イザヨイバラエキスとは…成分効果と毒性を解説





・イザヨイバラエキス
[医薬部外品表示名]
・イザヨイバラエキス
バラ科植物イザヨイバラ(学名:Rosa roxburghii)の果実からエタノール、BG(1,3-ブチレングリコール)で抽出して得られるエキスです。
イザヨイバラエキスは天然成分であることから、国・地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
- ビタミンC
- タンニン
- 糖類
などで構成されています(文献1:2006;文献2:-)。
イザヨイバラは中国南西部を原産とし、花が常に一方だけ欠けていることから、十五夜の満月から少し欠けた月を意味する十六夜(イザヨイ)から名付けられています。
また果実には棘があり、梨のような色になることから「棘梨(トゲナシ)」とも呼ばれます。
イザヨイバラの果実は、ビタミンCが豊富でレモンの数十倍、アセロラの1.5倍以上のビタミンCを含んでおり、中国ではビタミンCの王様と呼ばれています。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品、口紅およびリップ製品などに使用されます(文献1:2006;文献3:2017;文献6:2006;文献10:2007)。
DAMPs活性阻害による抗炎症作用
DAMPs活性阻害による抗炎症作用に関しては、まず前提知識としてDAMPsおよび紫外線照射によって放出される変性U1RNA(DAMPsの一種)について解説します。
紫外線を浴びた皮膚は局所的に炎症を引き起こしますが、UVによる炎症反応は以下の図のように、
紫外線を浴びた表皮細胞が炎症性サイトカインを放出することで引き起こされます。
DAMPs(Damage associated molecular patterns:傷害関連分子パターン)は、表皮細胞の損傷によって放出される自己由来分子であり、表皮細胞に存在する受容体で刺激を受け取り、非感染性の炎症反応を誘発します(文献4:2014)。
大量に紫外線を浴びた際に日焼けによって皮膚が発赤するのは、紫外線照射により細胞死を起こした表皮細胞から放出されたDAMPsの一種である変性U1RNAが、NF-κB経路などを経て周辺の表皮細胞に強力に炎症反応を誘発するためであると報告されています(文献4:2014;文献5:2012)。
こういった背景からDAMPsの影響を軽減することが炎症抑制およびUVケアにとって重要であると考えられます。
2017年に一丸ファルコスによって報告された変性U1RNA抑制成分の検証によると、
変性U1RNAの作用を抑制する成分を探索するために数多くの植物エキスをスクリーニングした結果、イザヨイバラの果実抽出物であるイザヨイバラエキスにその効果を見出した。
ヒト正常表皮角化細胞にイザヨイバラエキスおよび変性U1RNA類似物質を添加し、4時間後に炎症性メディエーターであるIL-8 mRNAの発現量を測定したところ、以下のグラフのように、
変性U1RNAを添加することにより、IL-8 mRNAの発現が著しく増加したが、イザヨイバラエキスは濃度依存的にIL-8 mRNAの発現を抑制した。
この結果によりイザヨイバラエキスにはUVの影響で表皮細胞より放出される変性U1RNAが引き起こす炎症性メディエーター発現を抑制する効果が期待される。
このような検証結果が明らかにされており(文献3:2017)、イザヨイバラエキスにDAMPs活性阻害による抗炎症作用が認められています。
また2017年に一丸ファルコスによって報告された紫外線照射による紅斑抑制検証によると、
変性U1RNAの作用を抑制する成分を探索するために数多くの植物エキスをスクリーニングした結果、イザヨイバラの果実抽出物であるイザヨイバラエキスにその効果を見出した。
10名の男性(30~50代)の上腕内側に2%イザヨイバラエキス配合ローションと未配合ローションを7日間塗布し、そのあとソーラーシミュレーターを用いて0.5MED(最小紅斑量)相当のUVBを含む疑似太陽光を塗布部位に照射した。
UV照射前と照射24時間後の紅斑量(エリテマインデックス)を測定したところ、以下のグラフのように、
イザヨイバラエキス配合ローション塗布部位は未配合部位に比べて紅斑量の有意な抑制が認められた。
このような検証結果が明らかにされており(文献3:2017)、イザヨイバラエキスにU1RNA活性阻害による紅斑抑制作用(紫外線防御作用)が認められています。
ただし、試験は2%濃度で行われており、一般的な化粧品配合量は1%未満であることが多いため、1%未満である場合はかなり穏やかな作用傾向であると考えられます。
セラミド合成促進による保湿・バリア改善作用
セラミド合成促進による保湿・バリア改善作用に関しては、まず前提知識としてセラミドについて解説します。
以下の角質層の構造および細胞間脂質におけるラメラ構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
角質層のバリア機能は、生体内の水分蒸散を防ぎ、外的刺激から皮膚を防御する重要な機能であり、バリア機能には角質と角質の隙間を充たして角質層を安定させる細胞間脂質が重要な役割を果たしています。
細胞間脂質は、主にセラミド、コレステロール、遊離脂肪酸などで構成され、これらの脂質が角質細胞間に層状のラメラ構造を形成することによりバリア機能を有すると考えられています。
セラミドは、細胞間脂質の50%以上を占める主要成分であり、皮膚の水分保持能およびバリア機能に重要な役割を果たしており、バリア機能が低下している皮膚では角質層中のセラミド量が低下していること(文献7:1989)、またアトピー性皮膚炎患者では角質層中のコレステロール量の減少は認められないがセラミド量は有意に低下していることが報告されています(文献8:1991;文献9:1998)。
またヒト皮膚には7系統のセラミドが存在することが確認されており、全種類のセラミドが角質層に存在する比率で補われることが理想的ですが、セラミドを適正な比率で補充することは技術的に困難であるため、生体内におけるセラミド合成を促進することが重要であると考えられています。
2006年に日本メナード化粧品によって公開された技術情報によると、
生体内におけるセラミド合成を促進する成分・物質を検討したところ、コメ、クズ、アンズ、スイカズラ、ユキノシタ、テンチャ、ラフマ、サンザシ、イザヨイバラ、エゾウコギ、ナツメ、シソ、オウレン、サイシン、コガネバナ、キハダ、クワ、ボタン、シャクヤク、チンピ、ムクロジ、チョウジ、ユリ、ダイズ、シロキクラゲの抽出物によりセラミド合成が促進されることを見出した。
in vitro試験において、マウスケラチノサイト由来細胞を培養した培地を用いて、試料未添加のセラミド合成促進率を100とした場合の試料添加時のセラミド合成促進量を計測したところ、以下の表のように、
試料 | 抽出方法 | 10μg/mLあたりのセラミド合成促進率(%) |
---|---|---|
コメ | 熱水 | 110 |
エタノール | 115 | |
クズ | 熱水 | 133 |
エタノール | 145 | |
アンズ | 50%BG水溶液 | 123 |
エタノール | 137 | |
スイカズラ | 熱水 | 116 |
エタノール | 122 | |
ユキノシタ | 熱水 | 121 |
テンチャ | エタノール | 115 |
ラフマ | エタノール | 114 |
サンザシ | 50%BG水溶液 | 130 |
イザヨイバラ | 熱水 | 112 |
エタノール | 115 | |
エゾウコギ | 熱水 | 129 |
ナツメ | 熱水 | 162 |
エタノール | 152 | |
シソ | エタノール | 187 |
オウレン | 熱水 | 150 |
サイシン | 熱水 | 145 |
エタノール | 165 | |
コガネバナ | 50%BG水溶液 | 118 |
熱水 | 121 | |
キハダ | 熱水 | 178 |
エタノール | 195 | |
クワ | 熱水 | 129 |
エタノール | 145 | |
ボタン | 熱水 | 116 |
50%BG水溶液 | 126 | |
シャクヤク | 熱水 | 112 |
チンピ | 熱水 | 111 |
エタノール | 117 | |
ムクロジ | エタノール | 115 |
チョウジ | 熱水 | 114 |
ユリ | 50%BG水溶液 | 115 |
ダイズ | エタノール | 120 |
熱水 | 129 | |
シロキクラゲ | 熱水 | 125 |
イザヨイバラ抽出物は、無添加と比較してセラミド合成促進効果を示した。
このような検証結果が明らかにされており(文献6:2006)、イザヨイバラエキスにセラミド合成促進による保湿・バリア改善作用が認められています。
黄色ブドウ球菌、緑濃菌、大腸菌、カンジダおよび黒コウジカビ発育抑制による抗菌作用
黄色ブドウ球菌、緑濃菌、大腸菌、カンジダおよび黒コウジカビ発育抑制による抗菌作用に関しては、2007年にサティス製薬によって、
ベニバナ抽出物、イザヨイバラ抽出物および溶媒(BG、イソペンチルジオールまたはエタノールのうち一種)の混合物によって微生物に対して抗菌性が相乗効果により飛躍的に向上し、かつ広い範囲の微生物(黄色ブドウ球菌、緑濃菌、大腸菌、カンジダおよび黒コウジカビ)に対して抗菌性を有することを見出した。
このような検証結果が明らかにされており(文献10:2007)、イザヨイバラエキス単体ではほとんど抗菌作用はみられませんが、化粧品などにこれらの混合物が配合されている場合は、抗菌剤(防腐剤)として配合されている可能性が考えられます。
イザヨイバラエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
これらの結果から、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられますが、試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
∗∗∗
イザヨイバラエキスは抗炎症成分、保湿成分、バリア改善成分、抗菌成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
∗∗∗
参考文献:
- 日光ケミカルズ(2006)「植物・海藻エキス」新化粧品原料ハンドブックⅠ,362.
- 丸善製薬株式会社(-)「トゲナシ」技術資料.
- 高山 悟, et al(2017)「ミドルエイジからのUVケアとイザヨイバラエキス」Fragrance Journal(45)(8),45-48.
- Liliana Schaefer(2014)「Complexity of Danger: The Diverse Nature of Damage-associated Molecular Patterns」Journal of Biological Chemistry(289)(51),35237-35245.
- Bernard JJ, et al(2012)「Ultraviolet radiation damages self noncoding RNA and is detected by TLR3.」nature Medicine(18)(8),1286-1290.
- 日本メナード化粧品株式会社(2006)「セラミド合成促進剤」特開2006-111560.
- G Grubauer, et al(1989)「Transepidermal water loss:the signal for recovery of barrier structure and function.」The Journal of Lipid Research(30),323-333.
- G Imokawa, et al(1991)「Decreased level of ceramides in stratum corneum of atopic dermatitis: an etiologic factor in atopic dry skin?」J Invest Dermatol.(96)(4),523-526.
- Di Nardo A, et al(1998)「Ceramide and cholesterol composition of the skin of patients with atopic dermatitis.」Acta Derm Venereol.(78)(1),27-30.
- 株式会社サティス製薬(2007)「抗菌組成物」特開2007-145784.