ベヘントリモニウムメトサルフェートの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ベヘントリモニウムメトサルフェート |
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INCI名 | Behentrimonium Methosulfate |
配合目的 | 帯電防止、ヘアコンディショニング |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるアルキルアンモニウム塩であり、第四級アンモニウム塩のモノアルキル型に分類される陽イオン性界面活性剤(カチオン性界面活性剤)です[1]。
1.2. 性状
ベヘントリモニウムメトサルフェートの性状は、
状態 | 白色の固体 |
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2. 化粧品としての配合目的
- 帯電防止効果
- 柔軟性付与によるヘアコンディショニング作用
主にこれらの目的で、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、カラートリートメント製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 帯電防止効果
帯電防止効果に関しては、まず前提知識として帯電防止について解説します。
以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
パーマやブリーチ処理、紫外線などによってダメージを受けた毛髪やシャンプーをすすいだ毛髪は負(-:マイナス)に帯電し、キューティクルの鱗片が開いていますが、帯電防止成分は正(+:プラス)の電荷をもつことから負に帯電した毛髪に吸着し、キューティクル表面に溜まった負(-:マイナス)の電荷を中和することにより隣接するキューティクル同士の静電反発を低減する(静電気の発生を抑制する)ことが知られています[5a][6][7]。
そして、その結果としてキューティクルが平に寝るようになり、きしみやキューティクルの摩擦抵抗が抑えられ、シャンプー後の毛髪の滑り性が改善するとともにもつれや絡まりを防ぐことが知られています[5b]。
ベヘントリモニウムメトサルフェートはモノアルキル型四級アンモニウム塩であり、毛髪の表面に吸着し静電気を抑制してパサつきを抑え、濡れた状態の毛髪に対して良好な櫛通り性を付与することから[2b][3b][4b]、主にコンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、カラートリートメント製品などに使用されています。
また、同じモノアルキル型四級アンモニウム塩であるクロリド系と比較すると、メトサルフェート系はクロリド系よりも刺激性が低く、毛髪のもつれをほぐすコンディショニング効果が非常に高いといった特徴を有しています[3c]。
一般にベヘントリモニウムメトサルフェートはセテアリルアルコールのみまたはセタノールとBGのいずれかに溶かし込んだものが使用されるため、ベヘントリモニウムメトサルフェートが配合されている場合は、成分表示名にこれらのいずれかが一緒に記載されている可能性が考えられます。
2.2. 柔軟性付与によるヘアコンディショニング作用
柔軟性付与によるヘアコンディショニング作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造と毛髪のダメージと柔軟性の関係について解説します。
毛髪の構造については、以下の毛髪構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
キューティクル(毛小皮)とよばれる5-10層で重なり合った平らかつうろこ状の構造からなる厚い保護外膜が表面を覆い、キューティクル内部は紡錘状細胞から成り繊維体質の大部分を占めるコルテックス(毛皮質)およびメデュラ(毛髄質)とよばれる多孔質部分で構成されています[8a]。
また、細胞膜複合体(CMC:Cell Membrane Complex)がこの3つの構造を接着・結合しており、毛髪内部の水分保持や成分の浸透・拡散の主要通路としての役割を担っています[8b]。
これら毛髪構造の中でキューティクルは、摩擦、引っ張り、曲げ、日光への曝露などの影響による物理的かつ化学的劣化に耐性をもち、その配列が見た目の美しさや感触特性となります[9]。
一方で、日光曝露におけるキューティクルの柔軟性劣化の進行は穏やかではあるものの(∗1)、UVBの曝露は比較的少ない照射量でキューティクルにダメージを与えることが明らかにされており、長時間の日光(紫外線)曝露においては、以下の図をみてもらうとわかるように、
∗1 UVAは比較的影響が少ないのに対してUVBは比較的少ない照射量でキューティクルにダメージを与えますが、日光曝露によるキューティクルの柔軟性劣化は比較的穏やかに進行します。これは日光の分光分布におけるUVBの割合が低いことによると考えられています。
ダメージの増大によりキューティクルのめくれ上がりにつながり、この結果として毛髪を曲げたり引っ張ったりするといった物理的な変形に対するキューティクルの抵抗性が減少することが知られています[10a]。
そして、さらに日光の曝露が続いたり、曲げたり引っ張ったりなど物理的な力が加わると、下層のキューティクルも剥がれていき、比較的柔軟性のある最下層のキューティクル(エンドキューティクル)の柔軟性が低下し、毛髪のしなやかさが失われていきます[10b]。
このような背景から、ダメージを受けた毛髪の柔軟性を向上させることは、毛髪のダメージやしなやかさのリカバリーにおいて重要なアプローチのひとつであると考えられています。
ベヘントリモニウムメトサルフェートはモノアルキル型四級アンモニウム塩であり、パサつきを抑えて柔軟でなめらかな髪に仕上げることから[2c][3c][4c]、主にコンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、カラートリートメント製品などに使用されています。
3. 混合原料としての配合目的
ベヘントリモニウムメトサルフェートは混合原料が開発されており、ベヘントリモニウムメトサルフェートと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Crodazoquat MCC |
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構成成分 | ベヘントリモニウムメトサルフェート、クオタニウム-87、セテアリルアルコール |
特徴 | 傷んだ髪を健康な状態に戻す優れたヘアコンディショニング剤 |
原料名 | Cutissential Behenyl 18-MEA |
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構成成分 | ベヘントリモニウムメトサルフェート、イソアルキル(C10-40)アミドプロピルエチルジモニウムエトサルフェート、セタノール |
特徴 | 毛髪の脂質表面を補充するとともにキューティクルの損傷を修復する優れたヘアコンディショニング剤 |
原料名 | EMACOL CD-8111 |
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構成成分 | ステアリルアルコール、ベヘントリモニウムメトサルフェート、クオタニウム-33、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル |
特徴 | クセ毛ケア用トリートメント基剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
5. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度10%以下においてほとんどなし-わずか(詳細は解説を参照のこと)
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient ReviewおよびCrodaの安全性データ[11a][12a]によると、
- [ヒト試験] 212名の被検者に0.125%セトリモニウムクロリド、0.5%ベヘントリモニウムクロリドおよび0.125%ベヘントリモニウムメトサルフェートを含むヘアトリートメントを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において1名の被検者に軽度の皮膚反応がみられたが、チャレンジ期間においていずれの被検者も皮膚感作反応を示さなかった(Product Investigations Inc,2009)
- [ヒト試験] 被検者(人数不明)に25%ベヘントリモニウムメトサルフェート溶液を対象にパッチテストを実施し、パッチ除去後に皮膚感作性を評価したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(Croda,2016)
- [動物試験] ウサギの皮膚に25%ベヘントリモニウムメトサルフェート溶液を24時間適用し、適用後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質はわずかな皮膚刺激剤であった(Croda,2016)
このように、試験データをみるかぎり濃度25%以下において非刺激-わずかな皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は濃度25%以下において非刺激-わずかな皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
ただし、ベヘントリモニウムメトサルフェートは濃度10%以下および現在の使用法で安全に使用できると報告されていることから[11b]、ベヘントリモニウムメトサルフェートは安全に使用できると考えられます。
皮膚感作性については試験データをみるかぎり共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Crodaの安全性データ[12b]によると、
- [動物試験] ウサギの眼に25%ベヘントリモニウムメトサルフェート溶液を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験製剤は眼刺激剤ではなかった
このように報告されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ベヘントリモニウムメトサルフェート」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,876.
- ⌃abCroda Europe Ltd.(2014)「SP-Incroquat Behenyl TMS-MBAL」Technical Data Sheet.
- ⌃abcCroda Europe Ltd.(2009)「Incroquat Behenyl TMS-50」Technical Data Sheet.
- ⌃abEvonik Industries AG(2008)「VARISOFT BTMS Pellets」Technical Data Sheet.
- ⌃abデール・H・ジョンソン(2011)「コンディショニング剤」ヘアケアサイエンス入門,81-99.
- ⌃佐藤 直紀(2006)「シャンプー・リンスの機能と最新の技術」機能性化粧品の開発Ⅱ,109-122.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「ヘアリンスの主剤とその作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,456-460.
- ⌃abクラーレンス・R・ロビンス(2006)「毛形態学的構造および高次構造」毛髪の科学,1-68.
- ⌃デール・H・ジョンソン(2011)「毛髪のコンディショニング」ヘアケアサイエンス入門,77-122.
- ⌃ab新條 善太郎, 他(1994)「キューティクルの柔軟性に与える紫外線の影響」日本化粧品技術者会誌(28)(1),66-76. DOI:10.5107/sccj.28.66.
- ⌃abL.C. Becker(2012)「Safety Assessment of Trimoniums as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(31)(6_suppl),296S-341S. DOI:10.1177/1091581812467378.
- ⌃abCroda Inc.(2021)「SP Incroquat Behenyl TMS-50 MBAL-PA-(MH)」Safety Data Sheet.