ワレモコウエキスとは…成分効果と毒性を解説

抗アレルギー 抗老化 抗糖化 抗脱毛 消臭
ワレモコウエキス
[化粧品成分表示名称]
・ワレモコウエキス

[医薬部外品表示名称]
・ワレモコウエキス

バラ科植物ワレモコウ(学名:Sanguisorba officinalis 英名:burnet bloodwort)の根茎からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

ワレモコウ(吾亦紅)は、ヨーロッパ、アジアから日本各地にかけて分布しており、日本においては秋の野草のひとつとして生け花に用いられたり、春先には若い葉をおひたしなどに調理して食されていることからよく知られています(文献1:2011)

ワレモコウエキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
タンニン エラジタンニン サンギインH-6 など
テルペノイド トリテルペンサポニン サンギソルビン、チユグルコシドⅠ-Ⅱ

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献2:2013;文献3:1993)

ワレモコウの根茎(生薬名:地楡)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において清熱涼血・止血の効能があることからとくに慢性の血便や下痢に伴う血便、痔による出血などに用いられ、また外用としては火傷、切り傷、湿疹、皮膚炎などの症状に用いられます(文献1:2011;文献2:2013)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディケア製品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、メイクアップ化粧品、シャンプー製品、コンディショナー製品、頭皮ケア製品、まつ毛美容液、ボディソープ製品、デオドラント製品などに使用されています。

ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用

ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。

皮膚におけるアレルギー反応は、

種類 名称 抗体 抗原 皮膚反応 考えられる主な疾患
Ⅰ型 即時型
アナフィラキシー型
IgE 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか 15-20分で最大の発赤と膨疹 アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか
Ⅳ型 遅延型
細胞性免疫
感作T細胞 細菌、真菌、自己抗原 24-72時間で最大の紅斑と硬結 アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか

主にこの2種類に分類されています(∗1)(文献4:2010;文献5:1968;文献6:1999)

∗1 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。

Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、

Ⅰ型アレルギー性皮膚炎のメカニズム

まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献6:1999)

次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献6:1999)

そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献6:1999;文献7:2009)

このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、ヒスタミン遊離を抑制することはアレルギー性炎症の抑制において重要であると考えられています。

1998年にノエビアによって報告されたワレモコウエキスのヒスタミンおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

ラット由来好塩基球白血病細胞液に各植物抽出物を加えて培養し、ヒスタミンの遊離阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

植物エキスのヒスタミン遊離抑制作用

ワレモコウエキス(50%エタノール抽出)は、90%以上のヒスタミン遊離抑制作用を示した。

次に、アトピー性皮膚炎を有する女性患者17人(17-30歳)の顔に0.5%ワレモコウエキス配合W/O型(油中水型)軟膏を、また比較対照としてワレモコウエキス未配合の軟膏をそれぞれ1日2回(朝夕)2週間にわたって塗布し、2週間後に評価したところ、以下の表のように、

試料 症例数 顕著 有効 やや有効 無効 悪化
ワレモコウエキス配合軟膏 17 5 8 3 1 0
軟膏のみ(比較対照) 15 0 1 3 7 4

0.5%ワレモコウエキス配合軟膏の塗布は、アトピー性皮膚炎の症状改善に有効であることがわかった。

このような試験結果が明らかにされており(文献8:1998)、ワレモコウエキスにヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用が認められています。

MMP-1活性阻害による抗老化作用

MMP-1活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識として真皮の構造、光老化のメカニズムおよびMMP-1について解説します。

真皮については、以下の真皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

真皮の構造

表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス成分)に二分され、以下の表のように、

分類 構成成分
間質成分
(細胞外マトリックス)
膠原線維 コラーゲン
弾性繊維 エラスチン
基質 糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン
細胞成分 線維芽細胞

主成分である間質成分は、大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞成分としてはこれらを産生する線維芽細胞がその間に散在しています(文献9:2002;文献10:2018)

間質成分の大部分を占めるコラーゲンは、膠質状の太い繊維であり、その繊維内に水分を保持しながら皮膚のハリを支えています(文献9:2002)

このコラーゲンは、Ⅰ型コラーゲン(80-85%)とⅢ型コラーゲン(10-15%)が一定の割合で会合(∗2)することによって構成されており(文献11:1987)、Ⅰ型コラーゲンは皮膚や骨に最も豊富に存在し、強靭性や弾力をもたせたり、組織の構造を支える働きが、Ⅲ型コラーゲンは細い繊維からなり、しなやかさや柔軟性をもたらす働きがあります(文献12:2013)

∗2 会合とは、同種の分子またはイオンが比較的弱い力で数個結合し、一つの分子またはイオンのようにふるまうことをいいます。

エラスチン(elastin)を主な構成成分とする弾性繊維は、皮膚の弾力性をつくりだす繊維であり、コラーゲンとコラーゲンの間に絡み合うように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持しています(文献9:2002)

基質は、主に糖タンパク質(glycoprotein)プロテオグリカン(proteoglycan)およびグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)で構成されたゲル状物質であり、これらの分子が水分を保持し、コラーゲンやエラスチンと結合して繊維を安定化させることにより、皮膚は柔軟性を獲得しています(文献9:2002;文献10:2018)

細胞成分としては線維芽細胞(fibroblast)が真皮に分散しており、コラーゲン繊維やエラスチン繊維が古くなるとこれらを分解する酵素を産生して不必要な分を分解し、新しいコラーゲン繊維やエラスチン繊維を産生して細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスを保持しています(文献9:2002)

これら真皮の働きを要約すると、

  • コラーゲン繊維が水分を保持しながら皮膚の張りを支持
  • エラスチンを主とした弾性繊維がコラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持
  • 基質(ゲル状物質)が水分を保持し、コラーゲン繊維と弾性繊維を安定化
  • 紫外線曝露時など必要に応じてコラーゲン繊維、弾性繊維、ムコ多糖を産生し、細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスを保持

それぞれがこのように働くことで、皮膚はハリや柔軟性・弾性を保持しています。

一方で、一般に紫外線を浴びる時間や頻度に比例して、間質成分(細胞外マトリックス成分)であるコラーゲン、エラスチン、ムコ多糖類への影響が大きくなり、シワの形成促進、たるみの増加など老化現象が徐々に進行することが知られています(文献13:2002)

紫外線の曝露によりシワが形成されるメカニズムは、以下の光老化メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが(∗3)

∗3 図ではNF-κBを「κB」と略しています。

光老化のメカニズム

UVBが表皮に到達することで表皮角化細胞において過剰に発現した転写因子(∗4)であるNF-κB(nuclear factor-kappa B)が、炎症性サイトカイン(∗5)であるIL-1(Interleukin-1)を産生し、IL-1などが真皮に存在する線維芽細胞を活性化することでⅠ型コラーゲン分解酵素であるMMP-1(Matrix metalloproteinase-1:マトリックスメタロプロテアーゼ-1)が過剰に産生され、コラーゲンを分解することが報告されています(文献14:1993;文献15:2018;文献16:2019)

∗4 転写因子とは、細胞内のDNAに特異的に結合するタンパク質の一群のことです。

∗5 サイトカインとは、細胞間相互作用に関与する生理活性物質の総称であり、標的細胞にシグナルを伝達し、細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現など多様な細胞応答を引き起こすことで知られています。炎症性サイトカインとは、サイトカインの中で主に生体内に炎症反応を引き起こすサイトカインのことをいいます。

また、UVAは直接真皮に到達して線維芽細胞に働きかけ、同様にMMP-1の発現促進によりコラーゲンを分解するとともに、コラーゲン合成能を低下させることが報告されています(文献15:2018;文献17:1993)

このような背景から、紫外線曝露環境にある場合はMMP-1の活性を阻害するアプローチが、光老化の防御において重要であると考えられています。

2000年にノエビアによって報告されたワレモコウエキスのMMP-1および紫外線照射後の皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験においてヒト線維芽細胞を播種し牛胎仔血清を添加した培地を培養後に各濃度のワレモコウエキス溶液0.2mLを添加した培地に交換し、UVA(40J/c㎡)を照射した。

培地を交換し培養後に生細胞数を計測し、試料未添加のMMP-1活性を100とした場合の培地上清中のMMP-1活性を測定したところ、以下のグラフのように、

ワレモコウエキスのMMP-1活性阻害作用

ワレモコウエキスのMMP-1活性阻害効果は、0.025mg/mL濃度で最大値(阻害率63%)が示された。

次に、通常屋外で作業する40人の女性被検者(20-50歳代)のうち20人に0.03%ワレモコウエキス配合ゲル剤を、別の20人に対照としてワレモコウエキス未配合ゲル剤を、顔面にそれぞれ1日2回1ヶ月(5月中旬-6月中旬)にわたって二重盲検法に基づいて塗布してもらった。

評価方法として「有効」「やや有効」「変化なし」「やや悪化」「悪化」の基準で行い、1ヶ月後に評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 シワ改善効果(人数)
有効 やや有効 無効 やや悪化 悪化
ワレモコウエキス配合ゲル剤 20 6 11 3 0 0
ゲル剤のみ(対照) 20 0 1 14 3 2
試料 被検者数 弾性改善効果(人数)
有効 やや有効 無効 やや悪化 悪化
ワレモコウエキス配合ゲル剤 20 6 13 1 0 0
ゲル剤のみ(対照) 20 0 2 12 4 2

0.03%ワレモコウエキス配合ゲル剤塗布グループは、いずれにおいても皮膚のシワおよび弾性の悪化傾向を認めず、皮膚のシワおよび弾性について改善傾向を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献18:2000)、ワレモコウエキスにMMP-1活性阻害による抗老化作用が認められています。

ただし、ヒト使用試験においては2000年時点では有効なシワの評価方法が確立されていなかった中での効果確認であるため、その点は留意する必要があります。

AGEs分解による抗糖化作用

AGEs分解による抗糖化作用に関しては、まず前提知識として皮膚における糖化ストレスとAGEsについて解説します。

糖化ストレスとは、還元糖やアルデヒドによる生体ストレスとその後の反応を総合的に捉えた概念であり(文献19:2011)、糖化ストレスの一種である糖化(glycation)はアミノ酸と還元糖の非酵素的な化学反応のことをいいます。

以下の糖化反応のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

糖化反応のメカニズム図

皮膚における糖化反応とは、血糖であるグルコースやフルクトースなどの還元糖と真皮タンパク質であるコラーゲンやエラスチンが非酵素的に結合して糖化タンパクを形成し、シッフ塩基の形成やアマドリ転移などの非可逆的な反応を経てAGEs(advanced glycation end products:糖化最終生成物)にいたる反応のことをいいます(文献19:2011;文献20:2018)

形成されたAGEsは、加齢とともに非生理的架橋(∗6)を形成しながら蓄積されていくため、

∗6 架橋とは、主に高分子において分子間に橋を架けたような結合をつくることで物理的、化学的性質を変化させる反応のことです。

  • コラーゲン硬化による皮膚弾力性低下によるシワの形成
  • エラスチン硬化による皮膚弾力性低下およびたるみ化
  • メラニン産生促進によるシミの形成や皮膚透明度の低下
  • AGEsの受容体であるRAGE(receptor for AGEs)と結合し炎症を惹起

これらの糖化ストレス障害を引き起こすことが知られています(文献19:2011;文献20:2018;;文献21:2015;文献22:2019)

このような背景から、蓄積されたAGEsの架橋形成を切断しAGEsを分解することは、皮膚の老化や色素沈着の抑制に非常に重要であると考えられます。

2002年に一丸ファルコスによって報告されたワレモコウエキスのAGEsおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験においてタンパク質モデル(1-phenyl-1,2-propanedione)を含むリン酸緩衝液にワレモコウエキス(50%エタノール抽出)を、また陽性対照として100mM PTB(N-phenacylthiazolium bromide)を、ブランク(∗7)として50%エタノール溶液をそれぞれ加えて培養し、その際に生じる安息香酸を定量することでタンパク質架橋切断活性量を算出したところ、以下のグラフのように、

∗7 ブランクとは、評価する対象物を抜いた状態を指し、ここではワレモコウエキスを除いた50%エタノール溶液のみのものを指します。

ワレモコウエキスのタンパク質架橋切断活性作用

ワレモコウエキスは、ブランクと比較して優れたタンパク質架橋切断活性作用を有することが確認された。

次に、乾燥肌やハリ・ツヤのない肌で悩む20人の被検者(30-50歳)のうち10人に5%ワレモコウエキス配合乳液を、別の10人に対照としてワレモコウエキス未配合乳液をそれぞれ3ヶ月にわたって連日顔面塗布してもらった。

3ヶ月後に皮膚感触の評価を「有効:乾燥肌や肌のハリ・ツヤが改善された」「やや有効:乾燥肌や肌のハリ・ツヤがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 症例数 有効 やや有効 無効
ワレモコウエキス配合乳液 10 0 8 2
乳液のみ(比較対照) 10 0 0 10

ワレモコウエキス配合乳液塗布群は、未配合乳液塗布群と比較して乾燥肌および肌のハリ・ツヤに対する改善効果が確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献23:2002)、ワレモコウエキスにAGEs分解による抗糖化作用が認められています。

FGF-5活性阻害による抗脱毛作用

FGF-5活性阻害による抗脱毛作用に関しては、まず前提知識として毛髪の成長メカニズムとFGF-5について解説します。

毛髪の成長メカニズムに関しては、以下の毛髪の構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

毛髪の構造

毛髪は、毛細血管が蜜に分布し毛の栄養や発育を司る毛乳頭細胞から毛母細胞に栄養が供給され、栄養を受けた毛母細胞が細胞分裂を行い、分裂した片方が毛母にとどまり次の分裂に備え、残りの片方が毛の細胞(毛幹)となって角化していき、次々に分裂してできる新しい細胞によって表面に押し上げられるというメカニズムによって形成されています(文献24:2002;文献25:2002)

また、毛髪には周期があり、以下の毛周期図を見てもらうとわかりやすいと思いますが、

毛周期(ヘアサイクル)

成長期に入ると約2-6年の期間、毛幹(∗8)が伸び続け、その後に短い退行期が訪れることにより毛根が退縮し、やがて休止期となり毛髪が脱落、数ヶ月の休止期間の後に再度成長期に入って毛幹が伸びていくというサイクルを一生繰り返します(文献26:2009)

∗8 毛幹とは、毛の皮膚から外に露出している部分のことであり、一般に毛と認識されている部位です。

休止期には毛乳頭も縮小しますが消失することはなく、その後の休止期から成長期への移行により再び増大し、休止期毛包の一部が再び毛乳頭細胞と接触して分裂・増殖をはじめ、毛乳頭細胞を取り囲んで新しい毛球部を形成することによって次の毛周期がはじまるため、通常は毛髪量は一定に保たれています(文献27:2016;文献28:1999)

次に、FGF-5(fibroblast growth factor-5:線維芽細胞増殖因子)は、毛周期における成長期後半の外毛根鞘で増殖し、毛髪の成長を阻害し毛周期を成長期から退行期へ移行させる因子として知られています(文献29:1994;文献30:2001)

このような背景から、FGF-5の活性を阻害し成長期を延長させることは、脱毛の抑制において重要であると考えられます。

2006年にアドバンジェンによって報告されたワレモコウエキスのFGF-5およびヒト毛髪に対する影響検証によると、

in vitro試験においてFGF-5およびIL-3(∗9)に応答性のあるFR-Ba/F3細胞培養液に1μg/mLのFGF-5または10ng/mLのIL-3、さらに各濃度のワレモコウ50%エタノール溶液を添加し、培養・処理後にIL-3またはFGF-5によるFR-Ba/F3細胞の増殖率を調べたところ、以下のグラフのように、

∗9 IL-3(Interleukin-3:インターロイキン-3)は、FGF-5と同様に幅広い細胞の増殖を促進する別種のサイトカインです。

ワレモコウエキスのFGF-5活性阻害作用

ワレモコウエキスは、IL-3依存的な増殖と比較してFGF-5依存的なFR-Ba/F3細胞増殖を低濃度で阻害したことから、ワレモコウエキスは選択的にFGF-5阻害活性を有することが示された。

このような試験結果が明らかにされており(文献31:2006)、ワレモコウエキスにFGF-5活性阻害作用が認められています。

次に、2007年にポーラ化成工業によって報告されたワレモコウエキスのヒト毛髪における抜け毛および休止期毛率に対する影響検証によると、

脱毛で悩む39人(男性30人、女性9人、平均年齢46歳)を2グループに分け、1グループに10%ワレモコウエキス配合トニックを、別の1グループには対照トニックとして基剤を二重盲検法にて4ヶ月間1日2回使用してもらい、洗髪時の抜け毛数およびフォトトリコグラムで評価したところ、以下のグラフのように、

ワレモコウエキス使用による洗髪時の抜け毛数の変化

ワレモコウエキス使用による休止期毛率の変化

ワレモコウエキス配合トニック使用グループは、使用前と比べて4ヶ月後に抜け毛数は68.0%まで有意に減少し、休止期毛率は67.7%まで減少した。

このような試験結果が明らかにされており(文献32:2007)、ワレモコウエキスに抗脱毛作用が認められています。

OEO生成阻害による腋臭抑制作用

OEO生成阻害による腋臭抑制作用に関しては、まず前提知識として腋臭とおよび主な腋臭成分について解説します。

腋臭は、皮膚上に生息する細菌が原因であることが示されており、腋に集中して存在するアポクリン腺からの分泌液が皮膚上の特定の細菌種(腋臭菌)により、揮発性の物質に代謝されて発生することが知られています(文献33:2006)

腋臭の成分としては、

化学名称 略号 臭いの種類
3-methyl-3-sulfanylhexan-1-ol
3-メチル-3-スルファニルヘキサン-1-オール
硫黄臭
(生臭く鼻をつくニオイ)
3-hydroxy-3-methyl hexanoic acid
3-ヒドロキシ-3-メチルヘキサン酸
HMHA スパイシー臭
(カレースパイスのようなニオイ)
3-methyl-2-hexenoic acid
3-メチル-2-ヘキセン酸
3M2H 脂肪酸臭
(古い雑巾のようなニオイ)
1-octen-3-one
1-オクテン-3-オン
OEO 金属臭
(マッシュルームのようなニオイ)
cis-1,5-octadien-3-one
cis-1,5-オクタジエン-3-オン
ODO 金属臭
(カビのようなニオイ)

このような種類が報告されており(文献33:2006;文献34:2010;文献35:2003)、主成分としてはHMHAおよび3M2Hであるとされています。

また、ビニルケトンの一種であるOEO(1-octen-3-one)およびODO(cis-1,5-octadien-3-one)は、それぞれ金属臭を有していますが、これらはヒト代謝物中のリノール酸リノレン酸などの不飽和脂肪酸と鉄が作用して生成されることが報告されています(文献35:2003)

このような背景から、腋臭成分の生成を抑制・阻害することは、腋臭抑制において重要であると考えられます。

2003年にライオンによって報告されたのワレモコウエキスの腋臭への影響検証によると、

66人の成人男性の腋臭を採取し、特徴を官能評価により分類し、特徴的で臭気の強かった腋臭を分析した結果、腋臭中にOEOおよびODOのビニルケトン類が存在していることを確認した。

そこで、OEOの生成を植物エキスの抗酸化効果により抑制することを検討した。

リノール酸を用いた基質に0.5%濃度の3種の植物エキスをそれぞれ添加し、鉄と反応させてOEOの生成率を測定したところ、以下のグラフのように、

植物エキスのOEO生成抑制作用

ワレモコウエキスは、優れたOEO生成抑制効果を有していることが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献35:2003)、ワレモコウエキスにOEO生成阻害による腋臭抑制作用が認められています。

ワレモコウエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ワレモコウエキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性データ(文献23:2002)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの剃毛した背部皮膚に乾燥固形分0.5%ワレモコウエキス水溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後に一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギにおいても紅斑および浮腫などの皮膚刺激を認めず、陰性と判定された
  • [動物試験] 3匹のモルモットの剃毛した側腹部皮膚に乾燥固形分0.5%ワレモコウエキス水溶液0.5mLを1日1回週5回2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に一次刺激性の評価基準に基づいて紅斑および浮腫を指標として評価したところ、いずれのモルモットにおいても紅斑および浮腫などの皮膚刺激を認めず、陰性と判定された

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

日本薬局方および医薬部外品原料規格2006に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

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ワレモコウエキスは抗アレルギー成分、抗老化成分、抗脱毛成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗アレルギー成分 抗老化成分 抗脱毛成分

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