ショウブ根茎エキスとは…成分効果と毒性を解説



・ショウブ根茎エキス
[医薬部外品表示名]
・ショウブ根エキス
ショウブ科(∗1)植物ショウブ(学名:Acorus calamus 英名:sweet flag)の根茎から水、エタノール、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
∗1 クロンキスト体系ではサトイモ科に含めているが、1998年に公表された分子系統学による被子植物の新しい分類体系であるAPG植物分類体系ではショウブ科に属しています。
日本で一般にショウブ(菖蒲)といわれているものは、菖蒲園などで有名なアヤメ科のハナショウブ(学名:Iris ensata)ですが、ハナショウブは薬用に用いられるショウブ(学名:Acorus calamus)とは全く別の植物です。
ショウブ(菖蒲)は、北海道から九州まで日本各地の池沼の水辺に自生しており、茎葉に強い芳香をもち葉が剣状であるため古くから魔除けとして軒に挿す風習やショウブの葉を風呂に入れる菖蒲湯の慣習が知られています(文献1:2011)。
ショウブ根茎エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
フェニルプロパノイド | オイゲノール、β-アサロン など |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献2:2013;文献3:1971)。
ショウブの根茎(生薬名:菖蒲根)の化粧品以外の主な用途としては、民間療法分野において胃炎、発熱、ひきつけ、創傷などに用いられていました(文献1:2011)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的でスキンケア製品、メイクアップ製品、シート&マスク製品、洗顔料、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、入浴剤などに使用されています。
ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用
ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。
皮膚におけるアレルギー反応は、
種類 | 名称 | 抗体 | 抗原 | 皮膚反応 | 考えられる主な疾患 |
---|---|---|---|---|---|
Ⅰ型 | 即時型 アナフィラキシー型 |
IgE | 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか | 15-20分で最大の発赤と膨疹 | アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか |
Ⅳ型 | 遅延型 細胞性免疫 |
感作T細胞 | 細菌、真菌、自己抗原 | 24-72時間で最大の紅斑と硬結 | アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか |
主にこの2種類に分類されています(∗2)(文献4:2010;文献5:1968;文献6:1999)。
∗2 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。
Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、
まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献6:1999)。
次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献6:1999)。
そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献6:1999;文献7:2009)。
このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、アレルゲンの曝露からⅠ型炎症までのプロセスにおけるいずれかのポイントにアプローチすることは、アレルギー性炎症の抑制において重要であると考えられています。
2000年に一丸ファルコスによって報告されたショウブ根茎エキスのヒスタミンおよびヒト肌荒れ皮膚に対する影響検証によると、
また、比較対照としてショウブ根茎エキスの代わりに抗アレルギー剤であるグリチルリチン酸ジカリウムまたはクロモリンを同濃度で添加し、それぞれのヒスタミン遊離抑制率を算出したところ、以下のグラフのように、
0.5%ショウブ根茎エキスは、グリチルリチン酸ジカリウムと比較してより高いヒスタミン遊離抑制作用を示した。
次に、肌荒れを有する20名の被検者(30-50歳)のうち10名に5%ショウブ根茎エキス配合乳液を、別の10名に対照としてショウブ根茎エキス未配合乳液を1日2回3ヶ月間顔面に塗布してもらった。
評価方法として「有効:肌荒れが改善された」「やや有効:肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の基準で行い、3ヶ月後に被検者に評価してもらったところ、以下の表のように、
試料 | 被検者数 | 有効 | やや有効 | 無効 |
---|---|---|---|---|
ショウブ根茎エキス配合乳液 | 10 | 1 | 8 | 1 |
乳液のみ(対照) | 10 | 0 | 1 | 9 |
5%ショウブ根茎エキス配合乳液塗布グループは、肌荒れの改善効果を示した。
このような試験結果が明らかにされており(文献8:2000)、ショウブ根茎エキスにヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用が認められています。
メラニン生成抑制およびデンドライト伸長抑制による色素沈着抑制作用
メラニン生成抑制およびデンドライト伸長抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびデンドライトについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献9:2002;文献10:2016;文献11:2019)。
また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献9:2002;文献11:2019)。
ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献9:2002;文献11:2019)。
そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献9:2002)。
正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています(文献9:2002)。
このような背景から、紫外線照射などによって過剰に生成されるメラニンを抑制することやデンドライトの伸長を阻害し表皮細胞への過剰なメラニン移送を制限することは、色素沈着の抑制において重要なアプローチであると考えられています。
2000年に一丸ファルコスによって報告されたショウブ根茎エキスのメラニンおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、
∗3 ブランクとは、評価する対象物を抜いた状態を指し、ここではショウブ根茎エキスを除いた蒸留水のみのものを指します。
ショウブ根茎エキスは、色素沈着抑制剤として汎用されているアルブチンには劣るものの、ほぼ同等のメラニン生成抑制作用を有することが確認された。
次に、シミ、ソバカス、色黒で悩む20名(30-60歳)のうち10名に5%ショウブ根茎エキス配合乳液を、別の10名に対照としてショウブ根茎エキス未配合乳液を1日2回(朝晩)3ヶ月にわたって顔面に塗布してもらった。
評価方法として肌の色素沈着改善効果を「有効:肌の色素沈着が改善された」「やや有効:肌の色素沈着がやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の基準で評価したところ、以下の表にように、
試料 | 被検者数 | 有効 | やや有効 | 無効 |
---|---|---|---|---|
ショウブ根茎エキス配合乳液 | 10 | 2 | 6 | 2 |
乳液のみ(対照) | 10 | 0 | 0 | 10 |
5%ショウブ根茎エキス配合乳液塗布グループは、未配合乳液塗布グループと比較して有意にシミ・ソバカスや色素沈着した肌を改善することが確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献8:2000)、ショウブ根茎エキスにメラニン生成抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
次に、2001年にポーラ化成工業によって報告されたショウブ根茎エキスのデンドライトおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、
また、陽性対照としてDMSOのみを添加したマクロファージ上清を、陰性対照としてマクロファージ上清を添加しないものもそれぞれ同様にデンドライトの長さを測定したところ、以下の表のように、
試料 | デンドライトの長さ(μM) |
---|---|
0.005%ショウブ根茎エキスを含むDMSOを添加したマクロファージ上清 | 20.78 |
DMSOを添加したマクロファージ上清(陽性対照) | 37.31 |
マクロファージ上清未添加(陰性対照) | 12.92 |
0.005%ショウブ根茎エキスは、優れたデンドライト伸長抑制作用を示した。
次に、シミ・そばかすに悩む3名の被検者に1%ショウブ根茎エキス配合化粧水を1日2回(朝晩)1ヶ月にわたって使用してもらい、使用終了後に評価基準として「評点2:著しい改善」「評点1:明らかな改善」「評点0.5:わずかな改善」「評点0:改善なし」の4段階で評価してもらったところ、平均評点は0.82であった。
この結果から、デンドライトの伸長抑制効果を有するショウブ根茎エキスを含有する化粧水は、シミ・そばかすの改善に効果があることが確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献12:2001)、ショウブ根茎エキスにデンドライト伸長抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
ショウブ根茎エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
- 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部に固形分濃度0.5%ショウブ根茎エキス水溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
- [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に固形分濃度0.5%ショウブ根茎エキス水溶液0.5mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
医薬部外品原料規格2021に収載されており、10年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
∗∗∗
ショウブ根茎エキスは抗アレルギー成分、美白成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- 鈴木 洋(2011)「菖蒲根(しょうぶこん)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,228-229.
- 御影 雅幸(2013)「ショウブ」伝統医薬学・生薬学,224.
- 藤田 安二(1971)「ショウブの精油をめぐって」ファルマシア(7)(4),246-247.
- 厚生労働省(2010)「アレルギー総論」リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト5-14.
- R.R.A. Coombs, et al(1968)「Classification of Allergic Reactions Responsible for Clinical Hypersensitivity and Disease」Clinical Aspects of Immunology Second Edition,575-596.
- 西部 幸修, 他(1999)「植物抽出物の抗アレルギー作用」Fragrance Journal臨時増刊(16),109-115.
- 椛島 健治(2009)「皮膚のスーパー免疫」美容皮膚科学 改定2版,46-51.
- 一丸ファルコス株式会社(2000)「化粧料組成物」特開2000-247897.
- 朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
- 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
- 田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43.
- ポーラ化成工業株式会社(2001)「メラノサイトのデンドライトの伸長抑制剤及びそれを含有する化粧料」特開2001-335420.