アラントインとは…成分効果と毒性を解説


・アラントイン
[医薬部外品表示名称]
・アラントイン
医薬品成分であり、配合制限によって医薬部外品抗炎症有効成分として承認された、5種のヒト上科(学名:Hominoidea)を除く哺乳類の体内で機能しているプリン代謝経路の最終プリン代謝産物であり、植物やバクテリアを含めた多数の生物種で主要な代謝中間体である水溶性の化合物です。
ヒト生体内のプリン代謝経路は、簡略的な解説になりますが以下のように、
ヒポキサンチン → キサンチン → 尿酸
となり、尿酸が最終プリン代謝産物となります。
一方で、5種のヒト上科(ヒト、テナガザル、オランウータン、チンパンジー、ゴリラ)を除く哺乳類では、
ヒポキサンチン → キサンチン → 尿酸 → アラントイン
となり、アラントインが最終プリン代謝産物となり、さらにアラントインは排泄される前にアンモニアに分解されます(文献2:1995)。
尿酸は、尿酸酸化酵素であるウリカーゼを介して水溶性の高いアラントインに代謝されますが、ヒトやチンパンジーなどの類人猿はこのウリカーゼを有しておらず、最終プリン産物として尿酸を排泄するのに対し(文献3:1971)、その他ほとんどの哺乳類にはウリカーゼが存在し、尿酸はウリカーゼの働きによりアラントインに代謝され、尿中に排泄されます。
こういったメカニズムから、ヒト上科では尿酸をより無害なアラントインに代謝できないため、尿酸が体内に蓄積することで結晶化し、関節に析出すると痛風発作を誘発することが知られています(文献4:1971)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ハンド&ボディケア製品、洗顔料&洗顔石鹸、洗浄製品、日焼け止め製品、シート&マスク製品など様々な製品に使用されています(文献1:2010)。
角質細胞増殖促進による創傷治癒作用
角質細胞増殖促進による創傷治癒作用に関しては、肌荒れ、あかぎれ、ひび割れ、乾燥、皮膚炎、紫外線による炎症などを有する皮膚の場合、角質細胞の増殖を促進し、上皮細胞を正常化するよう働き、また健常な皮膚の場合、皮膚に柔軟性および滑らかさを付与し、健常性を維持することが報告されています(文献5:1979)。
このようなアラントインの皮膚に対する作用の詳細なメカニズムは、十分に明らかにされているわけではありませんが、白血球が一時的かつ部分的に増加するためであると推測されています(文献5:1979)。
1977年に徳島県立中央病院小児科、徳島大学医学部小児科学教室およびユニチャームによって報告されたおむつ皮膚炎に対するアラントインの効果検証によると、
このような検証結果が明らかにされており(文献6:1972)、アラントインに角質細胞増殖促進による創傷治癒作用が認められています。
アラントインは医薬品成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 0.50 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 0.3 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 0.20 |
また、アラントインは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 | その他 |
---|---|---|
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 0.50 | すべてのアラントイン誘導体をアラントインに換算して、アラントインとして合計 |
育毛剤 | 0.20 | |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 0.20 | |
薬用口唇類 | 0.20 | |
薬用歯みがき類 | 0.20 | |
浴用剤 | 0.20 |
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2007年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
アラントインの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 医薬部外品有効成分
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2010)によると、
- [ヒト試験] Akema Fine Chemicalsは12人の健康なボランティアにアラントインを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかったことを報告した(S B Mecca,1959)
- [ヒト試験] 50人のボランティア(男性19人、女性31人、18-72歳、アレルギー11人、敏感肌7人)にアラントイン2-5mg/cmを含む絆創膏を24時間適用し、除去後および72時間後に評価したところ、皮膚刺激の兆候はなかった(H Tronnier,1996)
- [ヒト試験] 105人の被検者(16-78歳)のに0.095%アラントインを含む製剤0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を吸収パッドにて実施したところ、試験期間においてまれにほとんど知覚できないものから中程度までの浮腫または乾燥を伴った反応が観察されたが、アレルギー性接触感作の兆候は観察されなかったため、臨床的に有意な皮膚刺激およびアレルギー性接触感作の可能性を示していないと結論づけた(Consumer Product Testing Co,2007)
- [ヒト試験] 主観性敏感肌を含む33人の被検者に0.5%アラントインを含むベビータルクを21日間累積刺激試験において連用し、累積刺激スコア(0-630)を計測したところ、累積刺激スコアは0.00で皮膚刺激は検出されなかった。また、同じ製品の2回目の試験を主観性敏感肌の35人の被検者で行なったところ、累積刺激スコアは8.9で皮膚刺激は検出されなかった(Personal Care Products Council,2008)
- [ヒト試験] 214人の被検者に0.5%アラントインを含むベビータルクを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、誘導期間において2人の被検者は最小限の皮膚反応を示したが、誘発期間において皮膚反応は示されなかった(Personal Care Products Council,2008)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2010)によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼にアラントイン100mgを点眼し、点眼1,24,72および96時間後に眼刺激性を評価したところ、アラントインは眼を刺激しないと結論づけた(Centre International de Toxicoligie,1989)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。
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アラントインは抗炎症成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:抗炎症成分
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文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2010)「Final Report of the Safety Assessment of Allantoin and Its Related Complexes」International Journal of Toxicology(29)(3),84S-97S.
- S Fujiwara, et al(1995)「Degradation of purines: only ureidoglycollate lyase out of four allantoin-degrading enzymes is present in mammals.」Biochemical Journal(312)(Pt1),315–318
- G M Fanelli, et al(1971)「Renal urate transport in the chimpanzee.」The American Journal of Physiology(220)(3),613-620.
- 高木 和貴, 他(2010)「尿酸分解酵素PEG化ウリカーゼの適応と意義」高尿酸血症と痛風(18)(2),41-46.
- 奥田 昌信(1979)「アラントイン(Allantoin)紙おむつかぶれ防止剤」紙パ技協誌(33)(5),58-64.
- 水井 三雄, 他(1977)「おむつ皮膚炎に対するアラントイン添加紙の臨床使用経験」小児科臨床(30)(7),1319-1327.
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