドロキシAlの発がん性については、まず前提知識として女性ホルモンの一種であるエストロゲンと乳がんの関係について解説します。
エストロゲンは乳房の発達を直接的に関わっており、一般にその分泌量は30歳前にピークを迎え30代で次第に低下していき、40代で急速に低下することが知られています(文献8:-)。
一方で、40代では分泌量が低下したエストロゲンを受け止めるために乳管上皮細胞にエストロゲン受容体(ER)が増えてくることがわかっていますが、エストロゲン受容体(ER)と結びついたエストロゲンは、細胞分化や細胞増殖を促進する働きがあることから乳がんの発症につながると考えられています(文献8:-)。
アルミニウム化合物を含む脇用制汗スプレーは乳房の近くで使用されることから、頻繁に使用することでアルミニウムが乳房の皮膚に吸収され、エストロゲン様効果をもたらす可能性があり、その結果として乳がんの発生に寄与する可能性が指摘されていましたが(文献9:2005)、2016年に公開されたNCI(National Cancer Institute:アメリカ国立がん研究所)の制汗剤/デオドラント剤と乳がんに関するレビューによると、
このように報告されており(文献10:2016)、現段階の結論としては、アルミニウム含有脇用制汗剤または化粧品の使用が乳がんのリスクを高めることを示す明確な証拠はないと結論付けています。
∗∗∗
クロルヒドロキシAlは収れん成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:収れん成分
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文献一覧:
- A.B.G Lansdown(1973)「Production of epidermal damage in mammalian skins by some simple aluminium compounds」British Journal of Dermatology(89)(1),67-76.
- “Pubchem”(2020)「Aluminum chlorohydrate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Aluminum-chlorohydrate> 2020年5月20日アクセス.
- 田村 健夫, 他(1990)「陽イオン型収れん剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,247-248
- 鈴木 一成(2012)「塩化ヒドロキシアルミニウム」化粧品成分用語事典2012,423-424.
- T. Govett, et al(1947)「Aluminum Chlorohydrate, New. Antiperspirant Ingredient」The American. Perfumer and Essential Oil Review(49),365-368.
- Karl Laden(1995)「アルミニウムクロルハイドレート」制汗剤とデオドラント,96-97.
- 資生ケミカル株式会社(2010)「染毛方法」特開2010-248103.
- “All About 乳がん.Info”(-)「乳がん Q&A」, <http://nyugan.info/allabout/qa/qa1_worry/qa1_10.html> 2020年5月21日アクセス.
- P.D. Darbre(2005)「Aluminium, antiperspirants and breast cancer」Journal of Inorganic Biochemistry(99)(9),1912-1919.
- National Cancer Institute(2016)「Antiperspirants/Deodorants and Breast Cancer」, <https://www.cancer.gov/about-cancer/causes-prevention/risk/myths/antiperspirants-fact-sheet> 2020年5月21日アクセス.
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