ゲンチアナ根エキスとは…成分効果と毒性を解説




・ゲンチアナ根エキス
[医薬部外品表示名]
・ゲンチアナエキス
リンドウ科植物ゲンチアナ(学名:Gentiana lutea)の根から水、エタノール、BG(1,3-ブチレングリコール)またはこれらの混合液で抽出して得られるエキスです。
同じゲンチアナの成分としてゲンチアナ根茎/根エキスがありますが、根または根茎のどちらでも主要な成分組成はほとんど同じです。
そのため、開発メーカーまたは研究されている効果が異なっていることで作用に違いがありますが、どちらも類似した効果を有している可能性も考えられます。
ゲンチアナ根エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
- セコイリドイド配糖体類:ゲンチオピクロシド、アマロゲンチン、スウェルチアマリン
などで構成されています(文献2:2017;文献3:2011)。
ゲンチアナはヨーロッパ原産で、スペインからトルコまでの亜高山帯に分布しており、日本では主に北海道で栽培されているが、ピレネー山脈やアルプスに産するゲンチアナがスペインやドイツから輸入されています。
薬用としては、ゲンチアナの根や根茎を多少発酵させて乾燥したものを用います。
ゲンチアナの根には苦味配糖体のゲンチオピクロシドやスウェルチアマリン、アマロゲンチンなどが含まれ、胃液の分泌亢進や消化促進の作用などがあります(文献3:2011)。
ヨーロッパでは古くから用いられている代表的な苦味健胃薬で、慢性胃炎や食欲不振などに用いられます(文献3:2011)。
現在の日本でも家庭薬の苦味健胃薬として用いられています(文献3:2011)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、頭皮ケア&ヘアケア製品、洗浄製品、洗顔料、シート&マスク製品など様々な製品に使用されます(文献1:-)。
日焼けによる抗炎症作用
日焼けによる抗炎症作用に関しては、テクノーブルの日焼けによる抗炎症作用検証によると、
ゲンチアナ抽出物の抗炎症作用を検討したところ、以下の表のように、
ゲンチアナ抽出物 | 日焼けによる紅斑発生 | 日焼けによる色素沈着発生 |
---|---|---|
5%配合製剤 | ごくわずかに認める | ごくわずかに認める |
無配合製剤 | 顕著な紅斑の発生を認める | 顕著な色素沈着を認める |
ゲンチアナ抽出物に日焼けによる炎症を抑制する作用を有することが確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献1:-)、ゲンチアナ抽出物に日焼けによる抗炎症作用が認められています。
ただし、5%濃度で試験しており、一般に化粧品配合量は1%以下であるため、化粧品配合においてはかなり穏やかな作用傾向である可能性が考えられます。
過酸化脂質抑制および一重項酸素(¹O₂)抑制による抗酸化作用
過酸化脂質抑制および一重項酸素(¹O₂)抑制による抗酸化作用に関しては、まず前提知識として過酸化脂質と一重項酸素について解説します。
過酸化脂質は、皮脂や細胞間脂質、細胞膜を構成しているリン脂質などの酸化が進んだ脂質のことで、皮膚に過酸化脂質が増えると様々な物質の変性・損傷が起こり、肌はくすみ、ハリはなくなり、色素沈着は濃くなり、老化が促進されます(文献4:2002)。
皮膚において過酸化脂質が生成される主な原因のひとつが紫外線であり、紫外線により発生した活性酸素のひとつである一重項酸素が脂質と結合することで過酸化脂質の生成が促進されます(文献4:2002)。
次に一重項酸素(¹O₂)は、光増感反応があり、紫外線を浴びた皮膚に発生する反応性の強い活性酸素で、以下の紫外線を浴びたときの炎症およびメラニン合成のメカニズムをみるとわかりやすいと思うのですが、
一重項酸素(¹O₂)が活性化することで、炎症の元となる炎症性サイトカインやメラニン活性化因子である様々な情報伝達物質がメラノサイトに届けられ、そこから黒化メラニンの合成が始まるため、炎症・色素沈着の要因となります。
また、UVAは真皮に到達すると真皮に存在する光増感物質と反応して一重項酸素(¹O₂)をはじめとする活性酸素を発生させて酸化ストレスを引き起こし、コラーゲン分解酵素であるMMP-2およびMMP-9が活性化することで、以下の図のように、
表皮基底膜に存在するⅣ型コラーゲンおよびそれに連結しているⅦ型コラーゲンの分解が亢進され、真皮と表皮におけるエネルギーや栄養の輸送能が低下し、光老化の原因になると考えられています(文献5:2016)。
紫外線による発生のほかにも、生体内で起こる脂質過酸化反応の進行過程において生成されると考えられています(文献5:2016)。
テクノーブルの過酸化脂質生成抑制検証および一重項酸素消去能検証によると、
1%または5%濃度のゲンチアナ抽出物を用いて皮膚の過酸化脂質の生成抑制作用を検討したところ、以下のグラフのように、
ゲンチアナ抽出物は濃度依存的に皮膚の過酸化脂質の生成を抑制することが認められた。
次に、ゲンチアナ抽出物の一重項酸素消去能を検討したところ、以下のグラフのように、
ゲンチアナ抽出物は無添加と比べて一重項酸素を消去することが認められた。
このような試験結果が明らかにされており(文献1:-)、ゲンチアナ抽出物に過酸化脂質抑制および一重項酸素抑制による抗酸化作用が認められています。
ただし、過酸化脂質抑制作用では1%~5%濃度で試験しており、一般に化粧品配合量は1%以下であるため、化粧品配合においてはかなり穏やかな作用傾向である可能性が考えられます。
収れん作用
収れん作用に関しては、ゲンチアナにはタンニンが含まれており、タンニンにはタンパク質凝集(収縮・凝固)作用があることから、収れん作用が認められています(文献6:2007)。
ゲンチアナ根エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
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ゲンチアナ根エキスは抗炎症成分、抗酸化成分、収れん成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- 株式会社テクノーブル(-)「ゲンチアナエキス」技術資料.
- 原島 広至(2017)「ゲンチアナ」生薬単 改訂第3版,140-141.
- 鈴木 洋(2011)「ゲンチアナ根」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,131-132.
- 朝田 康夫(2002)「過酸化脂質の害は」美容皮膚科学事典,163-165.
- 寺尾 純二(2016)「生体における一重項酸素の生成と消去 – 酸化ストレスとの関わりを考える -」ビタミン(90)(11),525-536.
- 小西 正敏, 他(2007)「皮膚収斂剤」特開2007-302620.