ボタンエキスとは…成分効果と毒性を解説

抗アレルギー 抗炎症 色素沈着抑制 抗老化
ボタンエキス
[化粧品成分表示名称]
・ボタンエキス

[医薬部外品表示名称]
・ボタンエキス

ボタン科植物ボタン(学名:Paeonia suffruticosa 英名:Peony)の根皮からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

ボタン(牡丹)は中国を原産とし、中国を代表する国花であり、古くから薬用や観賞用に栽培され、唐の時代に大流行したといわれています(文献1:2011)

日本には奈良あるいは平安時代に渡来し栽培され、江戸時代にボタン栽培が流行し数々の園芸品が作り出されてきた経緯があり、現在は主に長野県や奈良県桜井近辺で栽培されています(文献1:2011)

ボタンエキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
その他の芳香族化合物 ペオノール(主要成分)、ペオノシド、ペオノリド
テルペノイド モノテルペン ペオニフロリン

これらの成分で構成されていることが報告されており(文献1:2011;文献2:2013;文献3:2011)、主要成分のペオノール(paeonol)には抗菌作用、鎮静作用などが知られています(文献3:2011;文献4:2016)

ボタン根皮(生薬名:ボタンピ)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において熱証(∗1)を鎮め、瘀血(∗2)を除く効能があることから、清熱目的でうっ血を伴う発熱性の病症に、駆瘀血目的で月経不順、月経痛、部痛、腹痛などに用いられます(文献1:2011;文献4:2016)

∗1 熱証とは、炎症、充血、のぼせ、ほてり、いらいらなどの熱感を指し、これらの状態を改善することを清熱といいます。

∗2 瘀血(おけつ)とは、血行障害もしくは婦人科系の代謝不全により体内に非生理的血液が残り、それによって起きる様々な症状(月経不順、冷え、のぼせ、こり、痛みなど)や疾病を指します(文献4:2016;文献5:1982)。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、シート&マスク製品、化粧下地、メイクアップ化粧品、ボディ&ハンドケア製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、頭皮ケア製品など様々な製品に汎用されています。

ヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用

ヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。

皮膚におけるアレルギー反応は、

種類 名称 抗体 抗原 皮膚反応 考えられる主な疾患
Ⅰ型 即時型
アナフィラキシー型
IgE 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか 15-20分で最大の発赤と膨疹 アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか
Ⅳ型 遅延型
細胞性免疫
感作T細胞 細菌、真菌、自己抗原 24-72時間で最大の紅斑と硬結 アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか

主にこの2種類に分類されています(∗3)(文献6:2010;文献7:1968;文献8:1999)

∗3 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。

Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、

Ⅰ型アレルギー性皮膚炎のメカニズム

まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献8:1999)

次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献8:1999)

そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、ロイコトリエン、プロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献8:1999;文献9:2009)

このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、アレルゲンの曝露からⅠ型炎症までのプロセスにおけるいずれかのポイントにアプローチすることが、アレルギー性炎症の抑制において重要であると考えられています。

1996年に一丸ファルコスによって報告されたボタンエキスのヒスタミンに対する影響検証によると、

in vitro試験において各植物エキスのヒスタミン遊離抑制効果を検討するために、ラット肥満細胞浮遊液(3mL)に各植物抽出物(0.5mL)とヒスタミン放出促進剤(脱顆粒促進剤)であるコンパウンド48/80を加えて培養し、反応液からヒスタミンを抽出・精製し、ヒスタミン遊離抑制率を算出したところ、以下のグラフのように、

各植物抽出物のヒスタミン遊離抑制作用

ボタンエキスは、65%以上のヒスタミン遊離抑制作用を示した。

また、これら植物エキスいずれの組み合わせにおいてもヒスタミン遊離抑制の相乗効果が認められた。

このような試験結果が明らかにされており(文献10:1996)、ボタンエキスにヒスタミン遊離抑制作用が認められています。

次に1997年に一丸ファルコスによって報告されたボタンエキスのヒアルロニダーゼおよびアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患に対する影響検証によると、

in vitro試験において固形分濃度0.5%植物抽出液それぞれ0.1mLに、ヒアルロニダーゼ溶液0.05mL、ヒスタミン放出促進剤であるcompound48/80溶液、ヒアルロン酸溶液0.25mLを加えて処理した後にヒアルロニダーゼ活性阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

各植物エキスのヒアルロニダーゼ活性阻害作用

0.5%ボタンエキスは、陽性対照である0.5%グリチルリチン酸ジカリウムとほぼ同等のヒアルロニダーゼ活性阻害作用を有することが確認された。

次に、湿疹・アトピー性皮膚炎で悩む10人の被検者(20-30歳)の顔面に5%ボタンエキスを含む乳液を1日2回(朝晩)洗顔後に2ヶ月にわたって塗布してもらい、対照としてボタンエキス未配合乳液を同様に用いた。

評価方法として「有効:湿疹などの炎症に伴う赤みや肌荒れが改善された」「やや有効:湿疹などの炎症に伴う赤みや肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の基準で行い、2ヶ月後に被検者に評価してもらったところ、以下の表のように、

試料 湿疹・アトピー性皮膚炎・肌荒れ改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
ボタンエキス配合乳液 3 5 2
乳液のみ(対照) 0 2 8

5%ボタンエキス配合乳液塗布群は、未配合乳液塗布群と比較して湿疹・アトピー性皮膚炎・肌荒れの改善に対して良好な効果が確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献11:1997)、ボタンエキスにヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用が認められています。

IL-1α産生阻害による抗炎症作用

IL-1α産生阻害による抗炎症作用に関しては、まず前提知識として紫外線(UVB)曝露による炎症反応のメカニズムについて解説します。

以下の紫外線(UVB)曝露による炎症のメカニズム図(一部省略)をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

紫外線曝露による炎症反応メカニズム

最初に皮膚が紫外線(UVB)に曝露されると、転写因子(∗4)の一種であるNF-κB(nuclear factor-kappa B)が過剰に発現することが知られており、このNF-κBの過剰な発現によって、炎症反応に深く関与している炎症性サイトカイン(∗5)であるIL-1α(interleukin-1α:インターロイキン-1α)やTNF-α(tumor necrosis factor-α)が産生・放出されます(文献12:2005;文献13:1994)

∗4 転写因子とは、細胞内のDNAに特異的に結合するタンパク質の一群のことです。

∗5 サイトカインとは、細胞間相互作用に関与する生理活性物質の総称であり、標的細胞にシグナルを伝達し、細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現など多様な細胞応答を引き起こすことで知られています。炎症性サイトカインとは、サイトカインの中で主に生体内に炎症反応を引き起こすサイトカインのことをいいます。

これらの炎症性サイトカインは、種々のサイトカインを産生させ、さらに真皮の血管内皮細胞に存在する細胞接着因子を誘導し、血中に存在する炎症細胞(白血球)を血管内皮細胞に強固に接着することにより炎症細胞の血管透過性を高め、炎症反応を増強することが知られています(文献13:1994;文献14:1995;文献15:2010)

また、これらの炎症性サイトカインはさらにNF-κBの発現を誘導するため、炎症反応の悪循環が生じ、炎症反応は増幅していくことも明らかにされています(文献12:2005)

このような背景から、炎症性サイトカインの過剰な産生を抑制することは、過剰な炎症の抑制において重要であると考えられます。

2006年に一丸ファルコスによって報告されたボタンエキスのIL-1αおよび皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験において正常ヒト新生児表皮角化細胞を播種した培養液にボタン50%エタノール溶液(固形分濃度1.4%)、カワラヨモギ花30%BG溶液(固形分濃度1.1%)を50μL/mL濃度で添加、ブランクとして50%BG溶液を添加し、UVBを50mJ照射し培養・処理後にIL-1αの量を定量したところ、以下のグラフのように、

各植物エキスのIL-1α産生阻害作用

ボタンエキスは、有意なIL-1α産生抑制効果がみられた。

次に、シミ、そばかす、色黒で悩む10人の被検者(30-60歳)に5%ボタンエキス配合乳液を1日2回(朝夕)3ヶ月間にわたって塗布してもらった。

3ヶ月後にシミ・ソバカスおよび皮膚明度の改善効果を「有効:シミ・ソバカスの軽減や皮膚明度が向上した」「やや有効:シミ・ソバカスがやや軽減し、皮膚明度がやや向上した」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 有効 やや有効 無効
ボタンエキス配合乳液 10 7 3 0
乳液のみ(比較対照) 10 0 1 9

5%ボタンエキス配合乳液塗布群は、未配合乳液塗布群と比較して色素沈着の抑制および皮膚明度の向上が確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献16:2006)、ボタンエキスにIL-1α産生阻害による抗炎症作用が認められています。

ヒト試験は色素沈着の抑制および皮膚明度の向上を指標としていますが、これは以下のメラニン合成におけるNF-κBの影響図をみてもらうとわかるように、

メラニン合成におけるNF-κBの影響[表皮]

紫外線曝露時に転写因子の一種であるNF-κBが過剰に発現することによって、炎症サイトカインであるIL-1αやTNF-αが産生・放出されるだけでなく、以下の表のように、

慣用名 正式名称 分類 作用
ET-1 endothelin-1
エンドセリン-1
エンドセリン メラノサイトの増殖
チロシナーゼの合成促進
bFGF basic fibroblast growth factor
線維芽細胞増殖因子
サイトカイン
成長因子(増殖因子)
メラノサイトの増殖
TRPの合成促進
チロシナーゼの活性促進
COX-2 cyclooxygenase-2
シクロオキシゲナーゼ-2
プロスタグランジン産生酵素 プロスタグランジンを生成

これらのメラノサイト活性化因子の産生が促進されることが報告されており(文献17:2005;文献18:2014)、また産生・放出されたIL-1αやTNF-αはさらにNF-κBの産生を促進するという悪循環を生じさせ、これによりメラノサイト活性化因子の産生が増加するため、IL-1αの産生を阻害することはメラノサイト活性化因子の発現抑制につながり、結果として色素沈着抑制効果として機能するといえます。

こういった背景やボタンエキスの色素沈着抑制効果を強調する意図から、ヒト試験において色素沈着の抑制および皮膚明度の向上を指標としたと考えられますが、直接的な作用は抗炎症であることから、ここでは抗炎症作用に分類しています。

メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用

メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献19:2002;文献20:2016;文献21:2019)

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献19:2002;文献21:2019)

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献19:2002;文献21:2019)

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献19:2002)

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献19:2002)

このような背景から、紫外線の曝露からメラニン排出までのプロセスにおけるいずれかのポイントでメラニンにアプローチすることが、色素沈着の抑制において重要であると考えられています。

1999年に一丸ファルコスによって報告されたボタンエキスのメラニンおよび皮膚に対する影響検証によると、

培養B16メラノーマ細胞を含む培地に、固形分0.5%濃度の各植物抽出液を添加しメラニン量を算出し比較したところ、以下のグラフのように、

各植物抽出液(固形分濃度0.5%)のメラニン生成抑制作用

0.5%ボタンエキスは、メラニン色素の生成を抑制することが確認された。

次に、シミ、そばかす、色黒で悩む10人の被検者(30-50歳)に5%ボタンエキス配合乳液を1日2回(朝夕)3ヶ月間にわたって塗布してもらった。

3ヶ月後にシミ・ソバカスおよび皮膚明度の改善効果を「有効:シミ・ソバカスの軽減や皮膚明度が向上した」「やや有効:シミ・ソバカスがやや軽減し、皮膚明度がやや向上した」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 有効 やや有効 無効
ボタンエキス配合乳液 10 0 2 8
乳液のみ(比較対照) 10 0 0 10

5%ボタンエキス配合乳液塗布群は、未配合乳液塗布群と比較して色素沈着の抑制および皮膚明度の向上が確認された。

さらに、同様の試験において5%ボタンエキスと、他の植物エキスを5%濃度で併用した乳液を塗布した場合のシミ・ソバカスおよび皮膚明度の改善効果を評価したところ、以下の表のように、

乳液に配合された試料 被検者数 有効 やや有効 無効
ボタン ユキノシタ 10 5 5 0
ウーロン茶 3 6 1
クズ 3 6 1
カワラヨモギ 1 8 1
クララ 3 6 1
ダイズ 2 6 2
ホップ 1 8 1
アセチルチロシン 1 8 1
乳液のみ(比較対照) 0 0 10

5%ボタンエキスに各植物エキスまたはアセチルチロシンを併用した乳液塗布群は、ボタンのみを配合した乳液塗布群と比較して高い色素沈着の抑制および皮膚明度の向上効果が確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献22:1999)、ボタンエキスにメラニン生成抑制による色素沈着抑制作用が認められています。

ただし、単体でのヒトへの改善効果はさほど高くないことが明らかにされている一方で、他の色素沈着抑制効果を有する植物エキスとの併用系では顕著に高い改善効果が示されており、実際の色素沈着抑制目的の製品への配合においては一般的に他の色素沈着抑制効果を有する植物エキスとの併用で配合されていると考えられます。

好中球エラスターゼ活性阻害による抗老化作用

好中球エラスターゼ活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識として真皮の構造、光老化のメカニズムについて解説します。

真皮については、以下の真皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

真皮の構造

表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス成分)に二分され、以下の表のように、

分類 構成成分
間質成分
(細胞外マトリックス)
膠原線維 コラーゲン
弾性繊維 エラスチン
基質 糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン
細胞成分 線維芽細胞

主成分である間質成分は、大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞成分としてはこれらを産生する線維芽細胞がその間に散在しています(文献23:2002;文献24:2018)

間質成分の大部分を占めるコラーゲンは、膠質状の太い繊維であり、その繊維内に水分を保持しながら皮膚のハリを支えています(文献23:2002)

このコラーゲンは、Ⅰ型コラーゲン(80-85%)とⅢ型コラーゲン(10-15%)が一定の割合で会合(∗6)することによって構成されており(文献25:1987)、Ⅰ型コラーゲンは皮膚や骨に最も豊富に存在し、強靭性や弾力をもたせたり、組織の構造を支える働きが、Ⅲ型コラーゲンは細い繊維からなり、しなやかさや柔軟性をもたらす働きがあります(文献26:2013)

∗6 会合とは、同種の分子またはイオンが比較的弱い力で数個結合し、一つの分子またはイオンのようにふるまうことをいいます。

エラスチン(elastin)を主な構成成分とする弾性繊維は、皮膚の弾力性をつくりだす繊維であり、コラーゲンとコラーゲンの間に絡み合うように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持しています(文献23:2002)

基質は、主に糖タンパク質(glycoprotein)プロテオグリカン(proteoglycan)およびグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)で構成されたゲル状物質であり、これらの分子が水分を保持し、コラーゲンやエラスチンと結合して繊維を安定化させることにより、皮膚は柔軟性を獲得しています(文献23:2002;文献24:2018)

細胞成分としては線維芽細胞(fibroblast)が真皮に分散しており、コラーゲン繊維やエラスチン繊維が古くなるとこれらを分解する酵素を産生して不必要な分を分解し、新しいコラーゲン繊維やエラスチン繊維を産生して細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスを保持しています(文献23:2002)

これら真皮の働きを要約すると、

  • コラーゲン繊維が水分を保持しながら皮膚の張りを支持
  • エラスチンを主とした弾性繊維がコラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持
  • 基質(ゲル状物質)が水分を保持し、コラーゲン繊維と弾性繊維を安定化
  • 紫外線曝露時など必要に応じてコラーゲン繊維、弾性繊維、ムコ多糖を産生し、細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスを保持

それぞれがこのように働くことで、皮膚はハリや柔軟性・弾性を保持しています。

一方で、一般に紫外線を浴びる時間や頻度に比例して、間質成分(細胞外マトリックス成分)であるコラーゲン、エラスチン、ムコ多糖類への影響が大きくなり、シワの形成促進、たるみの増加など老化現象が徐々に進行することが知られています(文献27:2002)

紫外線の曝露によりシワやたるみが形成されるメカニズムは複合的であることから、わかりやすさを優先するために直接的に関係がないメカニズムは省略しますが、以下の光老化メカニズム図をみてもらうとわかるように、

光老化のメカニズム

紫外線曝露刺激などによって真皮で引き起こされる炎症反応により、白血球の一種である好中球が血管を透過(浸潤)しタンパク質分解酵素である好中球エラスターゼを放出することが知られており、この好中球エラスターゼはコラーゲン、エラスチン、プロテオグリカンなどを直接分解することが報告されています(文献28:2019)

20代あたりまでは細胞外マトリックス成分の合成が活発であるため、紫外線照射によってこれらが破壊されてもダメージが蓄積されずシワやたるみの形成に至らないと考えられますが、過剰および長期にわたって紫外線環境に曝されている場合は加齢とともに細胞外マトリックス成分の産生能が低下していくに従って細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスが崩れていき、主としてシワが形成されていくと考えられています(文献29:1998)

このような背景から、紫外線の曝露による好中球エラスターゼの活性を抑制することは光老化の防御において重要であると考えられています。

2000年に長瀬産業によって報告されたボタンエキスの好中球エラスターゼおよびヒト皮膚光老化に対する影響検証によると、

in vitro試験において5μg/mL濃度のヒト白血球由来エラスターゼ緩衝液50μLに、400μg/mL濃度のボタンエキス溶液50μLを添加し、対照としてすでにエラスターゼ活性阻害作用を有することが知られているクララ根エキスを添加し、それぞれ処理後にエラスターゼ阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

ボタンエキスのエラスターゼ活性阻害作用

ボタンエキスは、クララ根エキスと比較して同等以上のエラスターゼ活性阻害作用を示したことから、エラスターゼ阻害活性を有していることがわかった。

次に、100人の女性被検者(20-60歳)のうち50人に0.2%ボタンエキス配合化粧水を、残りの50人に未配合化粧水を1日1回2ヶ月にわたって顔面塗布してもらった。

2ヶ月後にシワおよび小ジワの評価を「有効:目立たなくなった」「やや有効:少し目立たなくなった」「無効:使用前と変化なし」「悪化:増えた」の4段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 有効 やや有効 無効 悪化
ボタンエキス配合化粧水 50 18 28 4 0
化粧水のみ(対照) 50 0 6 34 10

0.2%ボタンエキス配合化粧水塗布群は、未配合化粧水塗布群と比較してシワおよび小ジワに対する改善効果が確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献30:2000)、ボタンエキスに好中球エラスターゼ活性阻害による抗老化作用が認められています。

ただし、ヒト試験においては2000年には有効なシワの評価方法が確立されていなかったこともあり、目視による観察評価のみで効果を認めているため、その点は留意する必要があります。

複合植物エキスとしてのボタンエキス

ボタンエキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、ボタンエキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 フィトデセンシタイザー ABBA
構成成分 BGボタンエキスアルテア根エキスフユボダイジュ花エキスアルニカ花エキス
特徴 多角的に抗炎症・抗アレルギーにアプローチする4種類の植物抽出混合液
原料名 フィトブレンド TIPS
構成成分 デキストリンボタンエキスフユボダイジュ花エキス、コンフリー葉エキス
特徴 多角的に抗炎症・抗アレルギーにアプローチする3種類の植物抽出混合液
原料名 ファルコレックスPSP
構成成分 BGユキノシタエキスボタンエキスクズ根エキス
特徴 相乗的にメラニン合成を阻害する3種類の色素沈着抑制系植物抽出混合液
原料名 エバーセルホワイト
構成成分 BG、アセチルチロシン、ボタンエキスクズ根エキス
特徴 相乗的にメラニン合成を阻害するアセチルチロシンと2種類の色素沈着抑制系植物抽出混合液
原料名 ファルコレックス HGL
構成成分 エタノールBGボタンエキスヒキオコシ葉/茎エキスフユボダイジュ花エキス
特徴 ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用と育毛作用が確認されており、フケやかゆみの抑制と育毛を意図して設計された3種の植物抽出液

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ボタンエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ボタンエキスの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 30年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性試験データ(文献9:1996;文献22:1999)によると、

  • [動物試験] 5匹のモルモットの除毛した皮膚に固形分濃度0.8%-1.5%ボタンエキスを24時間貼付し、紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも皮膚刺激反応を示さず、この試験物質は陰性であった
  • [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部に0.5%ボタンエキス水溶液を適用し、適用24,48および72時間後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの動物も紅斑や浮腫などの皮膚一次刺激を示さなかった
  • [動物試験] 5匹のモルモットの除毛した皮膚に固形分濃度1%ボタンエキスを1日1回週5回、4週間にわたって塗布し、各週の最終日の翌日に紅斑および浮腫を指標として累積刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも1-4週にわたって皮膚刺激反応を示さず、この試験物質は陰性であった
  • [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した皮膚に0.5%ボタンエキス水溶液を1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの動物も皮膚刺激を示さなかった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

日本薬局方および医薬部外品原料規格2006に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

ボタンエキスは抗アレルギー・抗炎症成分、美白成分、抗老化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗アレルギー成分・抗炎症 美白成分 抗老化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. 鈴木 洋(2011)「牡丹皮(ぼたんぴ)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,434.
  2. 御影 雅幸(2013)「ボタンピ」伝統医薬学・生薬学,189-190.
  3. 竹田 忠紘, 他(2011)「ボタンピ」天然医薬資源学 第5版,103.
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