キイチゴエキスとは…成分効果と毒性を解説

抗アレルギー 保湿 色素沈着抑制 抗老化
キイチゴエキス
[化粧品成分表示名]
・キイチゴエキス

[医薬部外品表示名]
・キイチゴエキス

バラ科植物ヨーロッパキイチゴ(学名:Rubus idaeus 英名:European red raspberry)の果実からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

キイチゴ類は、収穫時に花托が花盤に残り、集合果が中空になる「ラズベリー(raspberry)」と花托が集合花に付着して花盤より分離する「ブラックベリー(blackberry)」に大別され、ヨーロッパで一般に「ラズベリー」と呼ばれるものがヨーロッパキイチゴ(学名:Rubus Idaeus)です(文献1:2013;文献2:2017)

ヨーロッパキイチゴ(ヨーロッパ木苺)は、小アジアを原産とし、栽培は16世紀にイギリスで始まり、18世紀末には欧州から米国へ導入され、19世紀後半から盛んになり、現在は主にロシア、米国、ポーランドなどで栽培されています(文献3:2014;文献4:2008;文献5:2019)

日本においては明治以降に栽培品種が米国やカナダから導入された経緯がありますが、経済的な栽培には至っていない状況です(文献2:2017)

キイチゴエキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
糖質 単糖 フルクトースグルコース
少糖 スクロース
タンニン エラジタンニン エラグ酸
フラボノイド アントシアニン
ビタミン アスコルビン酸

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献6:2018;文献7:2010;文献8:2017)

ヨーロッパキイチゴ果実の化粧品以外の主な用途としては、食品分野において多くは生食・飾り用として、加工品としてはソース、ジャム、パイやチョコレートの中身など製菓に広く用いられます(文献2:2017)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、シート&マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、洗顔料、ボディソープ製品、入浴剤、ネイル製品など様々な製品に汎用されています。

ヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用

ヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。

皮膚におけるアレルギー反応は、

種類 名称 抗体 抗原 皮膚反応 考えられる主な疾患
Ⅰ型 即時型
アナフィラキシー型
IgE 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか 15-20分で最大の発赤と膨疹 アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか
Ⅳ型 遅延型
細胞性免疫
感作T細胞 細菌、真菌、自己抗原 24-72時間で最大の紅斑と硬結 アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか

主にこの2種類に分類されています(∗1)(文献9:2010;文献10:1968;文献11:1999)

∗1 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。

Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、

Ⅰ型アレルギー性皮膚炎のメカニズム

まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献11:1999)

次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献11:1999)

そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献11:1999;文献12:2009)

このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、ヒスタミンの遊離やヒアルロニダーゼの活性を抑制することはアレルギー性炎症の抑制において重要であると考えられます。

1998年に一丸ファルコスによって報告されたキイチゴエキスのヒスタミン、ヒアルロニダーゼおよびヒト皮膚における影響検証によると、

in vitro試験においてラット由来肥満細胞浮遊液1.2mLに固形分濃度0.07%キイチゴエキス水溶液0.2mLまたは対照として同濃度のグリチルリチン酸ジカリウム水溶液、ヒスタミン放出促進剤であるcompound48/80溶液を最終濃度1μg/mLとなるように加え、培養後に上澄から遊離したヒスタミンを抽出・精製し吸光度を測定しヒスタミン遊離抑制率を算出したところ、以下の表のように、

キイチゴエキスのヒスタミン遊離抑制作用

キイチゴエキスは、グリチルリチン酸ジカリウムと比較して非常に優れたヒスタミン遊離抑制作用を示した。

また、キイチゴと他の抗アレルギー作用を有する植物エキスを併用して同様の試験を実施したところ、以下のグラフのように、

キイチゴエキス他の抗アレルギー成分併用によるヒスタミン遊離抑制作用

キイチゴと他の抗アレルギー作用を有する植物エキスとの組み合わせは、キイチゴエキス単独で用いた場合のヒスタミン遊離抑制作用よりも強く、相乗効果を示すことが確認された。

次に、in vitro試験において固形分濃度0.5%キイチゴエキス水溶液または陽性対照として同濃度のグリチルリチン酸ジカリウム水溶液それぞれ0.1mLに、0.4mg/mL濃度のヒアルロニダーゼ溶液0.05mLを加え、その後にヒスタミン放出促進剤であるcompound48/80溶液を最終濃度0.1mg/mLとなるように加え、20分の放置後にさらに0.4mg/mL濃度のヒアルロン酸溶液0.25mLを加えて処理した後に吸光度を測定しヒアルロニダーゼ活性阻害率を算出したところ、以下の表のように、

キイチゴエキスのヒアルロニダーゼ活性阻害作用

キイチゴエキスは、グリチルリチン酸ジカリウムには及ばないものの、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用を有することが確認された。

また、キイチゴと他の抗アレルギー作用を有する植物エキスを併用して同様の試験を実施したところ、以下のグラフのように、

キイチゴエキス他の抗アレルギー成分併用によるヒアルロニダーゼ活性阻害作用

キイチゴと他の抗アレルギー作用を有する植物エキスとの組み合わせは、キイチゴエキス単独で用いた場合のヒアルロニダーゼ活性阻害作用よりも強く、相乗効果を示すことが確認された。

次に、湿疹やアトピー性皮膚炎で悩む20名(5-50歳)の被検者のうち10名に2%キイチゴエキス(30%エタノール抽出)配合乳液を1日2回(朝晩)3ヶ月にわたって顔面に塗布してもらい、別の10名には対照としてキイチゴエキス未配合乳液を同様に塗布してもらった。

3ヶ月後に「有効:湿疹などの症状にともなう赤みやかゆみ、肌荒れが改善された」「やや有効:湿疹などの症状にともなう赤みやかゆみ、肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 併用する植物エキス 症例数 有効 やや有効 無効
キイチゴエキス 10 2 7 1
ヒキオコシ葉/茎エキス 10 6 3 1
セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス 10 3 5 2
セージ葉エキス 10 5 5 0
フユボダイジュ花エキス 10 3 7 0
乳液のみ(対照) 10 0 1 9

2%キイチゴエキス配合乳液は、湿疹による炎症、かゆみ、肌荒れなどの皮膚疾患の改善に対して良好な効果が確認された。

さらに、2%キイチゴエキスに抗アレルギー作用を有する特定の植物エキスそれぞれを3%濃度で併用した場合では、湿疹による炎症、かゆみ、肌荒れなどの皮膚疾患の改善に対してキイチゴエキス単独配合よりも良好な効果が確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献13:1998)、キイチゴエキスにヒスタミン遊離抑制およびヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用が認められています。

また、キイチゴエキスと、抗アレルギー作用を有するヒキオコシ葉/茎エキスセイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキスセージ葉エキスまたはフユボダイジュ花エキスと併用することで相乗効果が得られることが報告されています(文献13:1998)

皮表柔軟化による保湿作用

皮表柔軟化による保湿作用に関しては、まず前提知識として皮膚最外層である角質層の構造と役割について解説します。

直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように

角質層の構造

天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造となっており、この構造が保持されることによって、外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています(文献14:2002;文献15:1990)

一方で、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎においては、角質細胞中のアミノ酸などの天然保湿因子が顕著に低下していることが報告されています(文献16:1989;文献17:1991)

このような背景から、皮表を柔軟化することは肌の乾燥の改善ひいては皮膚の健常性の維持につながると考えられています。

1999年に一丸ファルコスによって報告されたキイチゴエキスのヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、

乾燥肌やツヤのない肌で悩む20名の被検者(30-60歳)のうち10名に5%キイチゴエキス(50%エタノール抽出)配合乳液を1日2回(朝晩)洗顔後の顔面に3ヶ月間使用してもらい、別の10名に対照としてキイチゴエキス未配合乳液を同様に使用してもらった。

3ヶ月後に「有効:乾燥肌や肌のツヤが改善された」「やや有効:乾燥肌や肌のツヤがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の基準で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 皮膚感触改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
キイチゴエキス配合乳液 10 2 8 0
乳液のみ(対照) 10 0 0 10

5%キイチゴエキス(50%エタノール抽出)配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して有意に皮膚感触を改善することが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献18:1999)、キイチゴエキスに皮表柔軟化による保湿作用が認められています。

メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用

メラニン生成抑制による色素沈着抑制作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよび基底細胞のメラニン滞留について解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています(文献19:2002;文献20:2016;文献21:2019)

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます(文献19:2002;文献21:2019)

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています(文献19:2002;文献21:2019)

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します(文献19:2002)

このような背景から、過剰なメラニンの生成を抑制することは色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

1999年に一丸ファルコスによって報告されたキイチゴエキスのメラニンおよびヒト皮膚色素沈着に対する影響検証によると、

in vitro試験において培養B16メラノーマ細胞を播種した培地に0.5%キイチゴエキス溶液または対照として0.5%コウジ酸を添加し、培養処理後に吸光度を測定しそれぞれのメラニン量を算出したところ、以下のグラフのように、

キイチゴエキスのメラニン生成抑制作用

キイチゴエキスは、メラニン色素の生成を抑制する作用を有することが確認された。

次に、シミ・ソバカス、色素沈着で悩む40名の女性被検者(30-60歳)のうち20名に5%キイチゴエキス(50%エタノール抽出)配合乳液を1日2回(朝晩)洗顔後の顔面に3ヶ月間使用してもらい、別の10名に対照としてキイチゴエキス未配合乳液を同様に使用してもらった。

3ヶ月後に「有効:シミ・ソバカスや色素沈着が改善された」「やや有効:シミ・ソバカスや色素沈着がやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の基準で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 シミ・ソバカスおよび色素沈着改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
キイチゴエキス配合乳液 10 3 4 3
乳液のみ(対照) 10 0 0 10

5%キイチゴエキス(50%エタノール抽出)配合乳液の塗布は、未配合乳液と比較して有意にシミ・ソバカス、色素沈着を改善することが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献18:1999)、キイチゴエキスにメラニン生成抑制による色素沈着抑制作用が認められています。

コラゲナーゼ活性阻害による抗老化作用

コラゲナーゼ活性阻害による抗老化作用に関しては、まず前提知識として真皮の構造、役割および真皮に存在するタンパク質分解酵素であるコラゲナーゼについて解説します。

真皮については、以下の真皮構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

真皮の構造

表皮を下から支える真皮を構成する成分としては、細胞成分と線維性組織を形成する間質成分(細胞外マトリックス)に二分されますが、主成分である間質成分は大部分がコラーゲンからなる膠原線維とエラスチンからなる弾性繊維、およびこれらの間を埋める基質で占められており、細胞はその間に散在しています(文献22:2002;文献23:2018)

間質成分の大部分を占めるコラーゲンは、膠質状の太い繊維であり、その繊維内に水分を保持しながら皮膚の張りを支えています(文献22:2002)

このコラーゲンは、Ⅰ型コラーゲン(80-85%)とⅢ型コラーゲン(10-15%)が一定の割合で会合(∗2)することによって構成されており(文献24:1987)、Ⅰ型コラーゲンは皮膚や骨に最も豊富に存在し、強靭性や弾力をもたせたり、組織の構造を支える働きが、Ⅲ型コラーゲンは細い繊維からなり、しなやかさや柔軟性をもたらす働きがあります(文献25:2013)

∗2 会合とは、同種の分子またはイオンが比較的弱い力で数個結合し、一つの分子またはイオンのようにふるまうことをいいます。

エラスチン(elastin)を主な構成成分とする弾性繊維は、皮膚の弾力性をつくりだす繊維であり、コラーゲンとコラーゲンの間に絡み合うように存在し、コラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持しています(文献22:2002)

基質は、主に糖タンパク質(glycoprotein)プロテオグリカン(proteoglycan)およびグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)で構成されたゲル状物質であり、これらの分子が水分を保持し、コラーゲンやエラスチンと結合して繊維を安定化させることにより、皮膚は柔軟性を獲得しています(文献22:2002;文献23:2018)

プロテオグリカンは、軸タンパクにグリコサミノグリカンが多数結合した分子量10万-100万以上の巨大な分子であり、グリコサミノグリカンは酸性ムコ多糖類であるヒアルロン酸コンドロイチン硫酸を主成分とし、ヒアルロン酸は水分保持に関与し、コンドロイチン硫酸は繊維の支持や他の基質の保持に働いています(文献23:2018)

細胞成分として線維芽細胞(fibroblast)は、真皮に分散しており、コラーゲン繊維や弾性繊維、ムコ多糖を産生する細胞であることから、必要に応じて線維芽細胞が活発に働きこれらの物質が順調につくられていることが、皮膚の張りや弾力を維持する上で重要です(文献22:2002)

真皮の働きを要約すると、

  • コラーゲン繊維が水分を保持しながら皮膚の張りを支持
  • エラスチンを主とした弾性繊維がコラーゲン同士をバネのように支えて皮膚の弾力性を保持
  • 基質(ゲル状物質)が水分を保持し、コラーゲン繊維と弾性繊維を安定化

それぞれがこのように働くことで、皮膚は張りや柔軟性・弾性を獲得しています。

一方で、紫外線を浴びる時間や頻度に比例して、間質成分であるコラーゲン、エラスチン、ムコ多糖類への影響が大きくなり、シワの形成促進、色素沈着の増加など老化現象が徐々に進行することが知られています(文献26:2002)

コラーゲンにおいては、UVA曝露によりコラーゲン合成能の減少(文献27:1993)やコラーゲンを特異的に分解する酵素であるコラゲナーゼの産生が促進されることが報告されており(文献28:1993)、このような長期紫外線暴露後の細胞外マトリックス成分の産生・分解系バランスの崩れが光老化の原因であると考えられています(文献29:1998)

このような背景から、紫外線曝露によって線維芽細胞から産生されるコラーゲン分解酵素であるコラゲナーゼの活性を阻害することは、紫外線曝露による光老化の抑制に重要であると考えられます。

2003年に一丸ファルコスによって報告されたキイチゴエキスのコラゲナーゼおよびヒト皮膚への影響検証によると、

in vitro試験において、合成基質0.5mg/mLにコラゲナーゼ0.1mg/mLおよび固形分濃度0.5%に調製した各植物抽出液を添加し、反応および処理後にコラゲナーゼ阻害率を算出したところ、以下の表のように、

試料 コラゲナーゼ活性阻害率(%)
キイチゴエキス 53.4

キイチゴエキスはコラゲナーゼ活性を有意に阻害する作用を有することが確認された。

次に、60名の女性被検者(25-50歳)を30名1グループとし、1つのグループには5%キイチゴエキス配合乳液を1日2回(朝晩)3ヶ月にわたって顔面に塗布してもらい、残りの1つのグループには対照としてキイチゴエキス未配合乳液を同様に塗布してもらった。

3ヶ月後に「有効:肌のハリ・ツヤが増し、シワ・タルミが目立たなくなった」「やや有効:肌のハリ・ツヤがやや増し、シワ・タルミがやや目立たなくなった」「無効:使用前と変化なし」の基準で評価したところ、以下の表のように、

試料 肌のハリ・ツヤ改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
キイチゴエキス配合乳液 3 25 2
乳液のみ(対照) 0 3 27
試料 肌のシワ・タルミ改善効果(人数)
有効 やや有効 無効
キイチゴエキス配合乳液 2 23 5
乳液のみ(対照) 0 2 28

キイチゴエキス配合乳液は、有意に肌にハリ・ツヤを与え、また肌のシワ・タルミを目立たなくすることが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献30:2003)、キイチゴエキスにコラゲナーゼ活性阻害による抗老化作用が認められています。

ただし、ヒト使用試験においては2003年時点では有効なシワの評価方法が確立されていなかった中での効果確認であるため、その点は留意する必要があります。

キイチゴエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

キイチゴエキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

一丸ファルコスの安全性試験データ(文献13:1998)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部に固形分濃度0.5%キイチゴエキス水溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
  • [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に固形分濃度0.5%キイチゴエキス水溶液0.5mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬部外品原料規格2021に収載されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

キイチゴエキスは抗アレルギー成分、保湿成分、美白成分、抗老化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗アレルギー成分 保湿成分 美白成分 抗老化成分

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