サンショウ果皮エキスとは…成分効果と毒性を解説

抗アレルギー 抗老化 抗白髪
サンショウ果皮エキス
[化粧品成分表示名]
・サンショウ果皮エキス

[医薬部外品表示名]
・サンショウエキス

ミカン科植物サンショウ(学名:Zanthoxylum piperitum 英名:Japanese pepper)の成熟した果皮からエタノールBGなどで抽出して得られる抽出物植物エキスです。

サンショウ(山椒)は、日本を原産とし、縄文時代の出土品の土器に入っていたことから古くから使われていたことがわかっており、果実と葉に辛味と芳香成分が含まれているため香辛料をはじめとして和え物、佃煮、料理のあしらいや吸口など調理に広く用いられています(文献3:2011;文献4:2017)

サンショウ果皮エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
不飽和脂肪酸アミド サンショオール(辛味成分)、サンショアミド
テルペノイド モノテルペン リモネン、シトロネラール
フラボノイド フラボノール ケルシトリン
フラバノン ヘスペリジン

これらの成分で構成されていることが報告されており(文献3:2011;文献5:2011;文献6:2013)、薬理作用としてはサンショオール(sanshool)、サンショアミド(sanshoamide)など不飽和脂肪酸アミド(辛味成分)による局所麻酔作用および殺虫作用が明らかにされています(文献5:2011)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、ボディ&ハンドケア製品、頭皮ケア製品などに使用されています。

ヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用

ヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。

皮膚におけるアレルギー反応は、

種類 名称 抗体 抗原 皮膚反応 考えられる主な疾患
Ⅰ型 即時型
アナフィラキシー型
IgE 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか 15-20分で最大の発赤と膨疹 アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか
Ⅳ型 遅延型
細胞性免疫
感作T細胞 細菌、真菌、自己抗原 24-72時間で最大の紅斑と硬結 アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか

主にこの2種類に分類されています(∗1)(文献7:2010;文献8:1968;文献9:1999)

∗1 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。

Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、

Ⅰ型アレルギー性皮膚炎のメカニズム

まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献9:1999)

次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献9:1999)

そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献9:1999;文献10:2009)

このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、アレルゲンの曝露からⅠ型炎症までのプロセスにおけるいずれかのポイントにアプローチすることは、アレルギー性炎症の抑制において重要であると考えられています。

2003年に一丸ファルコスによって報告されたヒアルロニダーゼおよび湿疹・肌荒れに対する各植物抽出物の影響検証によると、

in vitro試験において固形分濃度0.5%植物抽出液それぞれ0.1mLに、20分おきにヒアルロニダーゼ溶液0.05mL、ヒスタミン放出促進剤であるcompound48/80溶液、ヒアルロン酸溶液0.25mLを加えて処理した後にヒアルロニダーゼ活性阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

各植物抽出物のヒアルロニダーゼ活性阻害効果

0.5%サンショウ果皮エキスは、ヒアルロニダーゼ活性を有意に阻害することが確認された。

次に、湿疹・かゆみ・肌荒れで悩む10名の被検者(30-50歳)の顔面に5%サンショウ果皮エキスを含む乳液を1日2回(朝晩)洗顔後に3ヶ月にわたって塗布してもらい、対照としてサンショウ果皮エキス未配合乳液を同様に用いた。

評価方法として「有効:湿疹・かゆみ・肌荒れが改善された」「やや有効:湿疹・かゆみ・肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の基準で行い、3ヶ月後に被検者に評価してもらったところ、以下の表のように、

試料 湿疹・肌荒れ改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
サンショウ果皮エキス配合乳液 5 4 1
乳液のみ(対照) 0 1 9

5%サンショウ果皮エキス配合乳液は、未配合乳液と比較して有意に湿疹・肌荒れを改善することを確認した。

このような試験結果が明らかにされており(文献1:2003)、サンショウ果皮エキスにヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用が認められています。

次に、1998年にノエビアによって報告されたサンショウ果皮エキスのヒスタミンおよびアトピー性皮膚炎症状に対する影響検証によると、

ラット由来好塩基球白血病細胞液に各植物抽出物を加えて培養し、ヒスタミンの遊離阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

植物エキスのヒスタミン遊離抑制作用

サンショウ果皮エキス(50%BG抽出)は、60%以上のヒスタミン遊離抑制作用を示した。

次に、アトピー性皮膚炎を有する女性患者19名(17-30歳)の顔に0.5%サンショウ果皮エキス配合W/O型(油中水型)軟膏を、また比較対照としてサンショウ果皮エキス未配合の軟膏をそれぞれ1日2回(朝夕)2週間にわたって塗布し、2週間後に評価したところ、以下の表のように、

試料 症例数 顕著 有効 やや有効 無効 悪化
サンショウ果皮エキス配合軟膏 19 3 10 5 1 0
軟膏のみ(比較対照) 15 0 1 3 7 4

0.5%サンショウ果皮エキス配合軟膏の塗布は、アトピー性皮膚炎の症状改善に有効であることがわかった。

このような試験結果が明らかにされており(文献11:1998)、サンショウ果皮エキスにヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用が認められています。

コラゲナーゼおよびエラスターゼ活性阻害による抗老化作用

コラゲナーゼおよびエラスターゼ活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識として真皮の構造および役割と真皮に存在するタンパク質分解酵素であるコラゲナーゼおよびエラスターゼについて解説します。

真皮については、以下の真皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

真皮の構造

表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス)に二分されますが、主成分である間質成分は大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞はその間に散在しています(文献12:2002;文献13:2018)

間質成分の大部分を占めるコラーゲンは、膠質状の太い繊維であり、その繊維内に水分を保持しながら皮膚の張りを支えています(文献12:2002)

このコラーゲンは、Ⅰ型コラーゲン(80-85%)とⅢ型コラーゲン(10-15%)が一定の割合で会合(∗2)することによって構成されており(文献14:1987)、Ⅰ型コラーゲンは皮膚や骨に最も豊富に存在し、強靭性や弾力をもたせたり、組織の構造を支える働きが、Ⅲ型コラーゲンは細い繊維からなり、しなやかさや柔軟性をもたらす働きがあります(文献15:2013)

∗2 会合とは、同種の分子またはイオンが比較的弱い力で数個結合し、一つの分子またはイオンのようにふるまうことをいいます。

エラスチン(elastin)を主な構成成分とする弾性繊維は、皮膚の弾力性をつくりだす繊維であり、コラーゲンとコラーゲンの間に絡み合うように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持しています(文献12:2002)

基質は、主に糖タンパク質(glycoprotein)プロテオグリカン(proteoglycan)およびグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)で構成されたゲル状物質であり、これらの分子が水分を保持し、コラーゲンやエラスチンと結合して繊維を安定化させることにより、皮膚は柔軟性を獲得しています(文献12:2002;文献13:2018)

プロテオグリカンは、軸タンパクにグリコサミノグリカンが多数結合した分子量10万-100万以上の巨大な分子であり、グリコサミノグリカンは酸性ムコ多糖類であるヒアルロン酸コンドロイチン硫酸を主成分とし、ヒアルロン酸は水分保持に関与し、コンドロイチン硫酸は繊維の支持や他の基質の保持に働いています(文献13:2018)

細胞成分として線維芽細胞(fibroblast)は、真皮に分散しており、コラーゲン繊維や弾性繊維、ムコ多糖を産生する細胞であることから、必要に応じて線維芽細胞が活発に働きこれらの物質が順調につくられていることが、皮膚の張りや弾力を維持する上で重要です(文献12:2002)

真皮の働きを要約すると、

  • コラーゲン繊維が水分を保持しながら皮膚の張りを支持
  • エラスチンを主とした弾性繊維がコラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持
  • 基質(ゲル状物質)が水分を保持し、コラーゲン繊維と弾性繊維を安定化

それぞれがこのように働くことで、皮膚は張りや柔軟性・弾性を獲得しています。

一方で、真皮は紫外線曝露により、

  • コラーゲン合成能の減少(文献16:1993)
  • Ⅰ型コラーゲン分解酵素であるMMP-1(∗3)産生促進(文献17:1993)
  • エラスチン分解酵素であるエラスターゼの産生促進(文献18:2003)
  • ヒアルロン酸産生量の低下(文献19:2010)

∗3 MMP-1(Matrix metalloproteinase-1:マトリックスメタロプロテアーゼ-1)は、Ⅰ型コラーゲンを分解する酵素であることから、Ⅰ型コラゲナーゼとも呼ばれます。

時間や頻度に比例してこれらの影響を受けることが報告されており、このような長期紫外線暴露による細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスの崩れが、シワの形成をはじめとする光老化の原因であると考えられています(文献20:1998)

このような背景から、紫外線曝露によって線維芽細胞から産生されるMMP-1やエラスターゼの活性を阻害することは、紫外線曝露による光老化の抑制に重要であると考えられます。

2003年に一丸ファルコスによって報告された生薬のエラスターゼおよびコラゲナーゼに対する影響検証によると、

in vitro試験において基質に放線菌由来コラゲナーゼと植物抽出物として固形分0.5%濃度のブドウ葉抽出液およびサンショウ果皮抽出液をそれぞれ添加し、反応・処理後にコラゲナーゼ活性阻害率を算出したところ、以下の表のように、

植物抽出物 コラゲナーゼ活性阻害率(%)
サンショウ果皮エキス 53.85
ブドウ葉エキス 50.11

0.5%サンショウ果皮エキスは、コラゲナーゼ活性を有意に阻害することが確認された。

次に、in vitro試験において基質に膵臓由来エラスターゼと植物抽出物として固形分0.5%濃度のブドウ葉抽出液およびサンショウ果皮抽出液を、また比較対照としてグリチルリチン酸ジカリウムをそれぞれ添加し、反応・処理後にエラスターゼ活性阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

生薬のエラスターゼ活性阻害効果

0.5%サンショウ果皮エキスは、エラスターゼ活性を有意に阻害することが確認された。

さらに、健常な皮膚を有する10名の被検者(25-50歳)の顔面に5%サンショウ果皮エキスを含む乳液を1日2回(朝晩)洗顔後に3ヶ月にわたって塗布してもらい、対照としてサンショウ果皮エキス未配合乳液を同様に用いた。

評価方法として「有効:肌のツヤ・ハリが増し、乾燥肌・肌荒れが改善された」「やや有効:肌のツヤ・ハリがやや増し、乾燥肌・肌荒れが改善された」「無効:使用前と変化なし」の基準で行い、3ヶ月後に被検者に評価してもらったところ、以下の表のように、

試料 肌のハリ・ツヤ改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
サンショウ果皮エキス配合乳液 5 3 2
乳液のみ(対照) 0 3 7

また、シワ・たるみの評価方法は「有効:肌のシワ・たるみが目立たなくなった」「やや有効:肌のシワ・たるみがやや目立たなくなった」「無効:使用前と変化なし」の基準で行ったところ、以下の表のように、

試料 肌のシワ・たるみ改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
サンショウ果皮エキス配合乳液 6 3 1
乳液のみ(対照) 0 4 6

5%サンショウ果皮エキス配合乳液は、未配合乳液と比較して有意に肌のハリ・ツヤを付与し、また肌のシワ・たるみを軽減することを確認した。

このような試験結果が明らかにされており(文献2:2003)、サンショウ果皮エキスにコラゲナーゼおよびエラスターゼ活性阻害による抗老化作用が認められています。

チロシナーゼ活性促進による抗白髪作用

チロシナーゼ活性促進による抗白髪作用に関しては、まず前提知識として白髪の定義、毛髪色素のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。

白髪とは、色のなくなった毛髪と定義されており、色素が失われて無色になった毛髪が光を全反射する結果として白くみえることから白髪と呼ばれています(文献21:2005)

毛髪に色素が与えられるメカニズムについては、まず以下の毛髪の構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

毛髪の構造

毛髪は、皮膚の外に出ている毛幹と皮膚内の毛包に大別され、毛包内の少し膨らんだ最下部は毛球と呼ばれますが、毛球には毛乳頭と呼ばれる間葉系細胞(∗4)の塊があり、その周囲に存在する毛母細胞が増殖分化し次々に分裂してできる新しい細胞によって表面に押し上げられるというメカニズムによって形成されています(文献21:2005;文献22:2002)

∗4 間葉系細胞とは、上皮性細胞以外の中胚葉細胞を指し、未分化細胞の形態を示す多分化能をもった細胞です。

毛髪色素の主体は、毛乳頭周辺に存在する色素細胞(メラノサイト)内で生合成されるメラニン色素であり、以下の毛周期(ヘアサイクル)図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

毛周期(ヘアサイクル)

メラニン色素は、成長期 → 退行期 → 休止期を経て再び成長期に戻る毛周期の中で、成長中期に盛んに合成されることで成長する毛幹に供給され、退行期には先立ってその合成活性が停止されたのち、休止期にはアポトーシス(∗5)や抜け毛とともに離脱することによって色素細胞の数そのものが減少し、次の成長初期には新たな色素幹細胞の供給により分裂増殖し、成長中期には再びメラニン合成の活性化により毛幹に供給され、毛髪の色を維持していると考えられています(文献21:2005)

∗5 アポトーシスとは、あらかじめ遺伝子で決められたメカニズムによる細胞の自然死現象のことです。

また、メラニン色素は、メラノサイト(色素細胞)が産生するメラニン顆粒が毛母細胞の分化・角化によって産生された角化細胞(ケラチノサイト)に輸送され定着することで有色となることが知られており(文献23:2018)、メラノサイト内におけるメラニン顆粒の産生メカニズムは、以下の図のように、

メラノサイト内でメラニンが合成されるメカニズム

皮膚と同じく、酸化酵素であるチロシナーゼがアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに働きかけドーパに変換されることでメラニン合成がはじまり、さらにチロシナーゼがドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換され、経路によって黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)と茶褐色-黒色のユーメラニン(eumelanin)へと変換されるというものであり(文献24:2002;文献25:2019)、ユーメラニンの割合が多いと黒髪に、フェオメラニンの割合が多くなるにつれて欧米人にみられるような茶褐色、赤色、ブロンドとなります(文献24:2002)

一方で、個人差や老化の進行度により異なるものの、30代後半-50代後半にかけて白髪化が生じ、50歳までに約50%以上の毛髪に白髪が認められることが知られており(文献26:2001)、白髪化の主な原因としてはすべてが解明されているわけではありませんが、加齢にともなって毛母の色素細胞のメラニン合成系が何らかの原因により低下することや色素細胞数がしだいに減少すると同時にメラニン色素量が減少することが明らかにされています(文献23:2018;文献27:2010)

このような背景から、メラニン合成系の異常の要因のひとつと考えられるチロシナーゼの活性を促進しメラニン合成を促進することは、白髪の抑制や改善において効果を発揮する場合があると考えられます。

1999年に資生堂によって報告されたサンショウ果皮エキスのチロシナーゼおよびヒト白髪への影響検証によると、

マウス由来B16メラノーマ培養細胞に終濃度10⁻⁵から10⁻³重量%に調製したサンショウ抽出物を添加し、チロシナーゼ活性促進率を算出し、メラニン生成量の視覚判定を「+:黒い」「±:やや黒い」「-:基準」として試料を添加していない無添加と比較したところ、以下の表のように、

試料 濃度(重量%) メラニン生成視覚判定 チロシナーゼ活性促進率(%)
無添加 10⁻⁵(0.00001) 0
10⁻⁴(0.0001) 3
10⁻³(0.001) 6
サンショウ抽出物 10⁻⁵(0.00001) 20
10⁻⁴(0.0001) ± 80
10⁻³(0.001) + 90

サンショウ抽出物は、その濃度が10⁻⁴(0.0001%)以上である場合にチロシナーゼの活性促進し、その濃度が10⁻³(0.001%)である場合にメラニンの生成を視覚的に促進することが明らかとなった。

次に、白髪を有する男女40名(40-60歳)に0.5%サンショウ果皮エキス配合ローションおよびサンショウ果皮エキス未配合ローション(対照)を1日2回(朝夕)連続4ヶ月間にわたってハーフヘッド法で左右頭皮に別々に使用してもらい、塗布部位の白髪抑制の割合を以下の判定基準で評価したところ、以下の表のように、

++(著効):塗布開始前と比較して塗布後の白髪本数が80%未満の被検者が50%以上
+(有効):塗布開始前と比較して塗布後の白髪本数が90%未満の被検者が50%以上
±(やや有効):塗布開始前と比較して塗布後の白髪本数が100%未満の被検者が50%以上
-(無効):塗布開始前と比較して塗布後の白髪本数が100%未満の被検者が50%未満

試験物質 白髪抑制効果
サンショウ果皮エキス配合ローション +
無添加ローション(対照)

0.5%サンショウ果皮エキス配合ローションの塗布は、無添加ローションの塗布と比較して有意に白髪の抑制効果を示した。

このような検証結果が明らかにされており(文献28:1999)、サンショウ果皮エキスにチロシナーゼ活性促進による抗白髪作用が認められています。

サンショウ果皮エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

サンショウ果皮エキスの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性試験データ(文献1:2003;文献2:2003)によると、

  • [動物試験] 3匹のモルモットの剃毛した背部に固形分濃度0.5%-1.0%サンショウ果皮エキス0.03mLを塗布し、適用24,48および72時間後に一次刺激性を評価したところ、すべてのモルモットにおいて皮膚一次刺激性は認められなかった
  • [動物試験] 3匹のモルモットの剃毛した背部に固形分濃度0.5%-1.0%サンショウ果皮エキス0.5mLを1日1回、週5回2週間にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日に皮膚累積刺激を評価したところ、すべてのモルモットにおいて塗布後2週間にわたって皮膚刺激性は認められなかった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚一次刺激および累積刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

日本薬局方および医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

サンショウ果皮エキスは抗アレルギー成分、抗老化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗アレルギー成分 抗老化成分

∗∗∗

参考文献:

  1. 一丸ファルコス株式会社(2003)「ヒアルロニダーゼ活性阻害剤及び化粧料組成物」特開2003-342184.
  2. 一丸ファルコス株式会社(2003)「コラゲナーゼ活性阻害剤、エラスターゼ活性阻害剤及び化粧料組成物」特開2003-342123.
  3. 鈴木 洋(2011)「山椒(さんしょう)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,182-183.
  4. 杉田 浩一, 他(2017)「さんしょう(山椒)」新版 日本食品大事典,351-352.
  5. 竹田 忠紘, 他(2011)「サンショウ」天然医薬資源学 第5版,254.
  6. 御影 雅幸(2013)「サンショウ」伝統医薬学・生薬学,163-164.
  7. 厚生労働省(2010)「アレルギー総論」リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト5-14.
  8. R.R.A. Coombs, et al(1968)「Classification of Allergic Reactions Responsible for Clinical Hypersensitivity and Disease」Clinical Aspects of Immunology Second Edition,575-596.
  9. 西部 幸修, 他(1999)「植物抽出物の抗アレルギー作用」Fragrance Journal臨時増刊(16),109-115.
  10. 椛島 健治(2009)「皮膚のスーパー免疫」美容皮膚科学 改定2版,46-51.
  11. 株式会社ノエビア(1998)「抗アレルギー剤及びこれを含有する抗アレルギー性化粧料並びに食品」特開平10-36276.
  12. 朝田 康夫(2002)「真皮のしくみと働き」美容皮膚科学事典,28-33.
  13. 清水 宏(2018)「真皮」あたらしい皮膚科学 第3版,13-20.
  14. D.R. Keene, et al(1987)「Type Ⅲ collagen can be present on banded collagen fibrils regardless of fibril diameter」Journal of Cell Biology(105)(5),2393–2402.
  15. 村上 祐子, 他(2013)「加齢にともなうⅢ型コラーゲン/Ⅰ型コラーゲンの比率の減少メカニズム」日本化粧品技術者会誌(47)(4),278-284.
  16. H. Tanaka, et al(1993)「The effect of reactive oxygen species on the biosynthesis of collagen and glycosaminoglycans in cultured human dermal fibroblasts」Archives of Dermatological Research(285)(6),352–355.
  17. G. Herrmann, et al(1993)「UVA irradiation stimulates the synthesis of various matrix‐metalloproteinases (MMPs) in cultured human fibroblasts」Experimental Dermatology(2)(2),92-97.
  18. 芋川 玄爾(2003)「光老化によるシワの形成機序とその予防」Skin Cancer(18)(2),157-164.
  19. A. Kon(2010)「皮膚のヒアルロン酸:各種病態との関連」Trends in Glycoscience and Glycotechnology(22)(124),68-79.
  20. 大林 恵, 他(1998)「植物抽出物の細胞外マトリックス分解酵素に対する阻害作用」日本化粧品技術者会誌(32)(3),272-279.
  21. 出田 立郎(2005)「白髪研究の展開と今後の展望」アンチ・エイジングシリーズ No.1 白髪・脱毛・育毛の実際,49-61.
  22. 朝田 康夫(2002)「毛髪をつくる細胞は」美容皮膚科学事典,347-349.
  23. 青木 仁美(2018)「毛のメラニン科学と白髪化」日本香粧品学会誌(42)(1),9-14.
  24. 朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  25. 田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43.
  26. D.J. Tobin, et al(2001)「Graying: gerontobiology of the hair follicle pigmentary unit」Experimental Gerontology(36)(1),29-54.
  27. 青戸 隆博, 他(2010)「白髪が生じるメカニズム」ファルマシア(46)(12),1115-1119.
  28. 株式会社資生堂(1999)「チロシナーゼ活性促進剤」特開平11-79951.

TOPへ