ポリクオタニウム-6の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ポリクオタニウム-6 |
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医薬部外品表示名 | ポリ塩化ジメチルジメチレンピロリジニウム液 |
部外品表示別名 | ポリ塩化ジメチルジアリルアンモニウム液 |
INCI名 | Polyquaternium-6 |
配合目的 | 帯電防止、ヘアコンディショニング、起泡補助 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される第四級アンモニウム塩であるジメチルジアリルアンモニウムクロリドの重合体(∗1)(カチオン性高分子)(∗2)です[1]。
∗1 重合体とは、複数の単量体(モノマー:monomer)が繰り返し結合し、鎖状や網状にまとまって機能する多量体(ポリマー:polymer)のことを指します。
∗2 カチオン性高分子とは、陽イオン界面活性能(カチオン性)を有した高分子化合物(ポリマー:polymer)のことです。
1.2. 性状
ポリクオタニウム-6の性状は、
状態 | 無色-淡黄色の粘性液体 |
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2. 化粧品としての配合目的
- 帯電防止効果
- 柔軟性およびなめらかな感触付与によるヘアコンディショニング作用
- 起泡力および泡密度の増強
主にこれらの目的で、シャンプー製品、洗顔石鹸、洗顔料、ボディソープ製品、コンディショナー製品、ヘアカラートリートメント製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 帯電防止効果
帯電防止効果に関しては、まず前提知識として帯電防止について解説します。
以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
パーマやブリーチ処理、紫外線などによってダメージを受けた毛髪やシャンプーをすすいだ毛髪は負(-:マイナス)に帯電し、キューティクルの鱗片が開いていますが、帯電防止成分は正(+:プラス)の電荷をもつことから負に帯電した毛髪に吸着し、キューティクル表面に溜まった負(-:マイナス)の電荷を中和することにより隣接するキューティクル同士の静電反発を低減する(静電気の発生を抑制する)ことが知られています[5a][6][7]。
そして、その結果としてキューティクルが平に寝るようになり、きしみやキューティクルの摩擦抵抗が抑えられ、シャンプー後の毛髪の滑り性が改善するとともにもつれや絡まりを防ぐことが知られています[5b]。
ポリクオタニウム-6はカチオン性高分子であり、毛髪の表面に吸着し静電気を抑制してパサつきを抑え、濡れた毛髪に対して良好な櫛通り性を付与することから[4b][8a]、主にシャンプー製品、コンディショナー製品、ヘアカラートリートメント製品などに使用されています。
ポリクオタニウム-6は、第四級アンモニウム塩であるジメチルジアリルアンモニウムクロリドの重合体(カチオン性高分子)ですが、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド1個あたりの分子量は162と小さく、少量で高い帯電防止(コンディショニング)効果を発揮することが特徴のひとつといえます[9a]。
2.2. 柔軟性およびなめらかな感触付与によるヘアコンディショニング作用
柔軟性およびなめらかな感触付与によるヘアコンディショニング作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造と毛髪のダメージと柔軟性の関係について解説します。
毛髪の構造については、以下の毛髪構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
キューティクル(毛小皮)とよばれる5-10層で重なり合った平らかつうろこ状の構造からなる厚い保護外膜が表面を覆い、キューティクル内部は紡錘状細胞から成り繊維体質の大部分を占めるコルテックス(毛皮質)およびメデュラ(毛髄質)とよばれる多孔質部分で構成されています[10a]。
また、細胞膜複合体(CMC:Cell Membrane Complex)がこの3つの構造を接着・結合しており、毛髪内部の水分保持や成分の浸透・拡散の主要通路としての役割を担っています[10b]。
これら毛髪構造の中でキューティクルは、摩擦、引っ張り、曲げ、日光への曝露などの影響による物理的かつ化学的劣化に耐性をもち、その配列が見た目の美しさや感触特性となります[11]。
一方で、日光曝露におけるキューティクルの柔軟性劣化の進行は穏やかではあるものの(∗3)、UVBの曝露は比較的少ない照射量でキューティクルにダメージを与えることが明らかにされており、長時間の日光(紫外線)曝露においては、以下の図をみてもらうとわかるように、
∗3 UVAは比較的影響が少ないのに対してUVBは比較的少ない照射量でキューティクルにダメージを与えますが、日光曝露によるキューティクルの柔軟性劣化は比較的穏やかに進行します。これは日光の分光分布におけるUVBの割合が低いことによると考えられています。
ダメージの増大によりキューティクルのめくれ上がりにつながり、この結果として毛髪を曲げたり引っ張ったりするといった物理的な変形に対するキューティクルの抵抗性が減少することが知られています[12a]。
そして、さらに日光の曝露が続いたり、曲げたり引っ張ったりなど物理的な力が加わると、下層のキューティクルも剥がれていき、比較的柔軟性のある最下層のキューティクル(エンドキューティクル)の柔軟性が低下し、毛髪のしなやかさが失われていきます[12b]。
このような背景から、損傷したキューティクルを平らに寝かせてなめらかにすることやダメージを受けた毛髪の柔軟性を向上させることは、毛髪の外観、ダメージおよび感触のリカバリーにおいて重要なアプローチのひとつであると考えられています。
ポリクオタニウム-6はカチオン性高分子であり、低濃度でもパサつきを抑えて柔軟な髪に仕上げることとなめらかな感触を付与することから[8b][13]、主にシャンプー製品、コンディショナー製品、ヘアカラートリートメント製品などに使用されています。
シャンプー製品においてカチオン性高分子は、可溶化あるいは分散状態で存在しており、洗髪やすすぎ時に水で希釈されることで陰イオン界面活性剤と複合体を形成し、この複合体が毛髪に吸着することにより優れたコンディションニング性を発揮すると考えられています[9b][14]。
2.3. 起泡力および泡密度の増強
起泡力および泡密度の増強に関しては、ポリクオタニウム-6はカチオン性高分子であり、洗浄剤の泡立ちを良くするとともに泡密度を増強(よりクリーミィな泡を生成)することから[9c]、主にシャンプー製品、洗顔石鹸、洗顔料、ボディソープ製品などに使用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2020-2021年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15a]によると、
- [ヒト試験] 50名の被検者に42%ポリクオタニウム-6(分子量15万Daおよび未反応遊離ジメチルジアリルアンモニウムクロリドを最大6.5%含む)水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、試験期間を通じていずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作の兆候はみられなかった(Lubrizol Advanced Materials Inc,2020)
このように、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[15b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に42%ポリクオタニウム-6(分子量15万Daおよび未反応遊離ジメチルジアリルアンモニウムクロリドを最大6.5%含む)水溶液を点眼し、FHSA(16 CFR 1500)の仕様に基づいて点眼24および72時間後に眼刺激性を評価したところ、この試験製剤は眼刺激剤ではなかった(Lubrizol Advanced Materials Inc,2020)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に42%ポリクオタニウム-6(分子量15万Daおよび未反応遊離ジメチルジアリルアンモニウムクロリドを最大6.5%含む)水溶液を点眼し、点眼14日目まで眼刺激性を評価したところ、すべてのウサギでわずかから中程度の範囲の結膜充血がみられたが、これらの反応はすべて48時間までに解消し、この試験製剤はわずかな眼刺激剤に分類された(Lubrizol Advanced Materials Inc,2020)
このように報告されており、試験データをみるかぎり非刺激-わずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
ただし、報告されている試験データの配合濃度が42%であるのに対して実際の製品における配合量は3%以下であり、実際の製品においては化粧品配合量および通常使用下で安全に使用できると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ポリクオタニウム-6」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,908.
- ⌃BASF SE(2017)「Dehyquart CC 6」Product specification.
- ⌃センカ株式会社(2021)「コスモートVシリーズ」製品データシート.
- ⌃abCroda Inc(2010)「Conditioning Polymers」Personal Care Product Guide,37.
- ⌃abデール・H・ジョンソン(2011)「コンディショニング剤」ヘアケアサイエンス入門,81-99.
- ⌃佐藤 直紀(2006)「シャンプー・リンスの機能と最新の技術」機能性化粧品の開発Ⅱ,109-122.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「ヘアリンスの主剤とその作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,456-460.
- ⌃abLubrizol Advanced Materials, Inc.(2017)「Merquat 100 Polymer Series」HAIR CARE / Conditioning Polymers Differentiation Chart.
- ⌃abc別府 耕次・小宮 薫(1995)「毛髪コンディショニング剤用ポリマー」油化学(44)(4),283-290. DOI:10.5650/jos1956.44.283.
- ⌃abクラーレンス・R・ロビンス(2006)「毛形態学的構造および高次構造」毛髪の科学,1-68.
- ⌃デール・H・ジョンソン(2011)「毛髪のコンディショニング」ヘアケアサイエンス入門,77-122.
- ⌃ab新條 善太郎, 他(1994)「キューティクルの柔軟性に与える紫外線の影響」日本化粧品技術者会誌(28)(1),66-76. DOI:10.5107/sccj.28.66.
- ⌃BASF SE(2015)「Salcare SC 30」Conditioning Polymers for Personal Care.
- ⌃柿澤 恭史(2018)「洗浄料とその作用」日本香粧品学会誌(42)(4),270-279. DOI:10.11469/koshohin.42.270.
- ⌃abW. Johnson Jr(2021)「Safety Assessment of Polyquaternium-6 as Used in Cosmetics(∗5)」, 2023年3月19日アクセス.
∗5 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。