ピロ亜硫酸Naの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ピロ亜硫酸Na |
---|---|
医薬部外品表示名 | ピロ亜硫酸ナトリウム |
部外品表示簡略名 | ピロ亜硫酸Na |
INCI名 | Sodium Metabisulfite |
配合目的 | 酸化防止 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるピロ亜硫酸のナトリウム塩です[1a][2]。
1.2. 化粧品以外の主な用途
ピロ亜硫酸Naの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | 酸化防止剤、保存料、漂白剤として用いられています[3]。 |
医薬品 | 安定・安定化、抗酸化目的の医薬品添加剤として経口剤、各種注射、外用剤、眼科用剤、耳鼻科用剤などに用いられています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 酸化防止
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、洗顔料、シャンプー製品、ボディソープ製品、頭皮ケア製品、シート&マスク製品、まつ毛美容液など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 酸化防止
酸化防止に関しては、まず前提知識として酸化(自動酸化)について解説します。
自動酸化とは、空気中の酸素との接触により常温で起こる酸化反応のことをいいます。
化粧品に用いられている油脂・ロウ類およびその誘導体、界面活性剤、香料、ビタミンなどは、空気中の酸素を吸収して徐々に酸化・変質する、いわゆる酸敗(∗1)の現象を呈すことが知られており[5]、酸敗は不快なにおいや変色などの原因となり、化粧品の安定性を損なうだけでなく、酸敗によって生じる過酸化物は代表的な皮膚刺激物質であり、人体に悪影響を及ぼすことが知られています[6]。
∗1 酸敗(さんぱい)とは、酸化して種々の酸化物を生じ、すっぱくなることをいいます。
ピロ亜硫酸Naは、水中で弱酸性を示す水溶性の亜硫酸塩であり、製品中の酸化しやすい物質に先立って自動酸化されることにより、製品そのものの酸化を防止するという酸化防止作用を有していることから[7][8]、水系スキンケア製品、リキッドファンデーション、染毛剤などに汎用されています。
3. 配合製品数および配合量範囲
化粧品における配合製品数および配合量に関しては、海外の1998-1999年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:濃度0.075%以下においてほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
- 皮膚感作性(皮膚炎を有する場合):まれに皮膚感作を引き起こす可能性あり
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
ただし、皮膚炎を有する場合はまれに皮膚感作を引き起こす可能性があることから、注意が必要であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[9a]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギに未希釈のピロ亜硫酸Na溶液0.5mLを4時間ガーゼパッド適用し、パッド除去直後、24および48時間後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は皮膚刺激反応を示さなかった(Hazleton Labs,1973)
- [動物試験] 6匹のウサギにピロ亜硫酸Na5gを24時間ガーゼパッド適用し、パッド除去直後および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は皮膚刺激反応を示さなかった(Haskell Labs,1974)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に実使用濃度範囲において皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[9b]によると、
- [ヒト試験] 点眼薬の有効成分であるジピベフリンに局所感作反応の病歴を有する5名の患者に0.075%ピロ亜硫酸Naを含む製剤を点眼したところ、ピロ亜硫酸Naによる悪影響は報告されていない(Petersen et al,1990)
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度0.075%において眼刺激性なしと報告されていることから、一般に濃度0.075%以下において眼刺激性はほとんどないと考えられます。
4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ[9c]およびイギリスのリーズ皮膚科センター[10]によると、
– 皮膚炎を有する場合 –
- [ヒト試験] 2年間にわたって湿疹を有する2,894名の患者に1%ピロ亜硫酸Naを含むワセリンを対象に48時間パッチテストを実施したところ、50名(発生率1.7%)の患者に陽性反応が認められた。50名のうち7名は職業性とみなされ、残りの43名のうち5名は局所製剤の使用に起因するアレルギー性接触皮膚炎とみなされた(G.A. Vena et al,1994)
- [ヒト試験] 183名の患者に1%ピロ亜硫酸Naを含むワセリンに加えて1%亜硫酸ナトリウムを含むワセリンを対象にパッチテストを実施したところ、10名(発生率5.5%)がピロ亜硫酸Naに、7名(発生率3.8%)が亜硫酸ナトリウムに対して陽性反応を示し、ピロ亜硫酸Naに対して陽性反応を示したうち6名は亜硫酸ナトリウムに対して陽性を示した
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚炎を有する場合においてまれに皮膚感作が報告されているため、一般に皮膚炎を有する場合においてまれに皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。
また、ピロ亜硫酸Naにアレルギー反応を示す場合、亜硫酸ナトリウムに対してもアレルギー反応を示す可能性が高いと考えられます。
健常な皮膚においては安全性データがみあたりませんが、40年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどない(またはごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性あり)と考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ピロ亜硫酸Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,827.
- ⌃“Pubchem”(2021)「Sodium metabisulfite」,2021年6月24日アクセス.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「ピロ亜硫酸ナトリウム」食品添加物事典 新訂第二版,289-290.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「ピロ亜硫酸ナトリウム」医薬品添加物事典2021,504-506.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「酸化防止剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,221-226.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2006)「酸化防止剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,471-475.
- ⌃寺尾 求馬(1986)「抗酸化剤の製剤への応用」ファルマシア(22)(4),364-369. DOI:10.14894/faruawpsj.22.4_364.
- ⌃脇山 尚樹(1991)「医薬品の安定性と有効期間」マテリアルライフ(3)(2),104-109. DOI:10.11338/mls1989.3.104.
- ⌃abcB. Nair & A.R. Elmore(2003)「Final Report on the Safety Assessment of Sodium Sulfite, Potassium Sulfite, Ammonium Sulfite, Sodium Bisulfite, Ammonium Bisulfite, Sodium Metabisulfite and Potassium Metabisulfite」International Journal of Toxicology(22)(2_suppl),63-88. DOI:10.1080/10915810390239478.
- ⌃T. Oliphant, et al(2012)「Contact allergy to sodium sulfite and its relationship to sodium metabisulfite」Contact Dermatitis(66)(3),128-130. DOI:10.1111/j.1600-0536.2011.02029.x.