ヨモギ葉エキスとは…成分効果と毒性を解説

抗アレルギー
 ヨモギ葉エキス
[化粧品成分表示名]
・ヨモギ葉エキス

[医薬部外品表示名]
・ヨモギエキス

キク科植物ヨモギ(学名:Artemisia Princeps = Artemisia indica Willd. var. maximowiczii (Nakai) H.Hara 英名:mugwort)の葉からエタノールBGで抽出して得られる抽出物植物エキスです。

ヨモギは日本全国に自生し、古くから食用においては草餅や天ぷら、医療用においては薬草として用いられ、また古くから邪気を払うと信じられていたことから端午の節句に菖蒲とともに浴湯へ入れる風習が根付き、今日でもヨモギ餅やヨモギ茶など身近にその名残があります(文献1:2011;文献2:2011)

ヨモギは、世界中のいたるところに分布しその種類は250種類ともいわれていますが、東西を問わず魔除けの力をもつ植物と考えられており、古代ローマではニガヨモギを身につけると災難を避けたびに疲れないと信じられ、ドイツ、オランダ、イギリスなどでは聖ヨハネの祭日(6月24日)あるいはその前日に採集したニガヨモギを焚き火でいぶしたり戸口につるして魔除けにしていたと伝えられています(文献2:2011)

また、インドやチベットなどアジアでは魔除けのためのお香として用いられ、日本の先住民族であるアイヌ民族もヨモギの葉茎を束ねたもので身体を払って清めたり、ヨモギ人形を飾って病魔を追い払ったと記されています(文献2:2011;文献3:2018)

このように、ヨモギが世界中で魔除けの力があると信じられていた理由は、その強い香りにあると考えられており、その根拠としてはヨーロッパではニンニクやハーブ類、アジアでは菖蒲や菊など香りの強いものは東西ともに古来魔除けの力があると考えられていたことに由来しています(文献2:2011)

ヨモギ葉エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
テルペノイド モノテルペン シネオール、ツヨン
フェニルプロパノイド クロロゲン酸

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献4:2013;文献5:1986)

ヨモギの葉の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において温裏(∗1)、止血、止痛効果があることから婦人科領域の止血や安胎に用いられ、民間療法分野において生の葉の汁を切り傷の血止めや湿疹、虫刺されの外用薬に、冷え性や腰痛の改善目的に全草を浴湯料として応用しています(文献1:2011;文献6:2016)

∗1 漢方における病態概念として病気に反応しているまたは病気が発現している場所を示す言葉として「表裏(ひょうり)」があり、「表」とは体表部、「裏」とは身体内部の臓器、消化器を示します。温裏(おんり)とは温清・熱性の薬物によって陽気を補い寒邪を除去する知慮法で、全身や局所の血液循環を促進し、代謝機能を高めることを意味します。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、ボディ&ハンドケア製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、ボディソープ製品、シート&マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品などに使用されています。

ヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用

ヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。

皮膚におけるアレルギー反応は、

種類 名称 抗体 抗原 皮膚反応 考えられる主な疾患
Ⅰ型 即時型
アナフィラキシー型
IgE 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか 15-20分で最大の発赤と膨疹 アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか
Ⅳ型 遅延型
細胞性免疫
感作T細胞 細菌、真菌、自己抗原 24-72時間で最大の紅斑と硬結 アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか

主にこの2種類に分類されています(∗2)(文献7:2010;文献8:1968;文献9:1999)

∗2 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。

Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、

Ⅰ型アレルギー性皮膚炎のメカニズム

まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献9:1999)

次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献9:1999)

そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献9:1999;文献10:2009)

このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、アレルゲンの曝露からⅠ型炎症までのプロセスにおけるいずれかのポイントにアプローチすることは、アレルギー性炎症の抑制において重要であると考えられています。

1994年にサンスターによって報告されたヨモギ葉エキスのヒスタミンおよびアトピー性皮膚炎に対する影響検証によると、

in vitro試験においてラット由来肥満細胞浮遊液にヨモギ葉エキスをそれぞれ1,10,100μg/mL濃度にて添加処理後にヒスタミン放出促進剤であるcompound48/80溶液を添加反応後にヒスタミン量を測定したところ、以下の表のように、

試料 濃度(μg/mL) ヒスタミン遊離抑制率(%)
ヨモギ葉エキス 1.0 4.6
10.0 26.5
100.0 74.0

ヨモギ葉エキスは、濃度依存的にヒスタミン遊離を抑制することがわかった。

このような試験結果が明らかにされており(文献11:1994)、ヨモギ葉エキスにヒスタミン遊離抑制作用が認められています。

次に、1998年に大阪府立公衆衛生研究所と富山医科薬科大学薬学部の共同研究によって報告されたドクダミエキスのヒアルロニダーゼに対する影響検証によると、

in vitro試験においてヒアルロニダーゼ溶液0.05mLに酵素活性化剤0.1mLと66種類の生薬の水抽出エキスをそれぞれ0.1mL添加し、処理後に気質溶液0.25mLを加え、反応させたのちにヒアルロニダーゼ阻害率を算出した。

また、生薬特有の成分が阻害作用を示したのか生薬中のタンニンが阻害作用を示したのかを検討するために、生薬のタンニン含有量およびタンニン除去後のヒアルロニダーゼ阻害率も合わせて算出したところ、以下の表のように、

水抽出エキス タンニン量(%) ヒアルロニダーゼ阻害率(%)
タンニン含有 タンニン除去
ヨモギ葉エキス 1.25 39 -1
ゲンノショウコ花/葉/茎エキス 2.00 27 15
ゴシュユ果実エキス 0.55 46 39
クチナシ果実エキス 0.05 78 87
シソ葉エキス 1.30 33 25
ドクダミエキス 0.60 63 49
チョウジエキス 2.15 78 35
セイヨウハッカ葉エキス 1.55 48 21
ビワ葉エキス 1.80 44 32
ハトムギ種子エキス 0 50 49

20%以上のヒアルロニダーゼ阻害率を示したのはこれら10種類であり、ヨモギ葉エキスは39%のヒアルロニダーゼ活性阻害作用を示した。

ヨモギ葉エキスのタンニン(∗3)含有時の阻害率は39%、タンニン除去時の阻害率は-1%であり、ヨモギ葉エキスにおいてはタンニンが阻害作用を有する成分であることが示唆された。

∗3 ヨモギ葉エキスのタンニンとはクロロゲン酸であると考えられます(文献5:1986)。

このような試験結果が明らかにされており(文献12:1998)、ヨモギ葉エキスにヒアルロニダーゼ活性阻害作用が認められています。

次に、1994年に淀川キリスト教病院皮膚科によって報告されたアトピー性皮膚炎に対するヨモギ葉エキス配合製品の使用検証によると、

1993年3月-10月の期間に淀川キリスト教病院皮膚科を受診したアトピー性皮膚炎患者のうち医師がステロイド軟膏を使用せずスキンケア製品でコントロール可能と判断した34名の重度アトピー性皮膚炎患者(13-36歳)に、入浴時に0.01%ヨモギ葉エキス(熱水抽出)を含むシャンプーおよびボディシャンプーを、入浴後に0.5%ヨモギエキス末配合ジェルを、就寝前に0.1%ヨモギエキス末配合クリームを4週間にわたって適用してもらった。

そして、週ごとの全般改善度を「著しく改善」「かなり改善」「やや改善」「不変」「悪化」の5段階で評価したところ、以下の表のように、

経時 評価人数 著しく改善 かなり改善 やや改善 不変 悪化
1週後 24 0 0 11 11 2
2週後 23 0 0 14 7 2
3週後 25 0 6 10 7 2
4週後 28 0 9 10 7 2

ヨモギ葉エキス配合製品を用いたスキンケアの実施では、著しく改善は認めなかったが1週後でも11例(45.8%)がやや改善を示し、3週後以降ではかなり改善が6例(24.0%)、やや改善が10例(40.0%)と増加を示した。

一方で、最終的で7例が不変を、2例が悪化を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献13:1994)、ヨモギ葉エキスにアトピー性皮膚炎の改善効果が認められています。

さらに、1998年に大阪回生病院皮膚科、杏林大学医学部皮膚科学教室およびサンスターによって報告されたアトピー性皮膚炎に対するヨモギ葉エキス配合シートの使用検証によると、

1997年3月-1998年1月の期間に大阪回生病院皮膚科を受診したアトピー性皮膚炎を有する25名の患者(8-68歳)に適量のヨモギエキス末を含むシートを1-4週間にわたって日中数時間または就寝中に使用してもらい、最終週に全般改善度を「著しく改善」「かなり改善」「やや改善」「不変」「悪化」の5段階で評価したところ、以下の表のように、

経時 評価人数 著しく改善 かなり改善 やや改善 不変 悪化
最終観察日 25 3 8 9 1 2

ヨモギエキス末配合シートの適用は、3例(12%)が著しく改善、8例(32%)がかなり改善、9例(36%)がやや改善を示し、やや改善以上は20例(80%)であった。

一方で、1例(4%)が不変、2例(8%)が悪化を示した。

このような試験結果が明らかにされており(文献14:1998)、ヨモギ葉エキスにアトピー性皮膚炎の改善効果が認められています。

ヨモギ葉エキスにはヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害が認められていることから、ヨモギ葉エキスのアトピー性皮膚炎改善効果はヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害によるものであると考えられます。

ヨモギ葉エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ヨモギ葉エキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 皮膚刺激性(皮膚炎を有する場合):まれに皮膚刺激を引き起こす可能性あり
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

ただし、アトピー性皮膚炎を有する場合はまれにかゆみの発生や症状の悪化が報告されているため、アトピー性皮膚炎を有する場合の使用は注意が必要であると考えられ、使用中にかゆみや症状の悪化がみられた場合はすみやかな使用の中止を推奨します。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

– 皮膚炎を有する場合 –

淀川キリスト教病院皮膚科の有用性試験データ(文献12:1994)によると、

  • [ヒト試験] 重度のアトピー性皮膚炎を有する34名の患者に0.01%ヨモギ葉エキス配合シャンプーおよびボディソープ、0.5%ヨモギエキス末配合ジェルおよび0.1%ヨモギエキス末配合クリームを4週間にわたって適用してもらい、4週間後に安全性を評価してもらったところ、7名(20.6%)に皮膚発赤がみられた。また試験期間中に6名(17.6%)に症状の悪化がみられた

大阪回生病院皮膚科、杏林大学医学部皮膚科学教室およびサンスターの有用性試験データ(文献13:1998)によると、

  • [ヒト試験] アトピー性皮膚炎を有する25名の患者に適量のヨモギ葉エキス配合シートを1-4週間にわたって日中数時間または就寝中に使用してもらい、試用期間中の皮膚反応を評価してもらったところ、2名は1回目の使用で痛みまたは掻痒が発生したため使用中止、1名は2週間後に軽度の掻痒発生のため使用を中止したところ症状は消失、さらに別の2名はそれぞれ軽度の紅斑および湿疹部の悪化がみられた

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して少なくない数の皮膚刺激が報告されているため、アトピー性皮膚炎を有する場合において一般に皮膚刺激を引き起こす可能性が低くないと考えられます。

ただし、試験に用いたものは一般に市販されているスキンケア製品であることから軽度の皮膚症状であればそれほど安全性に問題があるとは考えられないとの考察もあります(文献12:1994)

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

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ヨモギ葉エキスは抗アレルギー成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗アレルギー成分

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参考文献:

  1. 鈴木 洋(2011)「艾葉(がいよう)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,58.
  2. 中渡瀬 将之(2011)「中国詩文における蓬と転蓬」横浜国大国語研究(29),13-25.
  3. ジャパンハーブソサエティー(2018)「ヨモギ」ハーブのすべてがわかる事典,227.
  4. 御影 雅幸(2013)「ガイヨウ」伝統医薬学・生薬学,105-106.
  5. 奥田 拓男, 他(1986)「オオヨモギ, ヨモギ及び近縁植物のタンニンについて」YAKUGAKU ZASSHI(106)(10),894-899.
  6. 根本 幸夫(2016)「艾葉(ガイヨウ)」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,151-152.
  7. 厚生労働省(2010)「アレルギー総論」リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト5-14.
  8. R.R.A. Coombs, et al(1968)「Classification of Allergic Reactions Responsible for Clinical Hypersensitivity and Disease」Clinical Aspects of Immunology Second Edition,575-596.
  9. 西部 幸修, 他(1999)「植物抽出物の抗アレルギー作用」Fragrance Journal臨時増刊(16),109-115.
  10. 椛島 健治(2009)「皮膚のスーパー免疫」美容皮膚科学 改定2版,46-51.
  11. 渡辺 真理奈, 他(1994)「ヨモギエキスの抗炎症効果の検討」日本化粧品技術者会誌(28)(2),178-182.
  12. 沢辺 善之, 他(1998)「生薬の皮膚関連酵素に対する阻害作用」YAKUGAKU ZASSHI(118)(9),423-429.
  13. 玉置 昭治, 他(1994)「ヨモギエキス含有スキンケア製品(SYシリーズ)のアトピー性皮膚炎患者に対する使用経験」皮膚(36)(3),369-378.
  14. 庄司 昭伸, 他(1998)「アトピー性皮膚炎に対するヨモギエキス配合シートの使用経験」皮膚(40)(5),501-506.

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