ジパルミチン酸アスコルビルの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ジパルミチン酸アスコルビル |
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医薬部外品表示名 | ジパルミチン酸アスコルビル |
INCI名 | Ascorbyl Dipalmitate |
配合目的 | 酸化防止 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるアスコルビン酸の2位と6位のヒドロキシ基(-OH)にパルミチン酸のカルボキシ基(-COOH)を脱水縮合(∗1)したジエステル(∗2)ビタミンC誘導体です[1a]。
∗1 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。脂肪酸とアスコルビン酸のエステルにおいては、脂肪酸(R-COOH)のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とアスコルビン酸のヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。
∗2 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。分子内に2基のエステル結合をもつ場合はギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけてジエステルと記載されます。
1.2. 物性・性状
ジパルミチン酸アスコルビルの物性・性状は、
状態 | 溶解性 |
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結晶または結晶性粉末 | エタノール、油脂に可溶、水に不溶 |
このように報告されています[2a]。
1.3. ビタミンC誘導体としての特徴
アスコルビン酸(ビタミンC)は、抗酸化作用、メラニンの産生抑制、コラーゲンやムコ多糖類の合成など優れた機能を有していますが、一方で水溶液では熱および光に不安定であることから、化粧品においては多くの場合、安定化したビタミンC誘導体の形で用いられることが知られています[3][4]。
ジパルミチン酸アスコルビルは、アスコルビン酸の2位と6位のヒドロキシ基(-OH)をエステル化した油溶性ビタミンC誘導体であり、経皮吸収されやすく、モノエステルよりも高い安定性を有していることから[2b]、「安定型ビタミンC誘導体」とよばれています。
また、皮膚においてはアスコルビン酸に分解され、アスコルビン酸として効果を発揮することが報告されており[2c]、使用され始めた1966年以降は美白作用を目的として使用されていた記録がありますが[5]、現在の使用状況を調査すると主に製品の酸化防止目的での使用が一般的であることが伺えます。
2. 化粧品としての配合目的
- 酸化防止
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、ハンドケア製品、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 酸化防止
酸化防止に関しては、まず前提知識として酸化(自動酸化)について解説します。
自動酸化とは、空気中の酸素との接触により常温で起こる酸化反応のことをいいます。
化粧品に用いられている油脂・ロウ類およびその誘導体、界面活性剤、香料、ビタミンなどは、空気中の酸素を吸収して徐々に酸化・変質する、いわゆる酸敗(∗3)の現象を呈すことが知られており[6]、酸敗は不快なにおいや変色などの原因となり、化粧品の安定性を損なうだけでなく、酸敗によって生じる過酸化物は代表的な皮膚刺激物質であり、人体に悪影響を及ぼすことが知られています[7]。
∗3 酸敗(さんぱい)とは、酸化して種々の酸化物を生じ、すっぱくなることをいいます。
アスコルビン酸は、水溶性かつ熱および光に不安定であり、酸化の連鎖反応の途中で生成するラジカルと反応して自らが酸化型アスコルビン酸となり、この酸化型アスコルビン酸が共鳴によって安定化されることによって酸化の連鎖反応を防ぐという抗酸化作用を有しています[8]。
一方で、ジパルミチン酸アスコルビルは、アスコルビン酸に油溶性を付加し安定性を高めた油溶性ビタミンC誘導体であり、酸化しやすい植物油やクリームなど油性成分をベースとする製品自体の酸化防止目的で様々な製品に汎用されていると考えられます[1b]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2016-2017年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)。
∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 1966年からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9a][10]によると、
- [ヒト試験] 25名の被検者に6%ジパルミチン酸アスコルビルを含むフェイスパウダーを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの被検者においても試験を期間を通じて接触感作反応はみられず、この試験製剤は皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Ivy Laboratories,1994)
- [動物試験] ウサギの皮膚に100%ジパルミチン酸アスコルビルを24時間閉塞パッチ適用し、Draize法に基づいて適用後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった(SCC,1993)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9b]によると、
- [動物試験] ウサギの片眼に10%ジパルミチン酸アスコルビル水溶液を点眼し、Draize法に基づいて点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は最小限の眼刺激剤であった(SCC,1993)
このように記載されており、試験データをみるかぎり最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「ジパルミチン酸アスコルビル」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,493.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
- ⌃石神 昭人(2011)「美容とビタミンC」ビタミンCの事典,189-203.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「ビタミン類」香粧品科学 理論と実際 第4版,242-245.
- ⌃伊東 忍, 他(2014)「美白ケア」プロビタミンC – 分子デザインされたビタミンCの知られざる働き,57-73.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「酸化防止剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,221-226.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2006)「酸化防止剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,471-475.
- ⌃中村 成夫(2013)「活性酸素と抗酸化物質の化学」日本医科大学医学会雑誌(9)(3),164-169. DOI:10.1272/manms.9.164.
- ⌃abF.A. Andeersen(1999)「Final Report on the Safety Assessment of Ascorbyl Palmitate, Ascorbyl Dipalmitate, Ascorbyl Stearate, Erythorbic Acid, and sodium Erythorbate」International Journal of Toxicology(18)(3_suppl),1-26. DOI:10.1177/109158189901800303.
- ⌃W. Johnson Jr & I. Boyer(2017)「Safety Assessment of Ethers and Esters of Ascorbic Acid as Used in Cosmetics(∗5)」, 2022年6月1日アクセス.
∗5 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。