ヨモギエキスとは…成分効果と毒性を解説

抗糖化
ヨモギエキス
[化粧品成分表示名]
・ヨモギエキス

キク科植物ヨモギ(学名:Artemisia Princeps = Artemisia indica Willd. var. maximowiczii (Nakai) H.Hara 英名:mugwort)の全草から含水エタノールで抽出し、溶媒を除去した後に酢酸エチルとで液液抽出し酢酸エチル相の溶媒を除去後に分画精製して得られる抽出物植物エキスです(文献1:2007)

この抽出方法はポーラ化成工業の独自技術であり、ポーラ化成工業に関連する製品のみに用いられています。

ポーラ化成工業の製品以外にも化粧品成分表示名称「ヨモギエキス」が使用されている場合がありますが、その場合は一般的な抽出方法であるエタノールBGで抽出した抽出物が用いられていると考えられ、成分組成や作用・効果などは化粧品成分表示名称「ヨモギ葉エキス」と同様であると推測されます。

ここでは化粧品成分表示名称「ヨモギエキス」の主な使用状況とわかりやすさを考慮し、ポーラ化成工業の独自抽出方法で得られる抽出物として解説します。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア製品、化粧下地、メイクアップ製品、ボディケア製品などに使用されています。

AGEs分解による抗糖化作用

AGEs分解による抗糖化作用に関しては、まず前提知識として皮膚における糖化ストレスとAGEsについて解説します。

糖化ストレスとは、還元糖やアルデヒドによる生体ストレスとその後の反応を総合的に捉えた概念であり(文献2:2011)、糖化ストレスの一種である糖化(glycation)はアミノ酸と還元糖の非酵素的な化学反応のことをいいます。

以下の糖化反応のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

糖化反応のメカニズム図

皮膚における糖化反応とは、血糖であるグルコースやフルクトースなどの還元糖と真皮タンパク質であるコラーゲンやエラスチンが非酵素的に結合して糖化タンパクを形成し、シッフ塩基の形成やアマドリ転移などの非可逆的な反応を経てAGEs(advanced glycation end products:糖化最終生成物)にいたる反応のことをいいます(文献2:2011;文献3:2018)

形成されたAGEsは、加齢とともに非生理的架橋(∗1)を形成しながら蓄積されていくため、

∗1 架橋とは、主に高分子において分子間に橋を架けたような結合をつくることで物理的、化学的性質を変化させる反応のことです。

  • コラーゲン硬化による皮膚弾力性低下によるシワの形成
  • エラスチン硬化による皮膚弾力性低下およびたるみ化
  • メラニン産生促進によるシミの形成や皮膚透明度の低下
  • AGEsの受容体であるRAGE(receptor for AGEs)と結合し炎症を惹起

これらの糖化ストレス障害を引き起こすことが知られています(文献2:2011;文献3:2018;;文献4:2015;文献5:2019)

このような背景から、蓄積されたAGEsの架橋形成を切断しAGEsを分解することは、皮膚の老化や色素沈着の抑制に非常に重要であると考えられます。

2007年にポーラ化成工業によって報告されたヨモギエキスのAGEsに対する影響検証によると、

独自抽出したヨモギエキスにAGEsの架橋構造分解効果を見出した後、in vitro試験においてヨモギエキスのドーズ(dose)にグルコースと牛血清アルブミンを12週間以上培養し各処理を実施したAGEsを加え、グルコース-牛血清アルブミンAGEs分解能を測定したところ、以下の表のように、

ヨモギエキスの濃度(%) AGEs分解率(%)
10⁻⁵(0.00001) 17
10⁻⁴(0.0001) 34
10⁻³(0.001) 62

ヨモギエキスは、0.00001%濃度でも有意なAGEsの分解効果を示し、またその効果は濃度依存的であることがわかった。

次に、肌にくすみのある10名の被検者(60歳以上)を5名1群とし、1群には0.0001%ヨモギエキス配合化粧水を、残りの1群にはヨモギエキス未配合化粧水を1日2回(朝晩)12週間にわたって連続塗布してもらい、試験前後に色彩色素計でL(∗2)を測定し、その差で明度の上昇度合いを計測したところ、

∗2 L値は見た目の色の濃さや色相を表す単位であり、黒色が0で白色が100となり、数値が高いほど明るいことを示します。

試料 L値(試験後のL値 – 試験前のL値)
ヨモギエキス配合化粧水 21.4
ヨモギエキス未配合化粧水(対照) -1.9

ヨモギエキス配合化粧水塗布群は、未配合化粧水塗布群と比較して皮膚明度が有意に上昇しており、AGEsの分解によりくすみが改善されたことがわかった。

このような試験結果が明らかにされており(文献1:2007)、ヨモギエキスにAGEs分解による抗糖化作用が認められています。

AGEsは通常は分解し難いものとして知られていますが、AGEs中に存在するα-ジケトン構造のケトン間のC-C結合を切断することにより分解できることが明らかにされており(文献6:1996)、ヨモギエキスのAGEs分解作用は、このα-ジケトン構造のケトン間のC-C結合切断によるものであることが報告されています(文献1:2007)

また、2009年にポーラ化成工業によって報告されたヨモギエキスのたるみに対する影響検証によると、

被検者(人数不明)を2群に分け、1群にはヨモギエキス配合化粧品を、残りの1群にはヨモギエキス未配合化粧品を6ヶ月間にわたって連続使用してもらい、最終使用後に頬のたるみ量と方向別弾力を測定したところ、以下のグラフのように、

独自抽出ヨモギエキスのたるみ改善効果

ヨモギエキス配合化粧品の塗布群は、未配合化粧品塗布群と比較して見た目のたるみおよび肌弾力が改善していることがわかった。

これは、真皮の構造がヨモギエキスにより変化し、弾力など皮膚内部が総合的に改善した結果が反映されたものと考えられます。

このような試験結果が明らかにされており(文献7:2009)、ヨモギエキスにたるみ改善作用が認められています。

ヨモギエキスの安全性(刺激性・アレルギー)について

ヨモギエキスの現時点での安全性は、

  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

10年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

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ヨモギエキスは抗老化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:抗老化成分

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参考文献:

  1. ポーラ化成工業株式会社(2007)「AGEs分解化粧料」特開2007-161663.
  2. M. Ichihashi, et al(2011)「Glycation Stress and Photo-Aging in Skin」ANTI-AGING MEDICINE(8)(3),23-29.
  3. M. Yagi, et al(2018)「Glycative stress and anti-aging: 7. Glycative stress and skin aging」Glycative Stress Research(5)(1),50-54.
  4. Y. Yonei, et al(2015)「Photoaging and Glycation of Elastin: Effect on Skin」Glycative Stress Research(2)(4),182-190.
  5. 米井 嘉一, 他(2019)「皮膚老化概論:酸化ストレスと糖化ストレス」日本化粧品技術者会誌(53)(2),83-90.
  6. S. Vasan, et al(1996)「An agent cleaving glucose-derived protein crosslinks in vitro and in vivo」nature(382),275–278.
  7. ポーラ化成工業株式会社(2009)「肌の弾力方向性に着目し、“たるみ”の新測定法開発」, <http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_2009_6.pdf> 2020年11月02日アクセス.

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