クララ根エキスとは…成分効果と毒性を解説

抗菌 抗フケ 色素沈着抑制 育毛
クララ根エキス
[化粧品成分表示名]
・クララ根エキス

[医薬部外品表示名]
・クララエキス(1)

マメ科植物クララ(学名:Sophora flavescens = Sophora angustifolia 英名:Shrubby sophora)の根または周皮を除いた根からエタノールBG酢酸エチルまたはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

クララは、中国、朝鮮半島に分布し、日本においても長野県、富山県、徳島県などに分布しています(文献1:2011;文献2:2013)

クララ根エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
アルカロイド マトリン、オキシマトリン
フラボノイド フラバノン クラリノール、クラリノン、ソフォラフラバノンG
カルコン クラリジノール、クラリジン
イソフラボノイド マーキアイン、メディカルピン

これらの成分で構成されていることが報告されており(∗1)(文献1:2011;文献2:2013;文献3:2011;文献4:1996;文献5:2016)、フラボノイド類には抗真菌作用などが、イソフラボノイドには抗アレルギー作用が知られています(文献3:2011;文献4:1996;文献6:2016)

∗1 ソフォラフラバノンGは、酢酸エチルまたは80%エタノール水溶液によって抽出された抽出物にのみ含まれます。

クララの根(生薬名:苦参)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において清熱・去湿作用があることから膀胱炎や熱性の下痢や下血に、また炎症を鎮めて痒みを止める目的で湿熱性(∗2)の皮膚炎に外用剤として用いられています(文献7:2016)

∗2 湿熱性皮膚炎とは、炎症・湿疹・痒みを伴う症状の皮膚炎で、一般的には湿疹やアトピー性皮膚炎を指します。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、頭皮ケア製品、メイクアップ製品、洗顔料などに使用されています。

アクネ菌および黄色ブドウ球菌生育阻害による抗菌作用

アクネ菌および黄色ブドウ球菌生育阻害による抗菌作用に関しては、まず前提知識として皮膚常在菌およびアクネ菌について解説します。

皮膚表面および皮脂腺開口部には多数の微生物が存在しており、その中でも健康なヒトの皮膚に高頻度で検出される病原菌をもたない微生物を皮膚常在菌と呼んでいます(文献8:1986;文献9:1994)

健常な皮膚表面およびの主な皮膚常在菌の種類としては、20-69歳までの健常女性84名の頬より菌を採取し分離同定したところ、以下の表のように(∗3)

∗3 好気性とは、酸素を利用した代謝機構を備えていること、嫌気性とは増殖に酸素を必要としない性質のことです。

分類 名称 性質 検出率(%)
グラム陽性桿菌 アクネ菌(cutibacterium acnes) 嫌気性 100.0
グラム陽性球菌 表皮ブドウ球菌(staphylococcus epidermidis) 好気性 79.1
グラム陽性細菌 ミクロコッカス属(micrococcus) 好気性 41.2
グラム陽性球菌 黄色ブドウ球菌(staphylococcus aureus) 好気性 8.7
グラム陽性細菌 枯草菌(bacillus subtilis) 好気性 6.1

すべての人からアクネ菌が検出され、次いで表皮ブドウ球菌が79.1%の人から検出されたことから、これらが主要な皮膚常在菌であると考えられます(文献9:1994)

皮膚常在菌の平均的な菌数については、被検者の頬1c㎡あたりの平均菌数を検討したところ、以下のグラフのように、

健常皮膚における皮膚常在菌の平均数

最も多く検出されたのはアクネ菌、次いで表皮ブドウ球菌であり(文献9:1994)、この試験結果は従来の試験データ(文献8:1986)とも同様であることから、一般に健常な皮膚状態かつこれらの皮膚常在菌が存在する場合はこれらの皮膚常在菌が大部分を占めていると考えられます。

皮膚常在菌は、皮膚上の皮表脂質やアミノ酸などを生育のための栄養源とし、1000種もの菌がお互いに競合と調和関係を構築しながら安定した叢(フローラ)を形成することで、通常は病原性を示すことなく、むしろ外部からの病原菌の侵入を防ぐ一種のバリア機能を発揮していると考えられています(文献8:1986;文献10:2018)

次にアクネ菌についてですが、アクネ菌は嫌気性菌であり、酸素のある環境ではほとんど増殖できないため、毛穴や皮脂腺に存在しており、皮脂分解酵素であるリパーゼ(lipase)を産生・分泌し、皮脂の構成成分であるトリグリセリドを脂肪酸とグリセリンに分解することによって皮膚を弱酸性に保ち、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)など病原性の強い細菌の増殖を抑制する役割を担っています(文献11:2011)

一方で、以下のニキビの種類・重症度図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

ニキビの種類・重症度

様々な要因から皮脂の分泌量が過剰に増えることにより、毛穴開口部の角層が硬くなって毛穴を塞ぐことや角質細胞と脂質の混合物が毛穴に詰まり狭められて皮脂が溜まることなど、酸素が少なく栄養が多いアクネ菌にとって理想的な環境となった場合に、アクネ菌が過剰に増殖することが知られています。

アクネ菌が増殖するメカニズムとしては、アクネ菌がリパーゼを分泌しトリグリセリドを分解することによって生じる脂肪酸の一種であるオレイン酸が毛穴開口部の角層を硬くし、アクネ菌の生育を促進することから(文献12:1970)、アクネ菌がリパーゼを分泌することでオレイン酸を産生し、閉塞環境を強化しながら増殖していくというものになります(文献9:1994)

アクネ菌は、過剰に増殖しなければニキビの原因菌になりませんが、皮脂の分泌量が増えて何かの理由で毛穴が塞がり過剰に増殖すると、増殖したアクネ菌の数に比例して分泌されるリパーゼによって産生された過剰な脂肪酸や増殖した菌体の成分が毛穴に炎症を引き起こすことから(文献13:1970;文献14:1980;文献15:1972)、ニキビの発生から悪化の要因であると考えられています。

次に黄色ブドウ球菌についてですが、黄色ブドウ球菌は好気性菌であり、酸素を利用した代謝機構を備えていることから皮膚表面や毛穴に存在し、通常は問題ありませんが、一方で病原性が高く、皮膚がアルカリ性に傾いた場合には増殖し皮膚炎などを引き起こすことが知られています。

また、表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌は拮抗関係にあり、黄色ブドウ球菌に対して表皮ブドウ球菌の優位性を高めることが、健常な皮膚を保持するための重要な要因のひとつであると考えられています(文献16:2001)

このような背景から、皮膚常在菌がバランスした健常な皮膚状態であればアクネ菌や黄色ブドウ球菌の存在は問題ではありませんが、毛穴開口部の閉塞などによりアクネ菌が増殖し皮膚常在菌バランスが崩れた場合や何らかの皮膚異常から黄色ブドウ球菌が増殖し皮膚常在菌バランスが崩れた場合は、増殖したアクネ菌や黄色ブドウ球菌を抑制するアプローチが皮膚常在菌バランスの改善、ひいては皮膚状態の改善に重要であると考えられます。

1996年に一丸ファルコスによって報告されたアクネ菌、黄色ブドウ球菌およびヒト皮膚に対するクララ根エキス(ソフォラフラバノンGを必須成分とする)の影響検証によると、

in vitro試験において、液体培地1.8mLに各抽出方法のクララ根エキス0.6gをDMSO10mLに溶解した検体液0.1mLおよび液体培地で10倍に希釈したアクネ菌液0.1mLを添加し、37℃で7日間嫌気培養し、培養液処理後に残存菌を確認し最小発育濃度(ppm)(∗4)を評価(∗5)したところ、以下の表のように、

∗4 濃度単位であるppm(parts per million)は100万分の1の意味であり、1ppm = 0.0001%です。

∗5 評価は「-:生育なし」「±:ごく軽度の生育」「+:生育あり」の3段階とした。

試料 抽出溶媒 濃度(ppm) 評価
クララ根エキス 酢酸エチル 156.0
78.1
39.1 ±
80%エタノール水溶液 156.0
78.1 ±
39.1 ±

ソフォラフラバノンGを必須成分とするクララ根エキスのアクネ菌に対する最小生育阻止濃度は、抽出溶媒によって若干異なるものの、約80-160ppm(0.008%-0.016%)濃度と判定でき、非常に低濃度で生育阻害効果を有することが確認された。

次に、in vitro試験において、液体培地10mLに各抽出方法のクララ根エキス0.6gをDMSO10mLに溶解した検体液0.1mLおよび液体培地で10⁶となるように希釈した黄色ブドウ球菌液0.1mLを添加し、37℃で24時間嫌気培養後に残存菌を確認し、同様に最小発育濃度(ppm)を評価したところ、以下の表のように、

試料 抽出溶媒 濃度(ppm) 評価
クララ根エキス 酢酸エチル 47.0
23.0
12.0 ±
80%エタノール水溶液 384.0
192.0
94.0 ±

ソフォラフラバノンGを必須成分とするクララ根エキスの黄色ブドウ球菌に対する最小生育阻止濃度は、抽出溶媒によって若干異なるものの、約200ppm(0.02%)濃度と判定でき、非常に低濃度で生育阻害効果を有することが確認された。

ニキビに悩む60名のうち20名を1グループとし、それぞれ酢酸エチルまたは80%エタノール水溶液で抽出した0.2%クララ根エキス配合クリームと、対照として未配合クリームを1日2回2ヶ月にわたって顔面に塗布してもらい、2ヶ月後にニキビおよび肌荒れを「有効:改善された」「やや有効:やや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 抽出溶媒 被検者数 ニキビ改善効果
有効 やや有効 無効
0.2%クララ根エキス 酢酸エチル 20 11 8 1
0.2%クララ根エキス 80%エタノール水溶液 20 10 7 3
無配合クリーム(対照) 20 2 3 15
試料 抽出溶媒 被検者数 肌荒れ改善効果
有効 やや有効 無効
0.2%クララ根エキス 酢酸エチル 20 4 14 2
0.2%クララ根エキス 80%エタノール水溶液 20 3 14 3
無配合クリーム(対照) 20 1 3 16

0.2%クララ根エキス配合クリーム塗布グループは、未配合クリーム塗布グループと比較してニキビおよび肌荒れに対する改善効果を示した。

このような検証結果が報告されており(文献4:1996)、クララ根エキスにアクネ菌および黄色ブドウ球菌生育阻害による抗菌作用が認められています。

クララ根エキスの中でアクネ菌に対して抗菌作用を示す成分は、マトリンやオキシマトリンなどのアルカロイドとソフォラフラバノンGなどのフラボノイドであり、アルカロイド類よりもソフォラフラバノンGのほうが優れた抗菌力を示すことが報告されています(文献17:1998)

マラセチア菌生育阻害による抗フケ作用

マラセチア菌生育阻害による抗フケ作用に関しては、まず前提知識としてフケが発生するメカニズムおよびフケの原因菌について解説します。

フケ(頭垢)とは、表皮細胞の角化現象(ターンオーバー)により頭皮の角質から剥がれ落ちた角片に、皮脂や汗、ホコリが混じったものであり、皮膚の新陳代謝から生じる角片(垢)と同じですが、年齢的に皮脂の分泌が盛んになる20歳前後に最も多くなり、フケに含まれる皮脂の割合によって「乾性」と「湿性」に分類されます(文献18:2002)

フケが増殖する原因としては、頭皮の常在菌に分解された皮脂分解物が酸化した過酸化脂質による頭皮を刺激、強い界面活性剤やアルカリ石鹸による刺激により表皮細胞の代謝(分裂)を促進し、その結果として剥がれ落ちる角片が増え、フケが異常に目立ってくるフケ症(∗6)となると考えられています(文献18:2002;文献19:2006)

∗6 フケ症の多くは脂漏をともなうことから湿性フケであり、その重症化した症状が脂漏性皮膚炎と理解されています。

フケ症に関与する頭皮常在菌としては、真菌の一種であるピチロスポルム・オバーレ(Pityrosporum ovale:P.ovale)が広く知られていましたが、1996年以降はピチロスポルム・オバーレとピチロスポルム・オルビクラーレ(Pityrosporum orbiculare:P.orbiculare)との統一菌種としてマラセチア・フルフル(Malassezia furfur:M.furfur)と命名されたことから、現在はマラセチア菌として知られています(文献19:2006;文献20:2012)

このような背景から、マラセチア菌の増殖を抑制することは、フケの発生抑制に重要であると考えられます。

1996年に一丸ファルコスによって報告されたマラセチア菌およびヒト頭皮フケに対するクララ根エキス(ソフォラフラバノンGを必須成分とする)の影響検証によると、

液体培地1.8mLに、健康なボランティアの全額より分離、同定したピチロスポルム・オバーレ菌の懸濁液と各抽出方法のクララ根エキス0.6gをDMSO10mLに溶解した検体液0.1mLを添加し、30℃で2日間嫌気培養し、培養液処理後に残存菌を確認し最小発育濃度(ppm)(∗4)を評価(∗5)したところ、以下の表のように、

∗4 濃度単位であるppm(parts per million)は100万分の1の意味であり、1ppm = 0.0001%です。

∗5 評価は「-:生育なし」「±:ごく軽度の生育」「+:生育あり」の3段階とした。

試料 抽出溶媒 濃度(ppm) 評価
クララ根エキス 酢酸エチル 313.0
156.0
78.1 ±
80%エタノール水溶液 626.0
313.0
156.0 ±

ソフォラフラバノンGを必須成分とするクララ根エキスのピチロスポルム・オバーレ菌に対する最小生育阻止濃度は、抽出溶媒によって若干異なるものの、約150-300ppm(0.015%-0.03%)濃度と判定でき、非常に低濃度で生育阻害効果を有することが確認された。

フケ症を有する60名のうち20名を1グループとし、それぞれ酢酸エチルまたは80%エタノール水溶液で抽出した0.4%クララ根エキス配合ヘアトニックと、対照として未配合ヘアトニックを1日2回(朝晩)2ヶ月にわたって頭髪に塗布してもらい、2ヶ月後にフケに対する効果を「有効:フケが抑制された」「やや有効:フケがやや抑制された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 抽出溶媒 被検者数 フケ抑制効果
有効 やや有効 無効
0.2%クララ根エキス 酢酸エチル 20 12 8 0
0.2%クララ根エキス 80%エタノール 20 10 8 2
無配合ヘアトニック(対照) 20 1 4 15

0.2%クララ根エキス配合ヘアトニック塗布グループは、未配合ヘアトニック塗布グループと比較してフケに対する抑制効果を示した。

このような検証結果が報告されており(文献4:1996)、クララ根エキスにマラセチア菌生育阻害による抗フケ作用が認められています。

α-MSH阻害による色素沈着抑制作用

α-MSH阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献21:2002;文献22:2016;文献23:2019)

このメラノサイト活性化因子のひとつとしてα-MSH(α-melanocyte-stimulating hormone:メラノサイト刺激ホルモン)が知られており、α-MSHはメラノサイト増殖作用およびチロシナーゼ合成促進作用が認められています(文献22:2016)

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献21:2002;文献23:2019)

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献21:2002;文献23:2019)

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献21:2002)

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献21:2002)

このような背景から、α-MSHの産生を阻害することでメラニンの生合成を阻害することは、色素沈着の抑制において重要であると考えられています。

2001年にポーラ化成工業によって報告されたクララ根エキスのα-MSHおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験において培養B16メラノーマ細胞にα-MSHおよび各濃度のクララ根エキスエタノール水溶液を添加し、α-MSHおよびクララ根エキスエタノール水溶液を添加しない場合のcAMP濃度(∗7)を100として、添加系のcAMP濃度を指標として測定したところ、以下のグラフのように、

∗7 α-MSHはメラノサイト内のcAMP(サイクリックAMP)濃度を上昇させることによりメラニン産生を促進することが明らかにされていることから、α-AMP阻害率の指標としてcAMP濃度が用いられます。

 クララ根エキスのα-MSH抑制作用

クララ根エキスは濃度依存的なcAMPレベルの減少を示し、6×10⁻³(0.006%)のクララ根エキスを添加した場合、cAMPレベルは無添加の約⅓に減少した。

次に、ビタミンCを有効成分とする美白化粧品を使用していてもくすみ(皮膚明度)の改善がみられなかった被検者に0.1%クララ根エキスを含む化粧水を1日2回3週間にわたって使用してもらい、3週間後に皮膚明度の状態を評価したところ、皮膚明度の改善が認めれらた。

このような試験結果が明らかにされており(文献24:2001)、クララ根エキスにα-MSH阻害による色素沈着抑制作用が認められています。

外毛根鞘細胞増殖促進による育毛作用

外毛根鞘細胞増殖促進による育毛作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造と外毛根鞘細胞の役割について解説します。

以下の毛髪の構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

毛髪の構造

毛髪は、毛細血管が蜜に分布し毛の栄養や発育を司る毛乳頭細胞から毛母細胞に栄養が供給され、栄養を受けた毛母細胞が細胞分裂を行い、分裂した片方が毛母にとどまり次の分裂に備え、残りの片方が毛の細胞(毛幹)となって角化していき、次々に分裂してできる新しい細胞によって表面に押し上げられるというメカニズムによって形成されています(文献25:2002;文献26:2002)

毛包の外側に存在する外毛根鞘細胞は、毛包全体の構造を維持し毛幹が正常に分化・伸長するのを助け、休止期毛(後述します)がすぐに抜け落ちてしまわないように留めておく機能を有しており、ほかにも毛包周囲を取り囲む毛細血管網を発達させるためにVEGF(vascular endothelial growth factor:血管内皮細胞成長因子)を分泌したり、毛周期を調整する種々の因子を生産するといった役割を担っています(文献27:2005)

また、毛髪には周期があり、以下の毛周期図を見てもらうとわかりやすいと思いますが、

毛周期(ヘアサイクル)

成長期に入ると約2-6年の期間、毛幹(∗8)が伸び続け、その後に短い退行期が訪れることにより毛根が退縮し、やがて休止期となり毛髪が脱落、数ヶ月の休止期間の後に再度成長期に入って毛幹が伸びていくというサイクルを一生繰り返します(文献28:2009)

∗8 毛幹とは、毛の皮膚から外に露出している部分のことであり、一般に毛と認識されている部位です。

休止期には毛乳頭も縮小しますが消失することはなく、その後の休止期から成長期への移行により再び増大し、休止期毛包の一部が再び毛乳頭細胞と接触して分裂・増殖をはじめ、毛乳頭細胞を取り囲んで新しい毛球部を形成することによって次の毛周期がはじまります(文献29:1999)

一方で、何らかの原因によって毛周期のバランスが失われると、成長期の期間が短縮して休止期毛の比率が増加し、また組織学的には毛包の縮小、毛包を取り巻く毛細血管網の減少および毛乳頭の活性低下などにより、毛母細胞の分化・増殖能が低下し毛髪が軟毛化(薄毛化)していく壮年性脱毛症(∗9)の症状が知られています(文献30:1995;文献31:2009)

∗9 壮年性脱毛症は男性型脱毛症のことですが、女性においても中年以降頭頂部を中心に薄毛化が起こることがあり、以前はこの状態を女性型脱毛症と呼び、男性型脱毛とは別の原因による脱毛症であると考えられていましたが、最近では女性型脱毛も体内の性ホルモンバランスの崩れなどにより男性ホルモンの働きが強くなった結果として生じると考えられてきており、男性型脱毛と女性型脱毛をまとめて壮年性脱毛と呼ぶことが提唱されているため、ここでは壮年性脱毛で統一します(文献32:2003)。

このような背景から、軟毛化(薄毛化)の予防や対応として外毛根鞘細胞の増殖を促進することは重要であると考えられます。

2016年に資生堂リサーチセンターによって報告されたヒト毛髪上皮細胞およびヒト毛髪に対するクララ根エキスの影響検証によると、

in vitro試験において培養ヒト毛髪上皮細胞を播種した培地に0.1ng/mL濃度に調製したクララ根エキスを添加し、細胞の成長促進活性を評価したところ、以下のグラフのように、

クララ根エキスのヒト毛髪上皮細胞増殖促進作用

クララ根エキスは、0.1ng/mLの濃度で上皮細胞の有意な増加を誘発した。

次に、ex vivo試験においてヒト頭皮から単離された成長期の毛包を入れた培地に100ng/mL濃度のクララ根エキスを添加し、比較として未添加の培地と6日目まで顕微鏡で毛幹の長さを測定したところ、以下のグラフのように、

 クララ根エキスのヒト毛髪伸長効果

100ng/mL濃度のクララ根エキスは、未添加と比較して6日間で毛幹伸長を有意に増加させた。

次に、様々なタイプの脱毛症を有する73名の被検者(25-54歳)を2つのグループに分け、それぞれ0.5%クララ根エキス配合ローションまたは未配合ローションを1日2回6ヶ月間にわたって塗布してもらう二重盲検試験を実施した。

6ヶ月後に脱毛の程度を視覚的に評価するために12枚の写真を使用し、また4名の独立した観測者によって脱毛症スコアを算出して評価したところ、脱毛症スコアはクララ根エキス配合ローション使用グループで36名のうち22名(61%)に改善がみられたが、未配合ローション使用グループにおいても37名のうち16名(43%)に改善がみられた。

クララ根エキス配合ローション使用グループにおいて使用前と使用後では、脱毛症スコアの改善が有意であることが示された(P < 0.01)

このような試験結果が明らかにされており(文献5:2016)、クララ根エキスに外毛根鞘細胞増殖促進による育毛作用が認められています。

また、クララ根エキスの毛髪上皮細胞の増殖に関与する活性化合物を同定したところ、イソフラボノイドの一種であるL-マーキアイン(L-maackiain)およびメディカルピン(medicarpin)として特定したことが報告されています(文献5:2016)

複合植物エキスとしてのクララ根エキス

クララ根エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、クララ根エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 ファルコレックスMSTC
構成成分 エタノールBGクララ根エキスチャ葉エキスマグワ根皮エキスベニバナ花エキス
特徴 UVBに対する紫外線吸収能(吸収極大:270-300nm)を有するとともに、4種類の異なる色素沈着抑制作用を有した植物抽出液を組み合わせることで、多角的な色素沈着抑制にアプローチするよう設計された複合植物抽出液

クララ根エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

クララ根エキスの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性データ(文献4:1996)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの除毛した背部皮膚に0.01g/mL濃度のクララ根エキス(ソフォラフラバノンG含有)を含む50%BG水溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後に一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギにおいても紅斑および浮腫などの皮膚刺激を認めず、陰性と判定された
  • [動物試験] 5匹のモルモットの除毛した側腹部皮膚に0.01g/mL濃度のクララ根エキス(ソフォラフラバノンG含有)を含む50%BG水溶液を1日1回週5回4週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に一次刺激性の評価基準に基づいて紅斑および浮腫を指標として評価したところ、いずれのモルモットにおいても紅斑および浮腫などの皮膚刺激を認めず、陰性と判定された

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

クララ根エキスは抗菌成分、美白成分、育毛成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗菌成分 美白成分 育毛成分

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参考文献:

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  3. 竹田 忠紘, 他(2011)「クジン」天然医薬資源学 第5版,219-220.
  4. 一丸ファルコス株式会社(1996)「クジン抽出物含有抗菌・防腐剤及び化粧料」特開平8-73364.
  5. T. Takahashi, et al(2016)「Improvement of androgenetic alopecia with topical Sophora flavescens Aiton extract, and identification of the two active compounds in the extract that stimulate proliferation of human hair keratinocytes」Clinical and Experimental Dermatology(41)(3),302-307.
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