ブドウ種子エキスとは…成分効果と毒性を解説

抗酸化 色素沈着抑制
ブドウ種子エキス
[化粧品成分表示名]
・ブドウ種子エキス

[医薬部外品表示名]
・ブドウ種子エキス

ブドウ科植物ヨーロッパブドウ(学名:Vitis Vinifera 英名:Common Grape)(∗1)の種子からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

∗1 一般に「ブドウ(葡萄)」といえば「ヨーロッパブドウ」を指します。

ヨーロッパブドウは、西アジア(黒海とカスピ海間の地域)を原産とし(文献1:1975)、紀元前30世紀からの古い栽培の歴史があり、現在では西部系の品種群がイタリア、スペイン、フランスなどで、東部系の品種群が中国などで栽培されています(文献2:2017)

ヨーロッパブドウはもともと降雨の少ない地域に適しており、降雨の多い日本では栽培が難しいことが知られていますが、日本においては山梨県で800年以上前に「甲州ぶどう」という品種が発見され、この品種はヨーロッパブドウ(学名:Vitis Vinifera 英名:Common Grape)と中国の野生種であるヤマブドウ(学名:Vitis davidii)との種間雑種として中国から日本に渡来した可能性が高いと考えられており、現在においても山梨県で栽培されています(文献2:2017)

1930年代には民間の個人育種家によってヨーロッパブドウの品種を用いた交雑育種が始められ、現在はヨーロッパブドウの血を引く様々な品種が山梨県、長野県、山形県、岡山県をはじめ全国各地で栽培されています(文献2:2017)

ブドウ種子エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
フラボノイド フラバノール プロアントシアニジン(主要成分)、エピカテキンガレート、エピカテキン

これらの成分で構成されていることが報告されており(文献3:2016;文献4:-)、主要成分は活性酸素消去による抗酸化能で知られるプロアントシアニジン(proanthocyanidin)です。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、まつ毛美容液など様々な製品に使用されています。

また、フルーツ(果物)やブドウをコンセプトにした製品にも配合されています。

SOD様活性による抗酸化作用

SOD様活性による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として皮膚における活性酸素種、活性酸素種の酸化還元反応およびSODの役割について解説します。

活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)とは、酸素(O₂)が他の物質と反応しやすい状態に変化した反応性の高い酸素種の総称であり(文献5:2002;文献6:2019)、酸素から産生される活性酸素種の発生メカニズムは、以下のように、

酸素から産生される活性酸素発生メカニズム

酸化力を有する酸素(O₂)が、比較的容易に電子を受けてスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を生成し、さらに酸化が進むと過酸化水素(H₂O₂)、ヒドロキシルラジカル(HO)を経て、最終的に水(H₂O)になるというものです(文献7:2019)

この一連の反応を酸化還元反応と呼んでおり、正常な酸化還元反応において発生したスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)は少量であり、通常は抗酸化酵素の一種であるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)により速やかに分解・消去されます(文献7:2019)

一方で、紫外線の曝露など(∗2)によりスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を含む活性酸素種の過剰な産生が知られており(文献8:1998)、過剰に産生されたスーパーオキシドはスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)による分解・消去が追いつかず、紫外線の曝露時間やスーパーオキシドの発生量によってはヒドロキシルラジカル(HO)まで変化することが知られています。

∗2 皮膚において活性酸素種が発生する最大の要因は紫外線ですが、他にも排気ガスなどの環境汚染物質、タバコの副流煙などの有害化学物質なども外的要因となります。

発生したヒドロキシルラジカル(HO)は、酸化ストレス障害として過酸化脂質の発生、コラーゲン分解酵素であるMMP(Matrix metalloproteinase:マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現増加によるコラーゲン減少、DNA障害や細胞死などを引き起こし、中長期的にこれらの酸化ストレス障害を繰り返すことで光老化を促進します(文献7:2019;文献9:1996;文献10:2013)

このような背景から、紫外線の曝露時および曝露後にスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)の活性を増強することは、皮膚の酸化ストレス障害を抑制し、ひいては光老化、炎症および色素沈着などの抑制において非常に重要であると考えられます。

1994年にコーセーおよびキッコーマンによって報告されたブドウ種子エキスのスーパーオキシドおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験において基質緩衝液にウシ血清アルブミン0.1mLおよび各濃度の試料0.1mLを混合し、10分間放置した後に酵素溶液0.1mLを添加して培養・処理した後に吸光度を測定し、スーパーオキシド除去率を算出したところ、以下のグラフのように、

ブドウ種子エキスのスーパーオキシド除去作用

ブドウ種子エキスと他の抗酸化剤の併用によるスーパーオキシド除去作用

ブドウ種子エキスは、単独でも濃度依存的なスーパーオキシド除去作用を示し、かつ他の抗酸化剤と併用した場合に相乗効果を示すことを確認した。

次に、45名の女性被検者(28-58歳)のうち15名に0.1%ブドウ種子エキス配合乳液を、別の15名に0.1%ブドウ種子エキスおよび0.01%トコフェロール(抗酸化剤)配合乳液を、残りの15名に対照としてブドウ種子エキス未配合乳液を、それぞれ1日2回(朝晩)3ヶ月にわたって洗顔後に塗布してもらった。

評価方法として「有効:肌のツヤ・ハリが増し、くすみが目立たなくなった」「やや有効:肌のツヤ・ハリがやや増し、くすみがやや目立たなくなった」「無効:使用前と変化なし」の基準で3ヶ月後に評価したところ、以下の表のように、

試料 くすみ改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
ブドウ種子エキス配合乳液 1 9 5
ブドウ種子エキス + トコフェロール配合乳液 13 1 1
乳液のみ(対照) 0 2 13
試料 ハリ・ツヤ改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
ブドウ種子エキス配合乳液 2 6 7
ブドウ種子エキス + トコフェロール配合乳液 13 2 0
乳液のみ(対照) 0 1 14

0.1%ブドウ種子エキス配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して肌のくすみを改善し、ツヤ・ハリを付与することがわかった。

また、0.1%ブドウ種子エキスに0.01%トコフェロールを併用することで相乗的に効果を発揮することが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献11:1994)、ブドウ種子エキスにSOD様活性による抗酸化作用が認められています。

また、ブドウ種子エキスに抗酸化剤を併用することで抗酸化作用の相乗効果が得られることが明らかにされています(文献11:1994)

ヒト試験は肌のくすみおよびツヤ・ハリを改善の指標としていますが、肌のくすみおよびツヤ・ハリは紫外線の曝露が主な原因であり、紫外線の曝露によって肌のくすみやツヤ・ハリの低下が起こるメカニズムはいずれも活性酸素種の発現増加を起点とするため、肌のくすみおよびツヤ・ハリの改善効果は抗酸化作用によるものといえます。

チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用

チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献12:2002;文献13:2016;文献14:2019)

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献12:2002;文献14:2019)

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献12:2002;文献14:2019)

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献12:2002)

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献12:2002)

このような背景から、チロシナーゼの活性を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチであると考えられています。

1994年にコーセーおよびキッコーマンによって報告されたブドウ種子エキスのチロシナーゼおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、

in vitro試験においてL-ドーパを含む基質溶液100mLに各試料および酵素溶液0.1mLを加えて培養し、培養後に吸光度を測定し、チロシナーゼ活性阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

ブドウ種子エキスのチロシナーゼ活性阻害作用

ブドウ種子エキスと他のチロシナーゼ活性阻害剤の併用によるチロシナーゼ活性阻害作用

ブドウ種子エキスは、単独でもチロシナーゼ活性阻害作用を示したが、他のチロシナーゼ活性阻害剤と併用した場合に相乗効果を示すことを確認した。

次に、60名の女性被検者(23-44歳)のうち15名に0.2%ブドウ種子エキス配合乳液を、別の15名に1.0%マグワ根皮エキス(チロシナーゼ活性阻害剤)配合乳液を、さらに別の15名に0.2%ブドウ種子エキスおよび1.0%マグワ根皮エキス配合乳液を、残りの15名には対照としてブドウ種子エキス未配合乳液を、それぞれ1日2回(朝晩)3ヶ月にわたって洗顔後に塗布してもらった。

評価方法として「有効:シミ・ソバカスが目立たなくなった」「やや有効:シミ・ソバカスがやや目立たなくなった」「無効:使用前と変化なし」の基準で3ヶ月後に評価したところ、以下の表のように、

試料 色素沈着改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
ブドウ種子エキス配合乳液 3 10 2
マグワ根皮エキス配合乳液 2 6 7
ブドウ種子エキス + マグワ根皮エキス配合乳液 12 3 0
乳液のみ(対照) 0 6 9

0.2%ブドウ種子エキス配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して皮膚色素沈着を改善することがわかった。

また、0.2%ブドウ種子エキスに1.0%マグワ根皮エキスを併用することで相乗的に効果を発揮することが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献15:1994)、ブドウ種子エキスにチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。

また、ブドウ種子エキスにチロシナーゼ活性阻害剤を併用することで色素沈着抑制作用の相乗効果が得られることが明らかにされています(文献15:1994)

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ブドウ種子エキスの配合製品数と配合量の調査結果(2012年)

ブドウ種子エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ブドウ種子エキスの現時点での安全性は、

  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献16:2014)によると、

  • [ヒト試験] 31名の被検者の顔や首に0.15%ブドウ種子エキスを含むアフターシェービングバームを少なくとも1日1回2週間連続で使用してもらったところ、いずれの被検者も紅斑および乾燥の兆候はなく、皮膚刺激は観察されなかった(Clinical Research Laboratories Inc,2006)
  • [ヒト試験] 101名の被検者に0.0002%ブドウ種子エキスを含むボディローション製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(RCTS Inc,2007)
  • [ヒト試験] 105名の被検者に1%ブドウ種子エキスを含むヘアコンディショナー0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Product Investigations Inc,2010)
  • [ヒト試験] 105名の被検者に0.15%ブドウ種子エキスを含むアフターシェービングバーム0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間2-4回目で1名の被検者に偽陽性反応、また5-8回目で最小限の紅斑が観察され、別の1名の被検者は1-2回目で皮膚反応が観察されたが、これらの反応は有意なものとは判断されず、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた(TKL Research,2006)
  • [ヒト試験] 107名の被検者に1%ブドウ種子エキス0.15mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において5名にグレード1、1名にグレード2の反応が観察され、チャレンジ期間において3名にグレード1の反応がみられたが、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Product Investigations Inc,2004)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献16:2014)によると、

  • [in vitro試験] 畜牛の眼球から摘出した角膜を用いて、角膜表面に0.15%ブドウ種子エキスを含む製品を処理した後、角膜の濁度ならびに透過性の変化量を定量的に測定したところ(BCOP法)、軽度の眼刺激剤に分類された(Institute for In Vitro Sciences Inc,2006)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、軽度の眼刺激性であると報告されているため、一般に眼刺激性は軽度の眼刺激性を引き起こす可能性があると考えられます。

∗∗∗

ブドウ種子エキスは抗酸化成分、美白成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗酸化成分 美白成分

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参考文献:

  1. J. Einset, et al(1975)「Grapes」Advances in Fruit Breeding,130-153.
  2. 杉田 浩一, 他(2017)「ぶどう」新版 日本食品大事典,695-698.
  3. 林 真一郎(2016)「グレープシード」メディカルハーブの事典 改定新版,56-57.
  4. キッコーマンバイオケミファ株式会社(-)「グラヴィノール KPA-CU」技術資料.
  5. 朝田 康夫(2002)「活性酸素とは何か」美容皮膚科学事典,153-154.
  6. 河野 雅弘, 他(2019)「活性酸素種とは」抗酸化の科学,XⅢ-XⅣ.
  7. 小澤 俊彦(2019)「活性酸素種および活性窒素種の発生系」抗酸化の科学,123-138.
  8. 荒金 久美(1998)「光と皮膚」ファルマシア(34)(1),30-33.
  9. 花田 勝美(1996)「活性酸素・フリーラジカルは皮膚でどのようにつくられるか」皮膚の老化と活性酸素・フリーラジカル,15-35.
  10. 小林 枝里, 他(2013)「表皮の酸化ストレスとその防御機構」Fragrance Journal(41)(2),16-21.
  11. 株式会社コーセー&キッコーマン株式会社(1994)「皮膚外用剤」特開平06-336419.
  12. 朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  13. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  14. 田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43.
  15. 株式会社コーセー&キッコーマン株式会社(1994)「化粧料」特開平06-336418.
  16. Cosmetic Ingredient Review(2014)「Safety Assessment of Vitis vinifera (Grape)-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(33)(3_Suppl),48S-83S.

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