カンゾウ根エキスとは…成分効果と毒性を解説




・カンゾウ根エキス
[医薬部外品表示名]
・カンゾウエキス、カンゾウ抽出末
マメ科植物カンゾウ(学名:Glycyrrhiza Glabra 英名:licorice)の根から水で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
同じカンゾウ根エキスの成分として他に「甘草フラボノイド」がありますが、双方の違いは、
種類 | 抽出法 | 主成分 | 主な作用・効果 |
---|---|---|---|
カンゾウ根エキス | 水 | グリチルリチン酸 | 抗アレルギー・抗炎症 |
甘草フラボノイド | 疎水 | グラブリジン | 色素沈着抑制 |
このように、抽出法によって抽出される成分が異なることで、作用・効果が異なる点にあります。
カンゾウ(甘草)は、ウラル地方、中国北部、スペインをはじめとする南ヨーロッパ、中央アジア、小アジア、ロシア南部に自生・分布し、日本においては供給のほとんどを中国からの輸入品に頼っていますが、近年甘草資源の枯渇化が顕在化しており、国内の安定供給が進められています(文献2:2011;文献3:2013)。
カンゾウ根エキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
テルペノイド | トリテルペンサポニン | グリチルリチン酸 |
フラボノイド | フラバノン | リキリチン |
カルコン | イソリキリチン |
これらの成分で構成されていることが報告されており(文献4:2011;文献5:2013)、主要成分であるグリチルリチン酸(glycyrrhizic acid)には抗炎症、抗アレルギー作用が知られています(文献4:2011;文献6:2017)。
カンゾウの根(生薬名:甘草)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において医療用漢方製剤148処方中109処方(73.6%)に、また一般用漢方製剤294処方中213処方(72.4%)に、甘草単体の効能以外にも他の薬物の効能を高めたり、毒性を緩和するといった目的で配合されており、使用頻度および使用量が最も多い漢方薬として知られています(文献2:2011;文献3:2013)。
漢方薬においては、鎮静作用による精神安定効果、筋肉・関節・腹部の緊張緩和作用による鎮痛効果、咽喉部の抗炎症作用による去痰効果、陽気を補い気をめぐらす温補効果、津液(∗1)損耗を防ぎまた補う補津効果、胃腸の潰瘍を治す健胃・強壮・止瀉効果などを目的に他の生薬と併用して用いられています(文献7:2016)。
∗1 津液(しんえき)とは、体内における活性のある正常な水分や正常な体液のことをいい、唾液、涙、鼻水、汗、尿などもこれに含まれます。
食品分野においては砂糖の200倍とされる強い甘みを有することから甘味料として醤油、味噌、漬物、菓子などに用いられており、また同様に甘味料としてタバコにも用いられています(文献8:2019)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、シート&マスク製品、メイクアップ製品、化粧下地、洗顔料、洗顔石鹸、ボディ石鹸、クレンジング製品、ボディソープ製品、頭皮ケア製品、入浴剤など様々な製品に汎用されています。
ヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用
ヒアルロニダーゼ活性阻害による抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。
皮膚におけるアレルギー反応は、
種類 | 名称 | 抗体 | 抗原 | 皮膚反応 | 考えられる主な疾患 |
---|---|---|---|---|---|
Ⅰ型 | 即時型 アナフィラキシー型 |
IgE | 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか | 15-20分で最大の発赤と膨疹 | アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか |
Ⅳ型 | 遅延型 細胞性免疫 |
感作T細胞 | 細菌、真菌、自己抗原 | 24-72時間で最大の紅斑と硬結 | アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか |
主にこの2種類に分類されています(∗2)(文献9:2010;文献10:1968;文献11:1999)。
∗2 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。
Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、
まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献11:1999)。
次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献11:1999)。
そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献11:1999;文献12:2009)。
このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、ヒアルロニダーゼの活性を阻害することはアレルギー性炎症の抑制アプローチにおいて重要であると考えられています。
2013年に丸善製薬によって報告されたカンゾウ根エキスのヒアルロニダーゼへの影響検証によると、
∗3 IC50値とは、50%阻害に必要な濃度のことであり、数値が低いほど作用が強いことを意味します。
試料 | IC50(μg/mL) |
---|---|
カンゾウ根エキス | 5.8 |
カンゾウ根エキスは、100種類の生薬エキスの中で最も強いヒアルロニダーゼ阻害活性を示した。
このような試験結果が明らかにされており(文献14:2013)、カンゾウ根エキスにヒアルロニダーゼ活性阻害作用が認められています。
また、カンゾウ根エキスのヒアルロニダーゼ活性阻害作用の活性本体は、グリチルリチン酸であると考えられており(文献15:2001)、古くからスキンケア製品に配合されています(文献16:2001)。
日本薬局方に収載されており、外用薬としても用いられていることから、ヒト皮膚への効果は認められていると考えられますが、ヒト使用試験データが見当たらなかったため、みつかりしだい追補します。
プロスタグランジンE₂産生抑制による抗炎症作用
プロスタグランジンE₂産生抑制による抗炎症作用に関しては、まず前提知識として紫外線(UVB)曝露による炎症反応のメカニズムとプロスタグランジンE₂について解説します。
以下の紫外線(UVB)曝露による炎症のメカニズム図(一部省略)をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
最初に皮膚が紫外線(UVB)に曝露されると、転写因子(∗4)の一種であるNF-κB(nuclear factor-kappa B)が過剰に発現することが知られており、このNF-κBの過剰な発現によって、炎症反応に深く関与している炎症性サイトカイン(∗5)であるIL-1α(interleukin-1α:インターロイキン-1α)やTNF-α(tumor necrosis factor-α)が産生・放出されます(文献17:2005;文献18:1994)。
∗4 転写因子とは、細胞内のDNAに特異的に結合するタンパク質の一群のことです。
∗5 サイトカインとは、細胞間相互作用に関与する生理活性物質の総称であり、標的細胞にシグナルを伝達し、細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現など多様な細胞応答を引き起こすことで知られています。炎症性サイトカインとは、サイトカインの中で主に生体内に炎症反応を引き起こすサイトカインのことをいいます。
これらの炎症性サイトカインは、種々のサイトカインを産生させ、さらに真皮の血管内皮細胞に存在する細胞接着因子を誘導し、血中に存在する炎症細胞(白血球)を血管内皮細胞に強固に接着することにより炎症細胞の血管透過性を高め、炎症反応を増強することが知られています(文献18:1994;文献19:1995;文献20:2010)。
また、これらの炎症性サイトカインはさらにNF-κBの発現を誘導するため、炎症反応の悪循環が生じ、炎症反応は増幅していくことも明らかにされています(文献17:2005)。
同時に、皮膚が紫外線(UVB)に曝露されると表皮細胞においてプロスタグランジン産生酵素であるCOX-2(cyclooxygenase-2:シクロオキシゲナーゼ-2)の増加によりプロスタグランジンE₂(Prostaglandin E₂:PGE₂)が過剰に産生されることが知られており、プロスタグランジンE₂は真皮の血管拡張に関与することや紅斑を生成することが知られています(文献21:2000;文献22:2013)。
このような背景から、プロスタグランジンE₂の産生を抑制することは紅斑や過剰な炎症の抑制において重要であると考えられます。
2020年に丸善製薬によって報告されたカンゾウ根エキスのプロスタグランジンE2への影響検証によると、
∗3 IC50値とは、50%阻害に必要な濃度のことであり、数値が低いほど作用が強いことを意味します。
試料 | IC50(μg/mL) |
---|---|
カンゾウ根エキス | 12.9 |
カンゾウ根エキスは、優れたプロスタグランジンE₂産生抑制効果を示した。
このような試験結果が明らかにされており(文献23:2020)、カンゾウ根エキスにプロスタグランジンE₂産生抑制作用が認められています。
また、カンゾウ根エキスのプロスタグランジンE₂産生抑制作用の活性本体は、グリチルリチン酸であると考えられており(文献15:2001)、古くからスキンケア製品に配合されています(文献16:2001)。
日本薬局方に収載されており、外用薬としても用いられていることから、ヒト皮膚への効果は認められていると考えられますが、ヒト使用試験データが見当たらなかったため、みつかりしだい追補します。
皮膚刺激緩和作用
皮膚刺激緩和作用に関しては、グリチルリチン酸は皮膚一次刺激を緩和する作用が認められており、皮膚刺激を引き起こす可能性のある基剤(∗6)にグリチルリチン酸を併用することで、基剤の一次刺激を予防する処方が知られています(文献24:1983)。
∗6 皮膚刺激を引き起こす可能性のある基剤の例としては、多価アルコールの一種であるPG(プロピレングリコール)、洗浄力の高い界面活性剤、パーマ液などが挙げられます。
カンゾウ根エキスの主要成分はグリチルリチン酸であることから、カンゾウ根エキスにも穏やかな皮膚刺激緩和作用を有することが知られています(文献25:2012)。
複合植物エキスとしてのカンゾウ根エキス
カンゾウ根エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、カンゾウ根エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。
ただし、カンゾウ根エキスと一緒にオウゴン根エキス、ナツメ果実エキスが併用されている場合は、色素沈着抑制の相乗効果目的で配合されている可能性が高く、その場合は甘草フラボノイドとしての配合であると考えられます(文献26:2006)。
原料名 | プランテージ<ホワイト> |
---|---|
構成成分 | オウゴン根エキス、カンゾウ根エキス、ナツメ果実エキス、BG、水 |
特徴 | メラノサイト活性化因子の一種であるエンドセリン-1の抑制、メラニン生合成に必須の酵素であるチロシナーゼの活性阻害およびできてしまったメラニンの排出促進といった多角的な色素沈着抑制作用を発揮する3種類の植物エキス混合液 |
原料名 | プランテージ<ホワイト>EX |
---|---|
構成成分 | オウゴン根エキス、ナツメ果実エキス、カワラヨモギ花エキス、マグワ根皮エキス、カンゾウ根エキス、BG、水 |
特徴 | メラノサイト活性化因子の一種であるエンドセリン-1の抑制、メラニン生合成に必須の酵素であるチロシナーゼの活性阻害およびできてしまったメラニンの輸送抑制および排出促進といった多角的な色素沈着抑制作用を発揮する5種類の植物エキス混合液 |
カンゾウエキスおよびカンゾウ抽出末は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 | |
---|---|---|
カンゾウエキス | カンゾウ抽出末 | |
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 8.0 | 上限なし |
育毛剤 | 2.0 | 0.30 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 2.0 | 0.30 |
薬用口唇類 | 2.0 | 0.10 |
薬用歯みがき類 | 2.0 | 0.10 |
浴用剤 | 2.0 | 0.20 |
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2007-2008年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
カンゾウ根エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 皮膚刺激性(敏感な皮膚を有する場合):ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 9名の被検者に0.09%以下濃度カンゾウ根エキスを含む試験物質0.02mLを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去30分後に皮膚反応を評価したところ、3名の被検者で非常にわずかな紅斑が観察された(Laboratoires Phybiotex,1996)
- [ヒト試験] 106名の日本人被検者の健康な皮膚に0.0001%カンゾウ根エキスを含む16種類の製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、ひとつの製品に対して1名の被検者が接触過敏症の兆候を示したが、それ以外の製品に対してはいずれの被検者も皮膚刺激および皮膚感作の兆候はなかった。接触過敏症の兆候を示した被検者に再度同様の試験を実施したところ、やはり遅延過敏症を示した(Thomas J. Stephens & Associates Inc,2004)
- [ヒト試験] 皮膚疾患のない健康な104名の被検者に0.0001%カンゾウ根エキスを含む製品20μLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、この製品はいずれの被検者においても皮膚刺激または皮膚感作を示さないと結論づけられた(TKL Research Inc,2005)
- [ヒト試験] 106名の被検者に0.8%カンゾウ根エキスおよび他の5種類の植物を含むキャリア溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この製品は皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(TKL Research Inc,2005)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、健常な皮膚において共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般的に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
– 敏感な皮膚を有する場合 –
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2008)によると、
- [ヒト試験] 敏感な皮膚の自覚がある30名の日本人女性被検者および28名の白人、ベトナム、韓国、中国など様々な人種の被検者に0.0001%カンゾウ根エキスを含む3つの製品の安全性試験を実施した。第1の製品を1日目から14日目まで夜間の通常のスキンケアに加え顔全体に塗布、第2の製品を15日目から28日目にかけて様々な人種の被検者に適用、第3の製品を日本人に適用し、臨床的な皮膚評価を14日目および28日目に行ったところ、客観的または主観的な皮膚刺激スコアの増加は認められなかった(Thomas J. Stephens & Associates Inc,2004b)
- [ヒト試験] 36名の女性被検者(敏感肌15名、色素沈着過多14名、肝斑7名)の顔色素領域に0.8%カンゾウ根エキスを含むフェイシャルスポット製剤を塗布し、4,8および12週目に臨床的評価を行ったところ、いずれの観察期間においても紅斑および乾燥はみられず、客観的または主観的な刺激増加の報告もなかった(Stephens & Associates Inc,2005)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に敏感な皮膚を有する場合において皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に0.15%カンゾウ根エキスを含むコーン油0.1mLを点滴し、眼はすすがず、24,48および72時間で観察したところ、試験物質はウサギの眼に非刺激であり、眼刺激剤でないことが明らかとなった(Consumer Product Testing Co,1994)
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼の結膜嚢に1%カンゾウ根エキスを含むグリセリン0.1mLを点眼し、3日目に影響が見られない場合7日目まで観察したところ、わずかな涙液流出は1日目に正常に戻り、1時間で観察されたわずかなケモーシスは2日目までに解消され、すべてのウサギにおいて1時間で観察された軽度の角膜混濁は1日目までに完全に解消された。この試験物質はわずかな眼刺激剤であると考えられた(Cosmepar Conseil & Experimentation,1997)
- [in vitro試験] 培養された正常なヒト由来ケラチノサイトからなる角膜モデルを用いて10%カンゾウ根エキス100μLを様々な時間暴露したところ、Draizeスコア0と同等であり、カンゾウ根エキスは非刺激性と評価された(BioInnovation Laboratories Inc,2004)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、非刺激またはわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
安全性についての補足
グリチルリチン酸およびグリチルレチン酸は、化学構造的にステロイドと類似しており、長期内服(慢性摂取)によってまれに副作用として偽アルドステロン症(∗7)の発症が報告されていますが(文献27:1992;文献28:2006;文献29:2007)、化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)による連続的な外用(連用)においては、30年以上の使用実績の中でステロイド様作用をはじめ重大な副作用は報告されていないため、安全性に問題はないと考えられます。
∗7 偽アルドステロン症とは、副腎皮質におけるアルデステロン分泌が増えていないにも関わらず、過剰に分泌されているような症状です。
∗∗∗
カンゾウ根エキスは抗炎症・抗アレルギー・刺激緩和成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
参考文献:
- Cosmetic Ingredient Review(2008)「Safety Assessment of Glycyrrhiza Glabra (Licorice) Rhizome/root, Glycyrrhiza Glabra (Licorice) Leaf Extract, Glycyrrhiza Glabra (Licorice) Root, Glycyrrhiza Glabra (Licorice) Root Extract, Glycyrrhiza Glabra (Licorice) Root Juice, Glycyrrhiza Glabra (Licorice) Root Powder, Glycyrrhiza Glabra (Licorice) Root Water, Glycyrrhiza Inflata Root Extract, and Glycyrrhiza Uralensis (Licorice) Root Extract」Final Report.
- 鈴木 洋(2011)「甘草(カンゾウ)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,82-83.
- 吉松 嘉代(2013)「甘草の水耕栽培」ファルマシア(49)(2),141-146.
- 竹田 忠紘, 他(2011)「カンゾウ」天然医薬資源学 第5版,120-121.
- 御影 雅幸(2013)「カンゾウ」伝統医薬学・生薬学,174-175.
- 池田 剛(2017)「グリチルリチン(グリチルリチン酸)」エッセンシャル天然薬物化学 第2版,148.
- 根本 幸夫(2016)「甘草(カンゾウ)」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,102-107.
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