カリンエキスとは…成分効果と毒性を解説

抗炎症成分 抗菌成分
カリンエキス
[化粧品成分表示名称]
・カリンエキス

[医薬部外品表示名称]
・カリンエキス

バラ科植物カリン(学名:Pseudocydonia sinensis = Chaenomeles sinensis 英名:Chinese quince)の果実からエタノールBG(1,3-ブチレングリコール)またはこれらの混合液で抽出して得られるエキスです。

カリンエキスの成分組成は、抽出方法や天然成分のため国や地域および時期によって変化がありますが、主に、

などで構成されています(文献1:2006;文献2:2018)

カリンは中国原産で、中国では2000年以上前から薬用や芳香剤として利用されており、日本には元禄時代(1688~1704年)に中国から渡来しました。

果実は硬く、渋みが強いため生では食べられませんが、カリン酒や砂糖漬けなどに使用され、カリン酒は滋養、強壮、咳止め、疲労回復などの効果が知られています(文献2:2018)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品などに使用されます(文献1:2006;文献3:1994;文献5:2000;文献7:2013)

プラスミン阻害による抗炎症作用

プラスミン阻害による抗炎症作用に関しては、まず前提知識としてプラスミンについて解説します。

プラスミンはセリンプロテアーゼの一種で、出血した際に血液凝固する作用を有するタンパク質であるフィブリンを溶解するタンパク質分解酵素です。

出血が起こると、まず血小板が血管内皮下組織に粘着し、凝集によって血小板血栓(一次止血)を行い、次に血液凝固因子の活性化によりフィブリン前駆体であるフィブリノゲンからフィブリン網が形成され、強固なフィブリン血栓(二次止血)となります。

一方でフィブリン血栓が長時間血管内に存在すると血流障害が起こってしまうため、凝固の活性化と同時にフィブリンやフィブリノゲンの溶解酵素であるプラスミンが働きはじめ、フィブリン血栓を溶解し、血流を正常に戻します。

またプラスミンはビタミン不足、疲労、ストレスまたは外的刺激などでも発生し、プラスミンが増え続けると炎症性物質であるヒスタミンやプロスタグランジンなどを誘発するため、炎症誘発物質でもあります。

さらに2009年には常盤薬品工業によって、アトピー性皮膚炎の重症度が高いほどプラスミン活性は高くなることが確認され、アトピー性皮膚炎の表皮角層中セリンプロテアーゼの機能異常が病態形成に関与していることが報告されています(文献6:2010)

2000年に資生堂によって公開された技術情報によると、

プラスミンまたはプラスミノーゲンアクチベーター(プラスミン前駆体)といったプロテアーゼの活性変化に起因する種々の皮膚炎、肌荒れ、荒れ性などの予防・改善にはプロテアーゼ阻害剤が有効であると考え、広く種々の物質についてセリンプロテアーゼ阻害活性を調べた。

その結果、セイヨウハッカ(Mentha piperita)およびミドリハッカ(Mentha viridis)の葉抽出物とカリンの果実抽出物にトリプシン型セリンプロテアーゼに対して優れた阻害活性を有していることを見出した。

in vitroにおけるプロテアーゼ阻害活性試験において、セイヨウハッカ、ミドリハッカおよびカリン抽出物と参考例としてすでに肌荒れに対する適用が知られているオオバク(Phellodendron amurense Ruprecht)抽出物を各0.1%または0.01%濃度にてプラスミン阻害率を測定したところ、以下の表のように、

試料(濃度%) プラスミン阻害率(%)
セイヨウハッカ(0.1) 56.5
セイヨウハッカ(0.01) 28.3
ミドリハッカ(0.1) 54.1
ミドリハッカ(0.01) 19.3
カリン(0.1) 41.8
カリン(0.01) 20.9
オオバク(0.1) 17.6
オオバク(0.01) 5.9

カリン抽出物はオオバク抽出物に比べて有意に優れたプロテアーゼ活性阻害作用を有していることが示された。

このような検証結果が明らかにされており(文献5:2000)、カリンエキスにプラスミン阻害による抗炎症作用が認められています。

皮脂産生抑制による抗炎症作用

皮脂産生抑制による抗炎症作用にかんしては、まず前提知識として皮脂について解説します。

皮脂にはトリグリセリド、ワックスエステル、スクアレン、遊離脂肪酸が含まれており、また以下の毛穴の画像をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

体毛の構造図

皮脂は皮脂腺で産生され、毛穴を通って皮膚表面に放出されて皮膚や体毛の表面に薄い膜状に広がり、物理的・化学的に皮膚や毛髪の保護や保湿の役割を果たしています。

皮膚において過剰に皮脂が産生されると、肌のベタつき、テカリ、毛穴の拡大、角栓などの原因となり、また毛穴が詰まると産生された皮脂が毛穴にたまり、この皮脂を餌とするアクネ菌(Propionibacterium acnes)の増殖によるニキビの原因となります(文献8:2016)

さらに過剰に産生された皮脂が酸化されて過酸化脂質に変化すると、コラーゲンやエラスチンなど皮膚弾力繊維の損傷による老化を引き起こしたり、色素沈着も引き起こすことが知られています(文献7:2013)

そういった背景から過剰な皮脂産生を抑制することは健常な皮膚の維持にとって重要であると考えられます。

2013年にコーセーによって公開された技術情報によると、

皮脂の過産生、皮脂腺の過発達などに起因する肌のベタつきやテカリなどを予防および改善するための副作用がなく安全でほぞなんて異性に優れる物質を検討したところ、カリン果実抽出物に脂質産生抑制作用、皮脂産生抑制作用を見出した。

in vitro試験において、ハムスター脂腺細胞を用いてカリン抽出物(1.9、3.8、7.5μg/mL)を添加し、皮脂に含まれている細胞内トリアシルグリセロール量を測定したところ、以下のグラフのように、

カリン抽出物のトリアシルグリセロール産生抑制作用

カリン抽出物は細胞傷害性を示さない範囲においてトリアシルグリセロールの生成を有意に抑制し、その効果は濃度依存的である傾向が示された。

したがってカリン抽出物はトリアシルグリセロール産生抑制剤として利用することができる。

このような検証結果が明らかにされており(文献7:2013)、カリンエキスに皮脂産生抑制による抗炎症作用が認められています。

弱酸性皮膚における皮膚常在菌のバランス保持による抗菌作用

弱酸性皮膚における皮膚常在菌のバランス保持による抗菌作用に関しては、まず前提知識として皮膚常在菌について解説します。

一般に、健常なヒト皮膚上には皮膚常在菌と呼ばれる多種の微生物が常在して微生物叢を形成し、皮膚の恒常性を保つ一因となっており、皮膚常在菌には、主に、

  • アクネ菌(Propionibacterium acnes)
  • 表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)
  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)

などが大半を占めています。

表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌は拮抗関係にあり、黄色ブドウ球菌に対して表皮ブドウ球菌の優位性を高めることが健康な皮膚をつくるための重要な要因のひとつであると考えられています(文献4:2001)

これら常在菌は、皮膚上でバリア機能として働いている一方で、皮脂分泌の亢進により皮脂貯留が起こることで増殖し、それにともなって増殖したアクネ菌や表皮ブドウ球菌に存在するリパーゼも増加することにより、皮脂成分であるトリグリセリドが分解され、遊離脂肪酸が増加し、炎症を引き起こすといわれています。

また健全な皮膚では常在菌の大部分を占める表皮ブドウ球菌の数に変動が少なく、一定の菌数を保っていることが報告されています(文献3:1994)

これらの背景から常在菌を一定に保つことにより、皮膚の炎症の予防および改善が期待できると考えられます。

1994年にクラブコスメチックによって公開された技術情報によると、

健常な皮膚は弱酸性を保っており、弱酸性で抗菌性を有する生薬抽出物の連用が、皮膚常在菌数を効果的にコントロールすると考え、弱酸性領域で殺菌・抗菌性を有する植物抽出物を検討した。

弱酸性条件下(pH5.5)で、各種抽出物(アマチャワレモコウクジン、エンジュ、カリン、エイジツシャクヤクボタンオウバクオウレン)0.05mLの種々の最近に対する抗菌性をディスク法による薬剤感受性試験(∗1)によって阻止円の直径を計測したところ、以下の表のように、

∗1 ディスク法による薬剤感受性試験とは、抗菌薬または抗菌作用を有する植物抽出物の塗布したディスクを菌の中に1日置き、細菌に耐性があるかどうかを調べる方法で、耐性がなければディスクの周りに菌は繁殖せず、ディスクを中心とした円の直径を阻止円として計測します。

生薬名 黄色ブドウ球菌 表皮ブドウ球菌
アマチャ 15.2mm 12.0mm
ワレモコウ 12.0mm 12.3mm
クジン 17.0mm 19.5mm
エンジュ 14.0mm 13.7mm
カリン 14.0mm 10.0mm
エイジツ 10.5mm 13.0mm
シャクヤク 9.0mm 10.0mm
ボタン 10.0mm 10.2mm
オウバク 21.5mm 15.5mm
オウレン 24.5mm 18.3mm

カリン抽出物は、黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌に抗菌性を有していることが示された。

また、0.2%カリン抽出物の表皮ブドウ球菌に対する生育阻害率をpH5.5(弱酸性)およびpH7.2(中性)に調整して測定したところ、以下の表のように、

生薬名 pH5.5(弱酸性) pH7.2(中性)
カリン 58.3% 28.6%

カリン抽出物は、弱酸性下で有意な表皮ブドウ球菌阻害作用を有することを確認した。

このような検証結果が明らかにされており(文献3:1994)、カリンエキスに弱酸性皮膚における皮膚常在菌(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)のバランス保持による抗菌作用が認められています。

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カリンエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

カリンエキスの現時点での安全性は、外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載されており、また10年以上の使用実績があり、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられます。

ただし、詳細な試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

化粧品毒性判定事典による毒性判定について

化粧品成分名 判定
カリンエキス

参考までに化粧品毒性判定事典によると、カリンエキスは△(∗2)となっており、安全性に問題ない成分であると考えられます。

∗2 毒性判定事典の毒性レベルは「毒性なし」「△」「■」「■■」となっており、△は2~3個で■1個に換算し、■が多いほど毒性が強いという目安になり、製品の毒性成分の合計が■4つ以上なら使用不可と判断されます。

∗∗∗

カリンエキスは抗炎症成分、抗菌成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗炎症成分 抗菌成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. 日光ケミカルズ(2006)「植物・海藻エキス」新化粧品原料ハンドブックⅠ,366.
  2. ジャパンハーブソサエティー(2018)「カリン」ハーブのすべてがわかる事典,56.
  3. 株式会社クラブコスメチックス(1994)「皮膚外用剤」特開平6-279256.
  4. 石坂 要, et al(2001)「健常人より分離した皮膚常在菌について」日本化粧品技術者会誌(35)(1),34-41.
  5. 株式会社資生堂(2000)「プロテアーゼ阻害剤」特開2000-136146.
  6. “常盤薬品工業株式会社”(2009)「表皮角層中セリンプロテアーゼがアトピー性皮膚炎の病態形成に関与していることを見出しました」, <http://noevirgroup.jp/news/2009/04/post090423-2.htm> 2018年11月25日アクセス.
  7. 株式会社コーセー(2013)「脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤」特開2013-032331.
  8. 冨田 秀太(2016)「マイクロバイオームとニキビ」日本香粧品学会誌(40)(2),97-102.

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