メマツヨイグサ種子エキスとは…成分効果と毒性を解説





・メマツヨイグサ種子エキス
[医薬部外品表示名]
・メマツヨイグサ抽出液
アカバナ科植物メマツヨイグサ(学名:Oenothera biennis 英名:common evening primrose)の種子から水、BG(1,3-ブチレングリコール)、またはこれらの混液で抽出して得られるエキスです。
メマツヨイグサ種子エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
- 油脂類:リノール酸、γ-リノレン酸
- ポリフェノール類:カテキン、エラグ酸、ペンタガロイルグルコース、プロアントシアニジン、没食子酸
などで構成されています(文献2:2011;文献3:2016;文献4:2004)。
メマツヨイグサは北米を原産とし、ユタ州やネバダ州の先住民が全草を食糧にしたり、種の油を外傷や皮膚炎の治療薬として用いてきました。
日本では明治中期に観賞用として持ち込まれ、全国に広がったとされており、現在では河原や荒れ地にみられます。
メマツヨイグサの種子から得られる油は一般的に月見草油と呼ばれ、γ-リノレン酸をはじめ多くの不飽和脂肪酸が含まれていることが知られています(文献3:2016)。
不飽和度が高いγ-リノレン酸を多く含む月見草油は、光や熱、空気などの外的環境でかんたんに酸化され、色や臭いが変化しますが、種子の状態では長期間の保管が可能であり、これはメマツヨイグサの種子に強力な抗酸化ポリフェノールが含まれているためだと考えられています(文献4:2004)。
ポリフェノールは、化学構造上の特性から縮合型タンニンと加水分解型タンニンに分けられますが、メマツヨイグサの種子には縮合型タンニンとしてカテキン、加水分解型タンニンとしてエラジタンニン類およびその酸化代謝物の両タイプのポリフェノールを含んでおり、強い抗酸化性を示唆しています(文献4:2004)。
化粧品に配合される場合は、
- 過酸化脂質およびスーパーオキシド(O₂⁻)抑制による抗酸化作用
- チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用
- ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼおよびエラスターゼ活性阻害による抗老化作用
- DDR2発現量増加による抗老化作用
これらの目的で、スキンケア製品、洗浄製品、ヘアケア製品、日焼け止め製品、洗顔料、リップケア製品、シート&マスク製品など様々な製品に使用されます(文献1:2017;文献2:2011;文献4:2004;文献9:2018)。
過酸化脂質およびスーパーオキシド(O₂⁻)抑制による抗酸化作用
過酸化脂質およびスーパーオキシド(O₂⁻)抑制による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として過酸化脂質とスーパーオキシドについて解説します。
過酸化脂質は、皮脂や細胞間脂質、細胞膜を構成しているリン脂質などの酸化が進んだ脂質のことで、皮膚に過酸化脂質が増えると様々な物質の変性・損傷が起こり、肌はくすみ、ハリはなくなり、色素沈着は濃くなり、老化が促進されます(文献5:2002)。
皮膚において過酸化脂質が生成される主な原因のひとつが紫外線であり、紫外線により発生した活性酸素のひとつである一重項酸素が脂質と結合することで過酸化脂質の生成が促進されます(文献5:2002)。
次にスーパーオキシド(O₂⁻)は、体内で発生する代表的な活性酸素のひとつで、具体的には以下のように、
酸素(O₂) → スーパーオキシド(O₂⁻) → 過酸化水素(H₂O₂) → ヒドロキシラジカル(・OH)
活性酸素がより強力になっていく過程の最初に発生します。
スーパーオキシド(O₂⁻)は、最初に大量に発生する活性酸素でエネルギーの産生の過程で必然的に発生しますが、発生したスーパーオキシドは活性酸素分解酵素であるSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)によって水に分解され、その過程で分解しきれない場合に過酸化水素が発生します。
ただし、30代になると活性酸素分解酵素の発現が減少することが明らかになっており、活性酸素を分解しきれずに活性酸素が強力になっていきやすくなります。
2004年に一丸ファルコスによって報告されたメマツヨイグサ種子エキスの過酸化脂質生成抑制試験および活性酸素消去試験によると、
メマツヨイグサ種子エキスの過酸化脂質生成抑制作用を検討するために、メマツヨイグサ種子エキスとα-トコフェロールの過酸化脂質抑制率を比較したところ、以下のグラフのように、
メマツヨイグサ種子エキスはとくに低い濃度(0.01mg/mL)においてα-トコフェロールよりも紫外線による不飽和脂肪酸の酸化を抑制する作用が強いことが確認された。
次にメマツヨイグサ種子エキスのスーパーオキシド抑制作用を検討するために、メマツヨイグサ種子エキスとアスコルビン酸、ボタンピ抽出物、リョクチャ抽出物の抑制率を比較したところ、以下のグラフのように、
メマツヨイグサ種子エキスのスーパーオキシド抑制作用は、リョクチャ抽出物とほぼ同等で、アスコルビン酸より強いことが確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献4:2004)、メマツヨイグサ種子エキスに過酸化脂質生成抑制作用およびスーパーオキシド抑制作用が認められています。
チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用
チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。
以下のメラニン合成の構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
紫外線を浴びるとまず最初に活性酸素が発生し、様々な情報伝達物質(メラノサイト活性化因子)をメラノサイトで発現するレセプター(受容体)に届けることで、メラノサイト内でメラニンの生合成がはじまり、ユーメラニン(黒化メラニン)へと合成されます。
メラノサイト内でのメラニン生合成は、まずアミノ酸であるチロシンに活性酵素であるチロシナーゼが結合することでドーパ、ドーパキノンへと変化し、最終的に黒化メラニンが合成されます。
2011年にオリザ油化によって報告されたメマツヨイグサ種子エキスのチロシナーゼ活性阻害検証によると、
メマツヨイグサ種子エキスのチロシナーゼ活性阻害を検討するために、β-アルブチン、エラグ酸、コウジ酸それぞれ1mg/mL濃度で比較したところ、以下のグラフのように、
それぞれ同濃度の場合においてメマツヨイグサ種子エキスは比較対象成分と同等、もしくはそれ以上の阻害活性が認められた。
このような試験結果が明らかにされており(文献2:2011)、メマツヨイグサ種子エキスにチロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用が認められています。
ただし、試験は1mg/mL濃度で行われており、一般的な化粧品配合量は1%以下であるため、試験よりかなり穏やかな作用傾向である可能性が考えられます。
ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼおよびエラスターゼ活性阻害による抗老化作用
ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼおよびエラスターゼ活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識としてヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼおよびエラスターゼを解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
皮膚は大きく表皮と真皮に分かれており、表皮は主に紫外線や細菌・アレルゲン・ウィルスなどの外的刺激から皮膚を守る働きと水分を保持する働きを担っており、真皮はプロテオグリカン(ヒアルロン酸およびコンドロイチン硫酸含む)・コラーゲン・エラスチンで構成された細胞外マトリックスを形成し、水分保持と同時に皮膚のハリ・弾力性に深く関与しています。
ヒアルロン酸は、真皮の中で広く分布するゲル状の高分子多糖体として知られており、規則的に配列したコラーゲンとエラスチンの繊維間を充たし、水分を大量に保持することで、皮膚に弾力性と柔軟性を与えています(文献6:2002)。
ヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸を分解する酵素であり、通常はヒアルロン酸の産生と分解がバランスすることで一定のヒアルロン酸量を保っていますが、皮膚に炎症や刺激が起こるとヒアルロニダーゼが活性化し、ヒアルロン酸の分解が促進されることでヒアルロン酸の質的・量的減少が起こり、皮膚老化の一因となると考えられています。
コラーゲンは、白い紐状のタンパク質からなる丈夫な太い繊維で、膠質状の性質を持ち、内部にたっぷりと水分を抱えながら皮膚のハリを支えています(文献7:2002)。
コラゲナーゼは、コラーゲンを分解する酵素であり、通常はコラーゲンの産生と分解がバランスすることで一定のコラーゲン量を保っていますが、皮膚に炎症や刺激が起こるとコラゲナーゼが活性化し、コラーゲンの分解が促進されることでコラーゲンの質的・量的減少が起こり、皮膚老化の一因となると考えられています。
エラスチンは、2倍近く引き伸ばしても緩めるとゴムのように元に戻る弾力繊維で、コラーゲンとコラーゲンの間にからみあうように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保っています(文献7:2002)。
エラスターゼは、エラスチンを分解する酵素であり、通常はエラスチンの産生と分解がバランスすることで一定のコラーゲン量を保っていますが、皮膚に炎症や刺激が起こるとエラスターゼが活性化し、エラスチンの分解が促進されることでエラスチンの質的・量的減少が起こり、皮膚老化の一因となると考えられています。
2004年に一丸ファルコスによって報告されたメマツヨイグサ種子エキスのヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼおよびエラスターゼの活性阻害試験によると、
メマツヨイグサ種子エキスのヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼおよびエラスターゼの活性阻害作用を検討するために、0.001%,0.01%,0.1%濃度でそれぞれの抑制率を比較したところ、以下のグラフのように、
メマツヨイグサ種子エキスにヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼおよびエラスターゼの活性阻害作用が認められた。
これらの酵素活性を阻害した成分とその作用機序については明確ではなく、カテキン類以外のポリフェノールの作用ではないかと考えられるが、この点については今後も検討していく必要がある。
このような試験結果が明らかにされており(文献4:2004)、メマツヨイグサ種子エキスにヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼおよびエラスターゼ活性抑制による抗老化作用が認められています。
ただし、試験はin vitroであり、エラスターゼは低濃度で高い抑制率が認められていますが、コラゲナーゼは0.1%以上、ヒアルロニダーゼは1%濃度で高い抑制率が認められており、一般的に化粧品配合量は1%以下であるため、かなり穏やかな作用傾向であると考えられます。
DDR2発現量増加による抗老化作用
DDR2発現量増加による抗老化作用に関しては、まず前提知識としてDDR2について解説します。
以下の真皮の線維芽細胞およびDDR2とコラーゲンの構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
DDR2は、線維芽細胞に存在し、線維芽細胞とコラーゲンを接着させるコラーゲン受容体であり、損傷した型コラーゲンを認識してコラーゲンの再構築に関与することで知られています(文献8:2018)。
また2018年には損傷したコラーゲンの再構築だけではなく、エラスチン繊維の形成にも関与していることが明らかになっています(文献8:2018)。
さらにDDR2は、線維芽細胞の老化により減少することも明らかになっており、DDR2を減少させた線維芽細胞ではエラスチン繊維産生量およびⅠ型コラーゲン産生量が約半分に減少することが確認されています(文献8:2018)。
2018年にファンケルによって報告されたDDR2増加によるコラーゲン繊維への影響およびメマツヨイグサ種子エキスのDDR2の発現量検証によると、
DDR2の量が減少すると、コラーゲン繊維が減少し、真皮のハリ・弾力の低下につながる可能性がある。
そこでDDR2の発現量を人工的に増加させた細胞を作成し、コラーゲン繊維の形成について調べたところ、以下のグラフのように、
DDR2の発現量を操作していない細胞と比較して、DDR2を増加させた細胞はコラーゲン繊維量が約12倍にも増加した。
このことからコラーゲン産生力が低下した細胞の再生にはDDR2の産生量を増やすことが効果的であると結論づけた。
次にDDR2を増加させる成分をを探索したところ、以下の図のように、
メマツヨイグサのエキスにDDR2の発現量を増加し、コラーゲン繊維形成量も増加することを発見した。
このような試験結果が明らかにされており(文献9:2018)、メマツヨイグサ種子エキスにDDR2発現量増加によるコラーゲン繊維形成量増加作用(抗老化作用)が認められています。
ただし、試験の詳細が不明であり、一般的に化粧品配合量は1%以下であるため、穏やかな作用傾向である可能性が考えられます。
メマツヨイグサ種子エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
ただし、詳細な試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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メマツヨイグサ種子エキスは抗炎症成分、抗酸化成分、美白成分、抗老化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- 一丸ファルコス株式会社(2017)「ルナホワイト B」技術資料.
- オリザ油化株式会社(2011)「月見草エキス」技術資料.
- 林 真一郎(2016)「イブニングプリムローズ」メディカルハーブの事典 改定新版,14-15.
- 堀 道政(2004)「メマツヨイグサ種子由来ポリフェノールの抗酸化・抗老化作用について」Fragrance Journal(32)(8),82-87.
- 朝田 康夫(2002)「過酸化脂質の害は」美容皮膚科学事典,163-165.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の変性と加齢の関係は」美容皮膚科学事典,132-133.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30.
- 株式会社ファンケル(2018)「肌の弾力維持にタンパク質「DDR2」が重要な役割を果たすことを発見」, <https://www.fancl.jp/news/pdf/20180105_hadanodanryokuijiddr2.pdf> 2018年9月22日アクセス.
- 株式会社ファンケル(2018)「コラーゲン線維形成を最も促進するコラーゲン受容体「DDR2」を発見」, <https://www.fancl.jp/news/pdf/20180920_collargenjuyoutaiddr2.pdf> 2018年9月22日アクセス.