アスタキサンチンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | アスタキサンチン |
---|---|
医薬部外品表示名 | アスタキサンチン液 |
INCI名 | Astaxanthin |
配合目的 | 抗酸化 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるβ-カロテンの基本構造にヒドロキシ基(-OH)とカルボニル基(−C(=O)−)を対称にもつカロテノイド系赤色色素です[1][2]。
アスタキサンチンは、主にオキアミ(学名:Euphausiacea 英名:krill)由来とヘマトコッカス藻(学名:Haematococcus pluvialis)由来があり[3a]、以前はアスタキサンチンの定義が”甲殻類から得られるカロテノイド系色素”であったことから[4]、甲殻類である前者を化粧品表示名「アスタキサンチン」、甲殻類でない後者を化粧品表示名「ヘマトコッカスプルビアリスエキス」と定義していましたが、現在はアスタキサンチンの定義から「甲殻類から得られる」が削除されたため、由来を問わず化粧品表示名「アスタキサンチン」の表示が可能となっています。
一般にヘマトコッカス藻由来の場合は、化粧品表示名として「ヘマトコッカスプルビアリスエキス」と「アスタキサンチン」の両方表示されることが多いです。
このような背景から、由来を問わずアスタキサンチンとして解説し(∗1)、ヘマトコッカス藻由来に限定したものはヘマトコッカスプルビアリスエキスのページにて解説しています。
∗1 安全性については、由来を含めて記載する必要があると判断したため、由来を含めて記載しています。
1.2. 物性・性状
アスタキサンチンの物性・性状は、
状態 | 板状結晶 |
---|---|
溶解性 | エタノール、油脂類に可溶、水に不溶 |
1.3. 分布
アスタキサンチンは、自然界においてエビ、カニ、オキアミなどの甲殻類をはじめサケ、イクラなど赤橙色を呈する水産物、ヘマトコッカス藻などに多く存在しています[7]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
アスタキサンチンの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | ヘマトコッカス藻抽出物が橙-赤色の着色料として水産練製品、油脂製品、スープ類などに使用されています[6b]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 一重項酸素消去による抗酸化作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、マスク製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、アウトバストリートメント製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 一重項酸素消去による抗酸化作用
一重項酸素消去による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として皮膚における活性酸素種、活性酸素種の酸化還元反応および一重項酸素について解説します。
活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)とは、酸素(O2)が他の物質と反応しやすい状態に変化した反応性の高い酸素種の総称であり[8][9]、酸素から産生される活性酸素種の発生メカニズムは、以下のように、
酸化力を有する酸素(O2)が、比較的容易に電子を受けてスーパーオキシド(superoxide:O2–)を生成し、さらに酸化が進むと過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシルラジカル(HO)を経て、最終的に水(H2O)になるというものです[10a]。
この一連の反応を酸化還元反応と呼んでおり、正常な酸化還元反応において発生したスーパーオキシド(superoxide:O2–)は少量であり、通常は抗酸化酵素の一種であるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)により速やかに分解・消去されます[10b]。
一方で、紫外線の曝露など(∗2)によりスーパーオキシド(superoxide:O2–)を含む活性酸素種の過剰な産生が知られており[11]、過剰に産生されたスーパーオキシドはスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)による分解・消去が追いつかず、紫外線の曝露時間やスーパーオキシドの発生量によってはヒドロキシルラジカル(HO)まで変化することが知られています。
∗2 皮膚において活性酸素種が発生する最大の要因は紫外線ですが、他にも排気ガスなどの環境汚染物質、タバコの副流煙などの有害化学物質なども外的要因となります。
発生したヒドロキシルラジカル(HO)は、酸化ストレス障害として過酸化脂質の発生、コラーゲン分解酵素であるMMP(Matrix metalloproteinase:マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現増加によるコラーゲン減少、DNA障害や細胞死などを引き起こし、中長期的にこれらの酸化ストレス障害を繰り返すことで光老化を促進します[10c][12][13]。
また、紫外線の曝露によって酸素(O2)が光エネルギーを受けて生成される一重項酸素(1O2)は、過酸化脂質の生成やコラーゲン分子内架橋形成によるコラーゲンの硬質化などを引き起こすことが知られています[10d][14][15]。
このような背景から、一重項酸素を消去することは皮膚の酸化ストレス障害を抑制し、ひいては光老化などの抑制において非常に重要なアプローチのひとつであると考えられます。
1989年にドイツのデュッセルドルフ大学生理学化学研究所によって報告された一重項酸素に対するアスタキサンチンの影響検証によると、
– in vitro : 一重項酸素消去作用 –
種々のカロテノイドの一重項酸素消去活性を一重項酸素消去速度定数を指標として測定したところ、以下の表のように、
カロテノイド | 一重項酸素消去速度定数 10-9Kq(M-1 s-1) |
---|---|
リコペン | 31 |
アスタキサンチン | 24 |
β-カロテン | 14 |
ルテイン | 8 |
α-トコフェロール | 0.3 |
アスタキサンチンは、非常に高い一重項酸素消去活性を示した。
このような検証結果が明らかにされており[16]、アスタキサンチンに一重項酸素消去作用が認められています。
次に、2006年に富士化学工業によって報告されたアスタキサンチンのヒト皮膚シワに対する有効性検証によると、
– ヒト使用試験 –
20名の被検者(普通肌6名、乾燥肌7名、混合肌7名)の目元に0.7mg/gヘマトコッカス藻由来アスタキサンチン配合クリームを2週間使用してもらい、2週間後に皮膚写真判定において皮膚計測専門家が評価したところ、20名の平均として以下のグラフのように、
アスタキサンチン配合クリームの塗布は、小ジワ、キメの均一性、たるみのなさなどが使用前より有意(p<0.01)な改善を示した。
このような検証結果が明らかにされており[17]、アスタキサンチンに抗シワ作用が認められています。
アスタキサンチンは紫外線領域に吸収極大を有していないことから、アスタキサンチンの抗シワ作用メカニズムは、一重項酸素消去によるものであると考えられています[18]。
3. 混合原料としての配合目的
アスタキサンチンは混合原料が開発されており、アスタキサンチンと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | ASTAX-ST |
---|---|
構成成分 | アスタキサンチン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トコフェロール |
特徴 | オキアミ由来アスタキサンチン含有オイル |
原料名 | アスタキサンチン-LSC1 |
---|---|
構成成分 | グリセリン、水、オレイン酸ポリグリセリル-10、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ヘマトコッカスプルビアリスエキス、ステアリン酸ポリグリセリル-10、リゾレシチン、アスタキサンチン、トコフェロール |
特徴 | ヘマトコッカス藻抽出アスタキサンチンを含有した水溶性乳化液 |
原料名 | アスタキサンチン-PC1 |
---|---|
構成成分 | シクロデキストリン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ヘマトコッカスプルビアリスエキス、トコフェロール、アスタキサンチン |
特徴 | ヘマトコッカス藻抽出アスタキサンチンを含有した粉末 |
原料名 | Phytopresome Asta |
---|---|
構成成分 | 水添レシチン、フィトステロールズ、アスタキサンチン、ヘマトコッカスプルビアリスエキス、トコフェロール |
特徴 | ヘマトコッカス藻由来アスタキサンチン含有リポソーム |
4. 配合量範囲
アスタキサンチン液は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 0.10 |
育毛剤 | 0.10 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 0.10 |
薬用口唇類 | 0.10 |
薬用歯みがき類 | 配合不可 |
浴用剤 | 配合不可 |
5. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載(ヘマトコッカス藻由来)
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性
セキひふ科クリニック、昭和大学医学部皮膚科、エフシージー総合研究所および富士化学工業バイオ事業部の安全性試験データ[3b]によると、
- [ヒト試験] 45名の被検者に5%ヘマトコッカス藻由来アスタキサンチンを含むトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去30分後および24時間後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質は皮膚刺激剤ではなかった
- [ヒト試験] 11名の被検者に0.7mg/gヘマトコッカス藻由来アスタキサンチンを含むクリームを対象に21日間皮膚累積刺激性試験を実施したところ、いずれの被検者においても有害な皮膚反応はみられず、この試験製剤は皮膚累積刺激剤ではなかった
このように記載されており、試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
眼刺激性に関する試験結果や安全データはみつからず、データ不足のため詳細は不明です。
5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)
医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
また、オキアミはエビに似ているものの、エビの仲間ではなくオキアミ類となっており、厚生労働省が公開しているオキアミに対する皮膚感作データ[19]によると、
回答:えびの摂取によりアレルギー症状を呈した症例について、オキアミ類を摂取した場合の症状の有無をアンケート調査したところ、アレルギー症状を呈する患者の割合が低かったことから、今回の義務表示の対象としていないところです。
このように回答されており、エビにアレルギーを有している場合においてもオキアミではアレルギー症状が起こることはまれだと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「アスタキサンチン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,128-129.
- ⌃眞岡 孝至(2019)「アスタキサンチンの化学」アスタキサンチンの機能と応用<普及版>,37-47.
- ⌃ab関 太輔, 他(2001)「ヘマトコッカス由来アスタキサンチンの皮膚に及ぼす影響」Fragrance Journal(29)(12),98-103.
- ⌃日本化粧品工業連合会(2005)「アスタキサンチン」日本化粧品成分表示名称事典 第2版,89.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「アスタキサンチン」有機化合物辞典,23.
- ⌃ab樋口 彰, 他(2019)「ヘマトコッカス藻色素」食品添加物事典 新訂第二版,327-328.
- ⌃三沢 典彦(2019)「新進化論とアスタキサンチンを産生する高等植物」アスタキサンチンの機能と応用<普及版>,29-36.
- ⌃朝田 康夫(2002)「活性酸素とは何か」美容皮膚科学事典,153-154.
- ⌃河野 雅弘, 他(2019)「活性酸素種とは」抗酸化の科学,XⅢ-XⅣ.
- ⌃abcd小澤 俊彦(2019)「活性酸素種および活性窒素種の発生系」抗酸化の科学,123-138.
- ⌃荒金 久美(1998)「光と皮膚」ファルマシア(34)(1),30-33. DOI:10.14894/faruawpsj.34.1_30.
- ⌃花田 勝美(1996)「活性酸素・フリーラジカルは皮膚でどのようにつくられるか」皮膚の老化と活性酸素・フリーラジカル,15-35.
- ⌃小林 枝里, 他(2013)「表皮の酸化ストレスとその防御機構」Fragrance Journal(41)(2),16-21.
- ⌃寺尾 純二(2016)「生体における一重項酸素の生成と消去 -酸化ストレスとの関わりを考える-」ビタミン(90)(11),525-536. DOI:10.20632/vso.90.11_525.
- ⌃笠 明美, 他(1994)「一重項酸素によるコラーゲンの重合」日本化粧品技術者会誌(28)(2),163-171. DOI:10.5107/sccj.28.163.
- ⌃P.D. Mascio, et al(1989)「Lycopene as the most efficient biological carotenoid singlet oxygen quencher」Archives of Biochemistry and Biophysics(274)(2),532-538. DOI:10.1016/0003-9861(89)90467-0.
- ⌃菅沼 薫(2019)「皮膚の光老化とアスタキサンチン」アスタキサンチンの機能と応用<普及版>,151-161.
- ⌃笠 明美(2019)「皮膚の光老化とアスタキサンチンのシワ抑制メカニズム」アスタキサンチンの機能と応用<普及版>,182-189.
- ⌃厚生労働省(2008)「食品衛生法施行規則(昭和23年厚生省令第23号)の一部改正案(アレルギー表示対象品目に「えび」、「かに」を追加することについて)に対して寄せられた御意見について(案)」平成20年2月27日薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会表示部会, 2018年3月10日アクセス.