ムラサキ根エキスとは…成分効果と毒性を解説

抗菌成分 抗炎症成分 細胞賦活 美白成分 着色
ムラサキ根エキス
[化粧品成分表示名称]
・ムラサキ根エキス

[医薬部外品表示名称]
・シコンエキス

ムラサキ科植物セイヨウムラサキ(学名:Lithospermum officinale)の根からエタノールBG(1,3-ブチレングリコール)、またはこれらの混合液、スクワランで抽出して得られるエキスです。

ムラサキ根エキスの成分組成は、抽出方法や天然成分のため国や地域および時期によって変化がありますが、主に、

  • ナフトキノン誘導体:シコニン、アセチルシコニン、イソブチルシコニン
  • カフェ酸誘導体:ロスマリン酸、リトスペルミン酸
  • 青酸配糖体
  • アラントイン
  • フリルヒドロキノン配糖体

などで構成されています(文献1:2006;文献2:2017)

ムラサキの根は紫根(シコン)と呼ばれ、中国ではムラサキの根を硬紫根、同じムラサキ科の新疆紫草(学名:Arnebia euchroma)の根を軟紫根と呼びます。

ナフトキノン誘導体であるシコニン、アセチルシコニンなどの紫色色素が含まれ、日本でも天平の頃から紫色の染色に用いられ、江戸時代には江戸紫として有名でした。

薬理的には、シコニン、アセチルシコニンに抗炎症、肉芽促進作用などの創傷治癒促進作用などがあり、近年では抗腫瘍作用が注目され、白血病や乳がんへの臨床応用が研究されています(文献3:2011)

漢方では、清熱涼血・解毒・透疹の効能があり、水痘や麻疹の初期、紫斑、黄疸、吐血、鼻血、血尿、腫れ物などに用いたり、湿疹や外陰部の炎症に外用します(文献3:2011)

紫根を主薬とした紫雲膏は火傷や凍瘡、痔などの外用薬として有名です。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、口紅、アイライナー、アイシャドー、マスカラなどのメイクアップ化粧品、洗顔石けん、ヘアカラー製品、ヘアケア製品など様々な製品に使用されます(文献1:2006;文献6:2015;文献11:2002)

hBD-3産生促進による抗菌作用

hBD-3産生促進による抗菌作用に関しては、まず前提知識として皮膚常在菌と抗菌ペプチドの関係とhBD-3について解説します。

一般に、健常なヒト皮膚上には皮膚常在菌と呼ばれる多種の微生物が常在して微生物叢を形成し、健康な状態においてはそれが病原性微生物の侵入を排除する生体バリアとしても機能しており、皮膚の恒常性を保つ一因となっています。

皮膚常在菌には、主に、

  • アクネ菌(Propionibacterium acnes)
  • 表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)
  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)

などが大半を占め、表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌は拮抗関係にあり、黄色ブドウ球菌に対して表皮ブドウ球菌の優位性を高めることが健康な皮膚をつくるための重要な要因のひとつであると考えられています(文献7:2001)

これら常在菌は、皮膚上でバリア機能として働いている一方で、皮脂分泌の亢進により皮脂貯留が起こることで増殖し、それにともなって増殖したアクネ菌や表皮ブドウ球菌に存在するリパーゼも増加することにより、皮脂成分であるトリグリセリドが分解され、遊離脂肪酸が増加し、炎症を引き起こすといわれています。

抗菌ペプチドは、種々の細菌に殺菌・静菌作用を示す抗菌活性を有し、生体防御に関わる抗菌ペプチドは多くのものが同定されていますが、皮膚で機能している代表的な抗菌ペプチドとして、

  • LL-37(37-amino-acid carboxy-terminal peptide of the cathelicidin antimicrobial protein)
  • hBD-1(human beta-defensin-1:ヒトβ-ディフェンシン-1)
  • hBD-2(human beta-defensin-2:ヒトβ-ディフェンシン-2)
  • hBD-3(human beta-defensin-3:ヒトβ-ディフェンシン-3)
  • RNase7(ribonuclease7:リボヌクレアーゼ7)
  • S100A7(psoriasin:プソリアシン)

これらがよく知られています。

抗菌ペプチドの一種であるhBD-3は、アクネ菌、グラム陽性菌(黄色ブドウ球菌など)、グラム陰性菌(緑膿菌など)および真菌(カンジダ菌など)に対して強い抗菌活性を示し、また同族のhBD-1やhBD-2より抗菌活性が高く、汗などに由来する塩類によっても活性が影響を受けないという特徴も有しています(文献5:2014;文献8:2005)

アトピー性皮膚炎においては皮膚におけるhBD-3発現レベルが感染を抑制できるほど高まっていないことが報告されており、アトピー性皮膚炎の発症あるいは重症度とhBD-3発現状態との関係が示唆されています(文献9:2003)

またアトピー性皮膚炎発症の原因のひとつに黄色ブドウ球菌の異常増殖が関係していることが報告されています(文献10:2015)

さらに、月経前にニキビが悪化する一因として、月経前に増加する女性ホルモンであるプロゲステロンがアクネ菌に対する抗菌活性をもつhBD-3の発現を低下させ、その結果アクネ菌が増殖しニキビを悪化させることが報告されています(文献5:2014)

これらの背景から、抗菌ペプチドの発現レベルを適切な状態に高め維持することは、皮膚における自然免疫機能強化、皮膚バリアの強化、アトピー性皮膚炎の予防・改善またはニキビの予防・改善、ひいては健常な皮膚という点で非常に重要であることが示されています。

2015年にポーラ化成によって報告されたhBD-3の発現を高める成分検証によると、

ヒト皮膚を用いた試験によって女性ホルモンであるプロゲステロンを添加することで、皮膚上にhBD-3の発現がほとんど見られなくなることを明らかにした。

そこで、アクネ菌に対する抗菌ペプチドであるhBD-3の発現を高める成分を探索したところ、以下のグラフのように、

シコニンのプロゲステロンによるhBD-3低下の抑制作用

シコンに含まれる成分であるシコニンにプロゲステロンによるhBD-3の産生減少を防ぐだけでなく、プロゲステロン非添加以上のhBD-3産生を促進する効果があることを発見した。

このような検証結果が明らかになっており(文献6:2015)、ムラサキ根エキスに含まれるシコニンに強いhBD-3産生促進作用が認められています。

ただし、試験はin vitroであり、濃度や期間も不明で、またムラサキ根エキスにおけるシコニンの含有量も一定ではないため、作用の程度も不明ですが、穏やかなアクネ菌抑制作用傾向があると考えられます。

SCF結合阻害による色素沈着抑制作用

SCF結合阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムとSCFおよびc-kitレセプターについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

紫外線におけるメラニン生合成までのプロセス

紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。

SCFは肝細胞増殖因子であり、メラニン生合成のメカニズムでは情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)のひとつとして知られており、メラノサイトに存在するSCFの受容体であるc-kitレセプターに輸送され結合されることにより、肥満細胞が遊走、分化・増殖し、アトピー性皮膚炎が引き起こされたり、メラニン合成が活性化することが明らかになっています(文献12:1996)

2002年に花王によって公開された技術情報によると、

細胞表面上のc-kitレセプターに対するSCFの結合を特異的に阻害する天然物を探索したところ、カンゾウアスパラサスリネアリス、アセンヤク、ナギイカダ、シコン、エンメイソウトウガラシウコン、コンフリー、ノバラユリチャチョウジ、ツバキの抽出物にSCF結合阻害活性があることを見出した。

そこでヒト培養メラノサイトを用いたin vitro試験において各植物抽出物を1%濃度で添加し、SCF/c-kitの特異的結合量を測定したところ、以下の表のように、

植物 SCF結合阻害率(%)
カンゾウ 71.0
アスパラサスリネアリス 40.4
アセンヤク 34.1
ナギイカダ 31.5
シコン 29.1
エンメイソウ 27.4
トウガラシ 25.0
ウコン 20.2
コンフリー 17.3
ノバラ 17.0
ユリ 11.0
チャ 63.0
チョウジ 49.9
ツバキ 45.0

シコン抽出物は、c-kitレセプターに対するSCFの結合阻害活性を有することが認められた。

また配合量は通常0.00001%~1%が好ましく、とくに0.0001%~0.1%が好ましい。

このような検証結果が明らかにされており(文献11:2002)、ムラサキ根エキスにSCF結合阻害による色素沈着抑制作用が認められています。

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ムラサキ根エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ムラサキ根エキスの現時点での安全性は、医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載されている漢方生薬ならびに外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載されており、また10年以上の使用実績があり、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激、皮膚感作性(アレルギー性)および光感作性はほとんどないと考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

大阪回生病院皮膚科の「ベビー用香粧品の低刺激性低アレルギー性評価」(文献4:1992)によると、

  • [ヒト試験] 30人の健常成人被検者(21~65歳)の背部および前腕屈側にシコンの水およびスクワラン抽出物を20分間乱切パッチ適用し、正常成人皮膚において皮膚刺激スコア30.0以下を許容品、15.0以下を安全品と定め、また湿疹皮膚や小児および高齢者の皮膚において皮膚刺激スコア15.0以下を許容品、5.0以下を安全品と定め、パッチ除去48および72時間後に試験部位を評価したところ、1人の被検者にわずかな紅斑反応(±)がみられたが、他の被検者に皮膚反応は観察されず、皮膚刺激スコアは1.7であり、シコンの水およびスクワラン抽出物は安全性にまったく問題ないと考えられた

と記載されています。

試験データをみるかぎり、安全性にまったく問題ないと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

詳細な試験データはみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

大阪回生病院皮膚科の「ベビー用香粧品の低刺激性低アレルギー性評価」(文献4:1992)によると、

  • [ヒト試験] 30人の健常成人被検者(21~65歳)の背部および前腕屈側にシコンの水およびスクワラン抽出物を20分間乱切パッチ適用し、パッチ除去10分後に皮膚反応を評価したところ、1人の被検者に接触蕁麻疹反応が観察され、シコンの水およびスクワラン抽出物はリスクのある試料であると考えられた

と記載されています。

試験データをみるかぎり、接触アレルギーのリスクがあると報告されていますが、この試験は原料そのものの濃度で実施しており、一般的に化粧品配合量は1%以下であり、実際に10年以上の使用歴の中で接触アレルギーの報告がみあたらないことから、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、データ不足により詳細は不明です。

補足として、この試験では、実際に製品に配合されているシコンエキスの濃度は0.1~0.2%にすぎず、しかもリンスオフ製品(洗い流し製品)であるため、安全性にまったく問題ないと考えると結論付けられています。

光感作性について

大阪回生病院皮膚科の「ベビー用香粧品の低刺激性低アレルギー性評価」(文献4:1992)によると、

  • [ヒト試験] 30人の健常成人被検者(21~65歳)の擦過した背部にシコンの水およびスクワラン抽出物を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に貼付部位の左半側をアルミ箔を入れた黒色テープで覆い、12.5cmの距離でUVライト(3.0J/c㎡)を5分間照射した。照射30分後および72時間後に皮膚反応を評価したところ、いずれの被検者にも接触感作反応および光感作反応はなく、接触感作物質および光感作物質ではないと考えられた

と記載されています。

試験データをみるかぎり、接触感作および光感作なしと報告されているため、一般的に光感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

ムラサキ根エキスは抗菌成分、抗炎症成分、細胞賦活成分、美白成分、着色剤にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗菌成分 抗炎症成分 細胞賦活成分 美白成分 着色剤

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文献一覧:

  1. 日光ケミカルズ(2006)「植物・海藻エキス」新化粧品原料ハンドブックⅠ,371.
  2. 原島 広至(2017)「シコン(紫根)」生薬単 改訂第3版,168-169.
  3. 鈴木 洋(2011)「紫根(しこん)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,198.
  4. 須貝 哲郎(1992)「ベビー用香粧品の低刺激性低アレルギー性評価」皮膚(34)(3),341-354.
  5. 後藤 悠(2014)「月経周期におけるニキビ悪化と皮膚抗菌ペプチドhBD-3の関連性」IFSCC第28回パリ大会.
  6. “ポーラ化成株式会社”(2015)「多くの女性が悩んでいる「月経前のニキビ悪化」のメカニズムを解明 紫根の主成分「シコニン」にニキビ悪化を防ぐ効果があることを発見」, <http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20150210.pdf> 2018年8月21日アクセス.
  7. 石坂 要, 他(2001)「健常人より分離した皮膚常在菌について」日本化粧品技術者会誌(35)(1),34-41.
  8. Niyonsaba F, et al(2005)「Protective roles of the skin against infection: implication of naturally occurring human antimicrobial agents beta-defensins, cathelicidin LL-37 and lysozyme.」Journal of Dermatological Science(40)(3),157-168.
  9. Nomura I, et al(2003)「Cytokine milieu of atopic dermatitis, as compared to psoriasis, skin prevents induction of innate immune response genes.」The Journal of Immunology(171)(6),3262-3269.
  10. Kobayashi T, et al(2015)「Dysbiosis and Staphylococcus aureus Colonization Drives Inflammation in Atopic Dermatitis.」Immunity(42)(4),756-766.
  11. 花王株式会社(2002)「SCF結合阻害剤」特開2002-302451.
  12. N W Lukacs,et al(1996)「Stem cell factor (c-kit ligand) influences eosinophil recruitment and histamine levels in allergic airway inflammation.」The Journal of Immunology(156)(10),3945-3951.

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