ポリクオタニウム-10の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ポリクオタニウム-10 |
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医薬部外品表示名 | 塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース |
部外品表示別名 | ヒドロキシエチルセルロース・ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエチル |
部外品表示簡略名 | 塩化トリメチルアンモニオヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロース |
INCI名 | Polyquaternium-10 |
配合目的 | 帯電防止、ヘアコンディショニング、起泡補助 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
ヒドロキシエチルセルロースに第四級アンモニウム塩である塩化グリシジルトリメチルアンモニウムを付加して得られる第四級アンモニウム塩の重合体(∗1)(カチオン性高分子)(∗2)です[1]。
∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指します。
∗2 カチオン性高分子とは、陽イオン界面活性能(カチオン性)を有した高分子化合物(ポリマー:polymer)のことです。
1.2. 性状
ポリクオタニウム-10の性状は、
状態 | 白-微黄色の粉末 |
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2. 化粧品としての配合目的
- 帯電防止効果
- 柔軟性およびなめらかな感触付与によるヘアコンディショニング作用
- 起泡力および泡弾性の増強
主にこれらの目的で、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、洗顔料、洗顔石鹸、マスカラ製品、アウトバストリートメント製品、ヘアスタイリング製品、ヘアカラートリートメント製品、ボディソープ製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 帯電防止効果
帯電防止効果に関しては、まず前提知識として帯電防止について解説します。
以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
パーマやブリーチ処理、紫外線などによってダメージを受けた毛髪やシャンプーをすすいだ毛髪は負(-:マイナス)に帯電し、キューティクルの鱗片が開いていますが、帯電防止成分は正(+:プラス)の電荷をもつことから負に帯電した毛髪に吸着し、キューティクル表面に溜まった負(-:マイナス)の電荷を中和することにより隣接するキューティクル同士の静電反発を低減する(静電気の発生を抑制する)ことが知られています[5a][6][7]。
そして、その結果としてキューティクルが平に寝るようになり、きしみやキューティクルの摩擦抵抗が抑えられ、シャンプー後の毛髪の滑り性が改善するとともにもつれや絡まりを防ぐことが知られています[5b]。
ポリクオタニウム-10はカチオン性高分子であり、毛髪の表面に吸着し静電気を抑制してパサつきを抑え、良好な櫛通り性を付与することから[8a]、主にシャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ヘアスタイリング製品、ヘアカラートリートメント製品などに汎用されています。
2.2. 柔軟性およびなめらかな感触付与によるヘアコンディショニング作用
柔軟性およびなめらかな感触付与によるヘアコンディショニング作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造と毛髪のダメージと柔軟性の関係について解説します。
毛髪の構造については、以下の毛髪構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
キューティクル(毛小皮)とよばれる5-10層で重なり合った平らかつうろこ状の構造からなる厚い保護外膜が表面を覆い、キューティクル内部は紡錘状細胞から成り繊維体質の大部分を占めるコルテックス(毛皮質)およびメデュラ(毛髄質)とよばれる多孔質部分で構成されています[9a]。
また、細胞膜複合体(CMC:Cell Membrane Complex)がこの3つの構造を接着・結合しており、毛髪内部の水分保持や成分の浸透・拡散の主要通路としての役割を担っています[9b]。
これら毛髪構造の中でキューティクルは、摩擦、引っ張り、曲げ、日光への曝露などの影響による物理的かつ化学的劣化に耐性をもち、その配列が見た目の美しさや感触特性となります[10]。
一方で、日光曝露におけるキューティクルの柔軟性劣化の進行は穏やかではあるものの(∗3)、UVBの曝露は比較的少ない照射量でキューティクルにダメージを与えることが明らかにされており、長時間の日光(紫外線)曝露においては、以下の図をみてもらうとわかるように、
∗3 UVAは比較的影響が少ないのに対してUVBは比較的少ない照射量でキューティクルにダメージを与えますが、日光曝露によるキューティクルの柔軟性劣化は比較的穏やかに進行します。これは日光の分光分布におけるUVBの割合が低いことによると考えられています。
ダメージの増大によりキューティクルのめくれ上がりにつながり、この結果として毛髪を曲げたり引っ張ったりするといった物理的な変形に対するキューティクルの抵抗性が減少することが知られています[11a]。
そして、さらに日光の曝露が続いたり、曲げたり引っ張ったりなど物理的な力が加わると、下層のキューティクルも剥がれていき、比較的柔軟性のある最下層のキューティクル(エンドキューティクル)の柔軟性が低下し、毛髪のしなやかさが失われていきます[11b]。
このような背景から、損傷したキューティクルを平らに寝かせてなめらかにすることやダメージを受けた毛髪の柔軟性を向上させることは、毛髪の外観、ダメージおよび感触のリカバリーにおいて重要なアプローチのひとつであると考えられています。
ポリクオタニウム-10はカチオン性高分子であり、パサつきを抑えて柔軟な髪に仕上げることとなめらかな感触を付与することから[8b][12a]、主にシャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、ヘアパック製品、ヘアカラートリートメント製品、アウトバストリートメント製品などに汎用されています。
シャンプー製品においてカチオン性高分子は、可溶化あるいは分散状態で存在しており、洗髪やすすぎ時に水で希釈されることで陰イオン界面活性剤と複合体を形成し、この複合体が毛髪に吸着することにより優れたコンディションニング性を発揮すると考えられています[8c][13]。
2.3. 起泡力および泡弾性の増強
起泡力および泡弾性の増強に関しては、ポリクオタニウム-10はカチオン性高分子であり、皮膚や眼に対して刺激性が低く、洗浄剤の泡立ちを良くするとともに泡の弾力を向上させることから[8d][12b]、主にシャンプー製品、ボディソープ製品、洗顔料、洗顔石鹸などに汎用されています。
3. 混合原料としての配合目的
ポリクオタニウム-10は混合原料が開発されており、ポリクオタニウム-10と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | DN シリコーンエマルジョン 100000 |
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構成成分 | ジメチコン、ラウレス-2、ラウレス-20、ポリクオタニウム-10、イソプロパノール、フェノキシエタノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、水 |
特徴 | 高重合度シリコーンをエマルション化したコンディショニング剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1988年および2002-2005年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度5%以下においてほとんどなし
- 眼刺激性:濃度5%以下においてほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14a]によると、
- [ヒト試験] 106名の被検者に5%ポリクオタニウム-10水溶液を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去72時間後まで皮膚刺激性を評価したところこの試験製剤は皮膚刺激を示さなかった(Union Carbide Corporation,1985)
- [ヒト試験] 27名の被検者に5%ポリクオタニウム-10溶液を21日間毎日閉塞パッチ適用したところ、この試験製剤は皮膚刺激剤ではなかった(Union Carbide Corporation,1985)
- [ヒト試験] 203名の被検者に5%ポリクオタニウム-10溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作はみられなかった(Union Carbide Corporation,1985)
- [ヒト試験] 50名の被検者に3つの異なるメーカーの2%ポリクオタニウム-10溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作はみられなかった(Product Investigations Inc,1976)
- [ヒト試験] 46名の被検者に1%ポリクオタニウム-10を含むコンディショナーを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において1名の被検者は9回目で最小の紅斑を、もうひとりは10回目で最小限の紅斑反応を示した。またチャレンジ期間において2名の被検者が最小限の皮膚反応を示したため、チャレンジ期間に反応を示した被検者に改めてチャレンジ試験を行ったところ、皮膚反応はみられなかったため、この製剤は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Food and Drug Research Laboratories,1980)
- [ヒト試験] 53名の被検者に0.5%ポリクオタニウム-10溶液を含むシャンプーを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1972)
- [ヒト試験] 25名の被検者に0.5%ポリクオタニウム-10溶液を含むシャンプーを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1973)
このように、試験データをみるかぎり濃度5%以下において共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に濃度5%以下において皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14b]によると、
- [動物試験] 5匹のウサギの片眼に10%ポリクオタニウム-10水溶液を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、1匹に最小限の眼刺激がみられたが、他の4匹では眼刺激はみられなかった(Carnegie-Mellon University,1973)
- [動物試験] 5匹のウサギの片眼に5%ポリクオタニウム-10水溶液を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験製剤は非刺激剤であった(Carnegie-Mellon University,1973)
- [動物試験] 5匹のウサギの片眼に2%ポリクオタニウム-10水溶液を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験製剤は非刺激剤であった(Carnegie-Mellon University,1973)
このように報告されており、試験データをみるかぎり濃度5%以下において共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性は濃度5%以下においてほとんどないと考えられます。
5.3. 光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14c]によると、
- [ヒト試験] 53名の被検者に0.5%ポリクオタニウム-10溶液を含むシャンプーを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても光感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1972)
- [ヒト試験] 25名の被検者に0.5%ポリクオタニウム-10溶液を含むシャンプーを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1973)
このように、試験データをみるかぎり共通して光感作なしと報告されているため、一般に光感作性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ポリクオタニウム-10」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,908-909.
- ⌃Nouryon N.V.(2020)「Celquat SC-230M」Product Data Sheet.
- ⌃Nouryon N.V.(2019)「Celquat SC-240C」Product Data Sheet.
- ⌃花王株式会社(2020)「ポイズCシリーズ」花王の香粧品・医薬品原料,3-4.
- ⌃abデール・H・ジョンソン(2011)「コンディショニング剤」ヘアケアサイエンス入門,81-99.
- ⌃佐藤 直紀(2006)「シャンプー・リンスの機能と最新の技術」機能性化粧品の開発Ⅱ,109-122.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「ヘアリンスの主剤とその作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,456-460.
- ⌃abcd別府 耕次・小宮 薫(1995)「毛髪コンディショニング剤用ポリマー」油化学(44)(4),283-290. DOI:10.5650/jos1956.44.283.
- ⌃abクラーレンス・R・ロビンス(2006)「毛形態学的構造および高次構造」毛髪の科学,1-68.
- ⌃デール・H・ジョンソン(2011)「毛髪のコンディショニング」ヘアケアサイエンス入門,77-122.
- ⌃ab新條 善太郎, 他(1994)「キューティクルの柔軟性に与える紫外線の影響」日本化粧品技術者会誌(28)(1),66-76. DOI:10.5107/sccj.28.66.
- ⌃abライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社(2021)「カチオン化セルロース(レオガードシリーズ)」製品カタログ.
- ⌃柿澤 恭史(2018)「洗浄料とその作用」日本香粧品学会誌(42)(4),270-279. DOI:10.11469/koshohin.42.270.
- ⌃abcR.L. Elder(1988)「Final Report on the Safety Assessment of Poiyquaternium-10」Journal of the American College of Toxicology(7)(3),335-351. DOI:10.3109/10915818809023135.