ウンシュウミカン果皮エキスとは…成分効果と毒性を解説


・ウンシュウミカン果皮エキス
[医薬部外品表示名]
・チンピエキス
ミカン科植物ウンシュウミカン(学名:Citrus Unshiu 英名:Satsuma mandarin)の果皮から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
ウンシュウミカン(温州蜜柑)は南中国から九州に渡来したミカンの変種で、鹿児島県長崎町を原産とし、今日においては愛媛、和歌山、静岡、佐賀、熊本の各県などで栽培されている日本で最も生産量が多い柑橘類です(文献1:2011;文献2:2017)。
ウンシュウミカン果皮エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
テルペノイド | モノテルペン | リモネン |
フラボノイド | フラバノン | ヘスペリジン、ナリンギン |
アルカロイド | シネフリン |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:2011;文献3:2013)。
ウンシュウミカンの果皮(生薬名:陳皮)の化粧品以外の主な用途としては、漢方分野において胃腸機能を調えることから消化不良や食欲不振などに用いられ、また肺部の湿邪(∗1)を除き咳を止め痰を除くことから痰をともなう咳嗽などに用いられます(文献1:2011;文献4:2016)。
∗1 湿邪とは、湿気が体の一部に停留し有害となっているものを指し、湿邪が臓腑経路に停留すると気の巡りを阻害し、胸部の不快感、尿量の減少、すっきり排便しないなどの症状が起こります。
ほかにもスパイス分野において和食や中華のスパイスとしても使用され、七味唐辛子にも含まれています(文献2:2017)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的でスキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、クレンジング製品、洗顔料、頭皮ケア製品、アウトバストリートメント製品、入浴剤などに使用されています。
また、みかんをコンセプトにした製品にも使用されています。
ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用
ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるアレルギーの種類およびⅠ型アレルギー性皮膚炎のメカニズムについて解説します。
皮膚におけるアレルギー反応は、
種類 | 名称 | 抗体 | 抗原 | 皮膚反応 | 考えられる主な疾患 |
---|---|---|---|---|---|
Ⅰ型 | 即時型 アナフィラキシー型 |
IgE | 化粧品、薬剤、洗剤、ダニ、カビ、ハウスダスト、金属、花粉、ほか | 15-20分で最大の発赤と膨疹 | アナフィラキシーショック、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ほか |
Ⅳ型 | 遅延型 細胞性免疫 |
感作T細胞 | 細菌、真菌、自己抗原 | 24-72時間で最大の紅斑と硬結 | アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ほか |
主にこの2種類に分類されています(∗2)(文献5:2010;文献6:1968;文献7:1999)。
∗2 アレルギーの分類としてはⅠ型-Ⅳ型まで4種類が存在し、Ⅰ型-Ⅲ型までの3種類が即時型に分類されていますが、皮膚に関連するものはⅠ型とⅣ型であることから、ここではⅠ型とⅣ型のみで構成しています。
Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれ、皮膚反応としては15-20分で最大に達する発赤・膨疹を特徴とする即時型皮膚反応を示しますが、このⅠ型アレルギー性炎症反応が起こるメカニズムは、以下のアレルギー性皮膚炎のメカニズム図をみてもらうとわかるように、
まず、アレルギーを起こす原因物質(抗原)が皮膚や粘膜から体内に侵入すると、抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞)がその抗原の一部を自らの細胞表面に提示し、次にヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が抗原提示細胞の提示した抗原情報を認識し、抗原と結合して抗炎症性サイトカインの一種であるIL-4(Interleukin-4)を分泌します(文献7:1999)。
次に、Th2細胞から分泌されたIL-4によりB細胞が刺激を受けIgE抗体を産生し、このIgE抗体が肥満細胞の表面にある受容体に結合することによりIgE抗体と抗原が反応し、肥満細胞に貯蔵されていたケミカルメディエーターであるヒスタミンが放出(脱顆粒)され、同時に細胞膜からはアラキドン酸が遊離し、ケミカルメディエーターであるロイコトリエンやプロスタグランジンに代謝されます(文献7:1999)。
そして、放出されたヒスタミンはヒアルロニダーゼを活性化し、アラキドン酸から代謝されたロイコトリエンやプロスタグランジンとともに血管透過性を亢進させて浮腫を起こし、好酸球など炎症細胞の遊走を誘導し、炎症を引き起こします(文献7:1999;文献8:2009)。
このような背景から、アレルギー性皮膚炎や肌荒れなどバリア機能が低下している場合に、ヒスタミンの遊離を抑制することはアレルギー性炎症の抑制において重要であると考えられます。
2001年に一丸ファルコスによって報告されたウンシュウミカン果皮エキスのヒスタミンおよびヒト皮膚における影響検証によると、
ウンシュウミカン果皮エキスは、グリチルリチン酸ジカリウムと比較して非常に優れたヒスタミン遊離抑制作用を示した。
次に、湿疹やアトピー性皮膚炎で悩む20名(20-30歳)のうち10名に5%ウンシュウミカン果皮エキス配合乳液を1日2回(朝晩)3ヶ月にわたって顔面に塗布してもらい、別の10名には対照としてウンシュウミカン果皮エキス未配合乳液を同様に塗布してもらった。
3ヶ月後に「有効:湿疹などの症状にともなう赤みやかゆみ、肌荒れが改善された」「やや有効:湿疹などの症状にともなう赤みやかゆみ、肌荒れがやや改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、
試料 | 症例数 | 有効 | やや有効 | 無効 |
---|---|---|---|---|
ウンシュウミカン果皮エキス配合乳液 | 10 | 2 | 8 | 0 |
乳液のみ(比較対照) | 10 | 0 | 1 | 9 |
ウンシュウミカン果皮エキス配合乳液は、皮膚の炎症などの改善効果が確認された。
さらに、ヘアトニックや浴用剤の使用試験においても同様の傾向が確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献9:2001)、ウンシュウミカン果皮エキスにヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用が認められています。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ウンシュウミカン果皮エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 10名の被検者に0.5%ウンシュウミカン果皮エキスを含む製剤を24時間単一パッチ適用したところ、この試験物質は非刺激性であった(Laboratoire Dermascan,2002)
- [ヒト試験] 50名の被検者に0.5%ウンシュウミカン果皮エキスを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作の兆候はなかった(Laboratoire Dermascan,2002)
- [ヒト試験] 49名の被検者に10%ウンシュウミカン果皮エキスを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作の兆候はなかった(Anonymous,2016)
- [ヒト試験] 54名の被検者に100%ウンシュウミカン果皮エキスを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激および皮膚感作の兆候はなかった(Anonymous,2016)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
∗∗∗
ウンシュウミカン果皮エキスは抗アレルギー成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:抗アレルギー成分
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参考文献:
- 鈴木 洋(2011)「陳皮(ちんぴ)」カラー版 漢方のくすりの事典 第2版,324-325.
- 杉田 浩一, 他(2017)「うんしゅうみかん」新版 日本食品大事典,101-103.
- 御影 雅幸(2013)「チンピ」伝統医薬学・生薬学,165.
- 根本 幸夫(2016)「陳皮(チンピ)」漢方294処方生薬解説 その基礎から運用まで,134-136.
- 厚生労働省(2010)「アレルギー総論」リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト5-14.
- R.R.A. Coombs, et al(1968)「Classification of Allergic Reactions Responsible for Clinical Hypersensitivity and Disease」Clinical Aspects of Immunology Second Edition,575-596.
- 西部 幸修, 他(1999)「植物抽出物の抗アレルギー作用」Fragrance Journal臨時増刊(16),109-115.
- 椛島 健治(2009)「皮膚のスーパー免疫」美容皮膚科学 改定2版,46-51.
- 一丸ファルコス株式会社(2001)「化粧料組成物」特開2001-081037.
- Cosmetic Ingredient Review(2016)「Safety Assessment of Citrus Peel-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」Final Report.