カミツレ花エキスとは…成分効果と毒性を解説

抗アレルギー 紫外線吸収
カミツレ花エキス
[化粧品成分表示名]
・カミツレ花エキス

[医薬部外品表示名]
・カモミラエキス(1)

キク科植物ジャーマンカモミール(学名:Matricaria recutita = Matricaria chamomilla 和名:カミツレ)の花からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

ジャーマンカモミール(German chamomile)は、ヨーロッパを原産とし、紀元前1世紀頃にはハーブ療法として一定の評価を得ていたことから中世には消化器系の不調や膨満感をの緩和や睡眠を促す効果が記され、乳児から大人まで幅広い年齢層で不安感、筋肉の痙攣、皮膚のトラブル、消化器系の不調を緩和・改善するハーブとして評価されてきた歴史があり、現在においてもヨーロッパの代表的なメディカルハーブとして広く認知されています(文献1:2014)

また、花はリンゴ様のフルーティーでふくよかな芳香をもち、その香りが鎮静・リラックス効果をもたらすことから現在では世界各国でハーブティーとして愛飲されています(文献2:2010)

ヨーロッパ、北アフリカ、アジアに広く自生していますが、商用栽培としては東ヨーロッパ(とくにスロバキア、チェコ、ハンガリー)を中心にアルゼンチン、エジプトなどで栽培されています(文献1:2014;文献3:2005)

カミツレ花エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
テルペノイド セスキテルペン α-ビサボロール、カマズレン
フラボノイド フラボン アピゲニン、ルテオリン

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献4:2016)

ジャーマンカモミールの花の化粧品以外の主な用途としては、メディカルハーブ分野において消化器系の痙攣や炎症を改善することから食後の膨満感の緩和や胸焼けに、また子どものお腹の調子を整えたり、たかぶる神経やストレスを鎮静するためにハーブティーやカプセル剤として用いられ、また皮膚の炎症を鎮めることから湿疹、おむつかぶれ、皮膚炎、軽度の傷などに外用剤として用いられます(文献1:2014;文献4:2016)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、ボディ石鹸、アウトバストリートメント製品、デオドラント製品、入浴剤など様々な製品に汎用されています。

抗アレルギー作用

抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。

皮膚におけるアレルギー反応は、

種類 名称 抗体 抗原 皮膚反応 考えられる主な疾患
Ⅰ型 即時型
アナフィラキシー型
IgE 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか 15-20分で最大の発赤と膨疹 アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか
Ⅳ型 遅延型
細胞性免疫
感作T細胞 細菌、真菌、自己抗原 24-72時間で最大の紅斑と硬結 アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか

主にこの2種類に分類されています(∗1)(文献5:2010;文献6:1968;文献7:1999)

∗1 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。

Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、

Ⅰ型アレルギー性皮膚炎のメカニズム

まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献7:1999)

次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献7:1999)

そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献7:1999;文献8:2009)

このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、アレルギーを誘発するメカニズムのうちいずれかの活性を抑制・阻害することはアレルギー性炎症の抑制において重要であると考えられます。

2003年に一丸ファルコスによって報告されたカミツレ花エキスの肌荒れにおける影響検証によると、

肌荒れで悩む20名(30-50歳)の被検者のうち10名に5%カミツレ花エキス(50%エタノール抽出)配合乳液を1日2回(朝晩)3ヶ月にわたって顔面に塗布してもらい、別の10名には対照としてカミツレ花エキス未配合乳液を同様に塗布してもらった。

3ヶ月後に「有効:肌荒れが改善された」「やや有効:肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 症例数 肌荒れに対する評価
有効 やや有効 無効
カミツレ花エキス配合乳液 10 2 6 2
乳液のみ(対照) 10 0 1 9

5%カミツレ花エキス配合乳液の塗布は、肌荒れを改善することが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献9:2003)、カミツレ花エキスに肌荒れ改善作用が認められています。

UVB吸収による紫外線防御作用

UVB吸収による紫外線防御作用に関しては、まず前提知識として紫外線(UV:Ultra Violet)および紫外線の皮膚への影響について解説します。

太陽による照射は、以下の図のように、

紫外線の構造

波長により、赤外線、可視光線および紫外線に分類されており、可視光線よりも波長の短いものが紫外線です。

また紫外線は、波長の長いものから

  • UVA(長波長紫外線):320-400nm
  • UVB(中波長紫外線):280-320nm
  • UVC(短波長紫外線):100-280nm

このように大別され、波長が短いほど有害作用が強いという性質がありますが、以下の図のように、

紫外線波長領域とオゾン層の関係

UVCはオゾン層を通過する際に散乱・吸収されるため地上には到達せず、UVBはオゾン層により大部分が吸収された残りが地上に到達、UVAはオゾン層による吸収をあまり受けずに地表に到達することから、ヒトに影響があるのはUVBおよびUVAになります。

UVAおよびUVBのヒト皮膚への影響の違いは、以下の表のように(∗2)

∗2 ( )内の反応は大量の紫外線を浴びた場合に起こる反応です。

  UVA UVB
紫外線角層透過率
日焼けの現象 サンタン
(皮膚色が浅黒く変化)
サンバーン
(炎症を起こし、皮膚色が赤くなりヒリヒリした状態)
急性皮膚刺激反応 即時型黒化(紅斑)
遅延型黒化(紅斑)
UVBの反応を増強
(表皮肥厚、落屑)
遅延型紅斑(炎症、水疱)
遅延型黒化
表皮肥厚、落屑
(DNA損傷)
慢性皮膚刺激反応 真皮マトリックスの変性 真皮マトリックスの変性
日焼け現象発症時間 2-3日後 即時的
(1時間以内に赤みを帯び始める)

性質がまったく異なっています(文献10:2002;文献11:2002;文献12:1997)

国内の紫外線量の目安としては、2016年に茨城県つくば局によって公開されている紫外線量観測データによると、以下の表のように、

茨城県つくば局における紫外線量(UVA,UVB)年間値(2016年)

2月-10月の期間中とくに4月-9月の期間は、UVAおよびUVBの両方増加する傾向にあるため(文献13:2016)、UVAおよびUVB両方の紫外線防御が必要であると考えられます。

1992年に加商によって報告されたカミツレ花エキスの紫外線吸収波長領域データによると、以下の表のように、

カミツレ花エキスの紫外線吸収波長

285nmに吸収極大をもつことが明らかにされており(文献14:1992;文献15:2018)、カミツレ花エキス(水-エタノール抽出)にUVB吸収による紫外線防御作用が認められています。

ただし、単体での紫外線吸収剤としての利用価値はそれほど高くはないため、一般的に主成分ではなく、他の紫外線吸収剤を補助する目的で日焼け止め製品などに併用されます(文献14:1992)

複合植物エキスとしてのカミツレ花エキス

カミツレ花エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、カミツレ花エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 ファルコレックス BX44
構成成分 BGローマカミツレ花エキストウキンセンカ花エキスヤグルマギク花エキスカミツレ花エキスセイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキスフユボダイジュ花エキス
特徴 角質層水分量増加および経表皮水分蒸散抑制による保湿作用、ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用、活性酸素消去による抗酸化作用など多角的に荒れ肌にアプローチする6種の植物抽出液
原料名 MultiEx BSASM(ECO)
構成成分 ツボクサエキスオウゴン根エキスイタドリ根エキスカンゾウ根エキスチャ葉エキスローズマリー葉エキスカミツレ花エキスBG
特徴 防腐剤や界面活性剤の刺激緩和および抗炎症の観点から最適な比率で相乗効果が得られるように設計された7種の植物抽出液

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

カミツレ花エキスの配合製品数と配合量の調査結果(2016年)

カミツレ花エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

カミツレ花エキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 30年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献15:2018)によると、

  • [ヒト試験] 105名の被検者に0.2%カミツレ花エキスを含むシェービングバームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、試験期間中に有害な影響は観察されず、この試験物質は皮膚反応の兆候を示さないと結論付けられた(TKL Resarch,2006)
  • [ヒト試験] 107名の被検者に0.4%カミツレ花エキスを含むアイローションを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、試験期間中に皮膚反応は観察されなかった。0.4%カミツレ花エキスを含むアイローションは皮膚刺激または皮膚感作誘発の臨床的に有意な可能性を示さなかったと結論づけられた(Clinical Research laboratories Inc,2009)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献15:2018)によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼の結膜嚢に1%-4.9%カミツレ花エキスを含む杏仁核油とミネラルオイルの混合物0.1mLを点眼し、眼をすすぎ、点眼1時間後および1,2,3および7日後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(IFREB,1978)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に5%-9.9%カミツレ花エキスを含むプロピレングリコールおよび水の混合物の15%希釈水0.1mLを点眼し、点眼24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Centre de Recherche et d’Elevage des Oncins,1974)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に0.1%-0.9%カミツレ花エキスを含むプロピレングリコールおよび水の混合物を点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激性に分類された(IFREB,1980)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

カミツレ花エキスは抗アレルギー成分、紫外線防御成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗アレルギー成分 紫外線防御成分

∗∗∗

参考文献:

  1. レベッカ ジョンソン, 他(2014)「ジャーマンカモミール」メディカルハーブ事典,145-147.
  2. 長島 司(2010)「ジャーマンカモミール」ハーブティー その癒しのサイエンス,42-43.
  3. 北野 佐久子(2005)「カモミール」基本 ハーブの事典,25-28.
  4. 林 真一郎(2016)「ジャーマンカモミール」メディカルハーブの事典 改定新版,74-75.
  5. 厚生労働省(2010)「アレルギー総論」リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト5-14.
  6. R.R.A. Coombs, et al(1968)「Classification of Allergic Reactions Responsible for Clinical Hypersensitivity and Disease」Clinical Aspects of Immunology Second Edition,575-596.
  7. 西部 幸修, 他(1999)「植物抽出物の抗アレルギー作用」Fragrance Journal臨時増刊(16),109-115.
  8. 椛島 健治(2009)「皮膚のスーパー免疫」美容皮膚科学 改定2版,46-51.
  9. 一丸ファルコス株式会社(2003)「プロテアーゼ活性促進剤」特開2003-226613.
  10. 朝田 康夫(2002)「紫外線の種類と作用は」美容皮膚科学事典,191-192.
  11. 朝田 康夫(2002)「サンタン、サンバーンとは」美容皮膚科学事典,192-195.
  12. 須加 基昭(1997)「紫外線防御スキンケア製品の開発」日本化粧品技術者会誌(31)(1),3-13.
  13. 国立環境研究所 有害紫外線モニタリングネットワーク(2016)「茨城県つくば局における紫外線量(UV-A,UV-B)月別値」, <http://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/uv/uv_sitedata/graph01.html> 2021年4月2日アクセス.
  14. 竹村 功(1992)「ハーブエキスの紫外線吸収効果」Fragrance Journal臨時増刊(12),97-105.
  15. Cosmetic Ingredient Review(2018)「Amended Safety Assessment of Chamomilla recutita-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(37)(3_suppl),51S-79S.

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