グリチルレチン酸ステアリルとは…成分効果と毒性を解説

抗アレルギー 抗炎症
グリチルレチン酸ステアリル
[化粧品成分表示名称]
・グリチルレチン酸ステアリル

[医薬部外品表示名称]
・グリチルレチン酸ステアリル

マメ科植物カンゾウ(学名:Glycyrrhiza Glabra 英名:licorice)の根から得られるトリテルペンサポニンの一種であるグリチルリチン酸(glycyrrhizinic acid)(∗1)を酸で分解して得られるグリチルレチン酸(glycyrrhetinic acid)に、高級アルコールの一種であるステアリルアルコールを結合したエステルであり、分子量723の油溶性グリチルレチン酸誘導体です。

∗1 グリチルリチン酸とグリチルリチンは呼び方が違うだけで同様の物質です。

カンゾウの根(生薬名:甘草)は、漢方分野において医療用漢方製剤148処方中109処方(73.6%)に、また一般用漢方製剤294処方中213処方(72.4%)に、甘草単体の効能以外にも他の薬物の効能を高めたり毒性を緩和するといった目的で配合されていることから使用頻度および使用量が最も多い漢方薬として知られており(文献2:2011;文献3:2013)、その主要成分であるグリチルリチン酸には抗炎症、抗アレルギー作用が知られています(文献4:2011;文献5:2017)

また、グリチルリチン酸はトリテルペン配糖体ですが、配糖体が体内に吸収されるためには配糖体からアグリコン(aglycone)(∗2)に変換されることが重要であり、グリチルリチン酸の代表的な薬理作用である抗炎症、抗アレルギー作用については、グリチルリチン酸のアグリコンであるグリチルレチン酸(glycyrrhetinic acid)に存在することが明らかにされています(文献6:1958)

∗2 配糖体とは、糖がグリコシド結合により様々な原子団と結合した化合物の総称であり、グリコシド(glycoside)とも呼ばれますが、配糖体からグルコースなどの糖が外れたものをアグリコンと呼び、アグリコンは体内に吸収されて機能を発揮します。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、ハンド&ボディケア製品、日焼け止め製品、オイルクレンジング製品、洗顔料、入浴剤など様々な製品に汎用されています。

ホスホリパーゼA₂抑制による抗アレルギー作用

ホスホリパーゼA₂抑制による抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。

皮膚におけるアレルギー反応は、

種類 名称 抗体 抗原 皮膚反応 考えられる主な疾患
Ⅰ型 即時型
アナフィラキシー型
IgE 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか 15-20分で最大の発赤と膨疹 アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか
Ⅳ型 遅延型
細胞性免疫
感作T細胞 細菌、真菌、自己抗原 24-72時間で最大の紅斑と硬結 アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか

主にこの2種類に分類されています(∗3)(文献7:2010;文献8:1968;文献9:1999)

∗3 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。

Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、

Ⅰ型アレルギー性皮膚炎のメカニズム

まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献9:1999)

次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜では加水分解酵素であるホスホリパーゼA₂が活性化することでアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献9:1999;文献10:2007)

そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献9:1999;文献11:2009)

このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、ホスホリパーゼA₂の活性を抑制することはアレルギー性炎症の抑制アプローチにおいて重要であると考えられています。

1989年に大阪市立大学医学部の第三内科学教室 、第一生化学教室、公衆衛生学教室と大阪社会医療センター によって報告されたロイコトリエンB₄およびプロスタグランジンE₂に対するグリチルレチン酸の影響検証によると、

in vitro試験においてラット腹腔浸出細胞に各種濃度のグリチルレチン酸を添加したあとにCaイオンを最終濃度1mg/mLとなるように添加し培養・処理後に、ロイコトリエンB₄(LTB₄)量およびプロスタグランジンE₂(PGE₂)量を算出したところ、以下のグラフのように、

ラット腹腔浸出細胞によるLTB₄産生に対するグリチルレチン酸の影響

ラット腹腔浸出細胞によるPGE₂産生に対するグリチルレチン酸の影響

グリチルレチン酸は、濃度依存的にロイコトリエンB₄(LTB₄)およびプロスタグランジンE₂(PGE₂)の産生を抑制した。

このような検証結果が明らかにされており(文献12:1989)、グリチルレチン酸にロイコトリエンB₄およびプロスタグランジンE₂の産生抑制作用が認められています。

ロイコトリエンおよびプロスタグランジンの産生メカニズムは、アレルギー反応により細胞膜において加水分解酵素であるホスホリパーゼA₂が活性化することでアラキドン酸が遊離し、遊離したアラキドン酸はプロスタグランジン産生酵素であるCOX-2(cyclooxygenase-2:シクロオキシゲナーゼ-2)によりエイコサノイドの一種であるプロスタグランジン(PG)に、アラキドン酸代謝酵素である5-リポキシゲナーゼ(5-lipoxygenase) によりエイコサノイドの一種であるロイコトリエン(LT)にそれぞれ代謝されるというものです(文献9:1999;文献10:2007)

このような背景から、グリチルレチン酸の抗アレルギー作用はホスホリパーゼA₂の活性阻害である可能性が示唆されており(文献12:1989)、ここではこれらの作用をホスホリパーゼA₂の活性阻害作用としています。

次に、1997年にライオンによって報告されたアトピー性皮膚炎および肌荒れモルモット皮膚に対するグリチルレチン酸ステアリルの影響検証によると、

アトピー性皮膚炎および肌荒れモデル皮膚を有するモルモット10匹を1群とし、0.3%グリチルレチン酸ステアリル配合クリームを1日2回3日間連続塗布した後に、塗布部位の荒れ肌の改善効果を評価した。

その結果、0.3%グリチルレチン酸ステアリル配合クリーム塗布部位は、アトピー性皮膚炎および乾燥にともなう肌荒れの改善傾向を示した。

このような検証結果が明らかにされており(文献13:1997)、グリチルレチン酸ステアリルにアトピー性皮膚炎および乾燥にともなう肌荒れの改善効果が認められています。

さらに、1996年に横浜市立大学医学部附属浦舟病院皮膚科、北村皮膚科、横浜市立市民病院皮膚科 、横浜栄共済病院皮膚科および相模野病院皮膚科によって報告されたアトピー性皮膚炎ヒト皮膚に対するグリチルレチン酸ステアリルの影響検証によると、

軽度-中程度のアトピー性皮膚炎を有する99人の患者に有効成分としてグリチルレチン酸ステアリルおよびアラントインを配合した薬用クリームを1日数回4週間にわたって単純塗布してもらい、塗布前および1週間ごとに経過を評価した。

その結果、最終全般改善度は、かなり改善以上の改善率で99人中35人(35%)、やや改善以上で99人中78人(78.8%)の改善率がみられた。

このような検証結果が明らかにされており(文献14:1996)、グリチルレチン酸ステアリルにアトピー性皮膚炎および乾燥にともなう肌荒れの改善効果が認められています。

紅斑および浮腫抑制による抗炎症作用

紅斑および浮腫抑制による抗炎症作用に関しては、1979年に慶応大学医学部薬化学研究所化学療法部門によって報告された紫外線照射による紅斑に対するグリチルレチン酸の影響検証によると、

外用での抗炎症効果を検討する目的で、0.1%-1.0%グリチルレチン酸配合軟膏を対象にUV紅斑法を用いて検討した。

その結果、0.1%-1.0%のすべての濃度範囲で紅斑抑制効果を示し、低濃度でも抑制的に作用することがわかった。

このような検証結果が明らかにされており(文献15:1979)、グリチルレチン酸に紅斑抑制による抗炎症作用が認められています。

次に、丸善製薬によって報告されたラット皮膚の浮腫に対するグリチルレチン酸ステアリルの影響検証によると、

ラットを用いたカラゲニン浮腫法でグリチルレチン酸ステアリル配合クリームの浮腫に対する抗炎症効果を検討したところ、以下のグラフのように、

グリチルレチン酸ステアリルの浮腫抑制効果

グリチルレチン酸ステアリル配合クリームは、未配合クリームと比較して有意な浮腫抑制効果を示した。

このような検証結果が明らかにされており(文献16:-)、グリチルレチン酸ステアリルに浮腫抑制による抗炎症作用が認められています。

グリチルレチン酸ステアリルは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量 その他
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 0.80 グリチルリチン酸及びその塩類並びにグリチルレチン酸及びその誘導体として合計
育毛剤 0.30
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 0.30
薬用口唇類 0.20
薬用歯みがき類 0.20
浴用剤 0.20

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

グリチルレチン酸ステアリルの配合製品数とアヒ号量の調査

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グリチルレチン酸ステアリルの安全性(刺激性・アレルギー)について

グリチルレチン酸ステアリルの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 30年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

まずはグリチルレチン酸の試験データによると、

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2007)によると、

  • [ヒト試験] 15人のボランティアに3%グリチルレチン酸を含む軟膏を閉塞パッチにて3日間パッチ適用し、7日間の休息期間を設けた後に同様にパッチ適用し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、すべての被検者において皮膚反応はみられなかったため、試験物質はヒトにおいて皮膚刺激または皮膚感作を生じないと結論づけた(Universita’ Delgi Studi Di Urbino,1990)
  • [ヒト試験] 108人の被検者に0.3%グリチルレチン酸を含む保湿化粧品0.15gを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も皮膚反応を示さなかった(Hilltop Research Inc,1994)
  • [ヒト試験] 112人の被検者に6%グリチルレチン酸を含む製剤0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)をガーゼ閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も紅斑または浮腫の兆候を示さず、6%グリチルレチン酸は皮膚刺激剤またはアレルギー性接触感作剤ではなかった(Consumer Product Testing Company,2002)
  • [ヒト試験] 56人の被検者に0.6%グリチルレチン酸0.05gを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、適用部位において有害反応は検出されなかった(Allergisa Pesquisa Dermato-Cosmetica Ltd,2004)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作の報告がないことが明らかとなっています。

次にグリチルレチン酸ステアリルの試験データをみてみると、

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2007)によると、

  • [ヒト試験] 89人の被検者に0.5%または1.5%グリチルレチン酸ステアリルを含むオリーブオイルを24時間パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激の兆候はなかった(Uemura,no data)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

またグリチルレチン酸に皮膚感作性の報告はなく、グリチルレチン酸ステアリルは医薬部外品原料規格2006に収載されており、30年以上の使用実績の中で重大な皮膚感作の報告もないため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

安全性についての補足

グリチルリチン酸およびグリチルレチン酸は、化学構造的にステロイドと類似しており、長期内服(慢性摂取)によってまれに副作用として偽アルドステロン症(∗4)の発症が報告されていますが(文献17:1992;文献18:2006;文献19:2007)、化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)による連続的な外用(連用)においては、30年以上の使用実績の中でステロイド様作用をはじめ重大な副作用は報告されていないため、安全性に問題はないと考えられます。

∗4 偽アルドステロン症とは、副腎皮質におけるアルデステロン分泌が増えていないにも関わらず、過剰に分泌されているような症状です。

∗∗∗

グリチルレチン酸ステアリルは抗アレルギー・抗炎症成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗アレルギー・抗炎症成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2007)「Final Report on the Safety Assessment of Glycyrrhetinic Acid, Potassium Glycyrrhetinate, Disodium Succinoyl Glycyrrhetinate, Glyceryl Glycyrrhetinate, Glycyrrhetinyl Stearate, Stearyl Glycyrrhetinate, Glycyrrhizic Acid, Ammonium Glycyrrhizate, Dipotassium Glycyrrhizate, Disodium Glycyrrhizate, Trisodium Glycyrrhizate, Methyl Glycyrrhizate, and Potassium Glycyrrhizinate1」International Journal of Toxicology(26)(2_Suppl),79-112.
  2. 鈴木 洋(2011)「甘草(カンゾウ)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,82-83.
  3. 吉松 嘉代(2013)「甘草の水耕栽培」ファルマシア(49)(2),141-146.
  4. 竹田 忠紘, 他(2011)「カンゾウ」天然医薬資源学 第5版,120-121.
  5. 池田 剛(2017)「グリチルリチン(グリチルリチン酸)」エッセンシャル天然薬物化学 第2版,148.
  6. 矢野 三郎(1958)「GlycyrrhizinのCorticoid作用の本態に関する実験的研究」日本内分泌学会雑誌(34)(8),745-751.
  7. 厚生労働省(2010)「アレルギー総論」リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト5-14.
  8. R.R.A. Coombs, et al(1968)「Classification of Allergic Reactions Responsible for Clinical Hypersensitivity and Disease」Clinical Aspects of Immunology Second Edition,575-596.
  9. 西部 幸修, 他(1999)「植物抽出物の抗アレルギー作用」Fragrance Journal臨時増刊(16),109-115.
  10. 永井 博弌(2007)「アレルギー疾患発症因子としての脂質メディエーター」アレルギー(56)(6),570-576.
  11. 椛島 健治(2009)「皮膚のスーパー免疫」美容皮膚科学 改定2版,46-51.
  12. 河田 則文, 他(1989)「グリチルリチンおよびグリチルレチン酸のアラキドン酸カスケードに及ぼす影響」炎症(9)(1),29-32.
  13. ライオン株式会社(1997)「皮膚外用剤及び湿疹薬」特開平09-157172.
  14. 池澤 善郎, 他(1996)「アトピー性皮膚炎に対するADSクリーム(薬用アトスキンクリーム)の使用成績」皮膚(38)(1),74-96.
  15. 豊島 滋, 他(1979)「グリチルレチン酸の抗炎症効果について」医学と薬学(2)(2),281-284.
  16. 丸善製薬株式会社(-)技術資料.
  17. 矢野 三郎(1992)「甘草に関する最近の研究」医療(46)(4),241-245.
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