ヤグルマギク花エキスとは…成分効果と毒性を解説




・ヤグルマギク花エキス
[医薬部外品表示名称]
・ヤグルマギクエキス
キク科植物ヤグルマギク(学名:Centaurea cyanus 英名:cornflower)の頭花から水、エタノール、BG(1,3-ブチレングリコール)、またはこれらの混合液で抽出して得られるエキスです。
ヤグルマギク花エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
- 青色色素:シアニン、アントシアン
- フラボノイド
などで構成されています(文献1:2006;文献2:-)。
ヤグルマギクは、ヨーロッパ東・南部、コーカサス地方原産で、日本へは明治中期に渡来し、広く普及しました。
1922年エジプト王家の谷を発掘していた考古学者であるカーターは3000年以上前の少年王ツタンカーメンの墓を発見し、黄金の棺の中には枯れたヤグルマギクの花のリースがあったとされており、またプロイセン王国(現ドイツ)にナポレオンが侵攻したときは首都ベルリンを逃げ出したルイーゼ王妃が麦畑に隠れ、ヤグルマギクで冠をつくって王子たちをなぐさめたことからドイツの紋章となり、国花とされたといわれています(文献3:2018)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、アイケア化粧品、メイクアップ化粧品、日焼け止め製品、洗顔石鹸、ヘアケア製品、洗浄製品リップケア製品、パック&マスク製品、メイクアップ化粧品など様々な製品に使用されます(文献1:2006;文献4:2014;文献5:2007)。
MIF分泌抑制による抗炎症作用
MIF分泌抑制による抗炎症作用に関しては、まず前提知識としてMIF(マクロファージ遊走阻止因子)について解説します。
マクロファージとは、白血球の一種で、生体内をアメーバ様運動する遊走性の食細胞です。
マクロファージの主要な機能は食細胞といわれるとおり、細菌、ウイルス、死んだ細胞等の異物を取り込み、病原体への対処と細胞死の残骸の処理を行うことですが、ほかにも紫外線などの外的刺激や皮膚刺激を受けたり、活性酸素が発生すると組織内を移動(遊走)しながら、IL-1、IL-6、IL-8、TNF-αなど様々な炎症性サイトカイン(∗1)を放出します。
∗1 様々な炎症症状を引き起こす原因因子のことです。
MIF(Macrophage migration inhibitory factor)とは、マクロファージ遊走阻止因子のことで、名称だけをみるとマクロファージの遊走を阻止すると解釈してしまいますが、この因子はマクロファージの遊走を制御し、炎症部位にマクロファージを集め炎症・免疫反応を惹起する液性因子(サイトカイン)です。
つまり、MIFを抑制することで、様々な炎症性サイトカインの放出および炎症の活性化の抑制が期待できます。
2014年にファンケルによって技術公開されたヤグルマギクエキスのMIF分泌抑制作用検証によると、
MIFは皮膚構成細胞のひとつであるケラチノサイトで強く発現することが知られており、ケラチノサイトにUVB照射することにより、MIFの分泌が促進されることが知られている。
そこで、ヒトケラチノサイトにUVB照射することによりMIFの分泌をヤグルマギクエキスが抑制するか試験したところ、以下のグラフのように、
ヤグルマギクエキス添加により、紫外線誘導性のMIFの分泌が顕著に抑制された。
したがって、MIF分泌量の増加によって皮膚の症状が悪化することが知られている紫外線による皮膚絵障害・炎症、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎などの炎症性疾患に対して改善効果が期待できる。
このような検証結果が明らかにされており(文献4:2014)、ヤグルマギクエキスにMIF(マクロファージ遊走阻止因子)分泌抑制による抗炎症作用が認められています。
上のグラフでは代表的な事例を掲載していますが、この検証では、国内で最も使用されている化粧品原料メーカー3社のヤグルマギクエキスが使用されており、そのすべてに程度の差はあるものの同様の作用傾向が認められているため、ヤグルマギクエキスそのものの作用であると考えられます。
VEGF発現促進による育毛作用
VEGF発現促進による育毛作用に関しては、まず前提知識として血管内皮増殖因子であるVEGFについて解説します。
以下の毛髪の構造図と毛周期の図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
毛包は周囲を血管によって網状に取り囲まれ、また毛乳頭には血管が内部に入り込んでいますが、これらの血管は成長期には増加して栄養やエネルギーを多量に輸送し、退行期、休止期には減少するといった毛包サイクルに沿った増減を繰り返します。
VEGFは、新しい血管を形成する血管新生因子として知られており、毛髪において成長期の毛乳頭に最も発現が多く、ついで退行期、休止期の順に少なくなること(文献6:1996)、またマウスの外毛根鞘細胞へのVEGF遺伝子導入は毛包周囲血管網の構築促進と毛包・毛幹サイズの増大を示すことが報告されています(文献7:2001)。
また、VEGFは加齢にともなって減少することで毛根でつくられる毛髪が細くなり、ハリやコシが弱くなることが明らかにされており、また加齢によるVEGF作用の減少程度はハリやコシのあるヒトよりもハリやコシのないヒトに顕著であり、さらにヒト男性型脱毛においてはVEGF産生が低下することが認められています。
2007年に資生堂によって公開された生薬エキスにおけるVEGF発現促進検証によると、
生薬のスクリーニングによってVEGF発現促進活性を有することが認められたヤグルマギクエキス、アシタバエキスおよびビャクジュツエキスのそれぞれについて正常細胞における実際のVEGF発現促進効果の有無を確認するために、正常ヒトケラチノサイトにそれぞれのエキスを培養液に対する濃度として10⁻³(0.001)、10⁻²(0.01)%を添加し24時間培養後に測定したところ、それぞれのエキスがVEGFの発現を濃度依存的に促進することが確認された。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:2007)、ヤグルマギクエキスに濃度依存的なVEGF発現促進による育毛作用が認められています。
複合植物エキスとしてのヤグルマギク花エキス
ファルコレックスBX44という複合植物エキスは、以下の成分で構成されており、
- ローマカミツレ花エキス
- トウキンセンカ花エキス
- ヤグルマギク花エキス
- カミツレ花エキス
- セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス
- フユボダイジュ花エキス
効果および配合目的は、
- 角質水分量増加
- 経表皮水分損失抑制
- 抗炎症(ヒスタミン遊離抑制)
- 抗酸化(SOD様)
- 抗酸化(過酸化脂質生成抑制)
- メディエーター抑制(ヒスタミン遊離抑制)
とされており、肌の潤い促進、乾燥によるかゆみ抑制、過剰な皮脂抑制などそれぞれポイントの違う植物エキスの相乗効果によって肌荒れやざ瘡を多角的に予防するもので、化粧品成分一覧にこれらの成分が併用されている場合はファルコレックスBX44であると推測することができます。
ヤグルマギク花エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
ただし、詳細な試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
化粧品原料としてのヤグルマギク花エキスはアレルギー原因物質を除去していると考えられますが、キク科アレルギーの場合は販売メーカーに問い合わせて安全性を確認することを推奨します。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
詳細な試験データはみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
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ヤグルマギク花エキスは抗炎症成分、収れん成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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文献一覧:
- 日光ケミカルズ(2006)「植物・海藻エキス」新化粧品原料ハンドブックⅠ,384.
- 丸善製薬株式会社(-)「ヤグルマギク」技術資料.
- ジャパンハーブソサエティー(2018)「コーンフラワー」ハーブのすべてがわかる事典,81.
- 榎本 有希子(2014)「MIF分泌抑制剤」特開2014-091726.
- 長谷川 聖高, 他(2007)「血管内皮増殖因子(VEGF)発現促進剤」特開2007-106744.
- Lachger S,et al(1996)「VEGF mRNA expression in different stages of the human hair cycle:analysis by confocal laser microscopy:Hair reserch for the next millenium」Elsvier Science,407-411.
- Yano K,et al(2001)「Control of hair growth and follicle size by VEGF-mediated angiogenesis」J Clin Invest(107),409-417.
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