セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキスとは…成分効果と毒性を解説





・セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス(改正名称)
・セイヨウオトギリソウエキス(旧称)
[医薬部外品表示名称]
・オトギリソウエキス
[慣用名]
・セントジョーンズワート
オトギリソウ科植物セイヨウオトギリソウ(学名:Hypericum perforatum)の地上部(花・葉・茎)から抽出して得られるエキスです。
セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
- フラボノイド類:ルチン、ヒペロシド、クエルセチン
- タンニン
- フィトステロール
- ジアンスロン類:ヒペリシン、ソイドヒペリシン
- ビタミンC
などで構成されています(文献3:2006;文献4:2016)。
セイヨウオトギリソウは、ヨーロッパ、アジア、北アフリカに分布しており、日本にも帰化して野生化しています。
ハーブとしてはセントジョーンズワートと呼ばれており、この名はキリストに洗礼を行った聖ヨハネにちなむ名前で、聖ヨハネの祭りの頃に花が咲くことに由来するといわれています。
ギリシャ時代には悪魔祓いとして利用され、中世には傷や火傷の治療や神経痛の外用薬のほか、また鎮静剤、更年期障害の治療、気管支炎の去痰薬としても利用されたといわれています(文献5:2011)。
近年ではヒペリシンによる悲嘆や絶望、恐れなどの感情や抑うつに対する効果が確認され、暗い心に明るさを取り戻すことから季節性感情障害(SAD)にも用いられています(文献4:2016)。
化粧品に配合される場合は、
- リパーゼ活性阻害による抗炎症作用
- 日焼け予防
- 創傷治癒促進作用
- 収れん作用
- 育毛作用
これらの作用があるとされており、スキンケア化粧品、ヘアケア製品、育毛製品などに使用されます(文献3:2006;文献6:2003;文献7:1994)。
リパーゼ活性阻害による抗炎症作用
リパーゼ活性阻害による抗炎症作用に関しては、まず前提知識としてニキビ発生のメカニズムとリパーゼについて解説します。
ニキビの発生のメカニズムについては、以下の毛穴の画像をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
通常はこのように毛穴が適度に開いており、皮脂腺から産生される皮脂も毛穴を通って皮膚表面に放出されますが、毛穴が詰まると産生された皮脂が毛穴にたまり、この皮脂を餌にしてアクネ菌(Propionibacterium acnes)が増殖しはじめます。
アクネ菌(Propionibacterium acnes)は皮脂分解酵素であるリパーゼを産生し、リパーゼは皮脂中のトリグリセリドを加水分解し、遊離脂肪酸を生成します。
このとき生成される遊離脂肪酸が毛包壁を刺激することで、角化の亢進を促進しコメドの形成を促します。
さらにアクネ菌はリパーゼと同時にヒアルロニダーゼやプロテアーゼなどの酵素を産生し、コメドの毛包壁を刺激・破壊して丘疹や膿疱など炎症性ニキビを形成します。
このような背景からリパーゼの活性を抑制することによって、遊離脂肪酸の生成抑制、角化傷害の抑制、ひいてはコメドの形成が抑制され、ニキビの改善など皮脂が速やかに表皮に分泌されると考えられます。
2003年に一丸ファルコスによって公開された技術情報によると、
リパーゼ活性抑制剤として有用性のある植物を探索したところ、オトギリソウ、ヒオウギにリパーゼ活性抑制作用を見出した。
ヒト血中リパーゼの定量反応を指標としたリパーゼ活性値をもとに0.5%オトギリソウ抽出液のリパーゼ活性作用を評価したところ、60%のリパーゼ活性抑制が認められた。
このような検証結果が明らかにされており(文献6:2003)、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキスにリパーゼ活性阻害による湿疹・ニキビ・肌荒れ改善作用(抗炎症作用)が認められています。
育毛作用
育毛作用に関しては、1994年の花王のオトギリ草エキスの育毛効果検証によると、
ラットの毛包を用いてセイヨウオトギリソウ(Hypericum perforatum)抽出物を添加し、in vitro試験にて培養したところ、毛包の長さおよびDNA合成を有意に増加させたため、セイヨウオトギリソウ抽出物が毛包に直接作用することを示唆させた。
また、男性型脱毛を有する被検者の脱毛領域に1%セイヨウオトギリソウ抽出物を含むトニックを毎日適用し、休止期の毛包比率と抜け毛の数を測定したところ、セイヨウオトギリソウ抽出物は、休止期の毛包をわずかに減少させ、抜け毛の数を大幅に減少させることが明らかになった。
これらの結果は、セイヨウオトギリソウ抽出物が男性型脱毛症の発毛を促進し、発毛促進として使用できうることを示唆した。
と報告されており(文献7:1994)、ヒト脱毛症の発毛促進作用が明らかにされています。
化粧品での効果に関する補足として、2007年のPOLA研究所の報告に、
オトギリソウ(オトギリソウ科オトギリソウ属、和名:弟切草、学名:Hypericum erectum)に含まれるファレロールに線維芽細胞のコラーゲン受容体の量を有意に増やす作用があり、この増加によって線維芽細胞のコラーゲン繊維形成能が向上することが明らかとなり、結果として肌のハリ・弾力の維持が期待できる
というものがありますが、これはオトギリソウの中でも(学名:Hypericum erectum)という日本全土から朝鮮半島、中国大陸の草地や山野に自生するオトギリソウのことで、ヨーロッパに自生するセイヨウオトギリソウ(学名:Hypericum perforatum)とは別種であり、セイヨウオトギリソウにはコラーゲン繊維形成能の向上作用は明らかにされていないので注意してください。
複合植物エキスとしてのセイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス
ファルコレックスBX43という複合植物エキスは、以下の成分で構成されており、
- セイヨウトチノキ種子エキス
- アルニカ花エキス
- ハマメリス葉エキス
- セイヨウキズタ葉/茎エキス
- セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス
- ブドウ葉エキス
効果および配合目的は、
- 抗酸化(SOD様)
- 抗酸化(過酸化脂質生成抑制)
とされており、活性酸素抑制および過剰な皮脂抑制などそれぞれポイントの違う植物エキスの相乗効果によって多角的に酸化を防止するもので、化粧品成分一覧にこれらの成分が併用されている場合はファルコレックスBX43であると推測することができます。
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ファルコレックスBX44という複合植物エキスは、以下の成分で構成されており、
- ローマカミツレ花エキス
- トウキンセンカ花エキス
- ヤグルマギク花エキス
- カミツレ花エキス
- セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス
- フユボダイジュ花エキス
効果および配合目的は、
- 角質水分量増加
- 経表皮水分損失抑制
- 抗炎症(ヒスタミン遊離抑制)
- 抗酸化(SOD様)
- 抗酸化(過酸化脂質生成抑制)
- メディエーター抑制(ヒスタミン遊離抑制)
とされており、肌の潤い促進、乾燥によるかゆみ抑制、過剰な皮脂抑制などそれぞれポイントの違う植物エキスの相乗効果によって肌荒れやざ瘡を多角的に予防するもので、化粧品成分一覧にこれらの成分が併用されている場合はファルコレックスBX44であると推測することができます。
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ファルコレックスBX52という複合植物エキスは、以下の成分で構成されており、
効果および配合目的は、
- オムツかぶれ改善(リパーゼ阻害)
- 抗菌(アクネ菌)
- リパーゼ活性阻害
とされており、植物エキスの相乗効果によって過剰な皮脂やアクネ菌を抑制し、肌荒れやニキビを予防するもので、化粧品成分一覧にこれらの成分が併用されている場合はファルコレックスBX52であると推測することができます。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2011-2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
補足:セイヨウオトギリソウエキス(セントジョーンズワート)は経口摂取でのみ光感作性が認められており、一般的に皮膚への塗布での光感作性は認められていません。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
Cosmetic Ingredient Reviewの「Final Report on the Safety Assessment of Hypericum Perforatum Extract and Hypericum Perforatum Oil」(文献1:2001)によると、
- [動物試験] ウサギを用いてセイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス(1%~5%)、オリーブ油(>50%)、トコフェロール(<0.1%)の混合物のパッチ試験を実施したところ、非刺激性であった(Chemisches Laboratorium Dr. Kurt Richter GmbH,1996a)
Cosmetic Ingredient Reviewの「Amended Safety Assessment of Hypericum Perforatum-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」(文献1:2014)によると、
- [ヒト試験] 18人の被検者の腕の手のひら側にセイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス50μLを含有するバスオイルを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去1および24時間後に試験部位の皮膚反応を評価したところ、皮膚刺激は引き起こさず、対照の蒸留水と同様であった(Reuter J, Huyke C, Scheuvens H, et al,2008)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激性なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
Cosmetic Ingredient Reviewの「Final Report on the Safety Assessment of Hypericum Perforatum Extract and Hypericum Perforatum Oil」(文献1:2001)によると、
- [動物試験] ウサギを用いてセイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス(1%~5%)、オリーブ油(>50%)、トコフェロール(<0.1%)の混合物の眼刺激性試験をDraize法に従って実施したところ、ウサギの眼において非刺激性であった(Chemisches Laboratorium Dr. Kurt Richter GmbH,1996b)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。
皮膚感作(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの「Final Report on the Safety Assessment of Hypericum Perforatum Extract and Hypericum Perforatum Oil」(文献1:2001)によると、
- [動物試験] モルモットを用いてセイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス(1%~5%)、オリーブ油(>50%)、トコフェロール(<0.1%)の混合物のBuehler皮膚感作性試験を実施したところ、感作反応はみられなかった(Chemisches Laboratorium Dr. Kurt Richter GmbH,1996c)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
光毒性および光感作性について
Cosmetic Ingredient Reviewの「Final Report on the Safety Assessment of Hypericum Perforatum Extract and Hypericum Perforatum Oil」(文献1:2001)によると、
- [動物試験] セイヨウオトギリソウエキスに含まれるヒペリシンは摂取によってのみ可視光(550nm~610nm、最大585nm)を吸収することによって光活性による損傷を引き起こす。すなわち日光に曝されるととくに色素沈着していない色白皮膚領域において毛細血管癖に酸化による損傷を誘発する(Jensen et al,1995)
Cosmetic Ingredient Reviewの「Amended Safety Assessment of Hypericum Perforatum-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」(文献1:2014)によると、
- [動物試験] モルモットの擦過した背部に0.011%,0.055%,0.11%および0.22%セイヨウオトギリソウエキス蒸留水を適用した後、5日間連続で照射(320-400nm,10.2J/c㎡)し、次いで2週間の休息期間の後に0.1%および1%セイヨウオトギリソウエキス蒸留水を適用し部位を照射し、24および48時間で観察したところ、モルモットにおいて光感作剤ではなかった(Anonymous,2011)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、動物試験のものですが、光感作剤ではないと報告されているため、光感作剤および光毒性ではないと考えられます。
セイヨウオトギリソウエキスに含まれるヒペリシンは摂取によってのみ光感作反応を起こしますが、一般的に化粧品などの塗布(経皮吸収)で光感作は起こさないとされています。
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セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキスは抗炎症成分、収れん成分、細胞賦活成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2001)「Final Report on the Safety Assessment of Hypericum Perforatum Extract and Hypericum Perforatum Oil」International Journal of Toxicology(20)(2_suppl),31-39.
- Cosmetic Ingredient Review(2014)「Amended Safety Assessment of Hypericum Perforatum-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(33)(3_suppl),5S-23S.
- 日光ケミカルズ(2006)「植物・海藻エキス」新化粧品原料ハンドブックⅠ,364.
- 林 真一郎(2016)「セントジョーンズワート」メディカルハーブの事典 改定新版,82-83.
- 鈴木 洋(2011)「セントジョーンズワート(St.Jhons Wort)」カラー版健康食品・サプリメントの事典,100.
- 一丸ファルコス株式会社(2003)「化粧料組成物又は飲食品」特開2003-128563.
- 堀田 光行, 他(1994)「オトギリソウエキスの育毛効果」日本香粧品学会誌(18)(4),193-196.
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