カニナバラ果実エキスとは…成分効果と毒性を解説



・カニナバラ果実エキス
[医薬部外品表示名]
・ノバラエキス
バラ科植物イヌバラ(∗1)(学名:Rosa canina 英名:dog rose)の果実(∗2)から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
∗1 学名であるロサ・カニナのカニナ(canina)は「犬」を意味することから和名としては「イヌバラ(犬薔薇)」と呼ばれています。イヌバラはノバラ(野薔薇)の一種であり、英国でノバラといえばイヌバラを指します。またノバラはローズヒップ(rose hip)と呼ばれることからイヌバラも一般にはローズヒップと呼ばれます(文献1:2011)。
∗2 イヌバラの緋紅色の実は、本当の果実ではなく花の基部が膨らんだ偽果です。
イヌバラ(犬薔薇)は、ヨーロッパから西アジアにかけて自生しており、北ヨーロッパでは古くから乾燥させたローズヒップの果実をハーブティーとして愛飲し、また果物・野菜の中でもビタミンCの含有量が高いことから物資が少なかった第二次世界大戦中のイギリスでは子どものビタミンC補給源としてローズヒップのシロップが提供されていた史実があり、現在は市販の90%が南米およびチリで生産されています(文献1:2011;文献2:2018;文献3:2005)。
カニナバラ果実エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
糖質 | 単糖 | グルコース、フルクトース |
ビタミン | アスコルビン酸 | |
有機酸 | 果実酸 | |
タンニン | エラジタンニン | エラグ酸 |
フラボノイド | フラボノール | ケルセチン |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献2:2018;文献4:2016;文献5:2017)。
イヌバラ果実の化粧品以外の主な用途としては、飲料分野においてビタミンCの高含有が高いことからハーブティー(ローズヒップティー)として愛飲されています(文献3:2005;文献4:2016)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、シート&マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品など様々な製品に汎用されています。
収れん作用
収れん作用に関しては、カニナバラ果実エキスは有機酸である果実酸やタンニンを含有しており(文献2:2018;文献4:2016)、皮膚のタンパク質を収縮させることによる収れん作用を有していることから(文献1:2011;文献6:2012)、肌の引き締めや化粧崩れ防止目的でスキンケア製品、ボディケア製品、メイクアップ製品、化粧下地、洗顔料、クレンジング製品などに用いられています。
ただし、収れん作用におけるヒト試験データがみあたらないため、みつかりしだい追補します。
キネシン抑制による色素沈着抑制作用
キネシン抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成メカニズムから合成メラニンの表皮への移送およびキネシンについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献7:2002;文献8:2016;文献9:2019)。
また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献7:2002;文献9:2019)。
ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献7:2002;文献9:2019)。
そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献7:2002)。
キネシン(kinesin)は、このメラニン生合成 – 排出メカニズムにおいて以下のメラニン輸送図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
メラノサイト内でメラニンを内包したメラノソームを周辺の表皮細胞に輸送するために、デンドライトに沿ってデンドライトの中心部から先端部へ運搬する性質をもつモータータンパク質の一種です(文献10:2019;文献11:2004)。
正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献7:2002)。
このような背景から、キネシンの働きを抑制することは色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています(文献12:2000)。
2013年に一丸ファルコスによって報告されたカニナバラ果実エキスのキネシンおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、
PVDF膜を処理した後にキネシン抗体を添加し、抗マウスIgG抗体を反応させ、キネシン発現量を算出したところ、以下のグラフのように、
カニナバラ果実エキスは、強いキネシン抑制作用を示した。
次に、40名の女性被検者(30-60歳)のうち20名に5%カニナバラ果実エキス(50%エタノール抽出)配合乳液を、残りの20名に未配合乳液を1日2回(朝晩)洗顔後の顔面に3ヶ月にわたって塗布してもらった。
3ヶ月後に「有効:シミ・ソバカス、色素沈着が改善された」「やや有効:シミ・ソバカス、色素沈着がやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、
試料 | 皮膚色素沈着に対する評価(人数) | ||
---|---|---|---|
有効 | やや有効 | 無効 | |
カニナバラ果実エキス配合乳液 | 3 | 14 | 3 |
乳液のみ(対照) | 0 | 4 | 16 |
5%カニナバラ果実エキス配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して有意に皮膚色素沈着に対する改善効果を有することが確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献13:2013)、カニナバラ果実エキスにキネシン抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2016-2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
カニナバラ果実エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 10名の被検者に0.0975%カニナバラ果実エキスを含む化粧品を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に試験部位の皮膚刺激性を評価したところ、この製品は非刺激性に分類された(Anonymous,2016)
- [ヒト試験] 110名の被検者にカニナバラ果実エキスを含む化粧品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、試験期間を通じていずれの被検者においても皮膚反応は観察されず、この製品は非刺激剤および非感作剤に分類された(Anonymous,2016)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作性なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
∗∗∗
カニナバラ果実エキスは収れん成分、美白成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- 鈴木 洋(2011)「ローズヒップ」カラー版健康食品・サプリメントの事典,203-204.
- ジャパンハーブソサエティー(2018)「ロサ・カニナ」ハーブのすべてがわかる事典,221.
- 北野 佐久子(2005)「ローズ・ヒップ」基本 ハーブの事典,235-246.
- 林 真一郎(2016)「ローズヒップ」メディカルハーブの事典 改定新版,198-199.
- N. Hilde, et al(2017)「Realizing the Potential of Health-Promoting Rosehips from Dogroses (Rosa sect. Caninae)」Current Bioactive Compounds(13)(1),3-17.
- 鈴木 一成(2012)「ノバラエキス」化粧品成分用語事典2012,315.
- 朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
- 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
- 田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43.
- 福田 光則(2019)「メラニン合成酵素およびメラノソーム輸送の分子機構 – 輸送阻害に着目した美白剤開発 -」日本香粧品学会誌(43)(1),28-31.
- D.C. Barral & M.C. Seabra(2004)「The Melanosome as a Model to Study Organelle Motility in Mammals」Pigment Cell Res(17)(2),111-118.
- M. Hara, et al(2000)「Kinesin Participates in Melanosomal Movement along Melanocyte Dendrites」Journal of Investigative Dermatology(114)(3),438-443.
- 一丸ファルコス株式会社(2013)「キネシン抑制剤」特開2013-166712.
- Cosmetic Ingredient Review(2017)「Safety Assessment of Rosa canina-derived Ingredients as Used in Cosmetics」Final Report.