ローマカミツレ花エキスとは…成分効果と毒性を解説

抗糖化
ローマカミツレ花エキス
[化粧品成分表示名]
・ローマカミツレ花エキス

[医薬部外品表示名]
・ローマカミツレエキス

キク科植物ローマンカモミール(学名:Chamaemelum nobile = Anthemis Nobilis 和名:ローマカミツレ)の花からエタノールBG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物植物エキスです。

ローマンカモミール(Roman chamomile)は、ヨーロッパを原産とし、中世には防虫剤として、17世紀には気分を落ち着け体の痛みをほぐす目的で入浴に用いられてきた歴史があり、現在は主にイギリス、ベルギー、フランス、ドイツ、ハンガリー、ポーランド、ブルガリア、エジプト、アルゼンチンなどで栽培されています(文献1:2011;文献2:2005)

ローマカミツレ花エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、

分類 成分名称
テルペノイド ヘミテルペン アンゲリカ酸
フラボノイド フラボン カマメロサイド、ルテオリン

これらの成分で構成されていることが報告されています(文献3:2018;文献4:1996)

ローマンカモミールの花の化粧品以外の主な用途としては、アロマテラピー分野においてその全草にジャーマンカモミールよりも強いリンゴ様の芳香をもち、その香りが鎮静・リラックス効果をもたらすことからストレスによる疲労や不眠症の緩和に用いられます(文献5:2004;文献6:2011)

また、食品分野において強いリンゴ様のふくよかな芳香をもつことからヨーロッパではフレーバーとしてリキュールに用いられています(文献3:2018)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、ボディソープ製品、ボディ石鹸、アウトバストリートメント製品、入浴剤など様々な製品に汎用されています。

AGEs生成抑制による抗糖化作用

AGEs生成抑制による抗糖化作用に関しては、まず前提知識として皮膚における糖化ストレスとAGEsについて解説します。

糖化ストレスとは、還元糖やアルデヒドによる生体ストレスとその後の反応を総合的に捉えた概念であり(文献7:2011)、糖化ストレスの一種である糖化(glycation)はアミノ酸と還元糖の非酵素的な化学反応のことをいいます。

以下の糖化反応のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

糖化反応のメカニズム図

皮膚における糖化反応とは、血糖であるグルコースやフルクトースなどの還元糖と真皮タンパク質であるコラーゲンやエラスチンが非酵素的に結合して糖化タンパクを形成し、シッフ塩基の形成やアマドリ転移などの非可逆的な反応を経てAGEs(advanced glycation end products:糖化最終生成物)にいたる反応のことをいいます(文献7:2011;文献8:2018)

形成されたAGEsは、加齢とともに非生理的架橋(∗1)を形成しながら蓄積されていくため、

∗1 架橋とは、主に高分子において分子間に橋を架けたような結合をつくることで物理的、化学的性質を変化させる反応のことです。

  • コラーゲン硬化による皮膚弾力性低下によるシワの形成
  • エラスチン硬化による皮膚弾力性低下およびたるみ化
  • メラニン産生促進によるシミの形成や皮膚透明度の低下
  • AGEsの受容体であるRAGE(receptor for AGEs)と結合し炎症を惹起

これらの糖化ストレス障害を引き起こすことが知られています(文献7:2011;文献8:2018;;文献9:2015;文献10:2019)

このような背景から、AGEsの生成を抑制することは皮膚の老化や色素沈着の抑制に非常に重要であると考えられます。

2003年に一丸ファルコス化粧品によって報告されたローマカミツレ花エキスのAGEsおよびヒト皮膚に対する影響検証によると、

in vitro試験において固形分濃度1%ローマカミツレ花エキス(50%エタノール抽出)溶液または陽性対照として100mMアミノグアニジン溶液10μLに、単糖であるグルコース50μL、4mg/mL牛血清アルブミン100μL、100mMリン酸水素ナトリウム250μL、水90μLを加えて30時間反応させ、反応後に適切に処理し糖化阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

ローマカミツレ花エキスの糖化阻害作用

ローマカミツレ花エキスは、糖化阻害薬剤として知られるアミノグアニジンほどではないものの優れた糖化阻害作用を有することが確認された。

次に、皮膚のツヤ・ハリがない肌で悩む20名(30-60歳)の被検者のうち10名に5%ローマカミツレ花エキス(50%エタノール抽出)配合乳液を、別の10名に対照としてローマカミツレ花エキス未配合乳液をそれぞれ1日2回(朝夜)3ヶ月にわたって顔面に塗布してもらった。

また、皮膚のツヤ・ハリがない肌で悩む20名(30-60歳)の被検者のうち10名に5%ローマカミツレ花エキス配合浴用剤を、別の10名に対照としてローマカミツレ花エキス未配合浴用剤をそれぞれ溶解させた浴場に1日1回3ヶ月にわたって入浴してもらった。

3ヶ月後に「有効:皮膚のツヤ・ハリが増し、肌が改善された」「やや有効:皮膚のツヤ・ハリがやや増し、肌が改善された」「無効:使用前と変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、

試料 被検者数 皮膚感触に対する評価
有効 やや有効 無効
ローマカミツレ花エキス配合乳液 10 3 6 1
乳液のみ(比較対照) 10 0 1 9
ローマカミツレ花エキス配合浴用剤 10 2 7 1
浴用剤のみ(比較対照) 10 0 1 9

5%ローマカミツレ花エキス配合乳液または浴用剤適用群は、未配合乳液または浴用剤適用群と比較して皮膚にツヤ・ハリを付与し、肌が改善されることが確認された。

このような試験結果が明らかにされており(文献11:2003)、ローマカミツレ花エキスにAGEs生成抑制による抗糖化作用が認められています。

複合植物エキスとしてのローマカミツレ花エキス

ローマカミツレ花エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、ローマカミツレ花エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 ファルコレックスBX32
構成成分 BGニンニク根エキスローマカミツレ花エキスゴボウ根エキスアルニカ花エキスセイヨウキズタ葉/茎エキス、オドリコソウ花/葉/茎エキス、オランダガラシ葉/茎エキスセイヨウアカマツ球果エキスローズマリー葉エキス
特徴 フケ原因菌抑制および過酸化脂質抑制作用目的で設計された9種類の混合植物抽出液
原料名 ファルコレックス BX44
構成成分 BGローマカミツレ花エキストウキンセンカ花エキスヤグルマギク花エキスカミツレ花エキスセイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキスフユボダイジュ花エキス
特徴 角質層水分量増加および経表皮水分蒸散抑制による保湿作用、ヒスタミン遊離抑制による抗アレルギー作用、活性酸素消去による抗酸化作用など多角的に荒れ肌にアプローチする6種の植物抽出液

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ローマカミツレ花エキスの配合製品数と配合量の調査結果(2013年)

ローマカミツレ花エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ローマカミツレ花エキスの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献12:2017)によると、

  • [ヒト試験] 104名の患者に0.03%ローマカミツレ花エキスを含むスキンケアローション0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、試験期間を通じて臨床的に有意な皮膚反応は観察されず、この試験製剤は皮膚刺激または皮膚感作を誘発する可能性を示さないと結論付けられた(Clinical Research laboratories Inc,2013)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性試験データ(文献12:2017)によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼の結膜嚢に1%-2%ローマカミツレ花エキス水-PG溶液を含む水溶液0.1mLを点眼し、点眼1時間後および1,2,4および7日後に眼刺激性を評価したところ、この混合液は非常にわずかな眼刺激剤に分類された(Hazleton France,2013)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、非常にわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

∗∗∗

ローマカミツレ花エキスは抗老化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗老化成分

∗∗∗

参考文献:

  1. European Medicines Agency(2011)「Assessment report on Chamaemelum nobile (L.) All., flos」Committee on Herbal Medicinal Products,560906.
  2. 北野 佐久子(2005)「カモミール」基本 ハーブの事典,25-28.
  3. ジャパンハーブソサエティー(2018)「ローマンカモミール」ハーブのすべてがわかる事典,55.
  4. G.M. Tschan, et al(1996)「Chamaemeloside, a new flavonoid glycoside from Chamaemelum nobile」Phytochemistry(41)(2),643-646.
  5. カート・シュナウベルト(2004)「精油の選択」アドバンスト・アロマテラピー -成分分布図でみるエッセンシャルオイルの科学,57-93.
  6. マリア・リス・バルチン(2011)「ローマンカモミール精油」アロマセラピーサイエンス,468-472.
  7. M. Ichihashi, et al(2011)「Glycation Stress and Photo-Aging in Skin」ANTI-AGING MEDICINE(8)(3),23-29.
  8. M. Yagi, et al(2018)「Glycative stress and anti-aging: 7. Glycative stress and skin aging」Glycative Stress Research(5)(1),50-54.
  9. Y. Yonei, et al(2015)「Photoaging and Glycation of Elastin: Effect on Skin」Glycative Stress Research(2)(4),182-190.
  10. 米井 嘉一, 他(2019)「皮膚老化概論:酸化ストレスと糖化ストレス」日本化粧品技術者会誌(53)(2),83-90.
  11. 一丸ファルコス株式会社(2003)「メイラード反応阻害剤」特開2003-212770.
  12. Cosmetic Ingredient Review(2017)「Safety Assessment of Anthemis nobilis-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(36)(1_suppl),57S-66S.

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