グリチルレチン酸ステアリルの基本情報・配合目的・安全性

グリチルレチン酸ステアリル

化粧品表示名 グリチルレチン酸ステアリル
医薬部外品表示名 グリチルレチン酸ステアリル
INCI名 Stearyl Glycyrrhetinate
配合目的 抗炎症抗アレルギー など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるグリチルレチン酸のカルボキシ基(-COOH)ステアリルアルコールのヒドロキシ基(-OH)を脱水縮合(∗1)したエステルです[1]

∗1 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。グリチルレチン酸ステアリルにおいては、グリチルレチン酸のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とステアリルアルコールのヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。

グリチルレチン酸ステアリル

1.2. 物性・性状

グリチルレチン酸ステアリルの物性・性状は、

状態 固体
溶解性 油脂に易溶、エタノールに可溶

このように報告されています[2][3a]

グリチルレチン酸ステアリルは、ステアリルアルコールを結合することにより油脂に溶けにくいグリチルレチン酸の脂溶性を高めたものであり、油脂類に対する溶解性の高さと紫外線や自動酸化に対する安定性の高さを特徴としています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 抗炎症作用
  • 抗アレルギー作用

主にこれらの目的で、メイクアップ製品、スキンケア製品、日焼け止め製品、化粧下地製品、リップケア製品、コンシーラー製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、クレンジング製品、洗顔料など様々な製品に汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 抗炎症作用

抗炎症作用に関しては、まず前提知識として紫外線(UVB)曝露による炎症反応のメカニズムとプロスタグランジンE2について解説します。

以下の紫外線(UVB)曝露による炎症のメカニズム図(一部省略)をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

紫外線曝露による炎症反応メカニズム

最初に皮膚が紫外線(UVB)に曝露されると、転写因子(∗2)の一種であるNF-κB(nuclear factor-kappa B)が過剰に発現することが知られており、このNF-κBの過剰な発現によって、炎症反応に深く関与している炎症性サイトカイン(∗3)であるIL-1α(interleukin-1α:インターロイキン-1α)やTNF-α(tumor necrosis factor-α)が産生・放出されます[4a][5a]

∗2 転写因子とは、細胞内のDNAに特異的に結合するタンパク質の一群のことです。

∗3 サイトカインとは、細胞間相互作用に関与する生理活性物質の総称であり、標的細胞にシグナルを伝達し、細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現など多様な細胞応答を引き起こすことで知られています。炎症性サイトカインとは、サイトカインの中で主に生体内に炎症反応を引き起こすサイトカインのことをいいます。

これらの炎症性サイトカインは、種々のサイトカインを産生させ、さらに真皮の血管内皮細胞に存在する細胞接着因子を誘導し、血中に存在する炎症細胞(白血球)を血管内皮細胞に強固に接着することにより炎症細胞の血管透過性を高め、炎症反応を増強することが知られていま[5b][6][7]

また、これらの炎症性サイトカインはさらにNF-κBの発現を誘導するため、炎症反応の悪循環が生じ、炎症反応は増幅していくことも明らかにされています[4b]

同時に、皮膚が紫外線(UVB)に曝露されると表皮細胞においてプロスタグランジン産生酵素であるCOX-2(cyclooxygenase-2:シクロオキシゲナーゼ-2)の増加によりプロスタグランジンE2(Prostaglandin E2:PGE2が過剰に産生されることが知られており、プロスタグランジンE2は真皮の血管拡張に関与することや紅斑を生成することが知られています[8][9]

このような背景から、プロスタグランジンE2の産生を抑制することは紅斑や過剰な炎症の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられます。

グリチルレチン酸ステアリルは、抗炎症作用が認められており、医薬品では皮膚病治療を目的に軟膏に処方されており、化粧品においても炎症抑制目的で広く使用されています[10a][11a]

2.2. 抗アレルギー作用

抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。

皮膚におけるアレルギー反応は、

種類 名称 抗体 抗原
Ⅰ型 即時型
アナフィラキシー型
IgE 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか
Ⅳ型 遅延型
細胞性免疫
感作T細胞 細菌、真菌、自己抗原
種類 皮膚反応 考えられる主な疾患
Ⅰ型 15-20分で最大の発赤と膨疹 アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか
Ⅳ型 24-72時間で最大の紅斑と硬結 アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか

主にこの2種類に分類されています(∗4)[12][13][14a]

∗4 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。

Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、

Ⅰ型アレルギー性皮膚炎のメカニズム

まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します[14b]

次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます[14c]

そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします[14d][15]

このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、ヒアルロニダーゼの活性を阻害することはアレルギー性炎症の抑制アプローチにおいて重要であると考えられています。

グリチルレチン酸ステアリルは、抗アレルギー作用が認められており、医薬品では皮膚病治療を目的に軟膏に処方されており、化粧品においても抗炎症・抗アレルギー目的で広く使用されています[10b][11b]

3. 混合原料としての配合目的

グリチルレチン酸ステアリルは混合原料が開発されており、グリチルレチン酸ステアリルと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 AiOLM
構成成分 DPGグリチルレチン酸ステアリルステアリン酸PEG-40、PPG-24グリセレス-24、カンゾウ根エキスBG、カンゾウ葉エキス、ステアロイルメチルタウリンNa
特徴 シミ、シワ、肌荒れにアプローチするカンゾウ由来複合原料の乳化物

4. 配合製品数および配合量範囲

グリチルレチン酸ステアリルは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量 その他
薬用石けんシャンプーリンス等除毛剤 0.80 グリチルリチン酸及びその塩類並びにグリチルレチン酸及びその誘導体として合計。
育毛剤 0.30
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 0.30
薬用口唇類 0.20
薬用歯みがき類 0.20
浴用剤 0.20
染毛剤 グリチルリチン酸、グリ チルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸ジ カリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、 β-グリチルレチン酸、グリチルレチン酸グリセリル、グリチルレチン酸ステアリル、ステアリン酸グリチルレチニルをグリチルリチン酸及びグリチルレチン酸に換算して、グリチルリチン酸及びグリチルレチン酸の合計として0.8
パーマネント・ウェーブ用剤

実際の化粧品における配合製品数および配合量に関しては、海外の2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

グリチルレチン酸ステアリルの配合製品数と配合量の調査結果(2002-2003年)

5. 安全性評価

グリチルレチン酸ステアリルの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[16]によると、

  • [ヒト試験] 89名の被検者に0.5%または1.5%グリチルレチン酸ステアリルを含むオリーブオイルを24時間パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激の兆候はなかった(Uemura,no data)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

5.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

5.4. 安全性についての補足

グリチルリチン酸およびグリチルレチン酸は、化学構造的にステロイドと類似しており、長期内服(慢性摂取)によってまれに副作用として偽アルドステロン症(∗5)の発症が報告されていますが[17][18][19]、化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)による連続的な外用(連用)においては、20年以上の使用実績の中でステロイド様作用をはじめ重大な副作用は報告されていないため、安全性に問題はないと考えられます。

∗5 偽アルドステロン症とは、副腎皮質におけるアルデステロン分泌が増えていないにも関わらず、過剰に分泌されているような症状です。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「グリチルレチン酸ステアリル」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,370.
  2. European Chemicals Agency(2020)「Olean-12-en-29-oic acid, 3-hydroxy-11-oxo-, octadecyl ester, (3.beta.,20.beta.)-」, 2022年7月28日アクセス.
  3. ab鈴木 一成(2012)「グリチルリチン酸ステアリル」化粧品成分用語事典2012,410.
  4. abK. Tanaka, et al(2005)「Prevention of the Ultraviolet B-Mediated Skin Photoaging by a Nuclear Factor κB Inhibitor, Parthenolide」Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics(315)(2),624-630. DOI:10.1124/jpet.105.088674.
  5. ab島田 眞路(1994)「表皮の免疫担当細胞について」日本臨床免疫学会会誌(17)(6),664-666. DOI:10.2177/jsci.17.664.
  6. 西 達也(1995)「白血球はどのようにして炎症部位に集まるのか」化学と生物(33)(2),83-90. DOI:10.1271/kagakutoseibutsu1962.33.83.
  7. 門野 岳史(2010)「皮膚の炎症における細胞接着分子の役割」日本臨床免疫学会会誌(33)(5),242-248. DOI:10.2177/jsci.33.242.
  8. 近藤 靖児(2000)「UVA, UVBによる炎症のメディエーター」炎症(20)(1),45-50. DOI:10.2492/jsir1981.20.45.
  9. 正木 仁(2013)「太陽光線に対する皮膚生理反応について」日本化粧品技術者会誌(47)(3),197-201. DOI:10.5107/sccj.47.197.
  10. ab鈴木 一成(2012)「グリチルレチン酸ステアリル」化粧品成分用語事典2012,410.
  11. ab日光ケミカルズ株式会社(2016)「刺激緩和・抗炎症剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,599-601.
  12. 厚生労働省(2010)「アレルギー総論」リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト,5-14.
  13. R.R.A. Coombs, et al(1968)「Classification of Allergic Reactions Responsible for Clinical Hypersensitivity and Disease」Clinical Aspects of Immunology Second Edition,575-596.
  14. abcd西部 幸修, 他(1999)「植物抽出物の抗アレルギー作用」Fragrance Journal臨時増刊(16),109-115.
  15. 椛島 健治(2009)「皮膚のスーパー免疫」美容皮膚科学 改定2版,46-51.
  16. F.A. Andersen(2007)「Final Report on the Safety Assessment of Glycyrrhetinic Acid, Potassium Glycyrrhetinate, Disodium Succinoyl Glycyrrhetinate, Glyceryl Glycyrrhetinate, Glycyrrhetinyl Stearate, Stearyl Glycyrrhetinate, Glycyrrhizic Acid, Ammonium Glycyrrhizate, Dipotassium Glycyrrhizate, Disodium Glycyrrhizate, Trisodium Glycyrrhizate, Methyl Glycyrrhizate, and Potassium Glycyrrhizinate」International Journal of Toxicology(26)(2_suppl),79-112. DOI:10.1080/10915810701351228.
  17. 矢野 三郎(1992)「甘草に関する最近の研究」医療(46)(4),241-245. DOI:10.11261/iryo1946.46.241.
  18. 柴田 洋孝(2006)「偽性アルドステロン症」日本内科学会雑誌(95)(4),671-676. DOI:10.2169/naika.95.671.
  19. 井本 恭子・宮川 幸子(2007)「甘草誘発性偽アルドステロン症をきたしたアトピー性皮膚炎の1例」皮膚の科学(6)(2)94-97. DOI:10.11340/skinresearch.6.2_94.

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