セイヨウハッカ葉エキスとは…成分効果と毒性を解説

抗酸化 ヘアコンディショニング
セイヨウハッカ葉エキス
[化粧品成分表示名]
・セイヨウハッカ葉エキス

[医薬部外品表示名]
・セイヨウハッカエキス

シソ科植物ペパーミント(学名:Mentha piperita 和名:セイヨウハッカ)の葉からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

ミント(mint)とはシソ科ハッカ属の総称であり、ペパーミント(Peppermint)はウォーターミント(学名:Mentha aquatica)とスペアミント(学名:Mentha spicata)の自然交配種とされ、ヨーロッパ大陸を原産とし、1696年にイングランドで発見されて以来ヨーロッパで急速に栽培が広がり、現在はヨーロッパや米国を中心に世界各地で栽培されています(文献1:2014;文献2:2018)

セイヨウハッカ葉エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
テルペノイド モノテルペン l-メントール、l-メントン、メントフラン、1,8-シネオール
タンニン シソ科タンニン
フラボノイド フラボン アピゲニン、ルテオリン

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献2:2018;文献3:2016)

ペパーミント葉の化粧品以外の主な用途としては、清涼感と刺激感のある爽やかな芳香を有することから食品分野においてアイスクリーム、キャンディ、ガム、飲料、リキュールなどに(文献4:1987;文献5:1988)、口腔衛生分野において歯磨剤などに(文献6:2010)、それぞれ香料・フレーバーとして用いられています。

また、メディカルハーブ分野においてはペパーミントの精油が平滑筋に直接作用し鎮痙作用を発揮することから消化不良、腸内にガスが溜まる鼓腸、過敏性腸症候群などにハーブティーやカプセル剤として用いられるほか、呼吸器系の不調にトローチ剤や軟膏として用いられています(文献1:2014;文献3:2016)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、頭皮ケア製品、ボディソープ製品、アウトバストリートメント製品、プレスタイリング製品、デオドラント製品など様々な製品に汎用されています。

また、ハッカおよびその清涼感をコンセプトにした製品にも配合されています。

SOD様活性による抗酸化作用

SOD様活性による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として皮膚における活性酸素種、活性酸素種の酸化還元反応およびSODの役割について解説します。

活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)とは、酸素(O₂)が他の物質と反応しやすい状態に変化した反応性の高い酸素種の総称であり(文献7:2002;文献8:2019)、酸素から産生される活性酸素種の発生メカニズムは、以下のように、

酸素から産生される活性酸素発生メカニズム

酸化力を有する酸素(O₂)が、比較的容易に電子を受けてスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を生成し、さらに酸化が進むと過酸化水素(H₂O₂)、ヒドロキシルラジカル(HO)を経て、最終的に水(H₂O)になるというものです(文献9:2019)

この一連の反応を酸化還元反応と呼んでおり、正常な酸化還元反応において発生したスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)は少量であり、通常は抗酸化酵素の一種であるスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)により速やかに分解・消去されます(文献9:2019)

一方で、紫外線の曝露など(∗1)によりスーパーオキシド(superoxide:O₂⁻)を含む活性酸素種の過剰な産生が知られており(文献10:1998)、過剰に産生されたスーパーオキシドはスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)による分解・消去が追いつかず、紫外線の曝露時間やスーパーオキシドの発生量によってはヒドロキシルラジカル(HO・)まで変化することが知られています。

∗1 皮膚において活性酸素種が発生する最大の要因は紫外線ですが、他にも排気ガスなどの環境汚染物質、タバコの副流煙などの有害化学物質なども外的要因となります。

発生したヒドロキシルラジカル(HO)は、酸化ストレス障害として過酸化脂質の発生、コラーゲン分解酵素であるMMP(Matrix metalloproteinase:マトリックスメタロプロテアーゼ)の発現増加によるコラーゲン減少、DNA障害や細胞死などを引き起こし、中長期的にこれらの酸化ストレス障害を繰り返すことで光老化を促進します(文献9:2019;文献11:1996;文献12:2013)

このような背景から、紫外線の曝露時および曝露後にスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)の活性を増強することは、皮膚の酸化ストレス障害を抑制し、ひいては光老化、炎症および色素沈着などの抑制において非常に重要なアプローチのひとつであると考えられます。

2006年に一丸ファルコスによって報告されたセイヨウハッカ葉エキスのスーパーオキシドおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験において96ウェルプレートの各ウェルに各濃度のセイヨウハッカ葉エキスと純水を20μLずつ加え、SOD Assay Kit-WSTに基づいた処理工程を実施した後に吸光度を測定し、活性酸素消去率(スーパーオキシド消去率)を算出したところ、以下のグラフのように、

セイヨウハッカ葉エキスのスーパーオキシド消去作用

セイヨウハッカ葉エキスは、優れたスーパーオキシド消去作用を示すことが確認された。

次に、20名の被検者のうち10名に5%セイヨウハッカ葉エキス配合乳液を、別の10名に対照として未配合乳液を、それぞれ顔面に1日1回3ヶ月間連続使用してもらった。

3ヶ月後に「有効:肌のツヤ・ハリが増し、乾燥肌・肌荒れが改善された」「やや有効:肌のツヤ・ハリがやや増し、乾燥肌・肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 皮膚感触に対する評価(人数)
有効 やや有効 無効
セイヨウハッカ葉エキス配合乳液 10 4 4 2
乳液のみ(対照) 10 0 2 8

5%セイヨウハッカ葉エキス配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して乾燥肌を改善し、肌にツヤ・ハリを付与することが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献13:2006)、セイヨウハッカ葉エキスにSOD様活性による抗酸化作用が認められています。

ヘアコンディショニング作用

ヘアコンディショニング作用に関しては、1995年に資生堂によって報告されたセイヨウハッカ葉エキスの毛髪摩擦およびヒト毛髪に対する影響検証によると、

あらかじめ市販のアルキル硫酸エステル塩系シャンプーで洗浄し十分に水ですすいだ毛髪を、1%セイヨウハッカ葉エキス(30%エタノール抽出)水溶液中または対照として1%30%エタノール水溶液中にそれぞれ40℃で10分間浸漬し、40℃の水で十分にすすいだ後に風乾するという工程を5回実施し、これらの毛髪の静摩擦係数および動摩擦係数(∗2)を測定し平均値を算出したところ、以下の表のように、

∗2 摩擦とは、触れ合っている物体と物体のうち片方が運動しようとする時または運動している時、その運動を妨げようとする現象のことをいい、摩擦には静止した物体との間にはたらく「静摩擦(静止摩擦)」と互いに対して運動している「動摩擦(運動摩擦)」の2つの領域があります。たとえば斜面上の物体が滑り落ちずにその場に止まることができるのは静止摩擦力のはたらきであり、氷の上を滑るカーリングの石はそれを減速させるような動摩擦力を受けます。毛髪において摩擦係数は、その数値が高いほど摩擦力が高い(平滑性や柔軟性が低い)ことを示し、その数値が低いほど摩擦力が低い(平滑性や柔軟性が高い)ことを示します。

試料 静摩擦係数 動摩擦係数
セイヨウハッカ葉エキス 0.345 0.340
30%エタノール溶液のみ(対照) 0.430 0.370

1%濃度セイヨウハッカ葉エキス水溶液で処理した毛髪は、未処理の毛髪の摩擦係数よりも低い値を示したことから、1%セイヨウハッカ葉エキス水溶液で処理した毛髪の平滑性および柔軟性が優れていることが確認された。

次に、20名の女性被検者(18-42歳)に市販ヘアシャンプーで洗髪後に1%セイヨウハッカ葉エキスを含むヘアリンスまたは比較対照としてセイヨウハッカ葉エキス未配合ヘアリンスそれぞれ12gを塗布してもらい、約40℃の水ですすぎ洗してからタオルドライおよびドライヤー乾燥後の毛髪の感触を「良い」「普通」「良くない」の3段階で判定してもらった。

その結果、1%濃度セイヨウハッカ葉エキスを含むヘアリンスは、未配合ヘアリンスと比較してうるおいとしなやかさに優れていることが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献14:1995)、セイヨウハッカ葉エキスにヘアコンディショニング作用が認められています。

複合植物エキスとしてのセイヨウハッカ葉エキス

セイヨウハッカ葉エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、セイヨウハッカ葉エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 GIGAWHITE
構成成分 ゼニアオイ花/葉/茎エキス、セイヨウハッカ葉エキス、セイヨウサクラソウ花エキス、ハゴロモグサ花/葉/茎エキス、ベロニカオフィシナリス花/葉/茎エキス、メリッサ葉エキス、セイヨウノコギリソウ花/葉/茎エキス、BGグリセリンエタノール
特徴 肌ブライトニング目的で設計された7種類の混合植物抽出液

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の1998年および2017-2018年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

セイヨウハッカ葉エキスの配合製品数と配合量の比較調査結果(2017-2018年)

セイヨウハッカ葉エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

セイヨウハッカ葉エキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚刺激性(皮膚炎や敏感肌を有する場合):ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献15:2018)によると、

  • [ヒト試験] 52名の被検者に100%セイヨウハッカ葉エキスを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も皮膚刺激および皮膚感作の兆候はなかった(Anonymous,2017)
  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養表皮モデルを用いて10%および100%セイヨウハッカ葉エキスを処理し評価したところ、この試験物質は陰性であった(Anonymous,2017)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚一次刺激および累積刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

– 皮膚炎を有する場合 –

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献15:2018)によると、

  • [ヒト試験] 敏感肌や皮膚炎を有した25名の被検者(湿疹:4名、アレルギー:4名、過敏:17名)に0.2961%セイヨウハッカ葉エキスを含むリップスティックを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去30分後に皮膚反応を評価したところ、いずれの被検者も皮膚刺激を示さなかった(Derma Consult GmbH,2015)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚炎や敏感肌を有する場合において皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

∗∗∗

セイヨウハッカ葉エキスは抗酸化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗酸化成分

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参考文献:

  1. レベッカ ジョンソン, 他(2014)「ペパーミント」メディカルハーブ事典,171-173.
  2. ジャパンハーブソサエティー(2018)「ペパーミント」ハーブのすべてがわかる事典,192-193.
  3. 林 真一郎(2016)「ペパーミント」メディカルハーブの事典 改定新版,146-147.
  4. 宮入 照子(1987)「アイスクリームに使用する洋酒,スパイスの嗜好について」調理科学(20)(3),259-264.
  5. 山中 昭彦(1988)「食べもののにおいの化学」化学と教育(36)(5),475-478.
  6. 平野 正徳(2010)「たかがハミガキ,されどハミガキ」化学と教育(58)(6),280-281.
  7. 朝田 康夫(2002)「活性酸素とは何か」美容皮膚科学事典,153-154.
  8. 河野 雅弘, 他(2019)「活性酸素種とは」抗酸化の科学,XⅢ-XⅣ.
  9. 小澤 俊彦(2019)「活性酸素種および活性窒素種の発生系」抗酸化の科学,123-138.
  10. 荒金 久美(1998)「光と皮膚」ファルマシア(34)(1),30-33.
  11. 花田 勝美(1996)「活性酸素・フリーラジカルは皮膚でどのようにつくられるか」皮膚の老化と活性酸素・フリーラジカル,15-35.
  12. 小林 枝里, 他(2013)「表皮の酸化ストレスとその防御機構」Fragrance Journal(41)(2),16-21.
  13. 一丸ファルコス株式会社(2006)「活性酸素消去剤」特開2006-117612.
  14. 株式会社資生堂(1995)「頭髪化粧料」特開平07-215827.
  15. Cosmetic Ingredient Review(2018)「Amended Safety Assessment of Mentha piperita (Peppermint)-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」Final Amended Report.

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