ウスバサイシン根茎/根エキスとは…成分効果と毒性を解説

抗酸化成分 保湿 バリア改善
ウスバサイシン根茎/根エキス
[化粧品成分表示名]
・ウスバサイシン根茎/根エキス

[医薬部外品表示名]
・サイシンエキス

ウマノスズクサ科植物ウスバサイシン(学名:Asarum sieboldii = Asiasarum sieboldii)の根茎および根からエタノール、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

ウスバサイシン(薄葉細辛)は、朝鮮半島、中国などに分布し、日本においては本州および九州のやや湿った林下に生育しており、根は辛く独特の芳香を有しています(文献1:2011;文献2:2013)

ウスバサイシン根茎/根エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
フェニルプロパノイド メチルオイゲノール、サフロール
テルペノイド モノテルペン β-ピネン、1,8-シネオール、リモネン
アルカロイド ヒゲナミン(辛味成分)
その他 ペリトリン(辛味成分)

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献2:2013;文献3:2011)

ウスバサイシンの根茎および根(生薬名:細辛)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において身体を温め冷えを除き発汗を促す効能があることから感冒(∗1)、冷えによる頭痛などに用いられ、また鎮咳・去痰作用があることから喘息、鼻炎などに用いられています(文献1:2011;文献4:2016)

∗1 感冒(かんぼう)とは、くしゃみ、鼻水、発熱、倦怠感などの症状を示す急性の呼吸器疾患のことであり、一般に風邪を指します。また流行性感冒の場合はインフルエンザを指します。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的でスキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、洗顔料などに使用されています。

グルタチオンレダクターゼ発現増強による抗酸化作用

グルタチオンレダクターゼ発現増強による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として活性酸素種生成メカニズム、細胞内におけるグルタチオンの役割およびグルタチオンレダクターゼについて解説します。

活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)とは、酸素(O₂)が他の物質と反応しやすい状態に変化した反応性の高い酸素種の総称であり(文献5:2002;文献6:2019)、酸素から産生される活性酸素種の発生メカニズムは、以下のように、

酸素から産生される活性酸素発生メカニズム

酸化力を有する酸素(O₂)が、比較的容易に電子を受けてスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を生成し、さらに酸化が進むと過酸化水素(H₂O₂)、ヒドロキシルラジカル(HO)を経て、最終的に水(H₂O)になるというものです(文献7:2019)

この一連の反応を酸化還元反応と呼んでおり、正常な酸化還元反応において発生したスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)は少量であり、通常は抗酸化酵素の一種であるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)により速やかに分解・消去されます(文献7:2019)

一方で、紫外線の曝露など(∗2)によりスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を含む活性酸素種の過剰な産生が知られており(文献8:1998)、過剰に産生されたスーパーオキシドはスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)による分解・消去が追いつかず、以下の抗酸化メカニズムをみてもらうとわかるように、

∗2 皮膚において活性酸素種が発生する最大の要因は紫外線ですが、他にも排気ガスなどの環境汚染物質、タバコの副流煙などの有害化学物質なども外的要因となります。

酸素から発生する活性酸素種の抗酸化メカニズム

過酸化水素に変化した場合は、過酸化水素分解酵素であるカタラーゼ(catalase)、グルタチオンの存在下でグルタチオンペルオキシダーゼ(glutathione peroxidase)およびチオレドキシンの存在下でペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)により水(H₂O)に分解されますが、紫外線の曝露時間やスーパーオキシドの発生量によっては過酸化水素を経てヒドロキシルラジカル(HO)まで変化することが知られています(文献9:1996;文献10:2019)

発生したヒドロキシルラジカル(HO)は、酸化ストレス障害として過酸化脂質の発生、コラーゲン分解酵素であるMMP(Matrix metalloproteinase:マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現増加によるコラーゲン減少、DNA障害や細胞死などを引き起こし、中長期的にこれらの酸化ストレス障害を繰り返すことで光老化を促進します(文献7:2019;文献11:1996)

次に、グルタチオン(還元型グルタチオン)は紫外線などの酸化ストレスによって誘導され、グルタチオンペルオキシダーゼと共に過酸化水素(H₂O₂)を分解する抗酸化物質であり、自らの活性部位を還元することで酸化型グルタチオンに変化しますが、グルタチオンレダクターゼ(GSHレダクターゼ)とNADPH(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)により還元型グルタチオンに再還元され、細胞の抗酸化機構を調整する役割を担っています(文献10:2019)

このような背景から、紫外線の曝露時および曝露後に活性酸素種の産生を抑制することは、皮膚の酸化ストレス障害を抑制し、ひいては光老化、炎症および色素沈着などの抑制において非常に重要であると考えられます。

2006年に日本メナード化粧品によって報告されたウスバサイシン根茎/根エキスのグルタチオンレダクターゼおよびヒト皮膚への影響検証によると、

in vitro試験においてヒト表皮角化細胞を播種した培地に1μg/mL濃度の各植物エキスを添加し培養・処理した上澄液に酸化型グルタチオンおよびNADPHを加え、340nmの吸光度の時間変化を測定し試料未添加の細胞のグルタチオンレダクターゼ活性を100としたときの試料溶液のグルタチオンレダクターゼ活性を算出したところ、以下のグラフのように、

ウスバサイシン根茎/根エキスの細胞内グルタチオンレダクターゼ活性化効果

ウスバサイシン根茎/根エキスは、細胞内グルタチオンレダクターゼの活性化効果を示した。

次に、各植物エキスの細胞内還元型グルタチオンの増加作用を検討するために、in vitro試験においてヒト表皮角化細胞を播種した培地に1μg/mL濃度の各植物エキスを添加し培養・処理した上澄液にグルタチオンレダクターゼとNADPHを加え反応させた後、総グルタチオン量と酸化型グルタチオン量から還元型グルタチオン量を算出した。

試料未添加の還元型グルタチオン(GSH)/酸化型グルタチオン(GSSG)比を100としたときの試料添加のGSH/GSSG比の値を細胞内還元型グルタチオン比として算出したところ、以下のグラフのように、

ウスバサイシン根茎/根エキスの細胞内還元型グルタチオン比の増加作用

ウスバサイシン根茎/根エキスは、細胞内還元型グルタチオンの増加を示し、細胞の還元型グルタチオン割合を増加させる作用が認められた。

次に、シワやシミに悩む60名の女性被検者(20-45歳)のうち30名に0.5%ウスバサイシン根茎/根エキス配合クリームを、別の30名に対照として未配合クリームをそれぞれ6ヶ月間にわたって使用してもらい、使用終了後に「有効:シワまたはシミが改善した」「やや有効:シワまたはシミがやや改善した」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価してもらったところ、以下の表のように、

試料 被検者数 シワ改善効果
有効 やや有効 無効
ウスバサイシン根茎/根エキス配合クリーム 30 14 15 1
クリームのみ(対照) 30 0 9 21
試料 被検者数 シミ改善効果
有効 やや有効 無効
ウスバサイシン根茎/根エキス配合クリーム 20 10 10 0
クリームのみ(対照) 30 0 11 19

0.5%ウスバサイシン根茎/根エキス配合クリームは、シワおよびシミにおいて改善傾向を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献12:2006)、ウスバサイシン根茎/根エキスにグルタチオンレダクターゼ発現増強による抗酸化作用が認められています。

ヒト試験はシワまたはシミを改善の指標としていますが、シワとシミは紫外線の曝露が主な原因であり、紫外線の曝露によってシワやシミが形成されるメカニズムはいずれも活性酸素種の発現増加を起点とするため、シワおよびシミの改善効果は抗酸化作用によるものといえます。

ただし、ヒト試験においては被検者の主観的評価のみで効果を認めているため、その点は留意する必要があります。

フィラグリン産生促進による保湿作用

フィラグリン産生促進による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割およびフィラグリンについて解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

角質層の構造

角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献13:2001;文献14:2002)

また、角層に存在し水分を保持する働きをもつ水溶性物質は、天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)と呼ばれ、以下の表のように、

成分 含量(%)
アミノ酸 40.0
ピロリドンカルボン酸(PCA) 12.0
乳酸 12.0
尿素 7.0
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン 1.5
ナトリウム(Na⁺) 5.0
カリウム(K⁺) 4.0
カルシウム(Ca²⁺) 1.5
マグネシウム(Mg²⁺) 1.5
リン酸(PO₄³⁻) 0.5
塩化物(Cl⁻) 6.0
クエン酸、ギ酸 0.5
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 8.5

アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しており(文献15:1985)、これらのアミノ酸およびその代謝物は、以下の図のように、

天然保湿因子の産生メカニズム

表皮顆粒層に存在しているケラトヒアリン(∗3)が角質細胞に変化していく過程でフィラグリンと呼ばれるタンパク質となり、このフィラグリンがブレオマイシン水解酵素によって完全分解されることで産生されることが報告されています(文献16:1983;文献17:2002)

∗3 ケラトヒアリンの主要な構成成分は、分子量300-1,000kDaの巨大な不溶性タンパク質であるプロフィラグリンであり、プロフィラグリンは終末角化の際にフィラグリンに分解されます。

一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸類が顕著に低下していることが報告されており(文献18:1989;文献19:1991)、また乾皮症発症部位ではフィラグリンの発現が低下していることが報告されていることから(文献20:1994)、キメの乱れがみられる部位では天然保湿因子の減少により角質層の乾燥が引き起こされている可能性が考えられており、フィラグリン産生を促進することは、角質層の天然保湿因子生成の促進し、結果的にキメの乱れの改善につながると考えられています。

このような背景から、フィラグリンの産生を促進することは角質層の水分保持、ひいては皮膚の健常性の維持において重要であると考えられます。

2006年に日本メナード化粧品によって報告されたウスバサイシン根茎/根エキスのフィラグリンおよびヒト皮膚への影響検証によると、

in vitro試験においてマウス表皮角化細胞由来Pam212細胞を培養しコンフルエントな状態になった培地に0.01mg/mL濃度のウスバサイシン根茎/根エキス(30%エタノール抽出)を添加し、培養後に総プロフィラグリン発現量を測定しウスバサイシン根茎/根エキス未添加の場合の総プロフィラグリン発現量に対する割合をNMF産生率(%)として算出したところ、以下のグラフのように、

ウスバサイシン根茎/根エキスのNMF産生促進作用

ウスバサイシン根茎/根エキスは、優れたNMF産生促進作用(フィラグリン産生促進作用)を有することが確認された。

次に、肌の乾燥やかゆみに悩む60名の女性被検者(30-45歳)のうち30名に0.5%ウスバサイシン根茎/根エキス配合クリームを2ヶ月間連用し、対照として別の30名にウスバサイシン根茎/根エキス未配合クリームを同様に用いた。

評価方法として「優:肌の乾燥が改善された」「良:肌の乾燥がやや改善された」「可:肌の乾燥がわずかに改善された」「不可:使用前と変化なし」の基準で2ヶ月後に評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 不可
ウスバサイシン根茎/根エキス配合クリーム 30 14 9 6 1
クリームのみ(対照) 30 0 2 7 21

0.5%ウスバサイシン根茎/根エキス配合クリーム塗布グループは、未配合クリーム塗布グループと比較して優れた肌の乾燥改善効果を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献21:2006)、ウスバサイシン根茎/根エキスにフィラグリン産生促進による保湿作用が認められています。

セラミド合成およびインボルクリン発現促進によるバリア改善作用

セラミド合成およびインボルクリン発現促進によるバリア改善作用に関しては、まず前提知識として角質層における細胞間脂質の構造、セラミドの役割と産生メカニズムおよびインボルクリンについて解説します。

以下の表皮最外層である角質層の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

角質層の構造

角質層は天然保湿因子を含む角質細胞と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、細胞間脂質は主に、

細胞間脂質構成成分 割合(%)
セラミド 50
遊離脂肪酸 20
コレステロール 15
コレステロールエステル 10
糖脂質 5

このような脂質組成で構成されており(文献22:1995)、その約50%をセラミドが占めています。

これら細胞間脂質は以下の図のように、

細胞間脂質におけるラメラ構造

疎水層と親水層を繰り返すラメラ構造を形成していることが大きな特徴であり、脂質が結合水(∗4)を挟み込むことで水分を保持し、角質細胞間に層状のラメラ液晶構造を形成することでバリア機能を発揮すると考えられており、このバリア機能は、皮膚内の過剰な水分蒸散の抑制および一定の水分保持、外的刺激から皮膚を防御するといった重要な役割を担っています。

∗4 結合水とは、たんぱく質分子や親液コロイド粒子などの成分物質と強く結合している水分であり、純粋な水であれば0℃で凍るところ、角層中の水のうち33%は-40℃まで冷却しても凍らないのは、角層内に存在する水のうち約⅓が結合水であることに由来しています(文献23:1991)。

次に、表皮におけるセラミド生成(合成)プロセスに関しては、以下の表皮におけるセラミド産生プロセス図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

表皮におけるセラミド産生プロセス

表皮細胞は、角化細胞(ケラチノサイト)とも呼ばれ、表皮最下層である基底層で生成された一個の角化細胞は、その次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かい押し上げられていき、各層を移動していく中で有棘細胞、顆粒細胞と分化し、最後はケラチンから成る角質細胞となり、角質層にとどまったのち、角片(∗5)として剥がれ落ちます(文献24:2002)

∗5 角片とは、体表部分でいえば垢、頭皮でいえばフケを指します。

この表皮の新陳代謝は一般的にターンオーバー(turnover)と呼ばれ、正常なターンオーバーによって皮膚は新鮮さおよび健常性を保持しています(文献25:2002)

セラミドの前駆体かつスフィンゴ糖脂質の一種であるグルコシルセラミドも表皮で産生され、角質層において分解酵素であるβ-グルコセレブロシダーゼを介してセラミドに分化されることが知られており(文献26:2008)、またスフィンゴミエリンからもセラミドが合成されることが明らかにされています(文献27:1998)

次に、インボルクリン(involucrin)については、以下の表皮角質層における角質細胞の拡大図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

皮膚における角質細胞の構造図

角質細胞の一番外側には細胞膜が存在しており、細胞膜の内側には周辺帯(cornified cell envelope:CE)と呼ばれる極めて強靭な裏打ち構造の不溶性タンパクの膜が形成されていることが知られています(文献28:2011)

インボルクリンとは、表皮の有棘層から顆粒層で発現し、最終分化の角層において細胞膜の周辺帯として架橋結合される細胞膜裏打ちタンパクのひとつであり、周辺帯形成の最終段階でインボルクリンおよびロリクリン(loricrin)が周辺帯に組み込まれ、細胞間脂質の主要構成成分であるセラミドと周辺帯が結合することによって強固なバリア機能を形成しています。

一方で、皮膚が乾燥寒冷下に長時間曝露されるような外的要因やアトピー性皮膚炎のような内的要因により乾皮症(ドライスキン)が生じた場合は、角質層の機能低下により、角質層の水分保持能の低下およびバリア機能低下による経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss:TEWL)の上昇が起こり(文献29:2004)、その結果として角質細胞や細胞間脂質が規則的に並ばなくなり、そこに生じた隙間からさらに水分が蒸散し、バリア機能・保湿機能が低下していくことが知られています(文献30:2002)

このような背景から、低下したセラミドやインボルクリンの産生量を回復させることによってバリア機能の改善にアプローチすることは、ドライスキンの改善や皮膚の健常性を維持するために重要であると考えられます。

2006年に日本メナード化粧品によって報告されたウスバサイシン根茎/根エキスのセラミド合成およびヒト皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験においてマウスケラチノサイト由来細胞を培養した培地に25種の植物抽出物を最終濃度が固形物として10μg/mLになるように添加し、未添加のセラミド合成促進率を100とした場合の試料添加時のセラミド合成促進量を計測したところ、以下の表のように、

ウスバサイシン根茎/根エキスのセラミド合成促進作用

ウスバサイシン根茎/根エキスは、セラミド合成を促進することが確認された。

次に、肌荒れ、乾燥肌に悩む60名の女性被検者(18-50歳)のうち30名に0.1%ウスバサイシン根茎/根エキス(エタノール抽出)配合化粧水を、別の30名に対照としてウスバサイシン根茎/根エキス未配合化粧水をそれぞれ1ヶ月間使用してもらい、1ヶ月後に肌荒れ、乾燥肌の改善効果を評価してもらったところ、以下の表のように、

試料 肌荒れ、乾燥肌への影響(人数)
改善 やや改善 不変
ウスバサイシン根茎/根エキス配合化粧水 16 10 4
化粧水のみ(対照) 3 5 22

0.1%ウスバサイシン根茎/根エキス配合化粧水の塗布は、未配合化粧水と比較して肌荒れや乾燥肌の予防・改善効果に優れていることが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献31:2006)、ウスバサイシン根茎/根エキスにセラミド合成促進によるバリア改善作用が認められています。

次に、2007年に日本メナード化粧品によって報告されたウスバサイシン根茎/根エキスのインボルクリン発現に対する影響検証によると、

in vitro試験において、10%ヒトケラチノサイト由来HaCaT細胞およびウシ胎児血清を含む培地を培養し、コンフルエント(∗6)な状態になったところで0.01mg/mL濃度のウスバサイシン根茎/根エキスを添加し、培養後に試料未添加のインボルクリンmRNA発現量を100%として試料を添加した場合のインボルクリンmRNA発現率を算出したところ、以下のグラフのように、

∗6 コンフルエントとは、細胞が培養容器の接着面を覆いつくした状態を指します。

ウスバサイシン根茎/根エキスのインボルクリン発現促進作用

ウスバサイシン根茎/根エキスは、インボルクリンの発現を促進することが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献32:2007)、ウスバサイシン根茎/根エキスにインボルクリン発現促進によるバリア改善作用が認められています。

ウスバサイシン根茎/根エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ウスバサイシン根茎/根エキスの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性試験データ(文献33:2000)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部に固形分濃度5%ウスバサイシン根茎/根エキス水溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
  • [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に固形分濃度5%ウスバサイシン根茎/根エキス水溶液0.5mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

ウスバサイシン根茎/根エキスは抗酸化成分、保湿成分、バリア改善成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗酸化成分 保湿成分 バリア機能修復成分

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