BHTの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | BHT |
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医薬部外品表示名 | ジブチルヒドロキシトルエン |
部外品表示簡略名 | BHT |
INCI名 | BHT |
配合目的 | 酸化防止 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
化粧品成分表示名称である「BHT」は、医薬部外品表示名である「ジブチルヒドロキシトルエン(dibutylhydroxytoluene)」の別名である「ブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene)」の略称です。
1.2. 化粧品以外の主な用途
BHTの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 食用油脂、食用油脂含有食品、魚介乾製品、魚介塩蔵品などに酸化防止剤として用いられています[3]。 |
医薬品 | 安定・安定化、滑沢、抗酸化、粘着、防腐、保存、溶解補助目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、口中用剤、眼科用剤、各種注射などに用いられています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 酸化防止
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、シート&マスク製品、洗顔料、アウトバストリートメント製品、香水、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 酸化防止
酸化防止に関しては、まず前提知識として酸化(自動酸化)について解説します。
自動酸化とは、空気中の酸素との接触により常温で起こる酸化反応のことをいいます。
化粧品に用いられている油脂・ロウ類およびその誘導体、界面活性剤、香料、ビタミンなどは、空気中の酸素を吸収して徐々に酸化・変質する、いわゆる酸敗(∗1)の現象を呈すことが知られており[5a]、酸敗は不快なにおいや変色などの原因となり、化粧品の安定性を損なうだけでなく、酸敗によって生じる過酸化物は代表的な皮膚刺激物質であり、人体に悪影響を及ぼすことが知られています[6a]。
∗1 酸敗(さんぱい)とは、酸化して種々の酸化物を生じ、すっぱくなることをいいます。
BHTは、油脂およびエタノールに溶解性を示し、かつ熱および光に対して高い安定性を有する芳香族化合物であり[5b]、酸化の連鎖反応の途中で生成する過酸化ラジカル(ROO・)と反応して不活性物質を形成し、連鎖反応を阻止するという酸化防止作用を有していることから[6b]、製品自体の酸化防止目的で様々な製品に汎用されていますが[1b]、とくにメトキシケイヒ酸エチルヘキシルなどの紫外線吸収剤や脂溶性ビタミン類に使用されています。
また、BHTの酸化防止作用を著しく増強するための相乗剤として、一般にクエン酸やアスコルビン酸などが汎用されています[7]。
3. 配合製品数および配合量範囲
ジブチルヒドロキシトルエンは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
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薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 1.0 |
育毛剤 | 1.0 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 1.0 |
薬用口唇類 | 1.0 |
薬用歯みがき類 | 1.0 |
浴用剤 | 1.0 |
染毛剤 | 1.0 |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 1.0 |
また、化粧品としての配合製品数および配合量に関しては、海外の1998-1999年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
- 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[8a]によると、
- [ヒト試験] 15名の被検者に100%BHTを48時間パッチテストを実施したところ、10名以上の被検者(71%)は刺激反応を示さず、4名以上の被検者(29%)はわずかな皮膚刺激を示した(Mallette and Von Haam,1952)
このように記載されており、試験データをみるかぎり30%の被検者にわずかな皮膚刺激が報告されていますが、この試験データは濃度100%のものであり、実際のBHT配合濃度範囲は高くても濃度0.5%であることから、実際の配合濃度範囲内の安全性データが必要であると考えられます。
現時点では、食品添加物の指定添加物リスト、医薬品添加物規格2018および医薬部外品原料規格2021に収載されており、医薬部外品としての配合上限および40年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激はほとんどないと考えられますが、実際の配合濃度範囲内の安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[8b]および東邦大学医学部薬理学教室の試験データ[9]によると、
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 湿疹を有する360名の患者に5%BHTを48時間パッチテストしたところ、いずれの被検者も皮膚反応を示さなかった(Meneghini et al,1971)
- [ヒト試験] 湿疹性皮膚炎を有する112名の患者に2%BHTを含むワセリンをパッチテストしたところ、3名の患者が皮膚感作反応を示した(Roed-Petersen and Hjorth,1976)。
- [ヒト試験] 湿疹性皮膚炎を有する83名の患者に治療において5%BHTを含むエタノールを使用したが、いずれの患者も皮膚反応はみられなかった(Roed-Petersen and Hjorth,1976)。
- [ヒト試験] 顔面に湿疹を有する1,096名の患者に1%BHTを含むワセリンを対象にパッチテストを実施したところ、1名の患者が皮膚反応を示した(White et al,1984)
- [ヒト試験] 1978年-1982年の5年間に東邦大学大森病院を受診した化粧品皮膚炎、顔面黒皮症、化粧品以外の原因による接触性皮膚炎などを有する患者に2%,5%および10%BHTを含むワセリンを48時間閉塞パッチし、パッチ除去30分および24時間後に皮膚反応を評価したところ、いずれの患者も陰性であった(西村 誠 他,1984)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚炎を有している場合にごくまれに皮膚感作が報告されていますが、これらの試験データは濃度1%-5%のものであり、実際のBHT配合濃度範囲は高くても濃度0.5%であることから、実際の配合濃度範囲内の安全性データが必要であると考えられます。
現時点では、食品添加物の指定添加物リスト、医薬品添加物規格2018および医薬部外品原料規格2021に収載されており、医薬部外品としての配合上限および40年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作はほとんどないと考えられますが、実際の配合濃度範囲内の安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.4. 光毒性(光刺激性)および光感作性
BHTは、紫外線に対して重大な刺激および感作がないことが報告されており、さらにBHTは日焼け止め製品に古くから使用される中で重大な刺激、感作または光増感の報告はありません[8c]。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「BHT」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,5.
- ⌃“Pubchem”(2021)「Butylated hydroxytoluene」,2021年6月25日アクセス.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「ジブチルヒドロキシトルエン」食品添加物事典 新訂第二版,170.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「ジブチルヒドロキシトルエン」医薬品添加物事典2021,282-284.
- ⌃ab田村 健夫・廣田 博(2001)「酸化防止剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,221-226.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「酸化防止剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,471-475.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(1977)「主な酸化防止剤」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,446-452.
- ⌃abcR.S. Lanigan & T.A. Yamarik(2002)「Final Report on the Safety Assessment of BHT」International Journal of Toxicology(21)(2_Suppl),19-94. DOI:10.1080/10915810290096513.
- ⌃西村 誠, 他(1984)「香粧品成分のパッチテスト最近5年間の成績」皮膚(26)(4),945-954. DOI:10.11340/skinresearch1959.26.945.