ローズマリー葉エキスとは…成分効果と毒性を解説








・ローズマリー葉エキス
[医薬部外品表示名称]
・ローズマリーエキス
シソ科植物ローズマリー(学名:Rosmarinus Officinalis 英名:rosemary)の葉から水、エタノール、BG(1,3-ブチレングリコール)で抽出して得られるエキスです。
ローズマリー葉エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
- ジテルペン化合物:カルノシン酸、カルノソール、ロスマノール
- ポリフェノール類:ロスマリン酸
- フラボノイド類:ルテオリン
- フェノールカルボン酸
- 精油:シネオール、ボルネオール
- ボルネオールエステル
- タンニン
などで構成されています(文献2:2006;文献3:2016)。
ローズマリーは古くから「若さを取り戻すハーブ」または「記憶力を増強するハーブ」として知られていますが、こうしたエピソードを裏付けるものとしてローズマリーにはロスマリン酸などの強力な抗酸化成分が見出されています。
医薬分野では、ローズマリーは全身性の強壮ハーブであり血液循環を促進する効果が顕著に表れ、ドイツでは食欲不振、胃アトニー、肝機能の低下、弛緩性便秘など消化機能の低下や循環不全による活力の低下などに用られます(文献3:2016)。
化粧品に配合される場合は、
これらを目的としてエイジングケア化粧品、美白化粧品、敏感肌化粧品、肌荒れ化粧品、ニキビ化粧品など様々なスキンケア化粧品をはじめ、ボディケア&ハンドケア製品、ヘアケア製品、洗浄製品、洗顔製品、マスク&パック製品など幅広い製品に使用されています(文献2:2006;文献4:2000;文献5:2004)。
また、ローズマリー葉エキスに含有されるロスマリン酸にパーマ、ブリーチ、カラーリングなどの化学処理された頭髪の抗酸化的な損傷抑制作用も認められており、ヘアケア製品、頭皮ケア製品、洗浄製品などにも使用されます(文献6:2006)。
抗酸化作用
抗酸化作用に関しては、まず前提知識として生体内における活性酸素の構造について解説します。
生体内における活性酸素は以下のように、
酸素(O₂) → スーパーオキシド(O₂⁻) → 過酸化水素(H₂O₂) → ヒドロキシラジカル(・OH)
最初に酸素と反応(電子を取り込む)して、まず活性酸素のスーパーオキシドを発生させ、発生したスーパーオキシドは活性酸素分解酵素であるSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)によって水に分解されますが、その過程で活性酸素である過酸化水素が発生します。
発生した過酸化水素は、過酸化水素分解酵素であるカタラーゼによって、また抗酸化物質であるグルタチオンを用いてグルタチオンペルオキシターゼによって水に分解されますが、それでも処理できない場合は、ヒドロキシラジカルを発生させます。
ローズマリー葉エキスに含まれるカルノシン酸およびカルノソールには、グルタチオン、SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)およびカタラーゼといった抗酸化因子の産生を促進し、細胞自身の抗酸化力を誘導し酸化ストレスに対する抵抗性を発揮させることが示唆されています(文献5:2004)。
NGF阻害による抗炎症作用および抗アレルギー作用
NGF阻害による抗炎症作用および抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚における炎症とNGFの関係について解説しておきます。
以下の皮膚における炎症およびかゆみのメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
アトピー性皮膚炎、乾燥肌、敏感肌といった皮膚状態では共通して表皮内にまで多くの知覚神経線維が伸長してきており、皮膚の知覚神経伸長には表皮細胞が産生するNGF(神経成長因子)が関与しています。
2011年に大正製薬によって報告された技術情報によると、
神経突起伸長試験キットを用いて、NGF(300ng/mL)および各生薬エキス(細切りにし10倍量(w/v)のエタノール:水混合液(1:1)で沸騰後30分間抽出・ろ過した後にエタノールを除去したもの)にPC12細胞懸濁液(100μL)添加し、3日間培養し、細胞突起量を測定したところ、以下の4種類が高い阻害作用を示した。
生薬 | 阻害率(%) |
---|---|
ゲンノショウコ(Geranium thunbergii) | 78.7 |
ホップ(Humulus lupulus) | 95.9 |
ローズマリー(Rosmarinus officinalis) | 91.4 |
セージ(Salvia officinalis) | 98.4 |
また、皮膚炎症状を有したマウスの背部にこれら4種類の生薬エキス10%を含むエタノール溶液100μLを1日1回、週5回を7週間にわたって塗布し、皮膚の観察を1週間に1回行ない、皮膚炎症状態および皮膚水分蒸散量を測定した。
試験の結果、すべての生薬エキスで有意な炎症抑制作用が認められ、また皮膚水分蒸散量も抑制傾向にあり、とくにホップ塗布群では有意な皮膚水分蒸散量抑制作用が認められた。
このような検証結果が明らかにされており(文献7:2011)、ローズマリー葉エキスにNGF阻害による抗炎症作用および抗アレルギー作用が認められています。
チロシナーゼ関連タンパク質-2(TRP-2)阻害作用による色素沈着抑制作用
色素沈着(黒化メラニン)抑制の作用機序は、チロシナーゼ関連タンパク質-2(TRP-2)阻害作用ですが、まず紫外線を浴びてからユーメラニン(黒化メラニン)が合成されるまでのプロセスを解説しておきます。
以下の図のように、
紫外線を浴びると、紫外線の情報が段階を経てメラノサイトに届き、メラノサイト内に存在するアミノ酸であるチロシンと活性酵素であるチロシナーゼが結合することで黒化メラニンへの変化がはじまり、段階を経てユーメラニン(黒化メラニン)に合成されます。
メラノサイト内でドーパキノンまで変化が進むと、さらに以下の図のように段階が詳細に分かれており、
ドーパクロムまで変化すると、ドーパクロムはTRP-2という活性酵素と結合する段階がありますが、ローズマリー葉エキスに含まれるカルノシン酸には強力なTRP-2活性阻害作用が明らかになっており、TRP-2を活性化させないことでドーパクロムのDHICAへの変化を抑制し、結果的にユーメラニン化を抑制する作用が認められています(文献4:2000)。
ただし、この試験は10%ローズマリーエキスをベースに実施されており、化粧品に配合される場合は一般的に1%未満であるため、かなり穏やかな色素沈着抑制作用傾向であると考えられます。
エラスターゼ活性阻害による抗老化作用
エラスターゼ活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識として皮膚の構造とエラスターゼを解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
皮膚は大きく表皮と真皮に分かれており、表皮は主に紫外線や細菌・アレルゲン・ウィルスなどの外的刺激から皮膚を守る働きと水分を保持する働きを担っており、真皮はプロテオグリカン(ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸含む)・コラーゲン・エラスチンで構成された細胞外マトリックスを形成し、水分保持と同時に皮膚のハリ・弾力性に深く関与しています。
エラスチンは、2倍近く引き伸ばしても緩めるとゴムのように元に戻る弾力繊維で、コラーゲンとコラーゲンの間にからみあうように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保っています(文献9:2002)。
エラスターゼは、エラスチンを分解する酵素であり、通常はエラスチンの産生と分解がバランスすることで一定のコラーゲン量を保っていますが、皮膚に炎症や刺激が起こるとエラスターゼが活性化し、エラスチンの分解が促進されることでエラスチンの質的・量的減少が起こり、皮膚老化の一因となると考えられています。
2000年にノエビアによって公開された技術情報によると、
in vitro試験においてエタノール抽出したワレモコウ根、イタドリ根、メリッサ葉、ローズマリー葉、ベニバナ花、ショウガ根茎それぞれ100μg/mLのエラスターゼ活性阻害率を測定したところ、以下の表のように、
試料 | エラスターゼ阻害率(%) |
---|---|
ワレモコウ根 | 68.7 |
イタドリ根 | 20.2 |
メリッサ葉 | 23.4 |
ローズマリー葉 | 20.3 |
ベニバナ花 | 20.2 |
ショウガ根茎 | 22.1 |
ローズマリー葉エキスは100μg/mLで20%以上の有意なエラスターゼ阻害率を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献8:2000)、ローズマリー葉エキスにエラスターゼ活性阻害による抗老化作用が認められています。
複合植物エキスとしてのローズマリー葉エキス
ファルコレックスBX32という複合植物エキスは、以下の成分で構成されており、
- ニンニク根エキス
- ローマカミツレ花エキス
- ゴボウ根エキス
- アルニカ花エキス
- セイヨウキズタ葉/茎エキス
- オドリコソウ花/葉/茎エキス
- オランダガラシ葉/茎エキス
- セイヨウアカマツ球果エキス
- ローズマリー葉エキス
それぞれの複合作用で抗菌(フケ菌)、抗酸化(過酸化脂質生成抑制)目的でプレミックス配合されるため、化粧品成分一覧にこれらの成分が併用されている場合はファルコレックスBX32であると推測することができます。
—
ファルコレックスBX46という複合植物エキスは、以下の成分で構成されており、
- レモン果実エキス
- スギナエキス
- ホップ花エキス
- セイヨウアカマツ球果エキス
- ローズマリー葉エキス
効果および配合目的は、
- エラスチン保護(エラスターゼ阻害)
- 角質水分量増加
- 経表皮水分損失抑制
- 抗酸化(SOD様)
- 抗酸化(過酸化脂質生成抑制)
とされており、植物エキスの相乗効果によって炎症改善と同時に肌の水分量を向上および保持し、多角的に角層を健やかに整えるもので、化粧品成分一覧にこれらの成分が併用されている場合はファルコレックスBX46であると推測することができます。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2013-2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ローズマリー葉エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの「Safety Assessment of Rosmarinus Officinalis (Rosemary)-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」(文献1:2014)によると、
- [ヒト試験] 20人の被検者に0.2%ローズマリー葉エキスを含むクリームを単回24時間閉塞パッチ適用したところ、皮膚刺激スコアは0.00であり、刺激剤ではなかった(Anonymous,1998)
- [ヒト試験] 102人の被検者に0.0013%ローズマリー葉エキスを含むヘアスプレーを誘導期間において週3回3週間にわたって24時間閉塞パッチ適用し、それぞれ次のパッチ適用前に試験部位を評価した。2週間の無処置期間を設けた後に未処置部位にチャレンジパッチを適用し、パッチ除去24および72時間後に評価したところ、数人の被検者にほとんど知覚できない軽微の反応が観察されたが、皮膚刺激およびアレルギー反応とは関係がないと考えられ、ローズマリー葉エキスは皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Reliance Clinical Testing Services Inc,2009)
- [ヒト試験] 27人の被検者に0.2%ローズマリー葉エキスを含む日焼け止めクリームを誘導期間においてプレ段階として0.25%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液0.1mLを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に試験物質0.1mLを48または72時間適用を合計5回繰り返した。10日間の無処置期間を経て5%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液0.1mLを未処置部位に1時間閉塞適用した後に試験物質0.1mLを含む48時間閉塞チャレンジパッチを適用しパッチ除去1および24時間後に試験部位を評価したところ、いずれの期間、いずれの被検者にも皮膚反応は観察されず、接触感作剤ではなかった(Ivy Laboratories,1998)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
詳細な試験データはみあたらないため、データ不足のため詳細は不明です。
∗∗∗
ローズマリー葉エキスは抗炎症成分、抗酸化成分、抗菌成分、美白成分、抗老化成分にカテゴライズされています。
それぞれの成分一覧は以下からお読みください。
参考:抗炎症成分 抗酸化成分 抗菌成分 美白成分 抗老化成分
∗∗∗
文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2014)「Safety Assessment of Rosmarinus Officinalis (Rosemary)-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」Final Report.
- 日光ケミカルズ(2006)「植物・海藻エキス」新化粧品原料ハンドブックⅠ,p387.
- 林 真一郎(2016)「ローズマリー」メディカルハーブの事典 改定新版,200-201.
- 小坂 邦男, 他(2000)「ローズマリーから得られた美白成分」Fragrance Journal(28)(9),59-64.
- 小坂 邦男, 他(2004)「ローズマリージテルペノイドの抗酸化システム誘導効果」Fragrance Journal(32)(8),55-60.
- 染矢 慶太(2006)「水溶性ローズマリー抽出物の毛髪ダメージ抑制効果」Fragrance Journal(34)(8),35-41.
- 高野 憲一, 他(2011)「生薬エキスのアトピー性皮膚炎モデルマウス皮膚炎症状に対する作用」YAKUGAKU ZASSHI(131)(4),581-586.
- 株式会社 ノエビア(2000)「エラスターゼ阻害剤、及びこれを含有して成る老化防止用皮膚外用剤」特開2000-319189.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30.
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